「なぜ、イスラム教徒は、イスラム過激派のテロを非難しないのか」という問いは、なぜ「差別」なのか。(2014年12月)

「陰謀論」と、「陰謀」について。そして人が死傷させられていることへのシニシズムについて。(2014年11月)

◆知らない人に気軽に話しかけることのできる場で、知らない人から話しかけられたときに応答することをやめました。また、知らない人から話しかけられているかもしれない場所をチェックすることもやめました。あなたの主張は、私を巻き込まずに、あなたがやってください。

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2016年03月22日

「ウエストミンスター・ペドファイル・リング」についての警察の捜査は、証言者が1人しか現れず、何も立証できずに終結。

1970年代から80年代にかけて、ロンドンの南西部、リッチモンド・アポン・テムズにあった「エルム・ゲスト・ハウス」という施設で、子供たちが性的に虐待され、搾取されていた。虐待し、搾取した側には、政界や芸能界の名士も含まれていると告発された。
https://en.wikipedia.org/wiki/Elm_Guest_House_child_abuse_scandal

当時、英国はマーガレット・サッチャーを首相とする保守党政権だったが、その閣僚や要職者を含む人々が組織的に、子供たちにおぞましい犯罪行為を加えていたという疑いはリアルなもので、ここ数年……BBCの子供番組のパーソナリティだったジミー・サヴィルの真の顔が、サヴィルが病没して1年後に明らかにされた後になってようやく、だが……警察が捜査を行なってきた。最初に2012年の終わりに、「オペレーション・フェアバンク Operation Fairbank」が開始された。これは事態の全容についての見極めを行なうことが目的で、本格的な刑事捜査は、翌2013年2月の「オペレーション・ファーンブリッジ Operation Fernbridge」で開始された。そして2014年11月、一連の児童虐待事件で人殺しまで行なわれていたという嫌疑をめぐって立ち上げられたのが、「オペレーション・ミッドランド Operation Midland」だった。(以上、ウィキペディアの解説の導入部より、要旨・抜粋。)

この一連の児童虐待疑惑の加害者たちは、"Westminster paedophile ring" として言及される。児童性虐待というとロッチデールロザラムを指して「イスラムがぁぁぁ」とヒステリックに騒ぎ立てる(一方で、「白人の音楽学校教師」の事件などはスルーする)人々には、「ウエストミンスター・ペドファイル・リング」に関しては「証拠がない」「立証されていない」という態度を取る人もいる。

「証拠がない」「立証されていない」というのは事実で、それゆえに、証拠を集め、立証するための警察の捜査が、虐待が行なわれていた時期から30年ほども経過してようやく始まったのだが、それが難航しまくっている。80年代に保守党のジェフリー・ディケンズ議員がまとめた文書は、当時のレオン・ブリタン内務大臣(2015年1月病死)に提出されたあと、紛失された。これについて追究する動きは、行き止まりに突き当たり、進展しない。

「ウエストミンスター・ペドファイル・リング」は規模も大きく複雑で、しかも「芸能界の端っこで起きていたこと」などではなく、英国という国を動かす中枢部で起きていた。エルム・ゲストハウスでの児童を食い物のするパーティーに出席していたと言われているのは、大物の国会議員や高級官僚、軍人である(ソ連のスパイのアントニー・ブラントの名前もあるけれど)。30年以上前のことで、名前が出ている当事者はもうほぼ全員が死亡しているが、このような疑惑をこじ開けるのは、ロッチデールやロザラムの犯罪の真相を解明することとは、比べ物にならないほど大変なことだ。

一方で、あまりにスキャンダラスであまりにひどいこの犯罪については、人々の義憤も好奇心も容易に向けられるわけで、いろいろな「うわさ話」もあり、それらの「うわさ話」を「〜という説もある」と、 allegedly という語を書き添えるような形で拡散するということも行なわれている。インターネットは、何が「根拠のないうわさ、流言」で何が「ある程度根拠のある説」なのか、何が「紛失された書類において、実際に行なわれていた指摘」なのかといったことが判然としない、「霧 fog」の状態になって情報の断片があれこれただよっている状態だ。

そういうところで、警察が「刑事犯罪として本格的に捜査を開始」したときには、「警察が立件に向けて動き出した」ことが広く歓迎された。

しかし。



Operation Midland: inquiry into alleged VIP paedophile ring collapses
Sandra Laville and Rajeev Syal
Monday 21 March 2016 14.45 GMT
http://www.theguardian.com/uk-news/2016/mar/21/last-living-suspect-harvey-proctor-vip-paedophile-ring-inquiry-will-face-no-charges

先に述べたとおり、ウエストミンスター・ペドファイル・リングの当事者という疑いのある人々はほぼ全員が死亡している。現在、政界での唯一の生存者が元保守党議員のハーヴェイ・プロクター(1947年生まれ、現在69歳)なのだが、その訴追が断念されたという報道である。

