「なぜ、イスラム教徒は、イスラム過激派のテロを非難しないのか」という問いは、なぜ「差別」なのか。(2014年12月)

「陰謀論」と、「陰謀」について。そして人が死傷させられていることへのシニシズムについて。(2014年11月)

◆知らない人に気軽に話しかけることのできる場で、知らない人から話しかけられたときに応答することをやめました。また、知らない人から話しかけられているかもしれない場所をチェックすることもやめました。あなたの主張は、私を巻き込まずに、あなたがやってください。

【お知らせ】本ブログは、はてなブックマークの「ブ コメ一覧」とやらについては、こういう経緯で非表示にしています。(こういうエントリをアップしてあってもなお「ブ コメ非表示」についてうるさいので、ちょい目立つようにしておきますが、当方のことは「揉め事」に巻き込まないでください。また、言うまでもないことですが、当方がブ コメ一覧を非表示に設定することは、あなたの言論の自由をおかすものではありません。)

=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=


2016年08月17日

英国で何人も「感化」したイスラム過激派の活動家、アンジェム・チョーダリーに有罪判決

"About time!" と反応している人がいるとおり、「今更」感のあるニュースだ。アンジェム・チョーダリー(チョードリ、チャウダリなどカナ表記はいろいろある)がようやく、有罪判決を受けた。「2000年テロリズム法(テロ法)」に基づき、「イスイス団へのサポート」で有罪だ。

ガーディアンとBBCとでは、見出しのトーンが少し違うように見えるが、厳密性が高いのはBBCである。

Anjem Choudary convicted of supporting Islamic State
Jamie Grierson, Vikram Dodd and Jason Rodrigues
Tuesday 16 August 2016 15.32 BST
https://www.theguardian.com/uk-news/2016/aug/16/anjem-choudary-convicted-of-supporting-islamic-state

Radical cleric Anjem Choudary guilty of inviting IS support
16 August 2016
http://www.bbc.com/news/uk-37098751

判決(陪審団による評決)は7月28日に出ていたが、関連する別の裁判の進行に影響を与えないよう(陪審団が影響を受けないよう)、それが結審する8月16日までチョーダリーらの裁判は、判決を含む詳細の公表・報道が差し止められていたそうだ。量刑の言い渡しは9月6日。

The verdict on the two defendants was delivered on 28 July, but can only be reported now, following the conclusion of a separate trial at the Old Bailey of another group of men for a similar offence.

...

Choudary currently has more than 32,000 followers on Twitter and his account can still be viewed online, despite requests for its removal in August last year and the following March.

He and Rahman will be sentenced at the Old Bailey on 6 September.

http://www.bbc.com/news/uk-37098751

Choudary and Rahman face up to 10 years in jail for inviting support for a proscribed organisation. They will be sentenced on 6 September at the Old Bailey.

https://www.theguardian.com/uk-news/2016/aug/16/anjem-choudary-convicted-of-supporting-islamic-state


こうなると、「アルカイダへのサポートで有罪にならなかったのはなぜか」などとして「陰謀論」思考の言説がまた脚光を浴びるかもしれないが(英国内での影響力が極めて大きな人物であるゆえ)、そういうのはまた、見逃せないようなものを見かけたときに書くとして(「いつもの人たちが言ってる」程度のは、そもそも私には見えないのだが)、「報道解禁」の時点で出た記事をいくつか読んでおこう。報道機関では8月16日に報じるまでの間、取材・執筆などする時間がたっぷりあったわけで、なかなか、分厚い記事が並んでいる(といっても、BBC Newsのウェブ版って、昔はこういうクオリティが当たり前だったよね、っていう気が……)。

なお、当ブログでは既に、アンジェム・チョーダリーについて何度か書いているので、それらも参照されたい。

2015年01月22日 NHKのニュースに出てきたらしい英国のその人物は、「イスラム教を代表する人物」などでは全然ないのでご注意を。
http://nofrills.seesaa.net/article/412746762.html


2015年08月06日 ようやくアンジェム・チョーダリー起訴。容疑は「イスイス団支持」関連(後藤さん拘束時にNHKが「指導者」として紹介していたイングランドのイスラム過激派活動家)
http://nofrills.seesaa.net/article/423660363.html


今回、有罪判決となったのは、↑↑このとき(2015年8月)の裁判である。アンジェム・チョーダリとミザヌル・ラフマンの2人が一緒に、「2000年テロ法」のセクション12違反で起訴されていた。

Both men were charged with one offence of inviting support for IS - which is contrary to section 12 of the Terrorism Act 2000 - between 29 June 2014 and 6 March 2015.

...

The trial heard how the men decided in the summer of 2014 that the group then known as Isis [Islamic State in Iraq and al-Sham/the Levant] had formed a "Khilafah", or Islamic state, that demanded the obedience and support of Muslims.
They then invited others to support IS through speeches and announced their own oath of allegiance to its leader.
The oath of allegiance was a "turning point" which meant they could be put on trial, the Met Police said.

http://www.bbc.com/news/uk-37098751


「2000年テロ法セクション12」の条文は下記で、本エントリ冒頭で述べた「ガーディアンとBBCの見出しの厳密性」については、Sec 12 (1)(a) を参照(BBCは法律に書かれているまま、見出しにしている):
12 Support.

