結論だけ先に書くと、これは英語圏の「嘘ニュース」、「冗談ニュース」サイトの記事をご丁寧に日本語化した個人ブログである。大真面目に受け取るべき「ニュース」ではない。
しかしそれが「はてなブックマーク」で何百というブクマを集めているともいう。見てみると、「はてブ」のトップページに載っていた。300件をゆうに超えるブクマ数だ。
だが、当該ブログは、うちと同じで、「ブクマコメント一覧を非表示」にしている。それ自体は悪いことでも何でもないが(ちなみにうちがブコメ一覧を非表示にした経緯の説明はこちら。文句は読んでからどうぞ)、そのために、300以上をつけている「はてブ」のどのくらいが、この "ニュース" を真に受けているのかがわからない。ユーザーがつけたタグに「デマ」、「嘘ニュース」があるので、全部が「釣られて」いるわけではないということはわかるが、「航空」、「ニュース」など「まともなニュース」についてのタグと思われるものもあるので、真に受けている人や「マジか!」と言ってる人も一定数……というより相当数いることだろう。
当該のブログ(「はてなブログ」を利用している)のTweetボタンの上にある「ツイート一覧 (list)」から見ると、Twitterでは「これは本当なのだろうか」的なコメントがわっさり出てくる。そう書いている5秒を使って、元ネタのサイトがどういうところか見てみればいいんじゃないですかね。それすらしないのがソーシャル・メディアの流儀かもしれんけど。。。
というわけで、不要なことかもしれないが、一応、元ネタのサイトについて「解説」しておく。
なお、本稿を書くにあたり、当方は当該のブログ記事の本文は読んでいない。本文についての指摘ではないのでその必要性を認めない。
本題に入る前にTwitterでのいわゆる「拡散」の状況を簡単に見ておこう。以下、キャプチャ画像において、個人アカウントであることが明らかなものについては、分析に必要ではない情報(アカウント名、アバターなど)はマスクしてある。
Twitterで私がログインした状態で(=私の「フィルター・バブル」の中で)見つかる最初の投稿は、2ちゃんねるのまとめサイトか何かのアカウントのようだ(私はこのアカウントのことは今初めて知ったので、どういうアカウントなのかは把握していない)。そのツイートには18日の9時26分のタイムスタンプがあり、100件以上RTされている。そのあとは、個人アカウントのツイートが続いているが、この画面で見る限り、当該のブログ記事を「真に受けている(明示的に疑っていない)」状態だ(いくつかは単なる見出しのフィードのようなものもあるが)。

おひとり、早い段階で「嘘ニュース」と述べている方もいらして、それも2桁のRTがあるが:
ということで、これは嘘ニュースだそうです。まあそうだよね…https://t.co/PnRb23icoy
— Andy@音楽観察者 (@andymusicwatch) February 18, 2016
そのあとはまた「真に受けた」ツイートが続く。下記はマンガだかアニメだかのいわゆる「美少女」の顔をアバターに使っている方のアカウントで、95件もRTされている。(そういうアバターを使っている方々とは普段接点がないので全然ピンとこないのだが、こういう "ニュース" は「真に受け」られているのだろうか。あるいは「冗談として」受け取っているのだろうか。)

さらに「思考実験」的なものの素材にしているのかなあ、というものもあり、著述家さんのニュートラルな(というかこんな明らかな「ネタ」を「本当なのだろうか」と書いて「拡散」している段階で「ニュートラル」とは言えないという評価もあろうが、言語としては「ニュートラル」だ)ツイートもある。


「本当かな?」や「えっ?」、「???」のような「ニュートラル」なものは、ほかにもたくさんある。

こうして、「マレーシア航空MH370便のパイロットが2年ぶりに台湾で発見される」というヘッドラインが140字の情報空間でぐるぐる回っている。
先ほど私もこの件についてツイートしたのだが、そのあとも当該記事の「拡散」ないし「誤情報だとの指摘」もしくは「単なるフィード」は続いている。

