「なぜ、イスラム教徒は、イスラム過激派のテロを非難しないのか」という問いは、なぜ「差別」なのか。(2014年12月)

「陰謀論」と、「陰謀」について。そして人が死傷させられていることへのシニシズムについて。(2014年11月)

◆知らない人に気軽に話しかけることのできる場で、知らない人から話しかけられたときに応答することをやめました。また、知らない人から話しかけられているかもしれない場所をチェックすることもやめました。あなたの主張は、私を巻き込まずに、あなたがやってください。

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2016年05月14日

失われた笑いどころを求めて(今年のユーロヴィジョン)

数時間後にはいよいよ、「広域欧州国別対抗歌合戦」ことユーロヴィジョン・ソング・コンテストの決勝である。CET (中央欧州時間)の夏時間で14日21時から、日本時間にすると、15日の4時(朝の4時)からのスタートである。世界のどこにいても、ネットで下記から生中継を見ることができる(Octoshape のソフトウェア・ブラウザ拡張アプリのDLが必要となる)。
http://www.eurovision.tv/page/webtv

YouTubeでも見られると思う。
https://www.youtube.com/channel/UCRpjHHu8ivVWs73uxHlWwFA

ユーロヴィジョンは、究極的には放送網の広域同時中継の国際的実験で、昨年、60回目の大会のゲストとして参加したオセアニアのオーストラリアが今年は正式なメンバーとして参加しており、もはや「ユーロ(ヨーロッパ)」では全然なくなっている。アメリカ合衆国の野球大会が「ワールド・シリーズ」を名乗るのだから、こっちも「ワールド」を名乗っていいと思う。

どうでもいいかもしれないが、「ユーロ」を冠したこの大会に参加する国々の、1990年代以降の広がり方を見ると(ウィキペディア英語版に一覧表になっている)、「冷戦」を教科書の中でしか知らない世代の人であっても、「ヨーロッパ」の概念が当の欧州において(欧州連合以前に)どう拡大してきたかがよくわかり、その前の時代に構築された「欧米」という概念について「ハンガリーはヨーロッパじゃないっていうんですか、キーッ」などと腹を立てずにすむだろうし、昨今、元々「西欧の先進国」と扱われていた国々が、旧共産圏諸国について「欧州の価値観を共有する仲間」呼ばわりする場合、意図されているのは「われわれの価値観を受け入れ、われわれに仲間入りしたはずの君たち」という、一種の「あてこすり」だということもわかるだろう。

http://www.eurovision.tv/page/timeline#Finalさて、ユーロヴィジョンである。大会は毎年、前年の優勝国で開催される。今年は昨年の優勝国であるスウェーデンのストックホルムでの開催だ。キャッチフレーズは "Come Together"(RemainとLeaveで熱くなっている英国系としてはお茶をふかずにはいられない)。今週、既に「予選ステージ」(「準決勝」と呼ばれている)が行なわれており、フィンランド、ギリシャ、モルドヴァ、サンマリノ、エストニア、モンテネグロ、アイスランド、ボスニア&ヘルツェゴヴィナ、スイス、あたしのアイルランド、ベラルーシ、マケドニア(あっちのほう)、スロヴェニア、デンマーク、ノルウェー、アルバニアが今日の「決勝」大会を前に姿を消した。それと今年はルーマニアがこれまで延滞してきたお金を支払えず(支払わず?)大会出場ができなくなっている。ともあれ、こうして予選(「準決勝」)で残った国と、「ビッグ5」と呼ばれる西欧5カ国、および開催国のスウェーデンを含めた26のアーティストによって競われるのが、数時間後に始まる「決勝」である(キャプチャ via kwout)。「決勝」に残れなかった代表の曲なども、ユーロヴィジョンのサイトから見られるようになっているので、ヒマな人は見てみると楽しいかもしれない。曲解説や歌詞もある。

ちなみにあたしのアイルランドは、「いかにもユーロヴィジョン」の形式的というか様式美的なポップソングで、ニール・ハノンとトマス・ウォルシュが2010年にセンセーションを巻き起こした「新国歌」で「われらが国の誇り」と讃えられたボーイバンド、Westlifeのメンバーだった美男がやる気なさげな歌唱を披露していた。Upside downと歌うところがダブリン訛りでいかしている。あと、it's now or neverってところで客席で英国旗が揺れてるのが重なるので、現実に引き戻されると思う。