(1) A person commits an offence if-
  (a) he invites support for a proscribed organisation, and
  (b) the support is not, or is not restricted to, the provision of money or other property (within the meaning of section 15).

(2) A person commits an offence if he arranges, manages or assists in arranging or managing a meeting which he knows is-
  (a) to support a proscribed organisation,
  (b) to further the activities of a proscribed organisation, or
  (c) to be addressed by a person who belongs or professes to belong to a proscribed organisation.

(3) A person commits an offence if he addresses a meeting and the purpose of his address is to encourage support for a proscribed organisation or to further its activities.

(4) Where a person is charged with an offence under subsection (2) (c) in respect of a private meeting it is a defence for him to prove that he had no reasonable cause to believe that the address mentioned in subsection (2) (c) would support a proscribed organisation or further its activities.

(5) In subsections (2) to (4) -
  (a) “meeting” means a meeting of three or more persons, whether or not the public are admitted, and
  (b) a meeting is private if the public are not admitted.

(6) A person guilty of an offence under this section shall be liable-
  (a) on conviction on indictment, to imprisonment for a term not exceeding ten years, to a fine or to both, or
  (b) on summary conviction, to imprisonment for a term not exceeding six months, to a fine not exceeding the statutory maximum or to both.

http://www.legislation.gov.uk/ukpga/2000/11/section/12


念のため、事実を指摘しておくが、「2000年テロ法」でいう「テロ組織」は、同法の「スケジュール2」に特定されている組織のことで、巷で「テロ」「テロ」というときの印象論とは違う。これらスケジュール2における「特定組織 proscribed organisation」のリストは国会での審理で頻繁に改定されており、2000年の法律制定後も、リストに新たに付け加えられたり、外されたりしていて、「指定組織」には変動がある。法律制定時には「国内テロ組織」である北アイルランドの組織(IRA, UVFなど)が最も大きな前提だったが、その後の情勢の変化で、「特定組織」のリストはずいぶん変化している。

イスイス団(いわゆる「イスラミック・ステート」、「イスラム国」)は、2014年6月20日(あの集団がイラクのモスルを占領した数日後)に「特定組織」のリスト入りしている。http://www.legislation.gov.uk/ にあるTerrorism Act 2000, Schedule 2のページにはまだ反映されていないようだが(ページ内に注意書きがあるが、編集作業が滞っているようだ。困ったものである)、英国会の文書(下記、PDF)で確認できる。39ページを参照。
http://researchbriefings.files.parliament.uk/documents/SN00815/SN00815.pdf

以上、話が長くなっただけかもしれないが、 http://www.legislation.gov.uk/ で記載が確認できないからといってイスイス団が英国で「テロ組織」に指定されているのが「デマ」であるなどとして殴りかかってこられたらたまらないので、念のため。

さて、法廷ではアンジェム・チョーダリーがいかにしてイスイス団を認めるに至ったか、ということもずいぶん細かく明らかにされたようだ。下手に日本語化すると「デマを流している」と殴りかかってこられる危険性があるので、英語記事から抜粋だけするが:
When IS announced a "Khilafah" - an Islamic state - in June 2014, the court heard that Choudary held a meeting with his closest aides at a curry house in east London.

Before accepting the "Khilafah" was legitimate, the jury heard he consulted his "spiritual guide" Omar Bakri Mohammed, who is currently in jail in Lebanon.

On 7 July 2014, the men's names appeared alongside Rahman's on the oath, which stated the al-Muhajiroun had "affirmed" the legitimacy of the "proclaimed Islamic Caliphate State".

http://www.bbc.com/news/uk-37098751


オマール・バクリ・モハメドは1958年生まれ。シリアのアレッポの裕福な家の出身で、若いころにシリアのイスラム同胞団に入ったが、1982年のハマの反乱(ハーフィズ・アサド政権による大弾圧の対象となった)には参加していない。若いころからイスラミストの組織にいくつも関わり、1986年に英国に移ってからは、HuTという国際組織の拠点を英国に築く活動に従事。その後、いろいろあったが、最終的には2005年8月に英国外に出たときに帰国を禁止されるという形で英国から事実上追放され、以降はレバノンを拠点としている。
https://en.wikipedia.org/wiki/Omar_Bakri_Muhammad

このHuTという組織の英国支部が、英国でのイスラミズムの伸張のカギを握る組織で、2005年7月7日のロンドン公共交通機関爆破実行犯(アルカイダのシンパ)など、いわゆる「ホーム・グロウン・テロリスト」の活動につながっていく流れの元のほうにあるのだが、ここでそれについて書いてるヒマは私にはない。英語圏でウェブ検索すればいろいろ見つかるので、各自参照されたい。

