「なぜ、イスラム教徒は、イスラム過激派のテロを非難しないのか」という問いは、なぜ「差別」なのか。(2014年12月)

「陰謀論」と、「陰謀」について。そして人が死傷させられていることへのシニシズムについて。(2014年11月)

◆知らない人に気軽に話しかけることのできる場で、知らない人から話しかけられたときに応答することをやめました。また、知らない人から話しかけられているかもしれない場所をチェックすることもやめました。あなたの主張は、私を巻き込まずに、あなたがやってください。

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2016年03月30日

「自爆ベルト」を装着した男が自分の乗ってる飛行機を乗っ取ったら、あなたならどうしますか。

表題の件、「民族性ステレオタイプ・ジョーク」にでもなりそうだが、「この英国人は記念撮影したそうです」……というお話。

より正確に言えば、「自爆ベルト」を装着した男が自分の乗ってる飛行機を乗っ取って、予定していた目的地とは全然違う場所に連れて行かれ、多くの乗客は解放されているのに「おまえは残れ」と言われて残された少人数のグループに含まれたときに、あなたならどうしますか。

(ステレオタイプ・ジョークに出てくる)アメリカ人なら、チームワークで男を組み伏せるかもしれない。

(ステレオタイプ・ジョークに出てくる)フランス人なら、「もうおしまいだ」と観念して、機内に積まれているワインを飲み干すかもしれない。

(ステレオタイプ・ジョークに出てくる)イタリア人なら、「もうおしまいだ」と観念して、客室乗務員を口説き始めるかもしれない。

(ステレオタイプ・ジョークに出てくる)日本人なら、とりあえず本社にFAXして支持をあおぐかもしれない。

(ステレオタイプ・ジョークに出てくる)イギリス人なら、"Keep calm and carry on" 精神を発揮して、「せっかくの機会だから、自爆ベルトを観察させてもらおう」とするかもしれない。

……え、「(ステレオタイプ・ジョークに出てくる)イギリス人」ではなく、現実にイギリス人がそうした、と。

Mr Innes told The Sun he "just threw caution to the wind while trying to stay cheerful in the face of adversity".

"I figured if his bomb was real I'd nothing lose anyway, so took a chance to get a closer look at it," he told the newspaper.

"I got one of the cabin crew to translate for me and asked him if I could do a selfie with him.

"He just shrugged OK so I stood by him and smiled for the camera while a stewardess did the snap. It has to be the best selfie ever."

http://news.sky.com/story/1669149/grinning-brit-posed-with-plane-hijacker


自爆ベルトが本物だったら「どのみちおしまいなのだから、この機会にじっくり見てみたいと思った」のだというイネスさん。ハイジャッカーは、客室乗務員の一人の女性の説得に応じ、乗客(人質)と話をしてもいいという態度だったので、イネスさんは乗務員に通訳してもらって、写真お願いできますかと頼んでみた。その結果が、新聞の一面。





シャッターを切ったのは乗務員さんだという。





というわけで、昨日、29日に全世界が振り回され、困惑した「エジプト航空機ハイジャック事件」について、「まとめ」ておきました。

「自爆ベルト」をつけた男が飛行機を乗っ取った……はずが。世界困惑、エジプト航空機ハイジャック事件
http://matome.naver.jp/odai/2145929188807478601


まだハイジャッカーの動機が確定していないのだけど、事実としては、ハイジャック犯には離婚した(あるいは別居中の)妻がいて、彼女はキプロスに住んでいる。ハイジャック犯は偽物の「自爆ベルト」を装着してエジプトの国内便(アレキサンドリア発、カイロ行き。東京・名古屋便くらいの感じかと)を乗っ取ってキプロスに向かわせ、キプロスの空港に着陸したあと、その別れた妻に宛てた手紙を飛行機の外に投げた。

ほとんど意味不明だけど、本当にあった話。

男が身に着けていた「自爆ベルト」は、写真を見るとそれらしく見えるように作られているが(10年くらい前の報道写真で見たようなタイプ)、本来「爆薬」が入れられている部分に入っているのは「携帯電話のカバー」(スマフォケース)だったという。