ハーヴェイ・プロクターは保守党の中でもめちゃくちゃ右な人たちの集まりである「月曜クラブ(月曜会) the Monday Club」の一員で、1979年から89年まで英下院議員を務めた。しかし在職中の1986年に、ロンドンの彼のフラットで、同性間の性行為で「合意のもとの性行為」が成り立つ年齢(21歳)に満たない年齢の男性(男娼)たちと性的関係を持ったとの報道があり、翌87年に予定されていた総選挙の立候補を取りやめるという形で政界を引退。87年5月の裁判では有罪を認め、罰金刑に処せられた。(なお、現在では同性間であれ異性間であれ16歳なら「合意」が成立するので、プロクターの行動で罪に問われることはない。)
https://en.wikipedia.org/wiki/Harvey_Proctor

つい先日、没後1年を迎えたタイミングで「同性の愛人」が名乗り出て騒ぎになった北アイルランドのUUPの往年の大物政治家、故ジェイムズ・モリノーは、「月曜クラブ」を通じてプロクターとつながっており、ロンドンのプロクターのフラットで行なわれていたことも知らなかったはずはないだろうという指摘はある。だがもう真相が解明されることはなかろう。

そして今回プロクターの起訴が見送られたことで、いろいろと終了である。

The police investigation into an alleged VIP paedophile ring that was accused of killing three children has collapsed.

The Metropolitan police confirmed on Monday afternoon that Operation Midland had closed after 16 months of investigation.

The force made a statement shortly after the last living suspect in the inquiry said he had been told he would face no charges. Harvey Proctor, the former Conservative MP, was given the news on Monday afternoon following a conversation between his solicitors and a senior Met officer.

A statement from the Met said: “A man in his 60s who was previously interviewed under caution has today, Monday 21 March, been advised by officers working on Operation Midland that he will face no further action.

“Operation Midland has now closed.”

http://www.theguardian.com/uk-news/2016/mar/21/last-living-suspect-harvey-proctor-vip-paedophile-ring-inquiry-will-face-no-charges



実は既に半年前に、こうなることはわかっていた。「オペレーション・ミッドランド」(子供に対する性虐待と、殺人)で警察は、シングルソース(たった一人の証言者)に依拠していた。警察は11ヶ月もかけたが、結局、「ニック」という名前で呼ばれているその証言者の言っていることを確からしいと確認することはできなかった。「3人も犠牲者が出ている」と語っていた「ニック」は「ペドファイル・リングの拠点は(議員や情報機関職員などが多く暮らしていた)ウエストミンスターのドルフィン・スクエア」だと述べ、「エドワード・ヒース元首相も関わっている」と言っていた(テッド・ヒースは「生涯独身を貫いた」と描写される政治家で、一連の「疑惑」が向けられたときには「故人のプライバシー暴き」の可能性も高まった……ただ、大騒ぎになった様子はなかったと思うが)。しかし、警察はそれを裏付けることができなかった。
http://www.theguardian.com/society/2015/sep/21/met-admits-mistakes-in-westminster-paedophile-ring-inquiry

Nick’s allegations, which were first revealed by the investigative news website Exaro, prompted an angry press conference by the former Tory MP Harvey Proctor, who has been interviewed under caution as part of Operation Midland. He strongly denied any involvement, and said the allegations had destroyed his reputation and that of eight other alleged ring members.

Proctor’s press conference last month left Nick distressed, according to Exaro, which remains in close contact with the witness while the police investigation continues.

http://www.theguardian.com/society/2015/sep/21/met-admits-mistakes-in-westminster-paedophile-ring-inquiry


こういったことも、「オペレーション・ミッドランド」の終結が宣言された今、改めて検証されまとめられているので、関心がある方はその記事を読むとよいと思う。「ニック」の証言の内容も、名前が挙げられたVIPたち(政治家、軍人、官僚)も、全部整理されている。

Operation Midland: how the Met lost its way
Rajeev Syal and Sandra Laville
Monday 21 March 2016 14.51 GMT
http://www.theguardian.com/uk-news/2016/mar/21/operation-midland-met-police-paedophile-ring

Before apparently trying to test or corroborate any of the allegations, the Met held a press conference in December 2014 during which the lead officer, DS Kenny McDonald, told journalists that Nick had been interviewed by experienced officers from murder investigations and that they believed his account. “They and I believe what Nick is saying is credible and true,” he said.

It was a statement for which the Met has been heavily criticised – including by some of its own officers – and which it later had to retract.

Officers hoped that employing similar tactics to Operation Yewtree – reassuring victims they would be believed and making high-profile appeals for information – would bring new witnesses forward.

“You don’t have forensics, you don’t have cell site evidence in these kinds of inquires. What you are looking for is other witnesses who are giving similar accounts,” said a senior police source.