オマール・バクリ・モハメドは1986年以降HuTの英国支部設立の活動をしていたが、彼自身はAl-Muhajiroun(「移民たち」)という集団をその3年前からサウジアラビアで立ち上げていた。これが、いわば「HuTの関連団体」として活動していたのだが、HuT本体とは相容れないものがあったとかでいろいろあったらしい(「Al-Muhajirounはアルカイダに触発された集団」だった)。1996年1月、オマール・バクリ・モハメドはHuTと袂を分かち、英国でAl-Muhajirounを立ち上げる。このときこの「カリスマ的指導者」の腹心として、Al-Muhajiroun設立者となったのが、10歳ほど年下で英国生まれ・英国育ちのアンジェム・チョーダリー(1967年生まれ)だった。
https://en.wikipedia.org/wiki/Al-Muhajiroun

ロンドン東部、テムズ川南岸で生まれ育ち教育を受けたチョーダリーは、大学の薬学部に進むが、1年次の試験に落第して法律方面に進路変更。最終的には「ソリシター」(事務弁護士)の資格を得て、法律家として活動していた。
https://en.wikipedia.org/wiki/Anjem_Choudary

Al-Muhajirounは、法規制を逃れるために、いろいろな「別名義」を持っていた(これは北アイルランドの諸組織でも見られたことで、いわば「常套手段」である)。そのひとつが、"Islam4UK" (Islam for UK) で、この名義での街頭活動(デモ)は(たぶんキャッチーな組織名が目を引いたこともあって)わりとよく大手報道機関で報じられていた。アンジェム・チョーダリーはロンドナーで、若いころはかなり遊んでいたらしいが(1967年生まれは、10代後半でアシッド・ハウスど真ん中という世代)、英国で人々の関心を得るためのツボを心得ていたのは、そういった背景によるものかもしれない。今回の裁判で、チョーダリーは "Islam4UK" のスポークスマンであったことを認めているというが、そうそう、こんな「トンデモ発言」でメディアの関心を引いていたのだった。

Choudary admitted he was media spokesman for Islam4UK during a time in which the controversial group put out “incendiary statements” calling for Buckingham Palace to be turned into a mosque and Nelson’s Column to be destroyed.

https://www.theguardian.com/uk-news/2016/aug/16/anjem-choudary-convicted-of-supporting-islamic-state

ともあれ、この "Islam4UK" というtext speakっぽい名称は、彼らの組織がターゲットとするような「『このままじゃダメだ』『変わらなきゃ』と思っている西洋世界の、特にイスラム教のバックグラウンドを有する、 "落ちこぼれ" の青少年」にアピールする上でかなり有効だったようで、二番煎じみたいな名称の組織が英国外にも登場した。ベルギーの "Sharia4Belgium" である。

「イスラム国のようなものも解のひとつだ」とかいうふざけた言説が普通にまかり通っていたネット上の日本語圏で最初にこの組織名が話題となったとき、「ベルギーは英語圏ではないのに、英語の略式表現が組織名なのはおかしい」とか、極端な場合は「MIなんとかの仕込みではないか」みたいなことが言われているのを見かけたが、発言する前に事実を確認すれば、これが "Islam4UK" の「ベルギー支部」の色を前面に出した名称であるということはわかったはずである。(そもそも、ベルギーはオランダ語圏とフランス語圏の対立がひどいので、どちらか1つの圏に留まらない人たちの間では「どっちでもない中立の言語」として英語が広く用いられているので、英語だからといって特に奇異な印象があるわけではない。それに、日本でも英語の組織名なんていくらでもあるじゃないっすかね)

ともあれ、その "Sharia4Belgium" とアンジェム・チョーダリーについても、今回の有罪判決が明かされた時点で、BBC Newsがかなり分厚い記事を出している。元はBBC Radio 4での調査報道だ。

Anjem Choudary's links to Belgian extremist group
By Chris Vallance
BBC Radio 4
16 August 2016
http://www.bbc.com/news/uk-37099622

Sharia4Belgium has played a significant role in the growth of extremism in Belgium, and it took inspiration from Islam4UK - a group once led by Anjem Choudary.

Pieter Van Ostaeyen, who researches Belgian jihadists, told BBC Radio 4 that Sharia4Belgium founder Fouad Belkacem "clearly pointed to the ideas and ideology of Choudary and Islam4UK".

...

A 2015 trial that convicted 45 Sharia4Belgium members of terror-related offences suggested Choudary was influential in the creation of the organisation.

The judgement notes that in 2010 Belkacem "spent several days in a mosque in London", adding that in the same year Choudary "announced in the media that he was planning to create a new branch of his movement in Belgium".

Two months later, the judgement says, Belkacem co-founded Sharia4Belgium.

In a 2015 New Yorker magazine interview, Choudary claimed Belkacem had visited him in the UK seeking advice.

He said he found Belkacem to be an "incredibly receptive younger brother".

