そういう「珍しい」機会を設けるのは、国内的にも「引き締め」などの意味はあるのだろうが、対外的に「宣伝」したいこと、伝えたいことがあるという意味もあろう。北朝鮮は英国とは国交があり、BBCは何度か取材に行っている(2013年に、ちょっとアレなことがあったが)。APは支局を置いている。特別の機会には、他のメディアも来させる。そういった国際メディアに党大会を取材させ、自分たちの見せたい姿を外に見せるわけだ。2014年には平壌科学技術大学にBBCのカメラが入り、学生にインタビューをしていた。一般のツーリストにも、ガイド(という名目の監視役)がついて、「すばらしい北朝鮮」を見せていることは広く知られている通りだ。
で、BBCは東京特派員のRupert Wingfield-Hayesさんたち取材班がピョンヤンに行った。そして、5月9日に「報道をめぐり、国外退去処分となった」という報道があった。このときは党大会を取材にいったBBC取材班が人々の生活に焦点を当てた取材をしたら国外退去に、という流れが説明されていた。
そして5月20日付で、北朝鮮で何があったのかをRupert Wingfield-Hayesさん自身が詳しく説明する記事が出た。これが、分量が相当あるので読むのに時間はかかるが、必読の記事だ。
Detained and interrogated for 10 hours in North Korea
http://www.bbc.com/news/magazine-36200530
この記事を読むと、人それぞれ、うっとくる「ツボ」があると思うが、私の場合はあれだ、lost in translationの部分。
"Do you think Korean people are ugly?" the older man asked.
"No," I answered.
"Do you think Korean people have voices like dogs?"
"No," I answered again.
"Then why do you write these things?!" he shouted.
I was confused. What could they mean? One of the articles was presented to me, the offending passage circled in black marker pen:
"The grim-faced customs officer is wearing one of those slightly ridiculous oversized military caps that they were so fond of in the Soviet Union. It makes the slightly built North Korean in his baggy uniform comically top heavy. "Open," he grunts, pointing at my mobile phone. I dutifully punch in the passcode. He grabs it back and goes immediately to photos. He scrolls through pictures of my children skiing, Japanese cherry blossom, the Hong Kong skyline. Apparently satisfied he turns to my suitcase. "Books?" he barks. No, no books. "Movies?" No, no movies. I am sent off to another desk where a much less gruff lady is already looking through my laptop."
"Are they serious?" I thought. ...
北朝鮮の役人は、この記事のgrim-facedを「不細工な」と解釈し(実際には「暗い表情をした」という意味)、he barksを文字通りに受け取って「犬扱いしている」と解釈していたそうだ(いったい、北朝鮮の言葉では「吠える」を比喩的に使うということはないのだろうか。日本語では普通にありますよね)。
そして、記者が「そんな解釈はめちゃくちゃだ」として正しい意味を説明すると、誤読・誤解した北朝鮮の役人は「私は英文学を専攻した。その私の知識が間違っているのか」と絡んでくる……って、笑い話みたいだけど、ありがちありがち。日本でもあるよね、自分より目上の人が珍解釈してて(以下略
BBC News - Detained and interrogated for 10 hours in North Korea https://t.co/Xo28t9wqtd 4月末にノーベル賞受賞者同行で北朝鮮を取材したBBC記者が出国時10時間にわたり拘束尋問された件の詳細
— nofrills/新着更新通知・RTのみ (@nofrills) May 20, 2016
https://t.co/Xo28t9wqtd 文章量がたっぷりあるけど、10時間で解放されたから書ける内容、必読の記事。記者の書いた文章の一節を取り上げて「犬呼ばわりするのか」のところは笑い話みたいだが、たぶん実際には「あるある」だろう(それに、これは日本語圏でも生じうる)。
— nofrills/新着更新通知・RTのみ (@nofrills) May 20, 2016
10時間拘束の後にいったんホテルに戻されて、2日間取材もできずただ留め置かれたあとで、いきなり国外退去となったという顛末の裏にはこてこてのビューロクラシーがありそうだが、何かの拍子で裁判にかけられていたかもしれないわけで、とにかく無事出国できてよかったという月並みな感想しかない。
— nofrills/新着更新通知・RTのみ (@nofrills) May 20, 2016
※この記事は
2016年05月21日
にアップロードしました。
1年も経ったころには、書いた本人の記憶から消えているかもしれません。
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