「なぜ、イスラム教徒は、イスラム過激派のテロを非難しないのか」という問いは、なぜ「差別」なのか。(2014年12月)

「陰謀論」と、「陰謀」について。そして人が死傷させられていることへのシニシズムについて。(2014年11月)

◆知らない人に気軽に話しかけることのできる場で、知らない人から話しかけられたときに応答することをやめました。また、知らない人から話しかけられているかもしれない場所をチェックすることもやめました。あなたの主張は、私を巻き込まずに、あなたがやってください。

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2015年12月25日

2015年の英国の「レッド・スケア」(ジェレミー・コービンに対する言論的攻撃)

今書いても中途半端になるかもしれないが、覚え書きとして書いておく。ジェレミー・コービン英労働党党首への過剰な批判について(個人的には、英主流メディアのやっていることは「悪魔化」の域に達する寸前だと思う)。

コービンに対する激烈な批判と、「コービンはダメ、とにかくダメ」という宣伝(スピン)を最も激しく行なっているのは、これまでに何度か書いた通り、労働党の中の反コービンの人たち、ざっくり言えば「ブレアライト」の残党(←あえて使う)だ。トニー・ブレア本人も出てきているし、ブレアの盟友的な存在である英政界の暗黒卿も含め、労働党でダークサイドに堕ちた者たちが勢ぞろいして、労働党の安全区で行なわれた、現職の死去にともなう補欠選挙で、労働党が議席を維持したことを「ショック」と語るというような、ばかばかしい茶番劇が繰り広げられている。これ、どのくらいばかばかしいかというと、トップアイドルの男性と「できちゃった婚」した女優の子供が実はその男性の子ではない(DNA鑑定で断定)ということでいろいろこじれて裁判沙汰になったことについて、女優の所属事務所の力が大きいのでテレビでは芸能人たちが「子供がかわいそう」という名目でその女優をかばい、元トップアイドルの男性を「ひどい男だ」とくさすのと同じくらい、ばかばかしい話である。

労働党の内部がこのように二分されている状態は、保守党にとってはかなり望ましいことだ。選挙のときに、多くの有権者が「労働党はあんな状態なので、選択肢にならない」と思ってくれればくれるほど、保守党には有利である。だから、「草の根」の保守党の活動家は、Twitterなど私的な発言の場で「コービン党首を歓迎します!」というようなことを言っている。デイヴィッド・モイーズがMUFCの監督をしてたときにLFCのサポの人たちが「サッカーの天才!」と讃えていたのと同じ構造だ。

しかし、だからといって、「保守党側がコービン批判をしていない」わけではない。

むしろ、労働党内のそれが「陰湿極まりない政治闘争」である一方で、保守党筋の批判はガチで「思想」的で、ものすごく危険な感じがする。

2015年5月の総選挙の前の1年ほどの間、保守党筋は労働党に対し、あまりに古典的すぎる「レッド・スケア」的な態度でのメディア・キャンペーンを継続的に行なった。エド・ミリバンドの名前(Ed)をもじったRed Edというレッテル貼りを行ない、不細工に写った写真をしつこく繰り返して印刷しては「外見が悪い」とからかい、「労働者労働者と言っているが実はポッシュ」とかいった言いがかりをつけた。

ミリバンド家はポッシュな家ではない。デイヴィッド(元英外相)とエドのお父さんのラルフは、第二次大戦時に大陸から逃げてきた難民だ。英国に来たあと、海軍に入ってナチス・ドイツと戦った「愛国者」のラルフを、デイリー・メイル(保守党支持)は「英国を憎悪した男」と誹謗中傷することまでした。






第二次大戦のころ、デイリー・メイルはファシズムを支持していた。アドルフ・ヒトラーが政権を取ってから開戦するまでの時期には、ヒトラーを礼賛する論説文を社主自らが書いていたりした。そのことについて、修正主義者は「ナチスの経済政策は悪くはなかったから、それを支持したのだ」、「反ユダヤ主義は知られていなかった」などと言うかもしれないが、実際にはメイルは反ユダヤ主義の論陣を張っていたわけで(証拠が残っている)、あの時代、あの戦争での「人種主義」という要素は無視できるものではない(でも無視、あるいは限りなく軽視しようとするのがプロパガンダ)。