Cypriot Foreign Minister Ioannis Kasoulides said ... "The explosives on him were examined. They weren’t explosives, but mobile phone covers."

http://www.reuters.com/article/us-egypt-airplane-hijacking-idUSKCN0WV0CP


最終的には、キプロスの対テロ部隊が対応(交渉)に当たっている空港に駆けつけた元妻もハイジャッカーとの交渉に参加し、ハイジャッカーは人質にしていた飛行機の乗客・乗員全員を無事に解放したあとで投降。事件は銃弾が発射去れることもなく解決し、アレクサンドリアからカイロに向かっていた人々は、何時間も遅れてではあるが、その後、カイロに到着した。

ハイジャック犯は妻との間に問題を抱えているとか、妻が連れて行ってしまった子供たちに会いたかったのだという話も身内から出ているが、それらは「まとめ」のページでご確認いただきたい。

という次第で、妻と別れ、子供と会えず、思いつめた夫がやけになって「自爆ベルト」に見えるようなものを手作りし、妻子に会いに行った……という、ボリウッドでも企画が通らないのではないかというとんでもない話のようだが、実際にその飛行機に乗っていた人々にとっては、その「自爆ベルト」が「偽物」だなんてことはわからない。

うちら、外にいて「ニュース」としてみている立場では、「んなもん、どうやって機内(キャビン)に持ち込むんだよ」というツッコミも当然出るし、Twitterのような場では、自分がそう思わなくても誰かがそう思っているのが言葉になっていれば流れてくるし(例えばEvan Hillさんのこの言葉)、現場にいる人たちよりもずっと、ある意味「冷静」だ。

しかし、自分でももしそんな現場にいたら、「たぶん本物ってことはないだろうけど」と前置きしつつ、「もし本物だったらどうなるんだろう」という不安の方にばかり気持ちが傾くに違いない。

さらに、「もし偽物だったら、機長がハイジャック犯の言うなりに行き先を変更するはずがない」という考えも頭の中をぐるぐるし始めるだろうし、「本物ではない」という確証が得られていないという現実を前に、単にパニックになるしかないに違いない。ましてやハイジャッカーは「爆破してやる」などと言葉で脅してくるのだ。

その様子を語る乗客(人質)の話をまとめた記事。
http://www.theguardian.com/world/2016/mar/30/ill-blow-you-up-egyptair-passengers-describe-fear-on-flight-ms181

“He’s crazy,” said passenger Fikry Shenouda of the hijacker Seif Eldin Mustafa, who demanded that flight MS181 change its route from Alexandria to Cairo early on Tuesday morning, and divert to Larnaca airport in Cyrpus.

“We tried to speak to him but he seemed like a lunatic,” he added, attempting to shed light on the hijacker’s motives. “This guy did all this because of his wife … I don’t know if they’re divorced or not … And he wants asylum in Cyprus.”

... He explained that Mustafa collected the passengers’ passports before trying to decide who would be forced to stay inside the aircraft on the Larnaca runway.

“At first he was hesitant: he wanted to release all men, then all the women and children, then he decided to release all the Egyptians and just keep the foreigners on the plane.”


こう証言しているFikry Shenoudaさんは、早い段階で解放されたが、一緒に乗っていたオランダ人の同僚は「外国人」として留め置かれた。そのオランダ人と同様に、他の人たちが解放されたあとも残るよう強要されたのが、イタリア人1人とイギリス人3人で、その中にベン・イネスさんが含まれていた。

ベン・イネスさんは「単にパニックになる」のとは違っていた。私など、How very British of him. とつぶやかざるを得ない心境だが、ここまで来ると「イギリス人だから」とかいう問題でもないのかもしれない。

オランダ人のHoob Helthoesさんは、「自爆ベルト」は本物と考え、妻と息子に電話をしたという。

“At first, what can you say, I couldn’t believe it,” said Helthoes, as he described his feelings when Mustafa revealed what appeared to be a suicide vest.

“Everything was moving so fast, you can’t really think,” he said, attempting to shrug off the trauma of the incident. “It happened.”