...

Journalist James Harkin, who obtained documents relating to the group, has seen a Belgian police transcript of one phone call between Choudary and Belkacem.

"Fouad Belkacem is asking for the advice of the master Anjem Choudary, so this is very definitely a master-pupil relationship", he says.

http://www.bbc.com/news/uk-37099622


ここに抜粋した部分で述べられている「2015年の裁判」については、過去に書いたものがあるので参照されたい。

ベルギー: シリアに戦闘員を送ってきたイスラム過激派の団体のメンバー45人に有罪判決
http://matome.naver.jp/odai/2142368981678102101

※2015年2月。この1ヶ月ほど前にパリでシャルリエブド編集部が襲撃され、9ヵ月後にパリでカフェ、レストランやライヴハウスが襲撃され、1年1ヵ月後にベルギーのブリュッセルで空港と地下鉄が攻撃された。

この「まとめ」より:
ベルギー当局は、およそ300人のベルギー人(うち80人がアントワープおよびその近郊の都市の出身)がシリアに行っていると述べているが、これは総人口1,100万人の国としては異様に高い数値だ。多くはSharia4Belgiumのメンバーであるか、この集団との関連があるという。Sharia4Belgiumはアントワープで創設された。創設者のひとりであるフーアド・ベルカセム(32歳)は街頭での説法を通じて支持者を獲得した。彼は窃盗や暴行など前科が多いと警察は述べている。

ベルカセムは、モスクではなくメンバーの家で集まりを開催し、当局の監視の目を逃れていた。こうして集められたSharia4Belgiumのメンバーの多くはモロッコ系で、不良少年だったり麻薬の売人だったりしているという。この集団の構成員の年長の者たちがそういう不良少年だった10から15年前に弁護を担当したという弁護士は、今回の裁判でも被告の一人を担当しており、「犯罪の道にはまっていた彼らがひげを伸ばし、光を見た」のだと語る。

……

Sharia4Belgiumがシリアにメンバーを送ろうと計画しだしたのは2011年。記事冒頭に出てきたカスミと、組織創設者のベルカセムがロンドンに行き、アンジェム・チョーダリと面会したときのことだという。

ベルギーの彼らがロンドンに行ったときに、アンジェム・チョーダリは彼らがオマール・バクリ・モハメド(在レバノン)に連絡できるよう取り計らったという。

……

こうして、チョーダリの紹介を受けたカスミは2011年11月にレバノンに行ってバクリと面会し、バクリがシリアの武装勢力との渡りをつけたという。

シリアに入ったSharia4Belgiumのメンバーは、ヌスラ戦線(JaN)かMajlis Shura al-Mujahideenに加わった。アサド政権幹部の所有で、持ち主が逃げてしまったので無人になっていたアレッポ近郊の豪華別荘に入り込んで、プールで楽しく過ごすなどしている様子をソーシャルメディアにアップしていた者たちもいたと、状況をウォッチしている研究者は言う。当時は「アサド政権軍はチョロい」と思っていたし、シリアの各武装組織は連携しており、けっこう気楽にやっていた時期だった。

ベルギー当局が、シリアに行こうとする人や帰ってきた人を逮捕するようになったのは、Sharia4Belgiumのメンバー数十人がシリアに行っているということが明らかになったときだった。

……

http://matome.naver.jp/odai/2142368981678102101


2015年2月にベルギーで、"Sharia4Belgium" の創設者のフーアド・ベルカセムが有罪となり、禁固12年が言い渡されてからほぼ1年半後、2016年7月末に、今度は "Islam4UK" などの名義で知られる英国の「イスラム過激派」の創設者、アンジェム・チョーダリーが有罪となったわけだ(量刑は「禁固10年の可能性」などと言われている)。

で、両組織の関係についての今回のBBCの記事に、ベルギーの司法筋が「英国の当局がなぜチョーダリーを野放しにしていたのか」と発言しているとあるが:
One Belgian legal source told the BBC that British authorities should have done more to stop Choudary from spreading extremism.

"We never understood why people like Choudary were left alone," he said.


ほんと、まさにこの点が問題であることは確かだし、こういうところから比喩的に「英当局が、イスラム過激主義の伸張を、(いわば)助けていた(ようなものだ)」という発言が出てくるのも当然といえば当然なのだが、2016年の世界は米国で共和党の大統領候補になった人物が、「イスイス団はオバマとヒラリー・クリントンが作った」などと発言しているのが(パラレルワールドの出来事でも、テレビの風刺番組での出来事でもなく)現実であるという恐ろしい世界であり(ちなみにこのドナルド・トランプの発言は、「イスイス団の伸張を許したのはアサド政権や、イスイス団の標的などほとんど爆撃せず、反アサド側のイスイス団以外の武装勢力を攻撃しているロシアだ」という非難の言辞を裏返した意趣返しとして機能していると思われ)、「英当局が欧州のイスラム過激派を作った」と単純化された形で陰謀論が、これまでの一定範囲を超えたところまで広まることは、想定しておくべきだろう。(いやあ、ますます比喩で物事を語るということがしづらくなってきますね。)

