「なぜ、イスラム教徒は、イスラム過激派のテロを非難しないのか」という問いは、なぜ「差別」なのか。(2014年12月)

「陰謀論」と、「陰謀」について。そして人が死傷させられていることへのシニシズムについて。(2014年11月)

◆知らない人に気軽に話しかけることのできる場で、知らない人から話しかけられたときに応答することをやめました。また、知らない人から話しかけられているかもしれない場所をチェックすることもやめました。あなたの主張は、私を巻き込まずに、あなたがやってください。

【お知らせ】本ブログは、はてなブックマークの「ブ コメ一覧」とやらについては、こういう経緯で非表示にしています。(こういうエントリをアップしてあってもなお「ブ コメ非表示」についてうるさいので、ちょい目立つようにしておきますが、当方のことは「揉め事」に巻き込まないでください。また、言うまでもないことですが、当方がブ コメ一覧を非表示に設定することは、あなたの言論の自由をおかすものではありません。)

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2016年02月07日

欧州の「報道の自由」はどうなっているのか、Index on Censorship/Mapping Media Freedomの報告

Index on Censorshipのニューズレター(メルマガ)を購読している。世界各地、特に欧州の「言論の自由」(含: 報道の自由)についてのさまざまな話題や最新ニュースを読みやすくまとめた内容で、基本的に週1度、金曜日の夜9時ごろに配信されてくる。以前、ここが主催する署名に応じたら自動的に送られてくるようになったもので、今、サイトをざっと見てもこのニューズレター、どうやったら配信してもらえるようになるのかがわからないが、英語圏の報道を見ていても気づかないようなトピックもちょこちょこと入っているので、「言論の自由」に関心がある人は購読すると便利かもしれない。(このニューズレターはウェブサイトの「今週の更新まとめ」のようなものなので、これは購読しなくても、サイトをこまめにチェックしていればよいのかもしれない。)

Index on Censorshipは英国の非営利団体(本部はロンドン)。設立は1972年、東西冷戦下の「鉄のカーテン」の向こう側の反体制派の声を公にすることが当時の目的だったが、現在は全世界的に「自由な言論」を求めていく活動を行っている。詳細はAboutのページを参照。もっと詳しいあれこれは、ウィキペディアに書かれている(いろいろと不十分な項目だが)。東西冷戦という構造での「西側」における「言論の自由」というタームが、実のところ何を《意味》していたかがよくわかると思う。(しかも直接的に「アメリカ目線」ではないということは、うちら日本で「『国際ニュース』といえばとりあえず何でもアメリカ目線」という前提が当たり前という環境の者には、別の光を与えてくれるものだ。)

さて、そのIndex on Censorship (以下 IoC) のニューズレターの2月5日号をさっき読んだ。"GROWING PRESSURE ON EUROPE'S JOURNALISTS AND MEDIA PLURALISM" (欧州のジャーナリストたちへの高まる圧力と、メディアの多様性)というタイトルだ。



ここで報告されているのは、Mapping Media Freedom(報道の自由をマッピングする)というプロジェクトでの最新の調査結果で、IoCの記事は下記URLで読める(HTML版のほか、PDF版も用意されている)。
https://mappingmediafreedom.org/plus/index.php/2016/02/03/pressure-on-media-professionals-and-pluralism-growing/

Mapping Media Freedomは、欧州委員会の資金を一部受けて行われているプロジェクトで、欧州連合 (EU) 加盟国・加盟候補国、およびその隣接国について、報道に携わる人々が直面している脅迫・妨害・制限を個別に特定する活動を行っている。これを運営しているのがIoCで、欧州ジャーナリスト連盟 (European Federation of Journalists) と国境なき記者団 (Reporters Without Borders) がパートナーとして協力している。詳細はAboutのページを参照。要するに、EUがEUとして公的に行っている「言論・報道の自由」(これが、「俺が何を言っても、お前が文句を言わないこと」ではなく、「俺が何を言っても、国家権力によって逮捕されたり弾圧されたり、国の法律で発言が封じられたりしないこと」の意味であるということは、何度でも確認しておく必要があるかもしれない)に関する全欧的な調査だ。今回の報告書での対象期間は2015年の第4四半期(10月1日〜12月31日)。全部で232件のインシデントの登録があったという。

この活動は、「全欧的」であるばかりでなく、「加盟候補国」と「隣接国」を含むため、トルコ(加盟候補国)やウクライナ(ポーランドなど複数の加盟国の隣接国)、ベラルーシ、ロシア(バルト三国の隣接国)なども入っている。ウェブサイトではGoogle Mapを使って、インタラクティヴに見せてくれる。



例えば、ベルギー、オランダ、ドイツあたりにズームインすると、下記のように表示される:



マップの左側に表示されているReportsの一覧は、今回の報告書の対象期間(2015年の第4四半期)に限らず、以前のものもある。

都市名の上にある数字をクリックするとさらにズームインして、どの町で何件のインシデントが報告されているかが一目でわかるようになっている(キャプチャはドイツのケルン付近)。



いずれの画面でも地図の左手に表示されているReportsの一覧からヘッドラインをクリックすると、詳細が表示されるようになっている。下記は、ドイツのケルン付近のマップを表示させたときに一覧に出ていた事例で、いつどこで何が起きたかが英語で手際よく説明され、さらに詳細は現地の報道記事(この場合はドイツ語)で確認するよう、リンクが提供されている。それぞれのインシデントについて、どのような性質のものか(「身体的暴力」、「脅迫」、「アクセスの妨害」など)、だれに対してのものか(「ジャーナリスト」、「一般に知られた人物」、「報道機関」など)といったことがタグ付けされている。



