「なぜ、イスラム教徒は、イスラム過激派のテロを非難しないのか」という問いは、なぜ「差別」なのか。(2014年12月)

「陰謀論」と、「陰謀」について。そして人が死傷させられていることへのシニシズムについて。(2014年11月)

◆知らない人に気軽に話しかけることのできる場で、知らない人から話しかけられたときに応答することをやめました。また、知らない人から話しかけられているかもしれない場所をチェックすることもやめました。あなたの主張は、私を巻き込まずに、あなたがやってください。

【お知らせ】本ブログは、はてなブックマークの「ブ コメ一覧」とやらについては、こういう経緯で非表示にしています。(こういうエントリをアップしてあってもなお「ブ コメ非表示」についてうるさいので、ちょい目立つようにしておきますが、当方のことは「揉め事」に巻き込まないでください。また、言うまでもないことですが、当方がブ コメ一覧を非表示に設定することは、あなたの言論の自由をおかすものではありません。)

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2016年05月31日

「経歴を盛ってる」を英語で

表題の件、この「盛る」という日本語も最近一般化してきたスラングだと思うのだが、もうちょっとフォーマルな言い方をすると何だろう。2ヶ月ほど前に大きな話題となったショーン某氏ほどデタラメではないので、「詐称する」ほど強くない。「ごまかす」だと曖昧すぎる。「誇張する」でもまだ曖昧な感じだ。「ゲタを履かせる」とか、「色をつける」とかかな。いずれにせよ。

クリス・カイルという元米軍人がいた(2013年に銃撃事件で殺されているので過去形)。海軍の特殊部隊(ネイヴィー・シールズ)の一員で、特にイラク戦争で「凄腕のスナイパー」として名を馳せた。ウィキペディアの日本語版でもかなり詳しい経歴がわかる。クリント・イーストウッドが映画化した『アメリカン・スナイパー』は彼の自伝だ(なお、私は映画も見ていないし、本も読んでいないということはお断りしておく)。

アメリカン・スナイパー (ハヤカワ・ノンフィクション文庫)アメリカン・スナイパー (ハヤカワ・ノンフィクション文庫)
クリス・カイル スコット・マキューエン ジム・デフェリス 田口俊樹・他

アメリカン・スナイパー クリス・カイルの伝説と真実 (竹書房文庫) ブラックホーク・ダウン〈上〉―アメリカ最強特殊部隊の戦闘記録 (ハヤカワ文庫NF) ブラックホーク・ダウン〈下〉―アメリカ最強特殊部隊の戦闘記録 (ハヤカワ文庫NF) スナイパー・エリート (ハヤカワ文庫NV) アフガン、たった一人の生還 (亜紀書房翻訳ノンフィクション・シリーズ)

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このクリス・カイルが軍隊で得た勲章の数を偽っていたことが、先日、The Intercept(ピエール・オミダイアの出資で、グレン・グリーンウォルドやジェレミー・スケイヒルらによって立ち上げられた独立メディア)の下記記事で検証・報道された。

“AMERICAN SNIPER” CHRIS KYLE DISTORTED HIS MILITARY RECORD, DOCUMENTS SHOW
Matthew Cole, Sheelagh McNeill
May 25 2016, 9:02 p.m.
https://theintercept.com/2016/05/25/american-sniper-chris-kyle-distorted-his-military-record-documents-show/


別にこの人物には関心ないし、いいやと思って見出しだけ見て記事は読んでなかったんだけど、28日以降、イラク政府軍(とそれを支援する准軍組織など)によるファルージャ戦が開始されたので、たまたま再度記事見出しを見かけたときにクリックして読んでみた。

いわく、本人は自伝に「シルヴァー・スター(銀)2つとブロンズ・スター(銅)5つ」と書いているが、The Interceptが入手した軍の記録では,「銀が1つと銅が3つ」だという。

さらに、除隊するときの書類(DD214と呼ばれるもの)では「銀が2つと銅が6つ」となっているそうで、もう何が何やら。 (@_@)

