五輪について書くとあんまり絡まれたくないタイプの人に絡まれる可能性が高くなるので(実際ここに来てるんですけどね)書きたくないし、そもそも個人的に、オリンピックというものについて(仕事でもなければ)何かを書くほど関心がないというか、むしろ無視することにしています(2012年ロンドン五輪は、「ロンドン」に興味があるので開会式や閉会式は見てたし、UKでのニュースは毎日目にしてたけど、大会の中身は見てない)。その程度の自分が何かを書くことは避けるべきと思ってたんだけど、Twitterでちょっと書いたらRTがかなりなことになってるので、ブログに書いておけば誰かの役に立つのかなあということで書いておきます。
「ビジネスジャーナル」というオンライン媒体があります。はてブなどで名前はよく見かけるけど、特に興味のある記事が出る媒体ではないから自分では見ないし、どういうバックグラウンドの媒体なのか、私は把握してません。その媒体に出ている記事が、かなりの話題。現在のトップページ(下記キャプチャ)では、「ギャンブルジャーナル」(って何? 競馬とか競輪とか? 五輪は関係なくないですかね)というコーナー(?)のトップニュースのようですね。
「東京五輪中止、ロンドン開催」の可能性が本格浮上。もはや 「誰も望まない五輪」への変貌と、森喜朗会長の「戯言」
2016.05.17
文=odakyou
http://biz-journal.jp/gj/2016/05/post_422.html

で、この話だけど……ええと、「ビジネスジャーナル」(内の「ギャンブルジャーナル」)の当該記事が参照しているのは、「海外mailOnline」だそうだ……って、何それ。
「海外mailOnline」なんて、あたしは聞いたことがない言い方だし、見たこともない表記だけど、常識で英国のDaily Mailの電子版、Mail Onlineのことだということはわかる。
英Mail Onlineのことを「海外mailOnline」と書いてしまうような書き手が、どの程度正確に英語の記事を読めるのか、あたしは知らないけど、ともあれ、この元記事を見てみる必要があります。ちなみに、「ビジネスジャーナル」(内の「ギャンブルジャーナル」)の当該記事からMail Onlineへのリンクはないので、自分で探さなければなりません。面倒ですね。
個人的には、昨日はてブで2ちゃんまとめサイトのエントリが話題になっていたのを見た時点でそのMail Online(以下「メイル」)の記事も見ているのだけど、何がきっかけで見たのか……ニュース検索でもしたのかもしれないし、誰かがリンクしてくれてたのをどこかで見てクリックしたのかもしれない。ともあれ、メイルの元記事はこれ。
London in the frame to host 2020 Olympics as Japan bid probed over secret payments
By MATT LAWTON FOR THE DAILY MAIL
PUBLISHED: 21:46 GMT, 12 May 2016 | UPDATED: 00:24 GMT, 13 May 2016
http://www.dailymail.co.uk/sport/othersports/article-3587834/London-frame-host-2020-Olympics-Japan-bid-probed-secret-payments.html
これは、見出しだけ見れば、確かに、「『東京五輪中止、ロンドン開催』の可能性が本格浮上」と言えるのかもしれない(「本格」が、「本格派のレトルト・カレー」的な用語法であるにせよ)。まあ、メイルだからね。
メイルの見出し(だけ)を真に受けて「本格」とか言っちゃうのが問題なんだけど。
実際、記事を読めば、これが「本格浮上」でも何でもないということは即座にわかります。普通に英語を読める人ならば。
メイルのこの見出しは、英国人を「ええーっ!」と驚かせ、クリックさせるための見出し(いわゆる「釣り見出し」)で、実際にはLondonがin the frameになっているなどという事実はないです。そういう事実があると報じている記事ではありません。
と、メイルの記事へのリンクはしたので、あとは各自、お読みください。翻訳が必要な方は、別途ご依頼ください。
一応、お約束で、記事冒頭の3パラグラフを引用しておきます。
The head of the Istanbul 2020 Olympic bid that lost out to Tokyo has said that the 2020 Games may have to be staged in London if a French criminal investigation concludes that the Japanese made illegal payments to the company at the centre of the athletics corruption scandal.
On Thursday the French financial prosecutor confirmed that they have launched an inquiry into two payments from a Japanese bank account called ‘Tokyo 2020 Olympic Game Bid’ to the Singapore-based Black Tidings company already suspected by French financial investigators of laundering money extorted from drug cheats in athletics.
Sportsmail revealed that the two payments were made either side of the 2020 Games vote in Buenos Aires in 2013 into the company that has direct links to Papa Massata Diack, the son of former IAAF president Lamine Diack and someone who along with his father is also now the subject of a criminal investigation by the French authorities.