また、6月のEUレファレンダムの際に、Brexit派ががんがん流していた「印象操作」のひとつに、「EUから抜ければ、イスラム過激派が英国に入ってこなくなる」という内容のものがあったのだが、これなんざ、大陸から見れば「お前が言うな」の極み。もちろん、ヨーロッパのイスラム過激派が伸張したのは英国だけではないが(フランスはまた別の背景と歴史的経緯がある)、英国が「外部から来た者に攻撃される被害者」であるかのような認識も、またおかしい。何しろ、オマール・バクリ・モハメドが英国での活動を開始したのは、30年も前のことだ。

オマール・バクリ・モハメドが「帰国禁止」という形(滞在ヴィザの取り消しだと思う)で英国から追放された2005年当時は、インターネットはもう普及はしていたが、情報の流れは今ほど活発ではなく、「同好の士」はそれぞれ話題を特化したサイトのフォーラム(掲示板)に集ったり、Eメールの「メーリング・リスト」で意見や情報を交換したりしていた。メッセンジャーや携帯電話のSMSも使われていたが、それらあくまで「個人と個人」のやりとりで終わるものだった個別のコミュニケーションは、2010年ごろから爆発的に普及した「ソーシャル・メディア」(特に有名人ではない個人でも、「個人と不特定多数」のやり取りが容易にできる)とは、影響力が違っていた。「イスラム過激派」が欧州でなぜここまで伸張したのかということについては、そういった光も当てられるだろう。

で、そういう「最新のIT環境」を使いこなして《思想》を広めていた活動家として最も目立つ存在だったのが、今回「ようやく塀の中へ」と言われているアンジェム・チョーダリーである。

ただし、アンジェム・チョーダリーは、"hate preacher" などと呼ばれてはいるものの、広く一般に「宗教家」と位置づけられるような人物 (英語でclericと表現されるような人物) ではない。確かに彼は「法律の専門家」だが、彼の持つ資格は、イングランド(&ウェールズ)の法律家、「ソリシター」(会社の登記とか離婚とか難民申請とかいろいろな分野があるが、要は法律実務家)であって、「イスラム法」の学者ではない(「過激派」であるオマール・バクリのもとで彼なりに学びはしているにせよ)。そこが異色といえば異色なのだろうし、また、日本の仏教の「得度」のようなものとは違い、イスラム教は(一部のキリスト教のプロテスタントとも通じるが)「宗教家」と呼ばれうる人の範囲がいろいろあるという事情もある。このため、彼を「宗教家 cleric」として扱う報道などもないわけではないようだ。日本で「宗教指導者」であるかのように報道に出てきたのも、そういうところが影響していたのかもしれない。

オマール・バクリ・モハメドがニュースになっていた2000年代前半に、「英国のイスラム過激派」として注目されていた人々は何人もいたが(たいがいは「言論の自由」をめぐる関心を集めていた)、ニュースに出てくるような人、つまり身柄引き渡しや国外退去をめぐる法廷闘争を展開していたような人々は、たいがい、宗教家だった。フィンズベリー・パーク・モスクのイマームだったアブ・ハムザ・アル・マスリ(リンク先は via 「西ロンドンのギャングのハンドサイン、ブライトンのまじめそうな18歳……シリアで戦っている英国人」@2014年作成)や、90年代に迫害を理由に英国に亡命し、英国内でイスラミズム宣伝の活動をし、法廷闘争の末、2013年にヨルダンに身柄を送られたアブ・カタダ(その後、ヨルダンでの裁判で無罪)のような人々が、2001年9月11日後の「テロとの戦い war on terror」のなか、BBCをはじめとする大手メディアでどれほど大きく取り上げられていたか、ご記憶の方も多いだろう。

そうして、英国で「イスラミズム(イスラム主義)」が毎日のニュースになった時期、アンジェム・チョーダリーはよくテレビで「専門家」というか、「彼らの言い分」の人として、喋っていた。私が彼の名前と顔を覚えたのも、そういう時期にBBC Newsのウェブサイトなどで何度も見たからだったと思う。

最近も、英国のテレビで、ルイ・セローのドキュメンタリーに出ていたりもした。「いわゆる oxygen of publicity を与えることになる」としての反対論もあったが、「それより、テレビのような場を与え、ばかばかしい主張を広く人々に知らせ、笑いものにするほうがよい」という自由主義(リベラリズム)の基本原則そのままの理念・方針で、英国の報道機関はアンジェム・チョーダリーに場を与え続けた。ルイ・セローは下記のように、Twitterでチョーダリーの発言にクギを刺すというアフターケア的なこともしているが、チョーダリーの思想の信奉者や信奉者になりそうな人は、こんなTwitterのやり取りは見ていないだろう。






