これが日本語圏では「なんと、あのメッシも!」とかいう方向になってるらしいので頭が痛いが(これには実際の「被害者」がいる。今も出続けている)、ものすごい時間かけて(ちんたら作業してたにしても、10時間くらいかかった)いろんな情報を1ヶ所にまとめておいたのでご参照いただきたい。
複数の国のトップもやってた租税回避地での蓄財。詳細がリークで明らかに。#PanamaPapers
http://matome.naver.jp/odai/2145975940070986501
内部告発者(リーカー)が主に接触したのはドイツのSüddeutsche Zeitung(南ドイツ新聞)、全体の取りまとめというかハブ的な役割を果たしたのがThe International Consortium of Investigative Journalists (ICIJ) で、ピュリッツァー・センターとICIJがこのために制作した解説ビデオが下記である。
冒頭が、オフショア、租税回避とは関係のないシリア内戦の話なので「あれ?」と思うかもしれないが、間違った映像ではない。シリア内戦は「これらの戦争犯罪はしっかり記録されている」というために使われているだけで、本題は「しかし、それを支えてきたオフショア・ファイナンスの活動はそうではない」。そして「そのように蓄えられた金は、シリア空軍に……」と展開し、今回文書がリークされたモサック・フォンセカというのがどういう会社なのかが、「ロシアで13歳で誘拐された少女の人身売買」というあまりに非道な実例や、ウガンダで起きていることを通じて説明される。英語聞き取り必須。
それから、ガーディアンのスタイリッシュな解説ビデオもわかりやすい。ロシアのプーチン大統領のケースを例として、モサック・フォンセカによる蓄財と資金洗浄(マネー・ロンダリング)がどのように行なわれているかをわかりやすく説明してくれている。英語が聞き取れなくても読めれば大丈夫。
さて、この「大型リーク」、規模がものすごい。文書量が2.6テラバイト。文書数にして1150万通。
一生かかっても読めないよ。
文書の大量リークは、2010年にウィキリークスが手がけた3件(チェルシー・マニングによるアフガン戦争ログ、イラク戦争ログ、米外交公電のリーク)以降、いくつも続いているが、今回のはケタが違う。というか単位が違う。
これをどうやって「全貌が見えるように報道していくのか」というのも報道機関にとっては難しいのではないかと思うが、今日は初日である。
そして、初日に報じられていないからということだけで陰謀論が出回るのもまたネットである。
何かあったら、とりあえず「陰謀論」ではないことは確認しよう。その情報の出所がアレックス・ジョーンズ系統ではないかどうか。
先ほどリンクしたNAVERまとめのページを作成するためにハッシュタグをチェックしてて、何度も何度も遭遇したのが下記の一連のツイート(画像)に含まれている2枚目の画像だ。というか、このツイート主も、短時間の間に同じことを何度も何度も繰り返してツイートしているが(1時間のうちに4度フィードしている)、そういう人がほかにもいた。何度もツイートすれば、そのたびに「釣られる」人は増える。これはいつもの「あの界隈」のやり口だ。
上記のツイッターユーザーがソースとしているのは、なぜかいまどき短縮URLを使っているので表からは見えないが(見えなくしているのだろう)、Zero Hedgeの記事である。※下記、直接クリックできないようにURLにスペースを入れて壊してある。
h t t p://www. zerohedge .com/news/2016-04-03/unprecedented-leak-exposes-criminal-financial-dealings-some-worlds-wealthiest-people
