例えば、今では当たり前になっている「RT (retweet; リツイート)」は、2009年夏のイランの動乱のときは、まだなかった(ハッシュタグはもうあった)。この動乱のときの「現地からのツイート」や「Twitter上での全世界的な連帯・精神的支援の広がり」によって、Twitterは「IT系」、「ギーク」や「アーリー・アダプター」、「ネットのへヴィユーザー」を超え、「特にIT系に詳しいわけでもないジャーナリスト」のような人たちにも認知されていったのだが、あの動乱のときに「情報の流れを止めない」ために行なわれた「RTキャンペーン」(#PlzRT というハッシュタグのついた本文を手動でコピペし、冒頭に RT @username: の形で元の発言者名を書き加えてツイートする、という形で行なわれた)や、外部サイト(Twitpic.com, ImageShackなど)に写真をアップしてURLを貼るというユーザーの自主的な使い方は、Twitterの機能を大きく変化させた。
From September through October 2010, the company began rolling out "New Twitter", an entirely revamped edition of twitter.com. Changes included the ability to see pictures and videos without leaving Twitter itself by clicking on individual tweets which contain links to images and clips from a variety of supported websites including YouTube and Flickr, and a complete overhaul of the interface...
https://en.wikipedia.org/wiki/Twitter
ツイート内にURLを貼るとやたらと文字数が食われてしまうので、ユーザーの多くは外部の短縮URL(bit.ly. is.gd, tinyurlなど)を利用していたのだが(2011年の「アラブの春」のときもそうだった)、Twitterはそれも自分たちのデフォルトの機能として組み込むようになった。
Since June 2011, Twitter has used its own t.co domain for automatic shortening of all URLs posted on its website, making other link shorteners superfluous for staying within the 140 character limit.
https://en.wikipedia.org/wiki/Twitter
そんなふうに、今私たちが普通に使っている機能の多くが、Twitterが始まってからユーザーを増やし、広く使われるようになった過程で、ユーザーがどのように使っているかということに基づいて実装されてきたものだ。
今回の「上限を140字から、10,000字に引き上げ」というのも、それと同じことだ。
Twitter, 「投稿文字数の上限140字」やめるってよ #Twitter10k
http://matome.naver.jp/odai/2145208581742082101
この方針が最初に公にされたのは、日本時間で6日午前1時ごろにフィードされたRe/Codeというオンライン媒体の(やけにとっちらかっていて読みづらい)記事(つまり「急いで出した記事」と思われるもの)のようだが、その記事が出て「うわさ」が広まったころに@Jack (Twitter CEO) が、長文のテキストの画像を使い、「140字上限の撤廃」の意義をアピールしつつ、趣旨を説明するツイートを投稿した。
@Jackのその投稿の文面は、上記ページで文字(テキスト)起こしし、対訳をつける形式で日本語化したので、上記ページでごらんいただきたい……と、リンクしたところでほとんど誰もリンク先に飛んで記事を読んだりしないという、完全に社会に普及したあとのインターネットの特性が、スマフォの時代になってますます苛烈化し、そういう環境でのネットユーザーの行動パターンの変化が、今回のTwitterの方針転換を促したのだが(「ふつう、リンクなんかクリックしないっしょ」というのが《常識》の人々を、Twitterは取り込まねばならない。純粋に、ビジネス上の必要から)。
ジャックの書いてることを読む限り、今回のことは「上限の引き上げ」というより、「上限の(限りなく『撤廃』に近い)緩和」の意図での方針の転換だ。
しかし、人々の間での話題としては、「上限の緩和」という受け取られ方はせず、「上限の引き上げ」としてぐるぐる回っている。それも「極端すぎる引き上げ」として。
「10,000字」なんて普通に書ける分量ではないのだから、「非現実的」な数値、つまり「理論上」の数値で、「事実上無制限」の意味だとわかりそうなものだという想定が「ギーク」や「理系」の人たちにはあるかもしれないが、そういう想定は必ずしも通じない。書いてあることが具体的でわかりやすい限りは、それをわざわざ「解釈」しようとはしない。「上限10,000字」と言われれば「めっちゃ長い文章!」ということは誰にでもわかる。そして、「そんな長い文章がだらだらと流れてくるようなTwitterになるのはいやだ!」という反応が出る。