というわけであたしのアイルランドが消えてしまい、(´・_・`) という顔で画面を見ることになるのだろうか……と思いつつYouTubeのユーロヴィジョン公式のページで各種サムネイル画像などを見ると、さすがユーロヴィジョン、キッチュで大げさで、安心のクオリティではあるようだ。

しかし、今年の大会は、あたしのアイルランドがいようといまいと、笑いどころがなさそうなところがすごい。笑ったまま顔が固まるレベルなのだ。












これね、冗談ではなくマジでそうなんですよ。「ソフト」による政治的宣伝(プロパガンダ)の手法(アメリカが得意なんですけどね、こういうの。今はロシアもアメリカの広告代理店使うので……)。ロシアは2014年大会のときにソチ五輪で浴びたLGBT差別についての注目と、コンチータ・ヴルストの優勝の相乗効果で、完全に「敵役」の位置に置かれてしまった。そこからの奪回を狙っている。「奪回」っていうか、もともと持ってなかった地位を得ようとしているんだけど……ロシア代表の彼が「ロシアはユーロヴィジョンを五輪のように真剣に受け取っている」と言っている通り。その彼が歌う曲は「たった一人の人」を讃える内容(ミュージック・ビデオは「男性歌手が美しい女性を求め賛美する」形式だけど、「ロシア」という文脈で、それを真に受ける人はいませんわね……というのがBBCのインタビュー映像)。

こわいよままん。

※ウクライナの曲の「政治性」について、このあと書き足します。

ロシアは「敵」が多くいる。あるいは「敵対相手」が多い。それが実際にであっても、いわゆる「仮想敵国」であっても、とにかく多い。その中でも最大の「敵」は、実際に武力紛争となり、領土のぶんどりということが起きたウクライナだ。

そのウクライナも、今回、「決勝」にコマを進めてきた。歌うのはウクライナでは超有名だというJamalaという女性歌手、曲は「1944」。「えっ、ウクライナで1944っすか」と思ったあなた、そうです。スターリンによるタタール人追放です。

Jazz artist Jamala was already a household name in Ukraine, before winning the nomination to represent her country at Eurovision.

The first ever Crimean Tatar to perform at the contest, she will appear in Thursday's second semi-final in Stockholm.

And her song, about Stalin, Crimea and claims of ethnic cleansing, is a far cry from the typical Eurovision song.

http://www.bbc.com/news/world-europe-36265593





ウクライナで超有名なジャズ歌手、Jamalaは32歳。民族的にはクリミア・タタール人で、最近英国政府が制作したビデオ・シリーズ「ウクライナの次の世代」にも出てくる。ウクライナといえば官僚主義にコネ人事だが、そんな中でもこんな人たちがいる、というビデオだそうで、そんなものをなぜ英国政府が制作しているのかと思うが、そこは記事には書かれていない。ともあれ、そういう歌手がユーロヴィジョン代表として、ウクライナ国外にも広く歌を聞かせることになった。その楽曲が、1944年に彼女たちの民族(自分自身の家族の誰かや近隣の人たち)の上になされた非道を歌ったもの……政治的すぎて、むせかえるほどだ。

ユーロヴィジョンには、「政治的なメッセージは流してはならない」という決まりごとがある。ヨーロッパという「濃い」地域の近隣同士が直接対峙する場は、ちょっとしたことの解釈が重大な結果にも結びつきうる。たとえそれが「人々を結びつけるのが本義」である音楽を核においた歌合戦の場であっても。だからこその決まりごとだ。しかし「政治的なものはダメ」というときに、「何が "政治的" なのか」を判断することそれ自体が「政治的」であるというジレンマはここでも生じ、そのスキマを抜ける「政治的な何か」がある、ということはこれまでにもあった。ただ、そこらへんは、あまりにあからさまな場合を除いては、基準がゆるく適用されるのだろうと思っていた。何しろ本質的に「表現の自由」に関する問題だ。「ギリシャ危機」のときのギリシャ代表の『アルコールはタダ』(ベテランを迎えた若いバンドのフォーク・パンクでスカ。一聴の価値あり)も「政治的」だった。