Zero Hedgeは運営者もはっきりせず(複数の人物によるグループ・ブログだが、全員がFightclubのタイラーの名前で投稿している)、'The site was described by CNNMoney as offering a "deeply conspiratorial, anti-establishment and pessimistic view of the world." Other writers have characterized the site as conspiratorial. A Forbes article described the site as a source of hysteria and occasionally misleading information.' と評されているサイトである。記事の中身は「報道の抜粋とまとめ」なので、あえてここを読まなくてもよそで十分に得られる情報ばかりなのだが(その昔のアンドルー・サリヴァンのブログと同様)、便利は便利だし、ひところの流行語でいうと「キュレーション」っていうんですか、そういう「味」に引かれて読者が集まっている。その「味」が「陰謀論風味」なのだ。
好き好んで電波浴などしようと思わないから私は自分からは見ないサイトだが、基本的には「報道の抜粋」のブログなので、そういう「風味」が好きな人が読むのはその人の自由だ。ここのほかに「陰謀論」と見られているサイトよりはライトでマイルドなので、あんまり濃いのは敬遠している人でも近づきやすいのかもしれない。そして、たとえ今回「ウクライナのポロシェンコ大統領」(ヤヌコヴィッチ前大統領を追放した勢力、ロシアになびかない派)がガンガン名前出されて叩かれてても、「アメリカがー」、「ソロスがー」と言ってるのが楽しいという人は、事実をまともに検証したりせずにそういい続けるのだろう。そういう人が読んで「やっぱり!」と思える場所としてZero Hedgeに集っているのなら、まあそれはそれなのではないかとは思う(支持はしないし、そっち系の趣味なんかなかった友人がそっちに行きかけたら全力で止める。いやがられても止める)。
ただ、ソースを(短縮URLによって)隠して拡散するのはどうなのか。
上のキャプチャ画像に入っている2枚目の画像は、Twitterで実に多く「拡散」されていた。その中には911陰謀論やボストン・マラソン爆弾事件フォルス・フラッグ説などで知られるアレックス・ジョーンズ/プリズン・プラネット系統と認識しているアカウントもあった(げんなりしていたのあまりしっかり見ていないけれど)。
この「ソロスがー」、「USAIDがー」はもう次の段階にまで発展している。「釣られる」人はとても多いだろう。
ICIJが出しているバナーのA Global Investigationを、deceptionと書き換えているのを見かけたので、ユーザー名をクリックしてみたら、堂々と「ロシア支持のメディア・スナイパー」と名乗っているけど、そんなことで「これはだめだ」と思う人ならこんなところまで来ていないと思う(ただしヲチャは除く)。
これを思い出すよね。昨年11月、パリでの連続攻撃のあとに出てきていたプロパガンダのアカウント。ハッシュタグを使って、微妙な心理状態にある人に直接働きかけるようなことを述べていた。
とにかく、何かを引用しておきながらソースを明らかにしていないようなのは鵜呑みにしないというのは当たり前のことだけど、それに加えて、同じことを短時間で何度もフィードしているようなのは要するに「拡散希望」なのだから、それなりの扱いをするということを心がけておいたほうがよいと思う。
なお、今回の報道で「アメリカ人の名前がまったく出てこない」のは、単にこの法律事務所の顧客のアメリカ人には、今の濃いメンツ(ウクライナ大統領だとか、カタールのエミールだった人だとか、アルゼンチンの前大統領だとか、ホスニ・ムバラクの息子だとか、パキスタンの首相の子供たちだとか)の中に入るような人がいなかったということだろう。
こういう「サービス」を提供しているのはパナマのこの法律事務所だけではない。パナマだけでもほかにいくつあるだろう。パナマ以外の租税回避地を考えたら、気が遠くなる(数だけでなく程度でも……英国でそれなりにニュースを追ってれば、「ジャージー」と聞くと気が重くなったりするはずだ)。
そういうことを、2秒くらい考えてみたら、「今日、今ここでキーキー言い出さずに、明日まで待とう」と思えるのではないだろうか。何しろ相手は2.6TB分の1150万通の文書である。
今回の内部告発者が最初に接触した「南ドイツ新聞」のデジタル版編集長、Stefan Plöchingerさんのツイート。
@Doener Einfach mal abwarten, was noch kommt...