【2016年8月18日早朝(日本時間)追記】アンジェム・チョーダリーのTwitterアカウントが消えています(最初は「サスペンド」だと思ったのですが「削除」のようです)。一応、資料として必要だとは思われるので、上で引用したルイ・セローとのやり取りの部分は、Googleキャッシュでサルベージしてキャプチャ画像を取っておきました(ファイルサイズが大きいので減色はしてありますしURLを書き込んでありますが、それ以外は上下をつなぎ合わせた以外は無加工です)。なお、上記に残骸になって残っているチョーダリーのツイートの "The Whitechapel Islamic Roadshow http://t.co/E1BSeBx0pp" は、YouTubeにアップされた映像のクリップです。検索すれば見つかると思います。【追記ここまで】

テレビ媒体だけではない。2014年9月には、オブザーヴァー(ガーディアンの日曜)ががっつり取材して記事を書いている。いつもパネェ取材をするVICEなど、オンライン・メディアでも同様の「密着取材」のようなものはあった。

オブザーヴァー記事より:
There is a tendency in public discussion of Islam in Britain either to dismiss Choudary's type of scriptural literalism out of hand or to recast it as a product of alienation, oppression, marginalisation and racism. The idea that anyone sincerely wants to live in a society that exults in horrific executions and religious control of all aspects of public life is one that seems too far-fetched for mainstream society to accept.

Yet the creation in Syria and Iraq of a makeshift state the size of England that is home to several million people has rocked such complacent thinking, particularly as a number of British citizens have taken to social media to promote Isis and appeal to fellow Muslims to fight for the new caliphate.

https://www.theguardian.com/world/2014/sep/07/anjem-choudary-islamic-state-isis


というわけで、アンジェム・チョーダリーは広く一般に「テレビなどによく出てくるイスラム過激派の人」と認識されているだろうし、雑な理解では「テレビなどによく出てくるイスラムの人」と、「過激派」抜きで認識されてもいるだろう。本人もそのように自分のことを宣伝してきたし、法廷でもその態度は一貫していたようだ。
Choudary, who has a long history with groups involved in radical Islamist demonstrations, such as the now-banned al-Muhajiroun and Islam4UK, denied he was inviting support for Isis and claimed to be a “lecturer in sharia law” giving “the Islamic perspective”.

https://www.theguardian.com/uk-news/2016/aug/16/anjem-choudary-convicted-of-supporting-islamic-state


でも、彼が「一種の著名人」になってからこの方、10年くらいの間に、彼の「英国にシャリーア法を」という主張がまじめに対処すべきものと受け取られたことがあったかどうか。「変人のエキセントリックな主張」、「過激派の主張」、「英国を蝕む思想」などさまざまな見方はされていただろうが、"be taken seriously" な状態であったことがあったかどうか。

先に見た、ベルギーの過激派組織とアンジェム・チョーダリーについての記事は、下記の一文で結ばれている。

Had Sharia4Belgium been taken more seriously in its early days, Van Ostaeyen and others argue, the story of extremism in Belgium might have been different.

http://www.bbc.com/news/uk-37099622


だが、ベルギー以前に、ああいう主張を「初期段階でもっと真剣に受け取っていれば」話は違っていたかもしれないのは、英国である。

ともあれ、英国の議論・異論・反論を前提とする「自由主義(リベラリズム)」の社会で「反論されるべきひとつの意見」として居場所を得て、それなりに伸張しながら、HuT → Al-Muhajiroun (aka Islam4UK etc) と進展してきたオマール・バクリ・モハメドとアンジェム・チョーダリーの「過激派」の思想活動は、「国際テロ組織といえばアルカイダ」の時代にも十分に伸張していたと思うのだが(そのころの彼らは「アルカイダ系」だった)、「アルカイダでさえドン引きする超過激派集団、イスイス団」の時代に、それまで以上の悪名をとどろかせることになった。

今年3月に英語圏メディアで大きく取り上げられた「ISISリークス」(イスイス団の文書が外部に持ち出された)で明らかにされたとおり、オマール・バクリ・モハメドはレバノンで英国人戦闘員をシリアに送り込む活動に関わっていた。

Islamic State leaks reveal banned cleric Omar Bakri recruited British jihadists
By Josie Ensor, and Raf Sanchez
9:00PM GMT 10 Mar 2016
http://www.telegraph.co.uk/news/worldnews/islamic-state/12190513/Islamic-State-leaks-reveals-banned-cleric-Omar-Bakri-recruited-British-jihadists.html

The exiled radical preacher Omar Bakri Mohammad has been recruiting British fighters for the Islamic State, the Telegraph can reveal.

The cleric, who was banished from the UK in 2005, was named as a sponsor by British jihadists trying to induct into Islamic State of Iraq and the Levant (Isil), according to information released in one the biggest leaks of terrorist data in history.

...

Jihadists were required to fill out a 23-question recruitment form before being accepted into the group. Under the “recommended by” question the recruits wrote “Sheikh Omar Bakri of Lebanon”.