そう考えてみても、今回のウクライナ代表の「1944」は、あまりにも明白に政治的である。アイルランドが2016年に「100周年ですから」といって、美男の歌う気の抜けた人生応援歌のようなポップソングではなく、旗をぶん回す系のイースター蜂起賛美のお歌を出してきたら「政治的」と判断されていたのではないか。

この点、Jamala本人は「家族の上に起きたこと」、「パーソナル・ストーリー」と説明し、「政治的な歌ではない」とBBCの記事(キエフでのインタビュー)で主張している。(「キエフ」と書くことに「政治性」があると批判されるかもしれませんが、そう書かないと通じませんので……。)

It is also "very personal". Jamala's great-grandmother and her five children were among a quarter of a million Tatars who were packed on trains "like animals".

Many, including her great-grandmother's young daughter, died on the journey or in the inhospitable outer reaches of the Soviet Union, where they were relocated.

For Jamala, singing about the deportations is a duty to highlight what, she says, was akin to ethnic cleansing.

"I had to release their souls. Because they never came back to Ukraine," she says.

...

At a Crimean Tatar restaurant in Kiev, Jamala laughed off claims that her song was political.

"You can see it in the lyrics," she told me.

And Eurovision has backed her, by allowing her entry to stand.

http://www.bbc.com/news/world-europe-36265593


「クリミアでのタタール人迫害」は、「過去に起きた悲劇」であるばかりではない。ロシアによる併合以降、リアルタイムの問題でもある。それをBBCの記事は「そういう主張がある」という形式で書いてもいる。

そして、Jamalaと「1944」についてのこの記事が12日付で出た翌日、13日付で「ロシアはこう言う」という記事を、BBCは出した。そしてそこで「音楽は分断するものではなく人々を結ぶもの」という美辞麗句をきらきらした目で語る美男歌手(ユーロヴィジョンについて書いてるとどうしても言葉が古くなる。あの「昭和」然とした雰囲気に影響されるんだろう)のインタビューを紹介したのだ。しかもその映像の最後は、挑むような質問を歌手にぶつけていたBBC記者がピアノをひき、歌手が歌うという場面で終わっている。

で、決勝開始4時間前なんですけどね、BBC Newsのトップページにはこんなのあるんですよ。BBCが「ロシア優勝」の流れを大いに作ってるわけ。ユーロヴィジョンは楽曲・歌唱・パフォーマンスのよしあしは関係なく、一般投票はひたすらインパクトがあるかどうかだし、採点の配分は政治的なものだし(公には認められていないけど、例えばウクライナやジョージアがロシアに点を入れるかどうかは政治的なメッセージ。アゼルバイジャンだっけ、中央アジアのどこかの国が、前にロシアに点数を入れなかったことでえらい騒ぎになったこともある)、もうほんと、なんだかねえ……今思えば、「アラブの春」のあと、エジプトがロシアとの関係を強化という方向に動いたときに予想できてた「暗い未来」は、全然不十分だったな、とシリアからのツイートなどを見て思う日々なんですが(BBCもシリアについての報道は、あるタイミングで一気に方向性が変わったでしょ)。



こんな「優勝予想」の記事、BBCで見たことないと思う。やる前から結果わかってたコンチータのときですら。しかも、この記事の写真ときたら:



Rise like a phoenixですか……



一方で、BBCには影も形もない話がガーディアンには出ている。



Europeans can show they are “not indifferent to suffering” in Crimea, which has been annexed by Russia, by voting for Ukraine in the Eurovision song contest, the Ukrainian contestant has suggested.

Before what is likely to be the most politicised Eurovision in recent memory, 32-year-old jazz singer Jamala said her ballad, 1944, was not only about the deportation of the Crimean Tatar population during the second world war, but the events of the past two years in the peninsula.

