「なぜ、イスラム教徒は、イスラム過激派のテロを非難しないのか」という問いは、なぜ「差別」なのか。(2014年12月)

「陰謀論」と、「陰謀」について。そして人が死傷させられていることへのシニシズムについて。(2014年11月)

◆知らない人に気軽に話しかけることのできる場で、知らない人から話しかけられたときに応答することをやめました。また、知らない人から話しかけられているかもしれない場所をチェックすることもやめました。あなたの主張は、私を巻き込まずに、あなたがやってください。

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2016年07月10日

「英海軍からイスイス団に入った」と(多少盛りすぎの記述で)説明される人物が、イスイス団とアサドについて、クウェートでの取り調べでしゃべってるらしい。

後述のオートン氏のツイートを見るまで知らなかったのだが、「英海軍からイスイス団に入った人」がいるそうだ(報道記事を読むと、そのように紹介することは「盛りすぎ」「釣り」に思えるが)。その人物の名前でウェブ検索すると、検索結果の1ページ目は無関係かもしれない個人のFBやLinkedInのようなページばかりなのだが、2ページ目に今年5月のMetro(デイリー・メイルと同じ会社が運営)の記事が出てきた。元はメイル・オン・サンデー(デイリー・メイルの日曜)の報道である。

UK navy officer ‘joins Isis’ as experts warn of attacks on ships
Sunday 8 May 2016 10:00 pm
http://metro.co.uk/2016/05/08/uk-navy-officer-joins-isis-as-experts-warn-of-attacks-on-ships-5869138/

この記事に当該の人物の名前の別の綴りが出ていて、それで検索するとMetro以外にも報道記事が出てきた。といっても、内容はMetroの記事とさほど変わらない。

UK-trained navy officer 'joins the Islamic State'
8 May 2016 • 10:50am
http://www.telegraph.co.uk/news/2016/05/08/pic--pub-uk-trained-navy-officer-joins-the-islamic-state/

メイルは記述の厳密性に疑問があるところが多く、それを忍耐力のない人でも読めるくらいに短くしたメトロはなおさら危なっかしいので、テレグラフを合わせて参照するのがよいと思うが、これらの報道によると、クウェート出身のアリ・アルオサイミという28歳の人物が、2011年からイングランド北部のサウスシールズにある英海軍の施設でマーチャント・ネイヴィーのコースで訓練を受けていたが、3年間の予定の過程を終える前に過激思想にかぶれてシリアに行ってしまったという。アルオサイミは英海軍のこのコースを受ける前はクウェートで国営企業で石油タンカーの仕事をしており、その仕事での技能をさらに高めるために英国で研修を受けたようだ。メイルやテレグラフの記事は、そのような「英国のすばらしい知識」を学んだ「海の男」がイスイス団に入ったことで、近隣海域で商船や石油タンカーが襲撃される可能性が懸念される、というトーンだが、その可能性がどの程度現実的なものなのかはわからない。

これら5月上旬の報道は、同月報じられたいわゆる「ISISリーク」で明らかになったイスイス団戦闘員の登録書類を調べてみてわかったことについてのものだが(アルオサイミは2014年4月にシリア入りしているとそれらの書類にあった)、この文書漏洩については次のようなことが言われていた。
The existence of the documents was revealed by the Munich-based Süddeutsche Zeitung paper and German broadcasters WDR and NDR on Monday evening. Zaman al-Wasl, a pro-opposition Syrian news website, published examples of the questionnaires on Tuesday.

Sky News claimed on Tuesday that it too has obtained copies of what appeared to be the same documents, containing about 22,000 names. It said the they were passed on a memory stick stolen from Isis internal security police by a former Free Syrian Army convert who later became disillusioned with Isis.

The documents held by the German authorities seem to have been collected at the end of 2013. ...

https://www.theguardian.com/world/2016/mar/09/isis-document-leak-reportedly-reveals-identities-syria-22000-fighters


「理想に燃えて、イスイス団に入ってはみたものの、実態がひどすぎるので幻滅した」という人がいるという話は、非常に頻繁に聞こえてくる(イスイス団全体から見れば少数なのだろうけれども)。9日(土)にアップした離脱者のインタビュー内容をまとめたページを見ると、その「幻滅」の具体的な内容がどういうものか、わかるだろう。人々は本当に「すばらしいユートピア」「地上の楽園」的なイメージを抱いてイスイス団に入り、シリア/イラクに行く。そしてそこでの現実が、聞かされていた(あるいはイメージしていた)「ユートピア」とはかけ離れた流血と残虐の世界であることを知り、「これは自分の求めていたものではない」と気づく。しかしそれは、「ユートピア」を求めている自分を変えはしない。

多くの志願者と同じように「理想の世界」を求めていたのであろうクウェートの「海の男」が、英海軍で知識と技能に磨きをかけていたときに「過激化」し(そのきっかけは、19歳の弟がシリア・イラクで過激派に加わって戦い、死んだことだとメイルの記事でおじが語っている)、シリアに行ってイスイス団に入って、それからどうなったのかは、5月の「ISISリーク」の時点ではわかっていなかった。

