「セント・パトリックス・デー外交」は、アイルランドの政治トップ(首相)がワシントンDCのホワイトハウスを訪問し、米大統領にシャムロックの鉢を手渡すという儀式(?)を核にしており、発端は1952年、米トルーマン政権時の駐米アイルランド大使の思いつきだったそうだ。詳細は2015年にホワイトハウスがまとめた記事と、アイルランド大使館が制作したビデオ(下記)に詳しい。
https://blogs.state.gov/stories/2015/03/17/united-states-and-ireland-celebrating-st-patricks-day-and-90-years-diplomacy
去年は北アイルランドの正副ファースト・ミニスターは、ストーモントの議会での福祉法案をめぐるすったもんだのために、ホワイトハウス訪問を取りやめていた。(そしてその福祉法案をめぐるシン・フェインのUターンが、昨年のストーモントでのドタバタの第一章にすぎなかったことは、そのときは知る由もなかった……)今年は正副ファースト・ミニスターとジョー・バイデン副大統領が会談中にオバマ大統領が顔を出し、「北アイルランド和平プロセス、がんぱってくださいねー」というやり取りをしたと報じられている(ちょっとよく意味がわからないんだけど、任期を終えようとしているオバマ大統領のこのレセプションは今回が最後。就任当初は母方の「アイルランドとのつながり」を強調し、「北アイルランド和平はすばらしい」という発言も多かったオバマさんだが……ということかな)。
オバマ大統領との面会について、写真がね、マーティン・マクギネスからは出てるんだけど、アーリーン・フォスターからは出てないんだよね。
Some pics from yesterday's engagements with @POTUS at the White House & Speaker's lunch on Capitol Hill. pic.twitter.com/2pslY6Kjf0
— Martin McGuinness (@M_McGuinness_SF) March 16, 2016
※フォスターのTwitterのキャプチャは:
http://f.hatena.ne.jp/nofrills/20160317235943
(画像サイズが900kb近くあるので、読み込みに時間がかかるかもしれません)
1つ前のエントリでも少し述べたとおり、米国とアイルランドは(「大英帝国」が支配していた時代においては「反英闘争」という文脈で結ばれてもいた)「特別な関係」にあり、「アイリッシュ・アメリカン」は米国社会の大きな一部である(なお、ナラティヴによっては、「アイリッシュ・アメリカン」にはケネディ家のような「アイリッシュ」だけでなく、セオドア・ロウズヴェルトのような「スコッチ・アイリッシュ」、つまり「アルスター・スコッツ」の人々を含む場合もあるようだ。私にはよくわからない)。アイルランド共和国は、いろいろあって軍事的には中立ということになっており、米国とは「軍事的同盟国としてのつながりで云々」という関係にはないということになっているが(シャロン空港を見ないことにすれば、の話だが)、米国と1対1での「特別な関係」の構築と維持・強化には非常に熱心である。
そんなことを書いてるといつまで経っても書き終わらないので先に行く。
現在、この「ホワイトハウス詣で」をしているのはアイルランド共和国と北アイルランドの政治トップをはじめとする政治家たちである。アイルランド共和国は、2月の総選挙の結果、どの党も、可能な範囲でのどの連立も過半数を取れていないという結果になり、実際、議会での首相指名選挙でも誰も過半数を取らず、今は首相がいない。現状、次が決まるまでは前職のエンダ・ケニーが……て、ウィキペディアン、自重wwwww
As caretaker Kenny went to Washington for Saint Patrick's Day. There he was reported as having told the Irish Embassy: "Bejaysus, I wish I didn't have to go back and face what I have to face".[112] He also met Barack Obama.[113]
https://en.wikipedia.org/wiki/Enda_Kenny#2016
北アイルランドの代表団は毎年3月にセント・パトリックス・デーで渡米するついでに米国内のいくつかの都市を訪問し、ビジネス・リーダーたちと会って「北アイルランドへの投資」を促進するための活動を行なっている。去年だったかおととしだったか、テレビの連続ドラマ、Game of Thrones(多くが北アイルランドで撮影されている)のイベント用のパネルとピーター・ロビンソンとマーティン・マクギネスという奇妙な写真が流れてきたことがあったが、ピーターが引退してアーリーン・フォスターがファースト・ミニスターになって初めての今年の「セント・パトリックス・デー外交」は、北アイルランドの分断のあちらとこちらから1人ずつ選出されている正副ファースト・ミニスターの「良好な関係」を過剰にアピールするような写真が流れてこない。もうそういう局面でもないのだろう。現在の北アイルランド自治議会・自治政府が2007年5月に復活してから9年だ。その後、自治議会がストップしかけたことは何度かあったが、その背景にあったのは正副ファーストミニスターの関係がよいとか悪いとかいった表面的なイメージ戦略でどうにかなるようなものではなかった。
ともあれ、北アイルランドご一行様は今回、最初にニューヨークに入ったようだ。
Leaving New York after good meetings with potential new investors.Now to Washington & more meetings inc White House. pic.twitter.com/9xlGoAbiwF
— Martin McGuinness (@M_McGuinness_SF) March 14, 2016
ここであのジョージ・ミッチェル元上院議員(「グッド・フライデー合意」と一般に呼ばれている1998年の和平合意の尽力者)との写真がある。ミッチェル元上院議員は、発足当初「やる気」を見せていたオバマ政権の「やる気見せ人事」の最たるポスト(中東特使)に指名されたが、何もできずに退任。その後、特にニュースになることはなかったが、お元気そうで何より。
With a dear friend to all of us, Senator George Mitchell in New York this morning. pic.twitter.com/MgEM4n4WKc
— Martin McGuinness (@M_McGuinness_SF) March 14, 2016
続いてワシントンDCで米議会(キャピトル・ヒル)と大統領(ホワイトハウス)での行事があったのだが、ここで、ええと、もう「北アイルランドの人」じゃなくなってるんだけど、北アイルランドと切っても切れないあの人(アイルランドの政治家としてこの「外交」に来ている)に、とんでもないハプニングが……