軍の関係者のコメント、元同僚などカイルを知る人たちの反応や類例などについて、詳細はThe Interceptの記事に書かれているので、それをご参照いただきたい。(上官は自伝の出版前に修正するよう注意はしたらしい。)

ここに書いているのは、例のショーン某氏の騒動のときに「経歴を盛る、って、英語でどう表現するんだろう」という話になったのを思い出したから(スラングだから「盛る」のまま和英辞典など参照しても載ってないっすよね、ってことで、学校で習う範囲の単語ならexaggerateがありますね、「大げさな表現」ならoverstatementも使いますね、的な)。

クリス・カイルの「勲章の数がちょっと増えてるな」という経歴について、The Interceptの記事でどう表現しているかを見てみる。以下、引用タグでいくつか列挙する。

Kyle ... embellished his military record, according to internal Navy documents obtained by The Intercept.

この embellish という語は「(部屋など)を装飾する」、「(文章など)を潤色する」という意味で、まさに「経歴をちょっと盛る(少し大げさに言う)」というときに使える表現だ。
http://ejje.weblio.jp/content/embellish

※Weblioのページを見ると、斉藤英和の用例で「話に色をつける」とあるので、やはり現代日本語のスラングの「盛る」は、少しフォーマル感がほしいときの表現としては、「色をつける」でいいのかもしれない。

(They) saw the inflation of his medal count as significant because they consider battlefield embellishments to be dishonorable.

"inflation of his medal count" で「獲得したメダルの数の誇張」。日本語でも「話をふくらます」という表現があるが、それと同じような用語法だ。Inflation は、経済分野の「インフレ」として日本語にもカタカナ語として定着しているが、その「インフレ」は「通貨膨張」の意味で、inflation自体は「膨張」の意味。そこから転じて「慢心」や「誇張」の意味も生じた。
http://ejje.weblio.jp/content/inflation

Embellishmentは1つ上でみたembellishの名詞形。

Within the military community, embellishing medals and achievements − so-called stolen valor − is considered a serious ethical violation.

動詞の embellish が使われているのは2ヶ所目。

According to two current Navy officials, inaccurate information about Kyle’s awards is also contained in his separation document

これは類語という感じだが、「不正確な情報」という言い換え(上位)もある。

Given [Kyle’s] celebrity, you’d think the Navy would have gone back and fixed the discrepancy

これも類語、というかさらに離れていくが、「話を盛った」結果として生じた「不一致、矛盾」。

Résumé inflation may be less of a scandal for civilians

そして、これが一番そのものずばりっぽい表現。
https://www.google.co.jp/webhp?hl=ja#hl=ja&q="Résumé+inflation"

コーネル大学法学部のサイトにある法律用語辞典での語義解説:
resume inflation

To include false or misleading information on one's resume to make oneself a more attractive candidate for a job

https://www.law.cornell.edu/wex/resume_inflation


※この記事は

2016年05月31日

にアップロードしました。
1年も経ったころには、書いた本人の記憶から消えているかもしれません。


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【2003年に翻訳した文章】The Nuclear Love Affair 核との火遊び
2003年8月14日、John Pilger|ジョン・ピルジャー

私が初めて広島を訪れたのは,原爆投下の22年後のことだった。街はすっかり再建され,ガラス張りの建築物や環状道路が作られていたが,爪痕を見つけることは難しくはなかった。爆弾が炸裂した地点から1マイルも離れていない河原では,泥の中に掘っ立て小屋が建てられ,生気のない人の影がごみの山をあさっていた。現在,こんな日本の姿を想像できる人はほとんどいないだろう。

彼らは生き残った人々だった。ほとんどが病気で貧しく職もなく,社会から追放されていた。「原子病」の恐怖はとても大きかったので,人々は名前を変え,多くは住居を変えた。病人たちは混雑した国立病院で治療を受けた。米国人が作って経営する近代的な原爆病院が松の木に囲まれ市街地を見下ろす場所にあったが,そこではわずかな患者を「研究」目的で受け入れるだけだった。

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