そんなふうだから、元より下品だし、抑制はきいていない。やっちゃいけないところで尻を出す(ムーニングする)とか、パーティ用の仮装セットで尼僧になってどんちゃん騒ぎをするとかいうのもあるし、もっと日常的なことなら、「パブでざぶざぶ飲んで、道路脇で酔いつぶれて寝込む」という、20年前はほとんど見られなかったような(←これほんと。いろいろ理由というか今との違いはあるのだけど)ことも、banter(の初歩の初歩)に入るだろう。女性に対する性暴力をはたらいておいて「あれはbanterだ」と開き直るとかいう悪質なのもあるが、からっと笑える「痛快」なbanterももちろんある。ケン・ローチの映画『天使の分け前』での主人公たちの行動は、(フィクションだからという要素も作用しているが)そういう「笑えるbanter」の例と言えるだろう。
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さて、そのbanter, 複数形でbantersとなるが、それをbantzと表記すると、より「ウェ〜〜イ」系というか、lad系の色が濃くなる。

この賭け屋が稼ぎ時(ビッグな国際大会)になるとbantzを広告として展開するのはいつものことだ。前回、2014年のサッカー・ワールドカップのときのこの賭け屋のbantzには私も見事に釣られた。このときは手の込んだ「釣り」をしていたが、今回、Euro 2016は「釣る」とかなんとかじゃなくもっとストレートに「ばかげた大言壮語」をやってる。それもEuroというわりと狭い地域内のことで、昔っから(数百年前から)のつきあいのある相手との間のことだから、ポリティカリー・コレクトであるかどうかは極めて怪しいステレオタイプ・ジョークが全開だ。
Paddy Powerというのは、名前を見れば分かるとおり、アイルランドの企業だ。そして(というか「しかし」というか)、「アイルランドとブリテンの違い」が重要であるときは別として、基本的に、アイルランドは英国の文化圏だし、Paddy Powerが支店網を展開してるのもアイルランドとブリテンだ。(さらに2016年2月には、ロンドンが拠点のBetfairを合併している。)
そして、欧州から見るとブリテンというのは、「やたらとステレオタイプを振り回してbanterを仕掛ける」というステレオタイプがある。下記の映画は、「イギリス人は欧州各国に関するステレオタイプを『笑える』と思ってやたらと振り回す」というステレオタイプをうまく使っていた上に、「イギリス人の男はゲイ」というステレオタイプを上手く絡めてあった(映画の本筋は極めてどうでもよくて、そこだけおもしろかった)。
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その「英国に関するステレオタイプ」がまさにぴったり当てはまっているのが、今回、Euro 2016でのPaddy Powerの宣伝だ。
WATCH: The best French strikers, Teddy Sheringham, and a dentist's chair...https://t.co/r1UhQo0k3m
— Paddy Power (@paddypower) June 9, 2016
この「フランス人」の描き方が、実にひどいので、フランス人やフランス好きの方は不快に感じると思う。だが、英国での「フランス人のステレオタイプ」を知ってる人には、爆笑ものだ。私も、かつてイングランドからフランスに海路渡ったときに(ユーロトンネル開通前で、フェリーやホバークラフトで海峡を行き来していた時代)、イングランド側の拠点であるドーヴァーで、「フランス人がストをしているので、ダイヤが乱れています」的に「フランス人がストをしているので」だけをやけに強調した告知ボードを見たことがある。しかも現在、冗談ではなくリアルに、フランスはストが…… (^^;)
そして、Paddy Powerのbantzではもうひとつ、これ。
今回のEuro 2016には、イングランド、ウェールズ、北アイルランドが出場権を獲得し、スコットランドだけお留守番である。「それでしおれてると思ったら大間違いだ」という内容のビデオなのだが、元ネタのあるパロディである(その「元ネタ」自体もパロディなので、もうなんていうのかな、シュークリームの中身がカスタードとホイップとチョコクリームみたいなことになってるんだ)。
元ネタ。https://t.co/Hpq3LJheT1 1998年ワールドカップ(フランス大会)のときのもの。(今回のEuroはあのときと同じくフランスでの開催。)
— nofrills/新着更新通知・RTのみ (@nofrills) June 9, 2016
びんだるーびんだるーびんだるーびんだるーなーなー♪のビデオに、1ヶ月前に「90年代のイングランドってのは、何だ、水に何か入ってたのか」というコメントがあるので、put the kettle onしよう。
— nofrills/新着更新通知・RTのみ (@nofrills) June 9, 2016
ちなみにPaddy Powerの今回の「スコットランド」のビデオは、YouTubeのコメント欄に、「イングランド人の俺が見てもワロタwww」といった発言がいくつかある。ラグビーの6 Nationsのときに同趣旨のCM映像をBBCがお蔵入りにしたことがあるのだが、それはたぶん、過剰反応だろう。
お蔵入りになったラグビーのビデオ。
ともあれ、このスポーツの国別対抗のお祭りが何事もなく、「スポーツの国別対抗のお祭り」として始まり、進行し、終わってくれることを、心から祈っている。
そして、#COYBIG!! (Come On You Boys In Green)
パディ・パワーのステレオタイプ・ジョークにはこんなのもある。
20K worth of prizes to be won with the PP Euros Predictor Comp. Go to https://t.co/uvJfz9qivY to find out more! pic.twitter.com/AAryhvvT6R
— Paddy Power (@paddypower) June 10, 2016
ウェールズのサポが、水仙(ウェールズのシンボル)のシャンプーハットみたいなのを着用しているのは写真・映像で見たことがあるが、イングランドのサポが「紳士」っぽくしてるのは見たことがない。北アイルランドに至ってはレプラコーンにされている。かわいいからいいけど。
※この記事は
2016年06月10日
にアップロードしました。
1年も経ったころには、書いた本人の記憶から消えているかもしれません。
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