「とっさのこと」だ。突然襲い掛かってくる恐怖だ。

そのときに、その恐怖の源である「テロリストっぽい男」に「一緒に写真、どうっすか」と頼めるだろうか。さらに、満面の笑みを浮かべて写真に納まれるだろうか。

なんかもう、いろいろとすごい。

下記はハイジャックされた飛行機がキプロスの空港に着陸するところ。このとき、機内の人々がどんな気持ちだったかを考えると、胸がきゅうっとする。





なお、この件では、事件発生当初にエジプトの国営メディアががんがん流していた「ハイジャッカーの名前」が、全然関係のない別人どころか、ハイジャックされた飛行機の乗客(被害者、人質)の名前だったことがあとで判明するというすさまじいぐだぐだもあった。そのことは「まとめ」の5ページに書いてある。
http://matome.naver.jp/odai/2145929188807478601?&page=5

人違いで「ハイジャッカー」にされた人は、名前も年齢も国籍も職業も肩書きも、世界中にがんがん流された。(Twitterで無数に、その人の名前や職業が「ハイジャッカー」として言及されていたので、数年後に「忘れられる権利」の問題が発生しているかもしれない。「自分の名前をググったらこの事件の容疑者として間違って言及されていた」ものがたっぷり出てくるというのは、少なくとも欧州では「忘れられる権利」の制度設計が想定しているモデルケースそのものだ。)

ベルギーの「テロ容疑者の逮捕」をめぐるぐだぐだといい、これといい、(「メディア・リテラシー」的な意味とは別の次元で)メディアの報道を真に受けてはならないということが続く。

特にエジプトは、何がきっかけとして利用され、何がどのように方向付けられるかわかったもんじゃないので、今回のこのぐだぐだが、ただでさえろくなもんじゃなくなっているエジプトの「言論・報道の自由」をさらに後退させる方向で利用されないことを、ただ願うのみである。



イネスさんとハイジャッカーの写真が「セルフィ」と呼ばれているが、乗務員に撮影してもらったのだから「セルフィ」ではない。しかし最近の英語では、「自分が写った写真を自分がネットにアップするなどして人に見せること」はもれなくselfieと呼ばれるようになっている。

この言語学的な問題点についての指摘は、Twitterでは相次いでいる。(ただしガーディアンの用語基準では、こういうのは「セルフィ」と呼ぶことになってるらしい。)










そうか、ゼイフォードが3本目の手を使って撮影したあとで、フォトショ加工したのか。
(・_・) なるほどー

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とまあこういう感じで、「これは "セルフィ" じゃないだろ」と指摘する英国のレキシコン系うるさがたには、秘密結社「(ウィキペディアを)ウィキって略すな」の一員から、ひそかな連帯を送りたい。(変な握手)

ところで、英国が朝を迎えて、Ben Innesさんについてのツイートが激増している。ladカルチャーが浸透している英国でもさすがに「無謀すぎる」、「何という目立ちたがり」というような声が目立つ。さらには、いわゆる「クソコラ」化も進行しているようだ。















そして、はい、こういうときはThe Sunですよね......





ディッキーさん、それ、BBCやニック・サットンさんにではなく、The Sunに言わないと……。

※この記事は

2016年03月30日

にアップロードしました。
1年も経ったころには、書いた本人の記憶から消えているかもしれません。


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【2003年に翻訳した文章】The Nuclear Love Affair 核との火遊び
2003年8月14日、John Pilger|ジョン・ピルジャー

私が初めて広島を訪れたのは,原爆投下の22年後のことだった。街はすっかり再建され,ガラス張りの建築物や環状道路が作られていたが,爪痕を見つけることは難しくはなかった。爆弾が炸裂した地点から1マイルも離れていない河原では,泥の中に掘っ立て小屋が建てられ,生気のない人の影がごみの山をあさっていた。現在,こんな日本の姿を想像できる人はほとんどいないだろう。

彼らは生き残った人々だった。ほとんどが病気で貧しく職もなく,社会から追放されていた。「原子病」の恐怖はとても大きかったので,人々は名前を変え,多くは住居を変えた。病人たちは混雑した国立病院で治療を受けた。米国人が作って経営する近代的な原爆病院が松の木に囲まれ市街地を見下ろす場所にあったが,そこではわずかな患者を「研究」目的で受け入れるだけだった。

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