それと同様に無視できないのが、「反共産主義(反共主義)」というアイデオロジー(イデオロギー、政治思想)だ。ナチス・ドイツでは「反ユダヤ主義」と「反共産主義」が渾然一体となって、「ソヴィエトの共産主義者の革命の首謀者は、世界を支配しようと企てるユダヤ人だ」といった、いわゆる「ユダヤ陰謀論」が、「あの時代」において極めて重要な役割を果たした。

日本で中学生、高校生のころに「ニューウェーブ」と呼ばれた音楽を通じて、「イギリス人」の発言や、ものの考え方を知るようになった私は、「自分が雑誌などを介して発言を知っているイギリス人は、誰一人として、マーガレット・サッチャーには投票していない」ということになっていた。(実際に英国で接点があるのも、保守党に極めて批判的な意見を抱いていたり、同世代ではテレビに保守党の政治家が出てくるとブーイングしたりするような人たちばかりだった。)

なので「マッカーシズム」、「レッド・パージ(赤狩り)」と呼ばれるような行動につながった思想が政治の主流になったことは、アメリカ特有の事情ゆえだと思っていた。「非○○」と「反○○」が等価で交換可能なのはアメリカくらいのもんだ、と。
https://en.wikipedia.org/wiki/House_Un-American_Activities_Committee

しかしそれは自分では十分に広い範囲を見ていなかったので、自分は知らなかった、というだけの話で、実際には、英国にもあのような「反共主義」はあった。

そしてそれが、なぜか、「冷戦」が終わって25年になろうかという今頃になって、見える範囲に出てきているのだ。

当時と比べれば私に見える範囲が100倍にも200倍にもなっているから(インターネットはそういうところを根本的に変えた。行政機関が公文書をちゃんと保管してまともに公開し、報道機関が報道記事をアーカイヴするという発想すら欠落している日本語圏で閉じていては、インターネットによるそういうことの変化はほとんど感じられないと思うが)、「見える範囲に出てきている」というのは、「当時は見えなかった範囲が今見えている」ということに過ぎないのかもしれない。

それでも、2015年にこんな発言が出てくること自体、特筆に価すると思う。






“In all honesty and with Christian charity, I urge Labour's moderate majority, however daunting the task, to resolve for 2016 to purge itself of this pestilence,” he wrote in the Yorkshire Post newspaper.

“The truth is that Corbyn and Co are Marxist. While they pretend to represent the working man's best interests, they want to keep him under their thumb.

“Nothing is too good for the workers who are in charge. The rest can do as they are told whether by the ruling elite or by unions such as Len McCluskey's Unite.

“Corbyn has a contempt for the facts of economics life. His anti-austerity policy regards conventional economics of paying your way with derision. He sees nothing wrong in borrowing up to the gills and leaving our grandchildren to foot the bill with a debauched currency while we pay higher taxes now.”

http://www.independent.co.uk/news/uk/politics/margaret-thatchers-former-head-of-press-bernard-ingham-says-jeremy-corbyn-is-a-plague-epidemic-and-a6784291.html



バーナード・インガムは興味深い人物だ。一言で言えば「ナベツネ」的な。
https://en.wikiquote.org/wiki/Bernard_Ingham
Sir Bernard Ingham (born June 21, 1932) is a British journalist best known for his work as press secretary to Margaret Thatcher during her time as Prime Minister. Ingham, born in Yorkshire, was originally a member of the Labour Party and stood as a Labour candidate, but then joined the civil service. He worked for Tony Benn in the Department of Energy before being recruited by Mrs Thatcher.


https://en.wikipedia.org/wiki/Bernard_Ingham
Sir Bernard Ingham (born 21 June 1932) is a British journalist and former civil servant who is best known as Margaret Thatcher's chief press secretary while she was Prime Minister of the United Kingdom from 1979 to 1990. He was knighted in Mrs Thatcher's 1990 resignation honours list.

Despite never having attended university himself Ingham lectured in public relations at The University of Middlesex. He was also secretary to Supporters of Nuclear Energy (SONE)(1998-2007), a group of individuals who seek to promote Nuclear Power in the United Kingdom. and he holds the position of Vice President of Country Guardian, an anti-wind energy campaign group. Ingham is also a regular panellist on BBC current affairs programme Dateline London.







