話は長くなるが、この図(←)のようなアカウントに遭遇した、という件について。
パリの同時多発テロのあと、Twitterは非常に大変な混乱の場となっている。
いや、攻撃進行中の不確実情報や流言飛語(「レアールで発砲があった」など)の《拡散》の舞台となったこととか、ドイツでのサッカーの試合が中止になった際の当局側のぐだぐだに翻弄された大手報道機関のフィードが《拡散》を重ねつつますます曖昧化していく場となったというようなことを言っているのではない。
「情報戦」としか言いようのないことが進行中だ、ということである。
例えば、フランスがラッカに対して激しい空爆を加えたとき(日本時間では月曜日の朝)、RaqqaというワードがTrendしていた。そこを(私がログインした状態で、つまり私の「フィルター・バブル」内で確認できる範囲で)閲覧したときに画面を埋めていたのが、「民間人被害」の写真だった。すでに日が落ちた街路で、瓦礫の山となった建物のところでオレンジ色の炎が燃えていて、平服の男の人たちが駆け出していく、というような連続写真だ。ツイート本文として「一般市民の家に対する誤爆」であることを示す情報が英語で書きそえられ、「戦争反対」系の人たちというか、英国のStop the War Coalition系の人たち(つまり、アサド政権の自国民の殺戮については何も問わない「反戦」活動家たち。日本にもいっぱいいますね。2012年の段階でFSAのことを「アルカイダの味方」と呼んでいたような人たち)の間でもかなり拡散されていたようだった(あの人たちの《拡散》の威力はやはりすごい)。
そして、検索結果での画面には、その「誤爆」の光景の写真とは別に、非常に厳しい写真がどかどかと流されていた。個人的に、そういう写真の許容量を超えているので、視界に入っただけでブラウザのタブを閉じたのだが、瓦礫の中の死体の写真だった。それも、正視にたえないような。「血を流して倒れている大人の男性」と即座にわかるような写真もあった。「坊主でヒゲ」という風貌だったが年齢などはわからない。ヒゲが黒かったから高齢者ではないだろう。
それらの写真は昼間、明るいところで撮影されたものだった。ひょっとしたら明るい時間帯に行なわれた攻撃が民家を直撃した例があったのかもしれない。そもそも今回のフランスの攻撃だとは言っていなかった写真が、回覧されているうちに「今回のフランスの攻撃で」ということになっていたのかもしれない。しかし、この状況は……
「ラッカ」っていうキャプションつけて非常に厳しい写真を流してるの、誰だ。今回のフランスの爆撃開始された時点で既に現地夜だよね。なんで昼間の写真が「子供を守れ」的なスローガンなどをつけて流されてるの。とにかく情報戦がひどいので乗らないように気をつけてください。特に「反戦」の方々。
— nofrills/新着更新通知・RTのみ (@nofrills) November 15, 2015
人々が感情が揺れているとき、ショック状態にあるときに、悲惨な写真を流すということは、最大限に増幅された感情的な反応を引き起こす目的でよく行なわれる。
このひどい写真を目にしたとき、私はいろいろ確認しようという気持ちの余裕もなく、すぐにタブを閉じた。
タブを閉じた数時間後に再度Raqqaでの検索画面を見たときには、当該の写真は見当たらなくなっていた。投稿主がツイートを削除したか、アカウントを削除したか、あるいはTwitterのほうで「残酷な写真」を非表示にしたか……。それとも、アカウントがサスペンド(凍結)されたのかもしれない。何があったのか、私には知るすべはない。
けれど、Twitterがまたもや「ISISの情報戦の場」になっていたことは確実だと思った。
ISISは既に、Twitterなどソーシャル・メディアのアカウントを使えなくされていて、個々の通信は暗号化されたチャット・アプリを使っているという。掲示板の類はかなり地下にもぐっている(ダークウェブに移行している)ともいう。
11ヶ月前にはすでにこんな一覧を作っていたそうだ。「推奨されるアプリ、推奨されないアプリ」を構成員に徹底していたのだろう。(これらのテクノロジーは、うちら一般人が友人とおしゃべりをしたり、家族に「帰りにお豆腐買ってきて」と連絡したりするのにも用いられているが、ISISのリクルーターが獲得しようと狙いを定めたターゲットを「洗脳」するときのツールとしても用いられている。)
11 month old ISIS scorecard, ranking encrypted communications app. Surprisingly accurate. https://t.co/hvZ8cfUV9V pic.twitter.com/aN6M9Hlqyi
— Christopher Soghoian (@csoghoian) November 18, 2015
そんな中で、パリの事件後には一気に「ISISのツイートが増えた」ようだ。SITEのリタさんのツイートはこう。(ほんとはISIS Media Blackoutのため画像非表示にしたいのですが、そうすると意味がわからなくなってしまうので、ここはリタさんのツイートをそのまま、画像を非表示にしないで貼り付けます。)
#ISIS floods #Twitter wt celebratory tweets on #ParisAttacks & threats for more
Twitter must stop serving #ISIS now! pic.twitter.com/AuYHHi38Pf
— Rita Katz (@Rita_Katz) November 14, 2015