一方で、オマール・バクリの英国時代の腹心であったアンジェム・チョーダリーも、英国で引き続き活動をして、多くの英国人に影響を与えていた。BBC記事には彼の影響を受けた過激派の有名どころが列挙されている。2013年のウリッチ英兵殺害事件の実行犯2人、「ジハーディ・ジョン」と呼ばれたエムワジが死んだあとを受けて「処刑人」になったと報じられたヒンズー教からの改宗者、ロンドンの街中で英兵を襲撃する計画を立てていた10代の少年など。

Supporters of Choudary included:

- Michael Adebolajo and Michael Adebowale, the murderers of soldier Lee Rigby
- Suspected IS executioner Siddhartha Dhar
- Omar Sharif, a British suicide bomber who attacked Tel Aviv in 2003
- Brusthom Ziamani, jailed 12 years later for planning to kill in the streets of London

http://www.bbc.com/news/uk-37098751
※原文では人名にリンクつき。原文を参照されたい。


ガーディアン記事には、さらにこんなことが書かれている。
It can now also be revealed that Choudary was encouraged to support Isis by a notorious British Isis fighter who fled to Syria while on police bail.

The court heard that shortly after Isis was proscribed as a terror group Choudary was in contact with an individual named as Subject A. It can now be revealed Subject A was Siddartha Dhar – known on social media as Abu Rumaysah – who was arrested alongside Choudary before he fled to Syria to fight with Isis while on police bail.

Dhar encouraged Choudary to express support for Isis on social media. Following on from Dhar’s encouragement, both defendants made their position on the newly declared caliphate clear in the “oath of allegiance”.

https://www.theguardian.com/uk-news/2016/aug/16/anjem-choudary-convicted-of-supporting-islamic-state


ガーディアン記事にはまた、チョーダリーらが「イスイス団の自称『カリフ』に忠誠を誓った日」について次のようにある。BBC記事ではうっかりスルーしてしまっていた。
On the ninth anniversary of the London terror attacks – 7 July 2014 – Choudary and Rahman posted an oath of allegiance online under their kunyas or Islamic names, Abu Luqman, used by Choudary, and Abu Baraa, used by Rahman, on an extremist website.

https://www.theguardian.com/uk-news/2016/aug/16/anjem-choudary-convicted-of-supporting-islamic-state


このあたりの詳細は:
Between August and September 2014, Choudary and Rahman posted speeches on YouTube encouraging support for Isis.

An audio clip, lasting one hour and six minutes and uploaded to Choudary’s YouTube channel on 9 September 2014, was played to jurors.

Titled How Muslims Assess the Legitimacy of the Caliphate, the speech was played over the image of a map of northern Africa, the Middle East, north-west Asia and southern Europe.

Choudary begins by setting out his views about the requirements of a legitimate Islamic caliphate, then explains why he sees Islamic State as meeting the criteria.

https://www.theguardian.com/uk-news/2016/aug/16/anjem-choudary-convicted-of-supporting-islamic-state


ガーディアンの記事は、ここに抜粋した部分の次に、YouTubeでのチョーダリーの主張の引用がある。湯川さんと後藤さんがイスイス団に拘束され、身代金要求がつきつけられていたあの緊迫した日々のなかでNHKがチョーダリーを「宗教指導者」扱いして発言を報じていたが、その内容と同じである。

そういえば、NHKがチョーダリーを「宗教指導者」扱いする何ヶ月も前に、こんなことがあった。当時、英語圏のジハディズム組織ウォッチャーの間で「またあいつか」的に言及されていた(というか、流されていた)のを見た記憶がある。2014年7月だから、イスイス団の組織名はまだISIS(またはISIL)で、ISではなかったのだが、ISISの長ったらしい名称の省略形としての「イスラミック・ステート」は、口頭ではわりとあったように思うが、もはや記憶が薄れている。
Choudary also took to social media to express support for Isis, the court heard. In late July 2014, he engaged in a series of messages with others as to the authority for the declaration of Eid (the Islamic festival) coming from “the office of the Islamic State”.

https://www.theguardian.com/uk-news/2016/aug/16/anjem-choudary-convicted-of-supporting-islamic-state


ともあれ、きっと世界各地で、2014年6月から7月という時期に、あの「自称カリフ」を「カリフ」として崇めるという判断をした宗教家や活動家が、同じような過程をたどったのだろうと思う。チョーダリーはYouTubeで活動する "hate preacher" のひとりなのでこのように記録し語るべき行動が多いのだろうが、TwitterやFBで何かを書いただけという人たちも大勢いただろう。

……と、自分の文章を入れた形で書けるのはここまでかな、と思う。

以下、抜粋のみ。各自お読みください。当方が「抜粋のみ」にする理由は、日本語圏の人は、チョーダリーの発言内容を読めば、だいたいおわかりになるかと。(さすがに、戦場ジャーナリストのヘルメットや防弾チョッキを見て「軍人だ」とかいうことは、チョーダリーは言ってないですけどね。)

During his trial Choudary also refused to denounce the execution of journalist James Foley by Mohammed Emwazi, nicknamed Jihadi John, in Syria in 2014.