牛津のあねご…… (^^;)

問題は、そのような「恐竜」(日本語では「化石」という表現のほうがしっくりくる)の発言が、なぜこうして大手メディアに取り上げられているのか、ということだ。

ほっておけばいい(放置しておけばいい)のに。

……というところで、1つ前に書いた「ドナルド・トランプの発言はなぜあんなにこぞって取り上げられているのか」という問題ともつながってくる。

英国では、2015年の総選挙(に至る選挙戦)の前と後とでは、言論のムードががらっと変わったと思う。既に2014年9月のスコットランド独立可否レファレンダムのときにあからさまにおかしな空気があったが、「あれかこれか」で二分して、自分と異なる意見を持つ人々を「敵」認定するということがあたりまえになっているように見える。

そして、2005年に保守党の党首になったときは「開明的」、「リベラル」、「先進的」なイメージで売っていたデイヴィッド・キャメロンが、2015年の総選挙でバカ勝ちしたあとは明確に、「過激」で「分断的」な、「極右のような」言葉遣いをよくするようになっている。そのほうが、きっと今は「受ける」のだ。UKIPのナイジェル・ファラージが受けたのはそういう理由だから、そういう言葉遣いをすれば保守党の党首も受ける、という分析があったのだろう。

そして「分断的」な言葉の魔力というものは、英保守党は、よく知っているはずだ

今回、ダメ押しのようにしてクリスマス休暇直前に、「サッチャー時代の化石」による、笑ってしまうほど「分断的」な言葉を使った地元の地域新聞(ヨークシャー・ポスト)に書いた文章が、通信社(Press Association)全国紙のインディペンデントに取り上げられたのは、どういうことなのかな、と思う。

インガムの「奴は疫病だ、パージせよ」発言は、最初は「時代錯誤だ」と思ったのだけど、実際には2015年(というか21世紀初頭)のコンテンポラリーな言葉だよね。今の時代、「時代錯誤」呼ばわりされるのは、「多文化主義」とか「男女同権」とかいった言葉のほうだ。

というわけで、なんか、いろんなところで、「分断的」な言葉に頼ってるなあと思うことが多くなった。

カルトめいた「あれかこれか」の二元論は、人から思考を奪う。思考するという習慣を奪う。きぃきぃ言ってるだけで何も考えてないような言説を見てると、こっちも思考するということを忘れてしまう(しなくなってしまう)。

ネット上の断片じゃなくて、まともな本を読まなければ。まともな本を。



実はこのエントリ、もっと簡単に、インディの記事を参照しただけで書こうとしていた。しかし、書こうとしたときにバーナード・インガムの名前を思い出せなくて、「コービンをパージするとか言ってたあの前時代の遺物、誰だっけ……」というわけで「コービン パージ」でGoogle検索をしてみたら、めっちゃくちゃ恐ろしい結果になったので(コービンの「悪魔化」がそこにあった、というか、英メディアに内在する反共主義が露呈していた)、少し長めに書いてみた。

「コービン パージ」の検索結果:
https://encrypted.google.com/search?q=corbyn+purge


※ここでスペクテイターとかテレグラフとかが嬉々として使っているpurgeは「粛清」の意味。コービンはスターリンのようなことをするぞと恐怖を煽っているわけだ。

これ、バックが財界と「原子力村」なので(ジェレミー・コービンは反核団体CNDの幹部)、いつまでもしつっこくねちねちとやると思う。英国の「原子力村」は本当にスゴいですからね。

※この記事は

2015年12月25日

にアップロードしました。
1年も経ったころには、書いた本人の記憶から消えているかもしれません。


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【2003年に翻訳した文章】The Nuclear Love Affair 核との火遊び
2003年8月14日、John Pilger|ジョン・ピルジャー

私が初めて広島を訪れたのは,原爆投下の22年後のことだった。街はすっかり再建され,ガラス張りの建築物や環状道路が作られていたが,爪痕を見つけることは難しくはなかった。爆弾が炸裂した地点から1マイルも離れていない河原では,泥の中に掘っ立て小屋が建てられ,生気のない人の影がごみの山をあさっていた。現在,こんな日本の姿を想像できる人はほとんどいないだろう。

彼らは生き残った人々だった。ほとんどが病気で貧しく職もなく,社会から追放されていた。「原子病」の恐怖はとても大きかったので,人々は名前を変え,多くは住居を変えた。病人たちは混雑した国立病院で治療を受けた。米国人が作って経営する近代的な原爆病院が松の木に囲まれ市街地を見下ろす場所にあったが,そこではわずかな患者を「研究」目的で受け入れるだけだった。

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