「なぜ、イスラム教徒は、イスラム過激派のテロを非難しないのか」という問いは、なぜ「差別」なのか。(2014年12月)

「陰謀論」と、「陰謀」について。そして人が死傷させられていることへのシニシズムについて。(2014年11月)

◆知らない人に気軽に話しかけることのできる場で、知らない人から話しかけられたときに応答することをやめました。また、知らない人から話しかけられているかもしれない場所をチェックすることもやめました。あなたの主張は、私を巻き込まずに、あなたがやってください。

【お知らせ】本ブログは、はてなブックマークの「ブ コメ一覧」とやらについては、こういう経緯で非表示にしています。(こういうエントリをアップしてあってもなお「ブ コメ非表示」についてうるさいので、ちょい目立つようにしておきますが、当方のことは「揉め事」に巻き込まないでください。また、言うまでもないことですが、当方がブ コメ一覧を非表示に設定することは、あなたの言論の自由をおかすものではありません。)

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2016年09月25日

テリー・ジョーンズが言葉を失いつつあるという。

モンティ・パイソンの一員、「裸のオルガン弾き」、「スパム」スケッチのウェイトレス、「哲学的フットボール」のカール・マルクス、「ザ・ビショップ」の町でブイブイ言わしてる司教、「スペインの異端審問」の大ボケ枢機卿…… Er, nobody, er, expects, er...



そのテリー・ジョーンズが「もうインタビューには応じることができない」状態であることが、BAFTAカムリ(ウェールズ)の特別貢献賞受賞という機会に明かされた。認知症の診断を受けているという。最初の告知はモンティ・パイソンのサイトで行われたようだが、その後、各報道機関がどっと報じている。そのうちのひとつ、ガーディアン掲載のPA記事。

Monty Python star Terry Jones reveals dementia diagnosis
Friday 23 September 2016 12.05 BST
https://www.theguardian.com/culture/2016/sep/23/terry-jones-monty-python-star-dementia-diagnosis-bafta-cymru

The news about Jones’s health came as Bafta Cymru announced he has been given a special award for outstanding contribution to film and television.

A spokesman for the Welsh-born comedian said: “Terry has been diagnosed with primary progressive aphasia, a variant of frontotemporal dementia. This illness affects his ability to communicate and he is no longer able to give interviews. Terry is proud and honoured to be recognised in this way and is looking forward to the celebrations.”


難しい病名が並んでいるが、aphasia (アフェイジア)は「失語症」、 frontotemporal dementiaは「前頭側頭型認知症」である。ジョーンズがどのような病気だと診断されたかについては、英語ウィキペディアのprimary progressive aphasiaの項や、日本語ウィキペディアの「原発性進行性失語」を参照。記述が専門的すぎるので、私には、読むのに努力が必要だが。

テリー・ジョーンズは、「モンティ・パイソンの一員」であるばかりでなく、TVシリーズ後の映画(The Holy Grail, Life of Brian, The Meaning of Life) の監督もつとめた。The Holy GrailとThe Meaning of Lifeはテリー・ギリアムとの共同監督だが、Life of Brianはジョーンズ単独での監督作である。その映画についてのジョーンズの発言が、上記のPA記事でたっぷり紹介されている。

In 2011, he said he would be reluctant to make the Life Of Brian today because of a resurgence in religious belief. The 1979 film, starring John Cleese, Michael Palin, Graham Chapman, Eric Idle and Gilliam, sparked a religious storm and accusations of blasphemy.

Opponents of the comedy, which was a worldwide box-office success, claimed it made fun of Jesus. Jones told the Radio Times: “I never thought it would be as controversial as it turned out, although I remember saying when we were writing it that some religious nutcase may take pot shots at us, and everyone replied: ‘No.’

“I took the view it wasn’t blasphemous. It was heretical because it criticised the structure of the church and the way it interpreted the gospels. At the time, religion seemed to be on the back-burner and it felt like kicking a dead donkey. It has come back with a vengeance and we’d think twice about making it now.”


2005年にデンマークの大衆紙が引き起こした「ムハンマド戯画騒動」のあと、「キリスト教世界はイスラム教世界と違って寛容だ。『ライフ・オヴ・ブライアン』のような映画でさえ批判されない」などという修正主義言説が横行していたのだが、実際にはこの映画は製作・公開当時(1970年代初め)、信心深い界隈からものすごい批判にさらされた。イエス・キリストへの冒涜であるというのだ。2011年、ジョーンズはそういう事実に対し、上記のような見解を、見事にわかりやすい言語で表現していた。

モンティ・パイソンは(アメリカ人のギリアムを例外として)みな、オックスブリッジのインテリで、グレイアム・チャップマンが医者だったりするのだが、ジョーンズはオックスフォード出の歴史家でもあり、中世史についての研究書も書いている。英語版ウィキペディアで概略はわかるだろう。
https://en.wikipedia.org/wiki/Terry_Jones

ジョーンズが認知症と診断され、もうインタビューは無理な状態にあることが明かされた翌日、マイケル・ペイリン(「スペインの宗教裁判」のスケッチで一番よくしゃべっている枢機卿)がそのことを語ったという記事が、同じくPAから出ている。PA記事が参照しているのはペイリンのFBのポストだ。

Impact of dementia on Terry Jones is 'painful to watch' says Michael Palin
Saturday 24 September 2016 19.59 BST
https://www.theguardian.com/culture/2016/sep/24/impact-of-dementia-on-terry-jones-is-painful-to-watch-says-michael-palin

In a moving post on Facebook, Palin said the impact on Jones’ ability to speak is “the cruellest thing that could befall someone to whom words, ideas, arguments, jokes and stories were once the stuff of life.