メディアは、人々はそういう反応を示すものだということを知っているから、そういう反応をする人々の関心を引くために、「上限10,000字でめっちゃ長い文章の投稿が可能に!」といった方向付けをして情報を拡散する。そして人々の間には「140字のはずが、10,000字かよ!」という極端な印象論だけがふわふわと浮遊する。
こういうところ、Twitterは本当に下手だと思う。
「140字制限を撤廃」ではなく、「10,000字に拡大」という表現を、Twitterの外の人たち(メディアの記者など)がするがままにしている。
自分たちでがっつりしたプレスリリースを出し、記者にブリーフィングを行なって、「例えば、ようやくまとめた文が141字だった……というときにも、そのまま投稿できます」などという方向付けをすればいいのに、そうせずに、理論上の上限値が拡散するままにしてしまう。
実際、「10,000字」というのはインパクト強すぎて、「それではまるで電話帳だ」とか「ちょっとした小説だ」とかいう話になってしまう。「Twitterをやってると、誰か知らない人のそんな超大作を読まされるのか」と思わせてしまえば、ユーザーを遠ざけることになる。
「10,000字」というのはもちろん理論的な値で、実際に使われることは想定していない(のに「10k」という数字をみすみす一人歩きさせてる。このあたりの「IT系」の感覚の鈍さってのは、どうにかしたほうがいいと思う)。それでも、実際の文字数が少し上がるだけで風景は変わると思う。
— nofrills/新着更新通知・RTのみ (@nofrills) January 6, 2016
で、今回そのような「投稿文字数上限の、事実上の撤廃」をしたTwitterだが、数年前に、当時Twitterのサード・パーティのクライアント(アプリ)のトップだったTweetdeckを買収したときに、Twitterが一番最初にやったことといえば、「140字を超えた投稿でもツイートできる」機能の廃止だった。
When they bought Tweetdeck the 1st thing they did was to get rid of one of the neatest features. Remember deck.ly? https://t.co/ZILjFRjJm6
— nofrills/新着更新通知・RTのみ (@nofrills) January 6, 2016
If you haven't heard about it, click on the deck.ly link in this https://t.co/ZILjFRjJm6 and you'll see. #Twitter10k pic.twitter.com/ab0rsiWtzP
— nofrills/新着更新通知・RTのみ (@nofrills) January 6, 2016
このdeck.lyという短縮URLが廃止されて、当時(「アラブの春」の時期であるが)のdeck.lyを使ったツイートが完全には読めなくなってしまったのだが、いまさら、deck.ly のようなものを導入するのなら、なぜあのとき、deck.ly をkillしてしまったのかと思う。
そういう試行錯誤も含めて、Twitterなんだろう。
TwitterはFBとは違い、アメリカの「自由」をガチで信奉し、守ろうという姿勢がはっきりしている。ウィキリークスのジュリアン・アサンジ周辺がわやくちゃになっていたころ、ウィキリークスの関係者のソーシャル・メディアの詳細を渡せと、いくつかのSNSサービスが米当局に要請されたとき、Twitterは本気でがんばって、抵抗していた(FBはホイホイと渡していたし、Googleも踏ん張りきっていなかったはずだ)。
FBのページのレイアウトのごちゃごちゃ感・てんこもり感(楽天市場の各ショップに通じるものがある)は、Twitterのミニマリズムとは対極的だし、プライバシー・ポリシーやデフォルトの設定の頻繁でひそやかな変更など、運営の姿勢も、FBはTwitterとは全然違う。一人のネットユーザーとしては、どこにどういうふうにどんな情報が流されるかわかったもんじゃないFBは、かなり警戒感を抱かせるものだと思う。
しかし、(投資家向けの広報の役割も果たしてくれる)メディアは、最近は、FBのやることなら何でもヨイショし、FBについてはやたらと景気のよい見出しで記事をたっぷり出してくれるが、Twitterについては「塩対応」としか言いようのない態度を示すようになってきている。
#Twitter10k の件、BBCのティーンエイジャー向けニュースの記事にはなってるのに https://t.co/W340jjgLxB 普通にBBC Newsのページには記事がなさそうですね。 https://t.co/3T7h6Lm1kw
— nofrills/新着更新通知・RTのみ (@nofrills) January 6, 2016
Twitterはここ1年半くらいの間、目に見えて、メディアに冷遇されてますよね。FBは何をしてもヨイショされるのに、Twitterはニュースになるのは「暴言」とか「イスイス団が利用」とかいった悪い話ばかりという印象。経済ニュースとしてもろくな話がない。
— nofrills/新着更新通知・RTのみ (@nofrills) January 6, 2016
2009年、イランの動乱のころに「米国務省のキモ入り」の扱いだったTwitterだが(当時のNewsweekなどを見てみるといいと思う)、今はもう、全然違う。
そういう中での「140字制限の撤廃/1万字投稿可能」だ。
※この記事は
2016年01月07日
にアップロードしました。
1年も経ったころには、書いた本人の記憶から消えているかもしれません。
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