But witnesses and other victims were not forthcoming, unlike in the cases of Savile, and others.

http://www.theguardian.com/uk-news/2016/mar/21/operation-midland-met-police-paedophile-ring


BBCのジミー・サヴィルの性犯罪については、次から次へと被害者が名乗り出た。サヴィルのあとに同様の犯罪で裁きを受けたTVパーソナリティたちに関しても同じだ。サヴィルは故人だったが、生存していて裁きを受けた大物タレントに関しても、被害者は名乗り出た。

「ウエストミンスター・ペドファイル・リング」に関しては、そういうことにはならなかった。すべて「ニック」の頭の中での出来事かもしれないが、被害者が名乗り出ることができないか、名乗り出ることをためらっているのかもしれない。そういったことが、もう検証されることはない。すべて宙ぶらりんのまま、今ネット上にある中途半端な情報が断片的にぷかぷかとただよっていくのだろう。そしてそれは、将来にわたってなお、「陰謀論」のようなものの元となるだろう。

北アイルランド紛争に関連して、いろいろと、闇に葬られていること・葬られつつあることがあるという現実を目の当たりにしているのだが、その基準で見ても、「ウエストミンスター・ペドファイル・リング」の「闇」っぷりはすさまじい。実際にあったと思われることも「(腐りきったエスタブリッシュメントの)闇」だが、証言者「ニック」の立証されていない発言が虚言である場合、その虚言っぷりも「(個人の)闇」だし、「ニック」が本当のことを言っているとして、それがもう追求されることもないというのも「(制度の)闇」だ。

証言者が言っていることが100パーセント、事実に照らして正確であるということはないだろうが、だからといって「何一つ、事実ではない」ということもなかろう。問題なのは、それについて、どのような形でも検証・立証することが不可能であるということだ。

何より、遅すぎたのだ。そして、記録が残されていない。せめてロード・ジャナーの頭がハッキリしていて法廷に立つことができる間にこれらの動きが始まっていたならば、と思うが、後の祭りである。

問題の時期に行方不明になっており、「快楽殺人」の犠牲者になったと言われた少年(当時)がいて、ご家族がメディアでも発言するなどしていたはずだが、あまりにお気の毒だ。「ニック」の証言に関する事実がどうであれ、ご家族にとっては、大切な家族の一員が戻ってきていないというのが事実だ。【→警察のステートメントに言及があった。後述】



このあとにツイートを埋め込もうと思ったのだが、今、Twitterの検索がこんな画面でな……



Operation Midlandの検索結果は↑↑こんなふう↑↑になっても、Operationだけにすると↓↓こんなふう↓↓なんだけどな。



……と思ったら、こんなのが出る。お久しぶり! 会いたかったよ、Fail Whaleちゃん。

twitterfailwhale.png


現状、見つかったものだけ。




この警察のステートメントから、行方不明になっている少年についての言及の箇所:
The disappearance of Martin Allen remains an outstanding concern for the MPS and for his family, who do not know what happened to their son. Specialist investigators from the Homicide and Major Crime Command will continue a missing person inquiry into Martin’s disappearance.

http://news.met.police.uk/news/statement-on-operation-midland-156699







……そうこうしてるうちに、Twitterが戻ったので、貼り付けておく。


























































あとはほんと、またスコットランド・ヤードが動く以前と同じく、「いつもの陰謀論者」がいじくりまわすだけになるのだろう。「人間の尊厳」といったものにはまるで無関心な者たちが、自分たちが好きなようにできるサンプルであるかのように、実際に起きていた(かもしれない)人権侵害のケースを、自分たちの主義主張のために利用するのだ。

もう、ウォッチしなくていい。

※この記事は

2016年03月22日

にアップロードしました。
1年も経ったころには、書いた本人の記憶から消えているかもしれません。


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【2003年に翻訳した文章】The Nuclear Love Affair 核との火遊び
2003年8月14日、John Pilger|ジョン・ピルジャー

私が初めて広島を訪れたのは,原爆投下の22年後のことだった。街はすっかり再建され,ガラス張りの建築物や環状道路が作られていたが,爪痕を見つけることは難しくはなかった。爆弾が炸裂した地点から1マイルも離れていない河原では,泥の中に掘っ立て小屋が建てられ,生気のない人の影がごみの山をあさっていた。現在,こんな日本の姿を想像できる人はほとんどいないだろう。

彼らは生き残った人々だった。ほとんどが病気で貧しく職もなく,社会から追放されていた。「原子病」の恐怖はとても大きかったので,人々は名前を変え,多くは住居を変えた。病人たちは混雑した国立病院で治療を受けた。米国人が作って経営する近代的な原爆病院が松の木に囲まれ市街地を見下ろす場所にあったが,そこではわずかな患者を「研究」目的で受け入れるだけだった。

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▼当ブログで参照・言及するなどした書籍・映画などから▼















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