この話、キモは「東京に敗れたイスタンブールの招致委員会の人が、東京の混乱を受けて、『じゃあうちでやるのが妥当なんじゃないですかね』とは言ってない」っていうことです。
東京がグダグダだからといって、開催地を改めて選定し直すということはまずありえない、ということは、先日IOCの現役メンバーが語っていた通りです。現実的に、ロンドンのオリンピック・スタジアムはもうオリンピック競技には使えません。
17日時点の私のはてブのコメント:
デイリー・メイルで、しかもwould, couldの仮定法じゃん……実現可能性はwouldレベルにもならない。ロンドンのオリンピック・スタジアムは、99年契約でサッカー用に改修済だ。 https://en.wikipedia.org/wiki/West_Ham_United_F.C.#Stadium
http://b.hatena.ne.jp/entry/287564157/comment/nofrills
18日の私のツイート:
これ、話題になってるみたいですけど、元記事はデイリー・メイルで、トルコの人のwould, couldの仮定法発言を書いただけの記事ですよ。>「東京五輪中止、ロンドン開催」の可能性が本格浮上。… https://t.co/ARl7xuQWEG via @biz_journal
— nofrills/新着更新通知・RTのみ (@nofrills) May 17, 2016
ロンドンの五輪スタジアムは99年契約でサッカーのウエストハムのホームとして改装・リースしてます。それを前提としない発言の何が「本格浮上」ですか。>「東京五輪中止、ロンドン開催」の可能性が本格浮上。… https://t.co/ARl7xuQWEG via @biz_journal
— nofrills/新着更新通知・RTのみ (@nofrills) May 17, 2016
英タブロイドの伝聞記事を「本格浮上」とか言ってる日本語圏ネットメディアの記事の件、RT数が多いんですが、ブログ書いたら役立ちますかね。スタジアムのことは4月に書きました→ ロンドン、五輪スタジアムが激安でウエストハムに貸し出される件 https://t.co/9qHvFD1UcY
— nofrills/新着更新通知・RTのみ (@nofrills) May 17, 2016
一言付け加えておくと、はてブのような場で「ただしソースはデイリー・メイル」だけで「信頼すべきではない」とドヤ顔をしているコメントも、信頼すべきではありません。メイルは確かに飛ばしや釣りが普通に行なわれるし、ブロードシート(デイリー・テレグラフ、タイムズ、ガーディアン)に比べれば信頼性も格段に低いんだけど、「東スポ」レベルではありません(「東スポ」レベルなのはThe Sunとかthe Daily Starとか)。メイルが信頼性が低いのは、第一に、右翼の政治的信条に基づいた主張のために事実を切り取り、派手な言葉で煽り立てるプロパガンダ・メディアだからで、日本でいえば「産経新聞」が近いと思います。メイルについては当方ずいぶん書いてるので、ブログ内検索してください。
で、メイルも常に「信頼できないダメな報道」ばかりをしているわけではなく、ときどき、ものすごく質の高い調査報道があります。ベトナム戦争のときの米軍によるミ・ライ虐殺(ソンミ村の虐殺)についてなど。まあ、こんな記事でもサイドバーは「女優の美脚」だの「芸能人の新恋人」だのといったどうでもいい写真で埋め尽くされているのがメイル・クオリティ(日本の媒体だと時事通信のようなところでも女性の胸の谷間が強調されたような写真がどかどか表示されるが、メイルはそういうわけではないので、その点はある程度は安心です)。
あと、東京開催が決定したときのログを見てみたら、おもしろかった。

There was something wrong, indeed.
この日(2013年9月8日)のログから:
LOL. On my TL, only expats are wanting the Olympic games to come to Tokyo. Me? Not in my name.
— nofrills/新着更新通知・RTのみ (@nofrills) September 7, 2013
These olympic and world cup bids stink of greed, excess and the egos of powerful men.
— Tony Schumacher (@tonyshoey) September 7, 2013
LOL. Almost all of my twitter friends in Japan are like shouting ISTANBUL! ISTANBUL!
— nofrills/新着更新通知・RTのみ (@nofrills) September 7, 2013
Congratulations #Madrid for not catching the plague of #Madrid2020, and sorry for #Istanbul. All power to face the virus of #Istanbul2020!
— Leil-Zahra Mortada (@LeilZahra) September 7, 2013
@LeilZahra TOKYOOOOOOOOO yessssssssss we got rid of the bloodylympics!!! (I had lost all hopes)
— Lena Dg (@annalenadg) September 7, 2013
ひでぇ(笑)
I do not want this. Full stop.
— nofrills/新着更新通知・RTのみ (@nofrills) September 7, 2013
※この記事は
2016年05月18日
にアップロードしました。
1年も経ったころには、書いた本人の記憶から消えているかもしれません。
- 英国での新型コロナワクチン認可と接種開始、そして誤情報・偽情報について。おまけに..
- 英ボリス・ジョンソン首相、集中治療室へ #新型コロナウイルス
- "Come together as a nation by staying ap..
- 欧州議会の議場で歌われたのは「別れの歌」ではない。「友情の歌」である―−Auld..
- 【訃報】テリー・ジョーンズ
- 英国の「二大政党制」の終わりは、「第三極の台頭」ではなく「一党優位政党制」を意味..
- ロンドン・ブリッジでまたテロ攻撃――テロリストとして有罪になっている人物が、なぜ..
- 「ハロルド・ウィルソンは欧州について中立だった」という言説
- 欧州大陸から来たコンテナと、39人の中国人とされた人々と、アイルランドのトラック..
- 英国で学位を取得した人の残留許可期間が2年になる(テリーザ・メイ内相の「改革」で..