そういう非常に大きな目立った出来事を経て、「人間の盾」という言葉はニュースでよく見るものになったが、その意味合いというか「色」は(少なくとも英語圏で伝えられている事柄に関する限り)、「卑劣な独裁者やテロ組織が、自分たちの身を守るために、無辜の一般市民を自分たちの前に立たせるもの」という方向に傾いていき、ほどなく、民間人の標的に攻撃を加えた者たちがその攻撃を正当化する際の言い訳として通用するものとなっていった。「確かにわれわれは民家を攻撃した。しかし、その建物の陰から武装勢力が攻撃をしかけてきたので反撃しただけだ。武装勢力は卑劣にも、民家と中にいる一般市民を『人間の盾』として利用したのだ。亡くなった市民は気の毒だが、責められるべきは彼らを殺したわれわれではなく、彼らを殺させる状況を作った卑劣な武装勢力である」というストーリーは、今さら腹を立てるのもばかばかしいくらい、既に陳腐化している。
この異常性は、それについて発言すると「反米め!」などと殴りかかってこられるという地べたのリアリズムによって、より異常になっている。「人を殺すな、ましてや民間人を殺すな」と言うことが「反米」などの政治性で解釈されるというこれは、いったい何なのだろう。
……ということを、私は「人間の盾」という言葉を見るたびにもやもやと、0.5秒くらいの間に思うのだが、その「人間の盾」について、どうも状況が変わりつつあるのではないかということを、もはや「戦争」と呼ばれさえしないバラク・オバマの「テロとの戦い ver 2.0」に関連するニュースの中で、ときどき感じることがある。
つまりそれはもう、「無視されることが前提」になりつつあるのではないかと。(そして、それが本当に「もう」なのかどうか、私にはわからない。1945年3月、なぜ東京の下町はあれほどに燃やし尽くされたのか。)
Libya air strikes: 2 Serbs killed in US attack on IS https://t.co/JizrjkU69g 11月に拉致されたセルビア大使館員2人。米軍は「米空爆が原因の死かは不明」と。ラッカでのケイラ・ジーン・ミューラーさんと同じ
— nofrills/新着更新通知・RTのみ (@nofrills) February 20, 2016
米国のイスイス団(など西洋人を拉致する武装勢力)へのメッセージとしては「人間の盾にしたってムダだ、我々はそれでもお前らを攻撃する」ということだろう。「集団的自衛権」のときの「カイガイでホウジンがブソウセイリョクにラチされた場合」云々の御伽噺を信じてる人にとっては現実を見る機会では
— nofrills/新着更新通知・RTのみ (@nofrills) February 20, 2016
今頃になってシリア内戦について関心を持ったという人は、知りもしない話でしょうけど、これ↓とか、振り返っておくといいですよ。2012年12月。軍による人質救出作戦。これはまだ表ざたになった情報が多いほうかもしれない。そしてこれは別に「米軍だから」云々とかいう話でもない。
しばらくツイートが途絶えていたジャーナリストは、武装勢力に誘拐されていた(解放確認) #シリア
http://matome.naver.jp/odai/2135582673513306001
リビアでのセルビア大使館職員の死について、よりニュアンスがあるのは、当然のことだが、セルビア政府の反応だ。
US airstrikes kill Serbian embassy staffers held hostage by Isis in Libya https://t.co/9Zu5SZ8eT0 セルビア首相は「米軍は攻撃対象地点に外国人人質がいたと知らなかったようだ」とコメント
— nofrills/新着更新通知・RTのみ (@nofrills) February 20, 2016
セルビア治安当局は、大使館員2人を拉致したイスイス団と関連のある犯罪集団が2人の身代金を要求し、2人の身柄を拘束していた地点に米軍が爆撃と首相に伝えている。「一方で米政権はそこはイスイス団訓練キャンプだったと言っている。この情報は精査せねばならない」と首相。いずれにせよ痛ましい。
— nofrills/新着更新通知・RTのみ (@nofrills) February 20, 2016
身代金の要求は家族につきつけられた。セルビア政府は額は明らかにしていないが「支払うことが不可能な金額」…どこかで聞いた話ですね。そして、セルビアはNATO/米同盟国ではないし、「中東政策ガー」と批判できるようなポイントも特にないはず。https://t.co/BVPPuUZHmQ
— nofrills/新着更新通知・RTのみ (@nofrills) February 20, 2016
そもそも今のリビアにいるイスイス団のような武装勢力が、どこかの国の「中東政策」によって、その国の国籍を持つ人質への態度を変えるのかどうかもわからないが、セルビア大使館員を拉致していたのが犯罪者集団なら、そういう政治的主義主張とはあまり関係のない話だ(「ソマリアの海賊」に近いかも)
— nofrills/新着更新通知・RTのみ (@nofrills) February 20, 2016
セルビアは、旧ユーゴスラヴィアを事実上継承している(旧ユーゴの大使館の建物が、今はセルビアの大使館になっている、など)。チトーの時代の旧ユーゴは東西冷戦の時代において、「非同盟」を牽引した国だ。そのころに構築された国家間の関係は、基本的に、今も維持されている。その「非同盟」というのは、要は(欧州において)「NATOでもワルシャワ条約機構でもない」ということで、「親米」でも「親ソ」でもないということだったが、今も残る《意味》があるとすれば、それは「(明示的に)親米ではない」ということだろう。
そういう国の大使館員も、車列が襲われて拉致されてしまうのだ。
今回亡くなったセルビア大使館員のお二人は、大使一家を乗せた車の車列でチュニジアに向かっているときに後方から追突され、どのくらいやられているかを見るために運転手が外に出たとたんに武装した男たちに囲まれたという(不幸中の幸いで、大使一家は無事に国境を越えたそうだ)。
拉致犯が果たして、彼らを「セルビアの大使館の人たち」と認識していたかどうかもわかっていないかもしれない(単に「外国の大使館員」「ヨーロッパ人」として狙ったのかもしれない)。
気の毒でならない。
※この記事は
2016年02月21日
にアップロードしました。
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