それがわかったのが、本エントリ冒頭で言及したオートン氏のツイートである。

「アリ・アルオサイミ Ali Alosaimi」という綴りが、ここでは「アリ・アル=ウサイミ Ali al-Usaymi」となっているが、これはアラビア語からラテン文字への転記の際の表記ゆれだ。






いわく、アルオサイミは1週間前にクウェートで身柄を拘束され、クウェート当局の取り調べに非常に協力的な態度で、「アサド側とイラン側(の代表者)とのミーティングに出席していた」と語っているという。ソースはクウェートのメディアだ。
https://en.zamanalwsl.net/news/16818.html
※サイトが落ちているときなどは https://archive.is/847iO
Kuwaiti al-Jareede Newspaper reported some of the “fascinating” confessions of Ali Omar nicknamed as Abu Turab confirming that Ali Omar “attended personally coordination meetings with bodies representing Assad regime and Iranian intelligence.” It is a very dangerous confession coming from ISIS significant member.


これがどの程度信頼できる話なのか、私は知らない。むしろ、信頼すべきかどうかが疑問だ。クウェート当局が聞きたがっていることを、クウェート人であるアルオサイミが、求められるままにしゃべっているのではないかと疑ってかからざるをを得ないくらいだ。

なのでこの報道は「読んだ」ということは記録しておきたいが、それ以上のことは今はしたくない(Twitterでオートン氏のツイートをRTなどしないのも、RTすることで「増幅」してしまいそうな気がするからだ)。だから、Twitterで済ませずにいちいちブログに書いている。

ただ、報道にある下記のくだりは、非常に気になる。意味がイマイチはっきり取れない文だが、アルオサイミの家は、弟が戦闘員としてシリア・イラクで死亡し、母親が若い男性をイスイス団に加わらせるためのプロパガンダ活動に従事しているらしい。母親もアリ・アルオサイミと一緒に逮捕されたという。
Al-Usyaimi did not mention any contact details, but he only pointed to Mudafet al-Akhawat, his mother, which confirms what Kuwaiti press said that his mother is involved for real in propaganda for ISIS and recruiting young men.

... Al-Jareeda indicated Kuwaiti authorities arrested al-Usayimi with his mother Husa Mohamed. The two revealed a treasure of intelligence information which amazed the International Coalition against ISIS.


また、アリ・アルオサイミはイスイス団の石油輸出を担当していたともあり(元々クウェートでそういう仕事をしていたし、英国で研修を受けて英語も流暢なので適任である)、さらに、彼がビドゥーン (al-Bidoun)であるとも書かれている。

ビドゥーンはクウェートに暮らす人々だが、クウェートの国籍は持たず、どの国の国籍も持たない。

アルオサイミについての英報道が「クウェート出身」とは書いてあっても「クウェート国籍」とは書いておらず、また、英海軍の研修施設でわずか数年間のコースを履修していただけで「英国のジハディ」と表記しているのが気になったのだが、ひょっとしたらビドゥーンで無国籍であることが影響しているのかもしれない(要確認)。

そして、クウェート出身のビドゥーンで、英国からシリアに行ったイスイス団メンバーといえば、「ジハーディ・ジョン」と呼ばれたあの人物を思い出さずにはいられない。

まだまだ、おおっぴらに語られてないことがいっぱいあるのだろう。周辺国に関してはとりわけ……そもそもイスイス団の前身組織は、イラク人でもシリア人でもなく、ヨルダン人の元チンピラがイラク戦争での混乱に乗じてイラク国内で開始した行動集団だ。



常に頭に置いておくべき言葉がある。"In war, truth is the first casualty"(この言葉が、「本当にアイスキュロスの名言」なのかどうかはわからないが)

in-war-truth-is-the-first-casualty-quote-1.jpg

※この記事は

2016年07月10日

にアップロードしました。
1年も経ったころには、書いた本人の記憶から消えているかもしれません。


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【2003年に翻訳した文章】The Nuclear Love Affair 核との火遊び
2003年8月14日、John Pilger|ジョン・ピルジャー

私が初めて広島を訪れたのは,原爆投下の22年後のことだった。街はすっかり再建され,ガラス張りの建築物や環状道路が作られていたが,爪痕を見つけることは難しくはなかった。爆弾が炸裂した地点から1マイルも離れていない河原では,泥の中に掘っ立て小屋が建てられ,生気のない人の影がごみの山をあさっていた。現在,こんな日本の姿を想像できる人はほとんどいないだろう。

彼らは生き残った人々だった。ほとんどが病気で貧しく職もなく,社会から追放されていた。「原子病」の恐怖はとても大きかったので,人々は名前を変え,多くは住居を変えた。病人たちは混雑した国立病院で治療を受けた。米国人が作って経営する近代的な原爆病院が松の木に囲まれ市街地を見下ろす場所にあったが,そこではわずかな患者を「研究」目的で受け入れるだけだった。

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▼当ブログで参照・言及するなどした書籍・映画などから▼















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