自民党の丸山和也参院議員は2月17日の参院憲法審査会で、アメリカのオバマ大統領を引き合いに「アメリカは黒人が大統領になっている。これは奴隷ですよ。建国当初の時代に、黒人・奴隷が大統領になるなんて考えもしない」と述べた。
http://www.huffingtonpost.jp/2016/02/17/maruyama-slip-of-tongue_n_9251242.html
(この人、弁護士だよね。自分の発した言葉がどう解釈されるかによって、物事の成り行きが変わるということは、知ってるはずだよね。)
そのアメリカでも唖然とするよりないことがあって、そして世界中で「ネタ」にされて、最終的には「世界各国・各地域のひみつへいき図鑑」ができてる。
ジェブ・ブッシュは「これがアメリカだ!」として拳銃の写真をツイートした。インターネットは反応した……
http://matome.naver.jp/odai/2145571759825672801
生産的で、とてもよいと思う。(え
なお、丸山議員の発言については、そのくだりを全文読んでも、唖然とするよりない。文脈云々の話ではない。これが、公人(国民の選挙で選ばれた人、つまり議員)として、議会で述べられた言葉であるということに、脳みそがつるつるになりそうな衝撃を受ける。そもそもこの話が出てきた「日本州」云々のたとえ話が、私には意味不明すぎる(これ、英訳しろといわれたら、まず「時制をどうすればいいのか」がわからないので発言主に明確化を求めることになると思う)。ただひとつはっきりわかるのは、この発言主が「人種」を基準に物事を語りたがる人物であるということ、つまり狭義の「人種主義者」であるということだ(そして、狭義の「人種主義者」は別に珍しくもない。自分の中にもその要素はある。つまりこの発言そのものからは何もわからないし、とことん意味不明だということだが)。
バカみたいな話だと思われるかもしれないかもしれませんが、例えば今、アメリカは黒人が大統領になっているんですよ。黒人の血を引くね。これは奴隷ですよ。はっきり言って。リンカーンが奴隷解放をやったと。でも、公民権も何もない。マーティン・ルーサー・キング(牧師)が出て、公民権運動の中で公民権が与えられた。でもですね、まさか、アメリカの建国、当初の時代に、黒人・奴隷がアメリカの大統領になるとは考えもしない。これだけのですね、ダイナミックの変革をしていく国なんです。
http://www.huffingtonpost.jp/2016/02/17/maruyama-slip-of-tongue_n_9251242.html
とかいうとまた「歴史的経緯としては間違ってないですよー」とか言い出す人に絡まれるんだろうな、と思うだけでげんなりする。
なので私はもう発言らしい発言はやめることにしたのだ。
あ、そういえば……
そういえば2月21日まで、ギャオで配信中だ。>映画『アメイジング・グレイス』 https://t.co/jvhYfobpUa 18世紀英国の奴隷貿易廃止運動のウィルバーフォースの伝記映画。小ピットをカンバーバッチが演じている。詳細: https://t.co/RghdWwXXHO
— nofrills/新着更新通知・RTのみ (@nofrills) February 18, 2016
あと、バラク・オバマという個人を離れても、「アメリカの黒人イコール奴隷」というのがいかに偏見であるか、というか端的に事実に照らして正しくない可能性が高いステレオタイプであるか、ということは、米アカデミー賞をとったあの映画で語られてますね。ええと……ぼんやりした邦題がやっぱり覚えられない。12 Years A Slaveですが。
それでも夜は明ける [DVD] ギャガ 2016-02-02 by G-Tools |
この邦題が覚えられないのは、「夜明け」ってのが「アメリカの黒人奴隷の解放」についてのステレオタイプの語りであるせいもあるかもしれない。この物語(実話だが)の主人公(実在の人物で、彼の手記に基づいてこの映画は作られているのだが)、ソロモン・ノーサップは、「奴隷」ではなく「フリーマン(自由人)」で、音楽家だった。その彼が、興行主に乗せられてよその「ステート」(米国の文脈では「州」と訳すのが慣例だが、あのころは事実上「国」に近い)でライヴ・ツアーを行い、その「ステート」では違法でないからということで誘拐されて「奴隷」として南部に売られてしまう。そしてそのまま12年間を、南部のプランテーションで奴隷として過ごすことになる。
最終的には、ソロモン・ノーサップは、白人の浮浪労務者(ブラッド・ピットが颯爽と登場!)との幸運なめぐり合わせをきっかけに、北部からの助けを得て、北部の妻子の元に戻る。ノーサップは、妻子と再会して開口一番、Sorry for my appearance. と言うほど、礼儀正しい人物として描かれていた(この箇所、映画館でみたときには字幕が間違っていた。「今頃現れてすまない」となっていたが、「こんなみっともない身なりですまない」だ)。南部の農園に颯爽と登場したブラッド・ピットが演じていた非定住者の大工より社会的には高い地位にいた「文化人」だ。
そういう立場にいた「黒人」の存在を前提にしない「黒人」のイメージを「アメリカの黒人」に押し付けることは、丸山議員のいう「ダイナミックの(原文ママ)変革をしていく国」に敬意を払う態度とは間逆である。つか、一言でいえば、スパイク・リーに説教されるべきだと思う。
バーダマン教授の下記の本は、リンカーンの奴隷解放令のあとで南部で状況が停滞した(むしろ逆戻りした)ことについて、非常に詳しく、また痛みが迫ってくるような本なので、ご一読をお勧めしたい。特に丸山議員に。またあの発言に共感しちゃった人たちに。
アメリカ黒人の歴史 (NHKブックス) ジェームス・M・バーダマン 森本 豊富 by G-Tools |
あと、アメリカ大陸を離れて欧州の話では下記の本。欧州サッカーを少しでも見てた人なら「わかる」はず。カランブーにこんな深い背景があったとは。
サッカーと人種差別 (文春新書) 陣野 俊史 by G-Tools |
(この本のAmazonのレビューは、書いてないことを勝手に読み取って勝手にキレている系のものもあるのでほどほどに参考にしてください)
※この記事は
2016年02月18日
にアップロードしました。
1年も経ったころには、書いた本人の記憶から消えているかもしれません。
【i dont think im a pacifist/words at warの最新記事】
- 「私が死ななければならないのなら、あなたは必ず生きなくてはならない」展(東京・六..
- アメリカのジャーナリストたちと一緒に、Twitterアカウントを凍結された件につ..
- パンデミック下の東京都、「コロナ疑い例」ではないかと疑った私の記録(検査はすぐに..
- 都教委のサイトと外務省のサイトで、イスラエルの首都がなぜか「エルサレム」というこ..
- ファルージャ戦の娯楽素材化に反対の意思を示す請願文・署名のご案内 #イラク戦争 ..
- アベノマスクが届いたので、糸をほどいて解体してみた。 #abenomask #a..
- 「漂白剤は飲んで効く奇跡の薬」と主張するアメリカのカルトまがいと、ドナルド・トラ..
- 「オーバーシュート overshoot」なる用語について(この用語で「爆発的な感..
- 学術的に確認はされていないことでも、報道はされていたということについてのメモ(新..
- 「難しいことはわからない私」でも、「言葉」を見る目があれば、誤情報から自分も家族..