— Stefan Plöchinger (@ploechinger) April 3, 2016
ドイツ語が読めない私はBing翻訳を利用して "Just wait what still comes..." という意味であることを確認した(言われてみれば、後半のwas noch kommtにはwhatとcomeが見える)。人力翻訳でも下記の通り。
No U.S. individuals in #PanamaPapers? "Just wait for what's coming next...," says editor of @SZ which got the leak https://t.co/tClDRsomHY
— Georgi Kantchev (@georgikantchev) April 3, 2016
しかし今回の「なぜアメリカ人が1人もいないのかーーー」騒動を見て、改めて、みんな、アメリカのことが大好きなんだな、と思った。私、ほんとに興味ないから言われるまで全然気にならなかった。それよりパキスタンのナワズ・シャリフの名前が出てきたこと(出ても政治的には無傷だろうとパキスタンの英語話者のツイッタラーさんたちはあきらめを口にしてることもあるが、全体的に、非常に怒っている)や、ウクライナの大統領が叩かれてることのほうがよほど気になる。
And now, from Russia with... what?
Not one Russian major tv network reports on Panama Papers pic.twitter.com/6AaTygfeaw
— Alexander Roslyakov (@RoslyakovAP) April 4, 2016
Kremlin says reports based #PanamaPapers reflect ‘Putinophobia’ https://t.co/xzVBVuVXDx via @WSJ
— Georgi Kantchev (@georgikantchev) April 4, 2016
5日追記:
Panama tax leak reaction - BBC News https://t.co/1VBVjYIxAV 現地4月4日分のBBC Live (blog).
— nofrills/新着更新通知・RTのみ (@nofrills) April 4, 2016
BBC News - Panama Papers: How a British man, 90, covered for a US millionaire https://t.co/zcL38856Gh 「アメリカ人の名前がなぜ出ていないのかー」厨の人は、この記事読むといいかも。
— nofrills/新着更新通知・RTのみ (@nofrills) April 4, 2016
'There are many stories from the #PanamaPapers still to be reported' https://t.co/wLCjIdmN4f pic.twitter.com/q3ncnwOWy8
— Dawn.com (@dawn_com) April 5, 2016
昨日見かけて意味わかんないと思ったのはこれか。"「ICIJが本当にジャーナリストかは疑わしく、多くは米国務省や米中央情報局(CIA)出身者だ」と決め付けた。">ロシア、情報攻撃と非難=「CIAなど関与」−パナマ文書:時事ドットコム https://t.co/iq2cQL9x58
— nofrills/新着更新通知・RTのみ (@nofrills) April 5, 2016
気になってる方もおられると思うので書きますが、「パナマ文書」についてTwitterに投稿し始めてから、当アカウントは順調にフォロワー減ってますよ。
— nofrills/新着更新通知・RTのみ (@nofrills) April 5, 2016
昨日「CIAだよ!」みたいなの見て意味わかんなかったのは、Twitter見たときにどっと流れてたのがパキスタン(ナワズ・シャリフ)とウクライナ(ポロシェンコ)だったからかも。「パキスタンの背後がCIA」で「ウクライナ政変の画策もCIA」で、「この暴露もCIA」って何それと思うよね
— nofrills/新着更新通知・RTのみ (@nofrills) April 5, 2016
「CIAだよ!」とかいう言説においては、一貫性などどうでもよいのだということはわかってる。何かあったときに「CIAだよ!」と叫ぶことで「ムード」や「流れ」を作ることが目的だからね。そう言っておけばディスクレジットできると思ってる人たちの思い通りになる人たちが一定数いるのも事実。
— nofrills/新着更新通知・RTのみ (@nofrills) April 5, 2016
でもさ、冷静に考えてみてほしい。もし「すべてはCIAの画策」なら、EUにステークをホールドしてるCIAが、EUをめぐる重要局面にある英国で「残留」派の頭目である首相のスキャンダル https://t.co/cr8Va5UHUF を暴くか? 「誤爆」とかいって誤魔化すんじゃないよ。
— nofrills/新着更新通知・RTのみ (@nofrills) April 5, 2016
How a fund set up by David Cameron's father avoided paying tax in the UK #panamapapers https://t.co/vQ5CDyQdAI pic.twitter.com/VlLFuFVXFl
— BBC News (World) (@BBCWorld) April 4, 2016
……というわけで、次項はデイヴィッド・キャメロンの父親の件について。
※この記事は
2016年04月04日
にアップロードしました。
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