Jamala, whose real name is Susana Jamaladynova and is herself a Crimean Tatar, has not been home since shortly after Russia’s 2014 annexation of the peninsula, but her parents and extended family still live there.

http://www.theguardian.com/tv-and-radio/2016/may/13/eurovision-2016-ukraine-singer-urges-vote-for-crimean-ballad


In the past two months, the Crimean Tatar community has come under huge pressure from Russia. While some have decided to work with the Russian authorities, many have declared them occupiers.

A number of court cases are under way against Tatar activists, and many more activists have simply disappeared. Just this week, armed police raided the house of Ilmi Umerov, the former mayor of the historic Tatar capital, Bakhchisarai. He will be charged with “extremism” for saying Crimea is part of Ukraine, and could face up to five years in prison.

Jamala said more than 20 of her acquaintances had disappeared in recent months.

http://www.theguardian.com/tv-and-radio/2016/may/13/eurovision-2016-ukraine-singer-urges-vote-for-crimean-ballad


こういう「強制失踪」が現実に起きているときに、「1944年にあったこと」を歌うことの意味。

さらにこれに加えて(これによって「旗」のルールが変更になったことに刺激されたことは間違いない)……




While in much of Europe, Eurovision is seen as a festival of kitsch to laugh both at and with, in parts of eastern Europe and Scandinavia, the competition is taken seriously. When Dima Bilan won Eurovision for Russia in 2008, he was immediately phoned by the then president, Dmitry Medvedev, offering his congratulations.

One of the fiercest rivalries is between Armenia and Azerbaijan over the separatist enclave of Nagorno-Karabakh, which is officially part of Azerbaijan but is controlled by ethnic Armenian forces.

Dozens died in a flare-up in violence earlier this year. In the first Eurovision semi-final on Tuesday, the Armenian entrant, Iveta Mukuchyan, was criticised for waving a Karabakh flag. Eurovision relaxed the rules on flag-waving after protests by fans of Jamala, who said they wanted to wave Crimean Tatar flags.

http://www.theguardian.com/tv-and-radio/2016/may/13/eurovision-2016-ukraine-singer-urges-vote-for-crimean-ballad


これねえ、マジで (((( ;゚Д゚))) 案件なんですよ。→ "In 2009, Azerbaijan’s national security ministry called in all 43 Azerbaijanis who had voted for Armenia, for a “discussion” about their choice." そして今年は、アルメニアもアゼルバイジャンも決勝に残ってる。

……というわけで、癒しが必要。そしてやはり癒しはあたしのアイルランドにある。ブリテンにもちょっとだけ。






昨年のGBの曲。「頭ぐるぐるする」系なのでご注意を(歌唱力がなく信じがたいほどcheesyだという点は別にして、悪い曲じゃない。ケイティ・ペリーが歌ったらはまりそうな)。



一方、あたしのアイルランドでは計画が……






2010年のユーロヴィジョン当日に行なわれたインストア・イベントだそうです。どうやらリクエストされたらしい。その結果……本当に歌が上手い人ってこうだからな……(下向いて笑うしかない)。

※この記事は

2016年05月14日

にアップロードしました。
1年も経ったころには、書いた本人の記憶から消えているかもしれません。


posted by nofrills at 23:59 | TrackBack(0) | i dont think im a pacifist/words at war | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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【2003年に翻訳した文章】The Nuclear Love Affair 核との火遊び
2003年8月14日、John Pilger|ジョン・ピルジャー

私が初めて広島を訪れたのは,原爆投下の22年後のことだった。街はすっかり再建され,ガラス張りの建築物や環状道路が作られていたが,爪痕を見つけることは難しくはなかった。爆弾が炸裂した地点から1マイルも離れていない河原では,泥の中に掘っ立て小屋が建てられ,生気のない人の影がごみの山をあさっていた。現在,こんな日本の姿を想像できる人はほとんどいないだろう。

彼らは生き残った人々だった。ほとんどが病気で貧しく職もなく,社会から追放されていた。「原子病」の恐怖はとても大きかったので,人々は名前を変え,多くは住居を変えた。病人たちは混雑した国立病院で治療を受けた。米国人が作って経営する近代的な原爆病院が松の木に囲まれ市街地を見下ろす場所にあったが,そこではわずかな患者を「研究」目的で受け入れるだけだった。

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▼当ブログで参照・言及するなどした書籍・映画などから▼