あ、「日本で報道されているのだろうか」というのもあるが、日本以外のどこでも「報道」なんかされてませんよ、嘘なんだから。

ツイッターでの「拡散」の状況はこんな感じである。
さて、本題。
当該のブログ記事は、冒頭部分で「元記事」にリンクしている。
この「元記事」のURLは:
http://worldnewsdailyreport.com/taiwan-mh370-pilot-mysteriously-resurfaces-almost-2-years-after-his-flight-vanished-over-china-sea/comment-page-8/#comments
サイト名に含まれるWorld News Dailyというのは、かの「World Nuts Daily」ことWorldNetDailyに酷似しているのだが、World News Daily Reportはおそらく、そのWorldNetDaily的なもの(アメリカの右翼の陰謀論界隈)をおちょくることを意図したジョーク・サイトだろう。「おちょくる」というか、それをまねてみせることで「ジョーク」化する、「メタ」なんちゃら的なもののように私には見える。
「おそらく」というのは、「そうである」という説明はないからだ。DisclaimerやFAQのページは、私にはそうとしか読み取れないが。
これらのページは各自、ご自身でお読みいただきたい。私は解説しない。(どうしても解説が必要だというかたはメールフォームからご連絡いただければ数日内にお返事します。翻訳は1ワード10円の業界基準最低レート、報告書作成は時給計算でお受けします。)
Disclaimerのページ。こんなサイトを、あなたは「ニュースサイト」として信用しようというのですか、的な。
そしてこのページに、「こんなの誰も読まないよ」という体裁(家電製品の取説や保険の説明で小さな文字で最後のページにごちゃごちゃ書かれている文字列と同じような体裁)で、次のように明示されている。
Information contained in this World News Daily Report website is for information and entertainment purposes only.
こんなのを読みたくない人でも、このWorld News Daily Reportというサイトはどういうサイトなのかを調べるのは簡単だ。Googleの検索窓にタイプすればいい。私は親切なので、ここにリンクもはっておこう。
https://encrypted.google.com/search?q=world+news+daily#q=world+news+daily+report
そのキャプチャもはっておこう。

ここまでわかりやすく示されるものについて、それ以上調べられないということはないと思うので、ここまで。
World News Daily Reportなるサイトは、Twitterにもアカウントがあるが、まるで人気がない。RTされたりLikeされたりもほとんどしていないし、フォロワーは2桁にすぎない。おそらく「中の人」はいなくて、単にフィードをかましているだけだろうが、それでも2桁しかないというのは「ほとんど知られていない」状態といってよい。

Facebookにもページがあり、そちらは2万件以上のLikeを稼いでいる。私はFacebookは使っていないので、その件数が「(ニセモノの)ニュースサイト」としてどのくらいの感じなのか、感覚的に分からない部分はあるが、かなりにぎわっているという印象を受ける。記事はどれもこれも「オカルト」臭がしてかなわないので、早々に退散したが。(運営者は「ネタ」としてやってるにしても、訪問者には「マジ」な人が出てくるのが「オカルト」系の特徴だ。それを煽るために運営者はますます「妖気」の漂うような言葉遣いをし、写真の使い方をする。)
https://www.facebook.com/worldnewsdailyreport/
ちなみに、このWorld News Daily Reportという「嘘ニュースのサイト」は、評判が著しく悪い。何より「おもしろくない(笑えない)」からだ。
Real or Satireという「偽のニュースサイト、ジョークサイト」をリストアップしているサイトで、World News Daily Reportについて「サタイアですよ」と判定しているページのコメント欄(FB利用)より:
http://realorsatire.com/worldnewsdailyreport-com/
I don't get it. It's not funny, it's just annoying. Am I missing something? Are they just raking some ad revenue by fooling old people?
「私には全然ピンとこないんですが。笑えないし、単にイラっとくるだけなのですが、何か私に通じてないところがあるのでしょうか。年寄りをだまして、広告収入を集めようとしているだけのサイトでしょうか」
... yes, they make ad revenue by posting outrageous nonsense in hopes that very gullible people will share links to it that will go viral and drive traffic to their site. ...
「……その通りです。何でも信じてしまう人たちがリンクを拡散してくれ、バイラルして、サイト訪問者が激増するだろうと当て込んで、とんでもないナンセンスをネットにアップして、広告収入を得ているんです」
It's not supposed to be satire. It's supposed to be clickbait under the guise of satire, used to drive traffic to their site in order to generate ad revenue. There's nothing funny about it. It's just a way to trick gullible people into generating revenue for them.
「(このサイトの記事は)サタイアとして書かれているわけではありません。サタイアのふりをして、とにかく人にクリックさせようとしているだけのものです。広告収入を上げるためにサイトへのトラフィックを増やすことが目的です。何もおもしろいところなどありません。ただ単に、何でも鵜呑みにしてしまう人々を引っ掛けて、サイト運営者の収入源を稼いでもらおうとしているんです」
……と評価されるような性質のサイトだ。
ま、私はそういうものであっても「ジョーク・サイト」に入ると思うけれども。つまり「他人を笑わせ、楽しませる」ためのジョークではなく、「自分の嘘に釣られる他人を見て、自分が笑う」ためのジョーク。
そういうのを「社会実験」として正当化する人もいるだろうけれど、今回の「行方不明のマレーシア航空機のパイロットに関する、何ら根拠のないでっちあげ」のような極めて悪質なものは、どうあがいても正当化されないと思う。
そして、このサイトがそういう性質の「嘘情報」サイトであることを明示せずに「海外ニュースを翻訳しています」の体裁で拡散するブログなんてのは、(そのブログが広告収入を得ているかどうかなどにはかかわりなく)「拡散」すべきではない。
運営者が、このWorld News Daily Reportというサイトが「嘘情報」サイトであることに気づけないのだとしたら、「海外ニュースを翻訳しています」の体裁のブログなど、運営すべきではない。
ただ、当該のブログのサイドバーなどを見るに、「わかっててやってる」のだと私は思うが。もっとはっきりいえば「デマゴーグ」だと思う。
(「デマよばわりはいかがなものかと思います」的な感想文は私に送られても読みませんので、よろしくね)
「これは本当なのだろうか」なんて言ってる5秒を使って、英文のニュースソース調べろよ…… https://t.co/PyehQ8r8nC >マレーシア航空MH370便のパイロットが2年ぶりに台湾で発見される - 日本人のための海外記事 https://t.co/W7Rkdi9kGI
— nofrills/新着更新通知・RTのみ (@nofrills) February 19, 2016
しかも、その「日本人のための海外情報」なるブログ、過去記事(PCならサイドバー)見てみ。こんなだよ。(言うまでもない基本的なことを言っておくと、911は「核弾頭」関係ないし、米国とトルコはNATOで同盟国。) pic.twitter.com/pGrupFbKGb
— nofrills/新着更新通知・RTのみ (@nofrills) February 19, 2016
この「米国とトルコが対立している」という珍説、最近けっこうシャレにならないくらい出回ってますよね。誰がまいてるんだか……。軍事・安全保障・国際関係は、「ロシア製戦闘機」の存在すらないことになってたりする界隈が日本語圏にはあるので(リビアの騒乱のときにそういう界隈に接してビックリした。シリアのアサド政権側の空爆に関しても同じことが言えるのだけど、「ミグ」戦闘機が通じない人たちや、「空軍力は政権が独占している」ことの意味が全然わからない人たちが「反戦」を叫んでるのって、やばいよ)、一寸先は闇というか、すべて闇であり病みであり、深淵を覗き込む者は……なのだろうけど。
また火中の栗を拾ったし、またこれでフォロワーが減るだろう。
— nofrills/新着更新通知・RTのみ (@nofrills) February 19, 2016
「ネットなんてばかばかしいからやめよう」ということをしていると、日本語圏のネットにはこういう「トンデモ」しか残らなくなる。報道機関の記事のアーカイヴがないも同然のところで。(最も分かりやすいのはイスラエル関連の日本語圏情報の惨状) pic.twitter.com/Tx2lM3PbH3
— nofrills/新着更新通知・RTのみ (@nofrills) February 19, 2016
これ以上のことをTwitterで書く気はなかったのだが、ブログには書いておく。
最後のツイートに入れているキャプチャ画面に含まれている記事のソースを見てみたら、こうだった。