Gerry Adams denied entry to Irish gathering at the White House https://t.co/UdcLQF4RyF pic.twitter.com/hEFgJqSaxW
— Independent.ie (@Independent_ie) March 16, 2016
(・_・)
Gerry Adams couldn't get into the White House last night https://t.co/OhKUVG68cq
— TheJournal.ie (@thejournal_ie) March 16, 2016
(・_・)
"“Sinn Fein will not sit at the back of the bus for anyone" says Gerry Adams https://t.co/OyycuL18RL
— Belfast Telegraph (@BelTel) March 16, 2016
Gerry Adams invoking Rosa Parks is ... really something https://t.co/i86M8OAoj1 pic.twitter.com/JCPuQt1LhD
— Alex Burns (@alexburnsNYT) March 16, 2016
(・_・) タスケテ……イスカラオチソウ
US Secret Service expresses regret after Gerry Adams stopped from entering White House https://t.co/XPuCVFwKjr pic.twitter.com/liA4mRrcAd
— Irish Examiner (@irishexaminer) March 16, 2016
US Secret Service says sorry to Gerry Adams for security ‘error’ https://t.co/lf733eaaej pic.twitter.com/yxFEtA6cNe
— The Irish Times (@IrishTimes) March 16, 2016
Spokesperson for Gerry Adams says neither White House nor US Secret Service have personally apologised for incident. https://t.co/UxNVriSwd7
— TheJournal Politics (@TJ_Politics) March 16, 2016
VIDEO: Secret Service apologises to Gerry Adams https://t.co/WDy1NvuxbM
— BBC News NI (@BBCNewsNI) March 16, 2016
As he tried to check in to the event, he was told a security issue had arisen.
His party colleagues, Martin McGuinness and Mary-Lou McDonald had already entered the celebrations.
"He (Mr Adams) stood to one side and he waited around, he waited around and he waited for something like between 80 and 90 minutes," said BBC News NI economics editor, John Campbell, who is covering events in Washington.
"By that stage I think people inside the room texted him to say President Obama had started speaking and at that point Gerry Adams decided that, well, he was going to leave.
"He wasn't technically refused entry but he was left hanging around for the best part of an hour and a half and then decided it wasn't worth his while staying any more, so he left."
http://www.bbc.com/news/uk-northern-ireland-35824298
Gerry Adams barred from White House St Patrick's Day party https://t.co/QLNVf0qzGl pic.twitter.com/pxR7ZBdZKJ
— The Telegraph (@Telegraph) March 16, 2016
Gerry Adams defends comparison to civil rights icon Rosa Parks https://t.co/UqBkuPDlGI pic.twitter.com/CoMPxJd1Vm
— Irish Examiner (@irishexaminer) March 16, 2016
Maybe Rosa Parks had more in common with @GerryAdamsSF than the snivellers who are criticising him !!!! pic.twitter.com/VuptD0neux
— Martin McGuinness (@M_McGuinness_SF) March 17, 2016
(・_・) 大根船……じゃない、大混戦
On the day that's in it! God bless Rosa Parks. https://t.co/4XQi29k9Zq via @youtube
— Gerry Adams (@GerryAdamsSF) March 17, 2016
(・_・) ああ、これでこの人、また(アメリカでの)人気を上げた。
アイルランド基準で見てると、もうね、「(笑)」としかかかかかかもん・えべばでぃ(エディ・コクラン)
なお、「ジェリー・アダムズがホワイトハウスでセキュリティに止められて中に入れなかった」ことが報じられると、すぐに、「顔パスで入れると思って行ったら、招待状がないと入れませんと言われたんじゃないの?」などの指摘(?)があったが、実際には招待状はあったということでご本人がツイートしている。"Just saying" と言いながら。
My invite 2
— Gerry Adams (@GerryAdamsSF) March 16, 2016