報告は「開かれた」形になっていて、アカウントを取得すれば編集にも参加できるようだ(私はアカウントは持っていないので詳細は未確認)。

英国の事例は、英語圏の報道や「市民的自由」に関する活動をしている団体や個人のサイトやTwitterを見ていれば自然に話が聞こえてくるが、欧州大陸(英語圏の外)だと、よほどの大きなことでないと何も知らずにいてしまう。そういう場合に、このサイトのように、「全部英語で(とりあえず概略だけでも)書いてあるサイト」があると、見える範囲が劇的に変わってくる。

さて、2015年第4四半期については、ロシアが17件、ベラルーシが19件、ウクライナが39件(ここまで「隣接国」)とトルコで22件(「加盟候補国」)、イタリアで24件(「加盟国」)がトップ5を構成しているというのが、IoCのニューズレターでも地図でわかりやすく訴求されていたが、報告書には「ケース・スタディ」としていくつかの注目すべき「言論の自由」に関する事例が手短に紹介されている。

まず、ポーランド国会が、あまり時間をかけずにメディアに関する法律を成立させたこと。
On 30 December 2015, the Polish parliament hurriedly passed a law on public service media governance, which gave the government exclusive powers to appoint and dismiss supervisory and management board members of public broadcasters. ...


ベルギーで、調査報道を行なっている雑誌の報道が、ワロニアの大物実業家の申し立てで差し止められたこと。(ワロニアも「ギャングランドの経済」だっていう話はありますよね……)
Belgium: A new investigative magazine in Belgium, Médor, was censored by the Belgian judiciary because of a request made by a Walloon businessman. In its first issue, Médor published a story about the financial structure of a pharmaceutical company that is largely supported by regional authorities. ...


トルコでは、VICEのジャーナリストたちが拘束されたという事案。これは世界的に「それはひどい」の声が上がっていた(けど、日本語圏には入ってきてないかも)。
Turkey: British journalists Philip Pendlebury and Jake Hanrahan along with their Iraqi translator Mohammed Ismael Rasool and driver were arrested on 27 August 2015 while reporting for Vice News in Diyarbakir in southeastern Turkey. ...


セルビアでは、……ははは、日本でもありそうなことだけど(こういう下品な発言をすることが「人間らしさを示している」とかばわれることもあるのが日本)、これはひどい。でも最後が「勧善懲悪」っぽい。
Serbia: The Serbian Defense Minister Bratislav Gasic made explicit sexist remarks towards Zlatija Labovic at a press conference at a defence industry factory. When walking into the conference, he said, “I like journalists who get down on their knees this easily” to Labovic, who was kneeling down while holding up her microphone. The incident was capture on video and seen widely in Serbia. Several journalists’ organisations condemned his remarks. He later issued a public apology for his “shameful and scandalous behaviour”. As a result, the minister was removed from his role.


そしてハンガリーでも、「東側」だった過去の教訓を忘れたんでしょうかという政府の動きが報告されている。
Hungary: The government proposed a plan that could force newspapers, television and radio stations as well as online publications to add agents from the constitutional protection office (national intelligence and counterintelligence) to their staffs. ...


「諜報機関の人間を、新聞やテレビ、ラジオ局、ネットメディアに入れる」などという発想は、「東側」的というより「アラブの独裁国家」的な響きすら……おっと、誰かきたようだ。



なお、IoCは同名のジャーナルを季刊で出していて、普段は高額なサブスクリプション・フィーを払わないとオンライン版は読めないのだが(大学とかが購読するタイプのジャーナル)、2月9日までの期間限定で最新号が無料公開されている。10年以上欧州がざわざわしている件についての特集で、かなり読み応えがあるのではないかと思う。あとでまとめて読む。読みたい。













※この記事は

2016年02月07日

にアップロードしました。
1年も経ったころには、書いた本人の記憶から消えているかもしれません。


posted by nofrills at 23:28 | TrackBack(1) | i dont think im a pacifist/words at war | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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Index on Censorshipのジャーナル、「タブー」特集号(今日まで無料開放)
Excerpt: 先日少し言及した通り、Index on Censorshipのジャーナルの最新号が、今日(2月9日)まで無料開放されている。アカデミックなジャーナルで、普段は「自分の通っている大学の図書館が購読してい..
Weblog: tnfuk [today's news from uk+]
Tracked: 2016-02-09 15:00

【2003年に翻訳した文章】The Nuclear Love Affair 核との火遊び
2003年8月14日、John Pilger|ジョン・ピルジャー

私が初めて広島を訪れたのは,原爆投下の22年後のことだった。街はすっかり再建され,ガラス張りの建築物や環状道路が作られていたが,爪痕を見つけることは難しくはなかった。爆弾が炸裂した地点から1マイルも離れていない河原では,泥の中に掘っ立て小屋が建てられ,生気のない人の影がごみの山をあさっていた。現在,こんな日本の姿を想像できる人はほとんどいないだろう。

彼らは生き残った人々だった。ほとんどが病気で貧しく職もなく,社会から追放されていた。「原子病」の恐怖はとても大きかったので,人々は名前を変え,多くは住居を変えた。病人たちは混雑した国立病院で治療を受けた。米国人が作って経営する近代的な原爆病院が松の木に囲まれ市街地を見下ろす場所にあったが,そこではわずかな患者を「研究」目的で受け入れるだけだった。

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