“Terry J has been my close friend and workmate for over 50 years. The progress of his dementia has been painful to watch.”

Palin said he had met up with Jones earlier this week and the Welsh-born actor had been smiling and laughing. He wrote: “Not that Terry is out of circulation. He spends time with his family and only two days ago I met up with him for one of our regular meals at his local pub.

“Terry doesn’t say very much but he smiles, laughs, recognises and responds, and I’m always pleased to see him. Long may that last.”


ジョーンズのTwitterは、確かに、ここ半年ほどの間にどんどんペースが落ちてきている。以前は頻繁に、「一言」書き込んでいたのに、今年の春に経済についてのドキュメンタリーをリリースしたあとは、ぐっと更新頻度が落ちている。

tjtwttr.png

※当エントリのアップ時に入れてあったKwout.com利用のキャプチャは、
うまくスクショできていない部分があったので、普通のスクショに差し替えました。
スクショ取得は2016年9月28日午前2時台(日本時間)です。


現段階で最新のツイートは、7月19日、次の本(三部作の締めくくりとなる一冊)のクラウドファンディングの呼びかけだ。




この「クラウドファンディングによる本の出版」についても英語版ウィキペディアに概略が記載されているが、ジョーンズが英国の、というか英語圏の出版の、何というか「独占資本による寡占」的な状態に危機感を抱いていることは間違いないし(英語圏は、本当にすさまじいです)、それゆえの「クラウドファンディング」という選択だろうと思う。ジョーンズほどの書き手で出版社がつかないなどということはありえない。クラウドファンディングというありかたに、「私たちが出版を私たちの手に取り戻す」可能性を見ているのだろう。

ジョーンズが利用しているのは、出版専門のクラウド・ファンディングのサイトだ。認知症との診断が公表されたあとも、プロジェクトは進行中である。まだ44%しか行っていない。



このページに、このサイトの運営者の次のような言葉がある。

It's safe to say that when Unbound launched, five years ago, we could not have done it without Terry Jones.

He launched his collection of stories, Evil Machines, and went on every form of media to help us launch the business, brilliantly communicating what was new and exciting about Unbound. Here was one of the country’s best loved comic writers and performers - a Python! - entrusting us with a brand new book and pushing our start-up for all it was worth.

First and foremost, though, Terry has been a friend, not 'just' a driving force and collaborator. So the news of his illness has hit us hard.

We launched this book in the hope that we could get it to him for his 75th birthday in February but the announcement of illness gives us all pause for thought. We have considered whether we should remove the project but after speaking to the family we have decided we still very much want to publish this book because it completes the trilogy and because it meant a great deal to Terry that we should. So we hope you’ll agree that we should continue to fund and publish the final fictional work from an old and dear friend.

Justin, Dan & John


テリー・ジョーンズがこの本の出版を最後の公的な言語活動としてあとに残して行けるように願うばかりである。£10あれば貢献できる。

Twitterの日本語圏ではテリー・ジョーンズのBotに、エリック・アイドルのBot(の中の人)が粋な答えを返している。





♪スパムスパムスパムスパム ラヴリ〜〜スパァァァム



エリック・アイドルはTwitterで、パイソンズは「何年か前から知らされていた」ことを明かしている。それでも2014年のO2アリーナでの再結成公演は行なうことができた、と。




今にして思えば、当時は「レジェンドはレジェンドだが、新しい何かがあるわけではなく、特にやる必要はなかったんでは」とすら評された2014年の再結成は、ジョーンズにとって最後の公的な「パイソンズ」としての機会として企画されたのかもしれない、と何となく思う。

ジョン・クリーズのTwitterでは、ジョーンズの認知症公表についての言及はない。




ベタですが、真髄はあのお歌ですね。テリー・ジョーンズ監督のあの作品のラストシーン。





英語版ウィキペディアにあるが、テリー・ジョーンズはイラク戦争、というかブッシュとブレアの「対テロ戦争」を批判する文章を多く書いていた。そのひとつがZnetに掲載されていたので、日本語化したことがある。2004年のことで、文字コードがShift_JISだから、UTF-8が当たり前になった2016年のブラウザでアクセスすると初期状態では文字化けしている。
http://www.geocities.co.jp/SilkRoad/2838/translation/jones_znet14apr04.html



エリック・アイドルのTLをまとめておいた。
http://chirpstory.com/li/330239

※この記事は

2016年09月25日

にアップロードしました。
1年も経ったころには、書いた本人の記憶から消えているかもしれません。


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【2003年に翻訳した文章】The Nuclear Love Affair 核との火遊び
2003年8月14日、John Pilger|ジョン・ピルジャー

私が初めて広島を訪れたのは,原爆投下の22年後のことだった。街はすっかり再建され,ガラス張りの建築物や環状道路が作られていたが,爪痕を見つけることは難しくはなかった。爆弾が炸裂した地点から1マイルも離れていない河原では,泥の中に掘っ立て小屋が建てられ,生気のない人の影がごみの山をあさっていた。現在,こんな日本の姿を想像できる人はほとんどいないだろう。

彼らは生き残った人々だった。ほとんどが病気で貧しく職もなく,社会から追放されていた。「原子病」の恐怖はとても大きかったので,人々は名前を変え,多くは住居を変えた。病人たちは混雑した国立病院で治療を受けた。米国人が作って経営する近代的な原爆病院が松の木に囲まれ市街地を見下ろす場所にあったが,そこではわずかな患者を「研究」目的で受け入れるだけだった。

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