日本人のための海外記事 via kwout
この「原文」へのリンクのサイトを検索したら、Snopesのページが出てきて、そこに:
件の日本語ブログは、そういうところを回って記事をピックアップして日本語にしていると思われる。選んでいる記事は全然「普通の海外ニュース」などではないのだが、そうであるかのような見せ掛けはできているようだ。
特に英文を読まずに日本語の文だけを読む人は、多くの部分、「見た目、体裁」でごまかされるのだが、見た目など、HTML手打ちの時代ならいざ知らず、今はいくらでも「レンタル・ブログのテンプレ」でまかなえる(これは言語を問わず生じている現象で、「ニュースサイトっぽいレイアウト」を選べば、中身が中学生の作文でもニュースサイトとして通用してしまうというのは、英語圏でも先例がある)。そしてあのような「翻訳ブログ」に出てくる英文(ヘッドライン程度だが)を読むことはしても、ソースまでは気にしないという人(こういう人が、実際にものすごく多い)にとっては、当該の日本語ブログは何の問題もないように見えるだろう。
そして、「トルコと米国はNATOの同盟国(=めちゃくちゃ強固な同盟関係)」といった基本的な、というかABC、いろは相当の知識もあやふやな人を対象として、「米軍、トルコに報復攻撃」とかいう珍説をばらまいているのだ。
これは「勘違い」とか「うっかり未確認で鵜呑みにした」とかいったレベルの話ではない。
デマ元はこれ系↓↓だ。
The Russian regime's embassy in #Canada DARES to take a pic of an #Assad air strike 2show "Turkish artillery fire". pic.twitter.com/YbQZ0eHqua
— Julian Röpcke (@JulianRoepcke) February 16, 2016
火中の栗を拾いすぎているほど拾っているので、ここらへんで。さて、拾った焼き栗食べよ……
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Eh...
Touching how many people out there seem to think this is a real FT headline − https://t.co/SdLG5jjRbJ pic.twitter.com/RRTt9Upy5F
— jamescrabtree (@jamescrabtree) February 19, 2016
PRT、これが本物だと思われるのなら、「行方不明の旅客機のパイロットが全然航路と違うところで記憶喪失で見つかった」とかいう適当なでっちあげが本物だと思われてもしょうがないよね、っていう慰めの報酬(原題直訳で「微量の慰め」)か。
— nofrills/新着更新通知・RTのみ (@nofrills) February 19, 2016
※この記事は
2016年02月19日
にアップロードしました。
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