The White House. Just saying. pic.twitter.com/0fGax1LMhB
Confirmation of my invite 2 White House Reception. From the White House. pic.twitter.com/lMTVXp05MP
— Gerry Adams (@GerryAdamsSF) March 16, 2016
Gerry Adams comments on White House controversy https://t.co/qGDobykgpw
— Sinn Féin (@sinnfeinireland) March 16, 2016
ホワイトハウスの後なのかな、議会のランチがあり、ここには(なぜか)リチャード・ギア(俳優)も来ていたというのだけど:
Obama gets all the silver foxes! @RichardGere66 Pearse Brosnan aka @GerryAdamsSF @M_McGuinness_SF @markmullan88 🇮🇪 pic.twitter.com/R6LRO0atEk
— Sinead Travers (@travers_sinead) March 15, 2016
(・_・) シニードさん、おだてすぎりょうたろう。(ピアース・ブロスナン云々については過去記事参照)
そして2枚目の写真で、オバマさんがいるのにジェリーさんがいないのがとても気になる。
いずれにせよ、なぜホワイトハウスがレセプションへの招待状を持っていたジェリー・アダムズを通さなかったのかはよくわからないが、何らかの人為的エラーだったのだろう……と思ってるところにNewsweekの記事があるようなので、あとで読んでみよう。というか、正直、こんなどうでもいい(←小声で)ことにかける時間があったら、シリアのことを書きたいんだ、ママン。。。
Why was Gerry Adams refused entry to Obama's St Patrick’s Day Party? https://t.co/wl7lK6W17F pic.twitter.com/G8Yci5tJRK
— Newsweek (@Newsweek) March 17, 2016
ちなみに、ジェリー・アダムズは北アイルランド紛争の時期には米国の渡航阻止リストに載っていたが、ビル・クリントンが1994年(だったと思う)に入国ヴィザを出したことが、ある一点の打開につながった。これはクリントンの回想録にもけっこう細かく書かれていたと思う。
北アイルランド紛争の終結後は、アダムズはホワイトハウスのセント・パトリックス・デーの行事に招かれるようになったが、今から10年前、2006年に空港でストップをかけられたことがある。
2006年03月18日 ひでー。ジェリー・アダムズは米国でまだ「テロリスト」扱いか。
http://nofrills.seesaa.net/article/30511385.html
今回のホワイトハウスでの一件のあとで、アダムズは次のように述べているとBBCが報告している。
"It is obvious that there remain some within the US administration who seek to treat Sinn Féin differently."
Mr Adams added that Sinn Féin representatives had been denied entry or had to go through extra searches when travelling to the USA, while the State Department had also initially refused to meet him last year until "protest from US political leaders".
http://www.bbc.com/news/uk-northern-ireland-35824298
と、こんなことでニヤニヤしたり椅子から落ちそうになったりしているので、もう首相じゃないけど首相が決まるまでは首相を続投しているエンダ・ケニーのことにまで目が行かない。
ともあれ、ハッピー・セント・パトリックス・デイ。
ご一行様はワシントンDCでの日程を終えて:
On Capitol Hill this morning with House Representatives from Friends of #Ireland,wonderful true & loyal friends. pic.twitter.com/AVXiamEwSA
— Martin McGuinness (@M_McGuinness_SF) March 16, 2016
続いて西海岸へ……:
4.30am,leaving Washington for San Francisco. Beannachtaí na Féíle Pádraíg-Happy St.Patrick's Day & good luck to @RuairiOgCdall in the Final.
— Martin McGuinness (@M_McGuinness_SF) March 17, 2016
First Minister meets with investors in Silicon Valley promoting Northern Ireland's growing technology sector. pic.twitter.com/wsaa1VIiHh
— NI Executive (@niexecutive) March 16, 2016
ベルファストでは……
Belfast City Hall will be lit up green this evening to celebrate #StPatricksDay! pic.twitter.com/33tAHmQWbX
— Visit Belfast (@VisitBelfast) March 17, 2016
※この記事は
2016年03月18日
にアップロードしました。
1年も経ったころには、書いた本人の記憶から消えているかもしれません。
- 【訃報】ボビー・ストーリー
- 【訃報】シェイマス・マロン
- 北アイルランド自治議会・政府(ストーモント)、3年ぶりに再起動
- 北アイルランド紛争の死者が1人、増えた。(デリーの暴動でジャーナリスト死亡)
- 今週(2019年3月3〜9日)の北アイルランドからのニュース (2): ブラディ..
- 今週(2019年3月3〜9日)の北アイルランドからのニュース (1): ディシデ..
- 「国家テロ」の真相に光は当てられるのか――パット・フィヌケン殺害事件に関し、英最..
- 北アイルランド、デリーで自動車爆弾が爆発した。The New IRAと見られる。..
- 「そしてわたしは何も言わなかった。この人にどう反応したらよいのかわからなかったか..
- 「新しくなったアイルランドへようこそ」(教皇のアイルランド訪問)