"If you took an objective view there are circumstances where someone could be punished," he told the jury.

...

The trial also heard that Rahman - previously convicted of soliciting to murder - went on Facebook to tell his followers that migration to IS territory was a "duty".

"Let's be clear, the Muslims in the Khilafah need help," he wrote, after communicating with a British fighter who urged him to find recruits.

"The one who is capable to go over and help the Muslims, must go and help."

http://www.bbc.com/news/uk-37098751


※ここにツイートを少し入れるなどする。

ニュース系ツイート:










Commander Dean Haydon, head of the Metropolitan police’s counter-terrorism command, said: “These men have stayed just within the law for many years, but there is no one within the counter-terrorism world that has any doubts of the influence that they have had, the hate they have spread and the people that they have encouraged to join terrorist organisations.

“Over and over again we have seen people on trial for the most serious offences who have attended lectures or speeches given by these men. The oath of allegiance was a turning point for the police – at last we had the evidence that they had stepped over the line and we could prove they supported Isis.”

Haydon said 20 years’ worth of material was considered in the investigation, with 333 electronic devices containing 12.1 terabytes of storage data assessed.

https://www.theguardian.com/uk-news/2016/aug/16/anjem-choudary-convicted-of-supporting-islamic-state



Prosecutor Richard Whittam QC said: “The prosecution case is that whichever name is used, the evidence is quite clear: when these defendants were inviting support for an Islamic state or caliphate they were referring to the one declared in Syria and its environs by Ibrahim [Abu Bakr] al-Baghdadi at the end of June 2014.

“Terrorist organisations thrive and grow because people support them and that is what this case is about. Do not confuse that with the right of people to follow the religion of their choice or to proclaim support for a caliphate.”

https://www.theguardian.com/uk-news/2016/aug/16/anjem-choudary-convicted-of-supporting-islamic-state









なお、チョーダリーの裁判の結果についての報道管制の理由となった「もう1つの裁判」はこの件↓。チョーダリーの影響を受けて「過激化」した3人の裁判。


In a separate trial at the Old Bailey on Tuesday, Mohammed Alamgir, Yousuf Bashir and Rajib Khan, from Luton, were also convicted of encouraging others to support IS.

The three men, who had links with Choudary, gave speeches encouraging people to join the group and not to "sit on the sidelines".

http://www.bbc.com/news/uk-37098751


【翌朝追記分】






※ルイ・セローとチョーダリーのTwitterでのやり取りのキャプチャのことは、Twitterには流していません。ブログだけにしておくことにしました。もろもろ、お察しください。



ブログに書くことでアンジェム・チョーダリーのような主張をする人々にoxygen of publicityを与えているような気がするので、そうではないということを最後に示しておきたい。

2014年9月、英国のイスラム教徒たちによる #NotInMyName のキャンペーンビデオについてのEuroNewsの報告。



Miqdaad Versi, of the Muslim Council of Britain, told the Guardian: “Mr Anjem Choudary has long been condemned by Muslim organisations and Muslims across the country, who consider him and his support for Daesh [Isis] to be despicable and contrary to the values of Islam and our nation.

“Many Muslims have long been puzzled why this man was regularly approached by the media to give outrageous statements that inflamed Islamophobia. We hope the judgment serves as a lesson for anyone who follows this path of advocating hate and division.”

https://www.theguardian.com/uk-news/2016/aug/16/anjem-choudary-convicted-of-supporting-islamic-state

※この記事は

2016年08月17日

にアップロードしました。
1年も経ったころには、書いた本人の記憶から消えているかもしれません。


posted by nofrills at 23:35 | TrackBack(0) | todays news from uk | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

この記事へのトラックバック

【2003年に翻訳した文章】The Nuclear Love Affair 核との火遊び
2003年8月14日、John Pilger|ジョン・ピルジャー

私が初めて広島を訪れたのは,原爆投下の22年後のことだった。街はすっかり再建され,ガラス張りの建築物や環状道路が作られていたが,爪痕を見つけることは難しくはなかった。爆弾が炸裂した地点から1マイルも離れていない河原では,泥の中に掘っ立て小屋が建てられ,生気のない人の影がごみの山をあさっていた。現在,こんな日本の姿を想像できる人はほとんどいないだろう。

彼らは生き残った人々だった。ほとんどが病気で貧しく職もなく,社会から追放されていた。「原子病」の恐怖はとても大きかったので,人々は名前を変え,多くは住居を変えた。病人たちは混雑した国立病院で治療を受けた。米国人が作って経営する近代的な原爆病院が松の木に囲まれ市街地を見下ろす場所にあったが,そこではわずかな患者を「研究」目的で受け入れるだけだった。

……全文を読む
▼当ブログで参照・言及するなどした書籍・映画などから▼















×

この広告は90日以上新しい記事の投稿がないブログに表示されております。