その後、TwitterがISISのプロパガンダをばらまくアカウントを停止するよう対応したかもしれないし、アノニマスがそれらのアカウントを閉じさせるようアクションをとったのかもしれない。それでも、ISISのTwitterでのプロパガンダは止まっていない。そもそも完全に止めることなど不可能だが。
サンドニでの警察の作戦が行なわれているときにハッシュタグの画面を見ていたら、カラシニコフがフィーチャーされたアバターが表示された。「なんとかかんとかアル=中東の国名」という名前だ(その名前自体は、ISISの文脈がなければ何でもない名前である)。すぐ閉じたので何も控えていないが、英語で、サンドニでのフランス警察の作戦を冷笑し(「そんなことをしても、それで終わりにはならない」といったように)、何か物騒なことを言っていた。
18日に出たイスイス団機関誌が最新号でパリの同時多発テロを表紙にし、シナイ半島でのロシア機の爆破に用いたボムの写真を公開して攻撃の経緯を説明しているとか、拘束していたノルウェー人と中国人を「処刑」したと述べているとかいった話題もサンドニの作戦と同時にあり、機関誌名での検索結果の画面には、普通の、「男の子の顔写真」に過ぎないようなアバターで、ISIS支援の言葉が書かれていた。そのユーザーのツイートを個別に見てみると、星条旗をあしらったアバターの人や、キリスト教徒であることを強調するユーザーネームの人などが挑発的に絡んでいた。「ジハーディ・ジョン」の殺人ビデオが出始めたころにこういう光景を見たことがある。
そして……(ここからがメインディッシュ)。
サンドニのハッシュタグにこんなのがあったんですよ。サンドニでの警察の突入でメスの警察犬ディーゼルが殉職したことが大きなニュースになっているのを受けて(わたしも犬大好きだけど、個人のツイートが山盛りになるのならわかるが、UKのタブロイドの大騒ぎはちょっとどうなのかと思う)「メス犬の息子たちは、国際的連合軍の攻撃で死んだ子どものことは気にしない」と。いや、言ってることはある種「テンプレ」的なことで特に目立ちはしない(「犬の息子」ってのがアレだなあと思う程度で)。
問題は、このアバター。そしてバナーで使っている画像。
アバター。誰かわかりますよね。
「(がっさり)10年前に過去の人になった人」なので、知らない方も多いかもしれないので……。
……という次第。
どういうつもりでこんなアバターを使っているのかはわからないが、こんなアバターの、パロディ・アカウントではないアカウントが、「プロパガンダ目的のアカウントではない」と考えることはできない。BioのところにF4F (Follow for follow: 自動フォロー返し)とか、TeamFollowBackとかいうハッシュタグがあるのが、悪い冗談みたいだ。アカウントの開設は 2015/06/30 という(Twitterで表示されていないので、Twilogに投げて調べた)。ずーっと前のまでさかのぼると、シーア派への憎悪・嫌悪が明白なものがぞろぞろ出てくる。
で、このアカウント、私が最初に見たときにはこんな感じで(画像はクリックで原寸):
このキャプチャ部分の最後で「元大統領のアバター」のアカウントが絡んでいってるのが、下記。リアルで、「子どもたちが殺されていることに怒りを抱えている17歳男子」。イエメン人。Twitterとブログで端正な英語を使い、子どもたちの権利のことを考えている。
彼の世界では、子どもたちはフーシの反乱勢力(シーア派)に殺され、サウジアラビアの空からの攻撃に殺されている。あまりに典型的に、「イスイス団のターゲットとして狙われる若者」だ。
誰か、彼がダークサイドに引きずり込まれないようにしてほしい。つまり、「希望」を与えてほしい。「ニセの希望」ではなく、「気休め」ではない「希望」を。彼が自爆ベルトを巻いて満面の笑みをたたえて指を1本立てているという未来へとつながらないように。
※彼のアカウントはイエメンのメディアやジャーナリストがフォローしてはいる。
さて、「なぜパリのことは大騒ぎするのか」という意見がある。変な言いがかりもあるが(「芸能人だからって、パリは庭みたいなものだと自慢している」のような)、まともに取り合うべき意見は「報道が多すぎるのではないか」というものだ。多くは正当なものだ。パリは世界中に名の知れた特別な都市だが、報道の過熱っぷりは常軌を逸している(特にタブロイド)。
しかし、その一見正当な発言は、本当に真摯なものなのかどうか。
上で見た「元大統領の写真をアバターにしたアカウント」は、「イヌの息子」発言のあと、「ナイジェリアのことはスルーですか」というキャンペーンをやっている。
今朝、はてなブックマークのトップページを見たら下記のようなことになっていたが(アニメがどうたらいう話と並んで、こんなに話題になるようなことなのか? 人々がそんなに関心を寄せていたのなら、なぜシリアはあんな事態になっている? 本当に真剣に人々がこれを考えているのなら、こんな「文句」の記事ではなく、イエメンやナイジェリアのことが見えるところに出てこないのはなぜ?)、今のこの「なぜパリのことは大騒ぎするのか」論のブームには、何か言葉にならないものを感じる。
「なぜパリのことは騒ぐのか」と発言している時間があるのなら、ベイルートの爆弾なりアンカラの爆弾なり、ロシア機なりのことを発言すればいい。
(グチを言うことは必要だけれども)「民間人を殺しているのはISISだけじゃないのに、ISISが西洋を攻撃したことしか注目しないのか」と言う時間があれば、ラッカの活動家のツイートの1つでも訳すなり、ISISについてのがっつりした報道について書くなりしてネットに放流したほうが生産的である。私はそう思っているし、そうしている。そうすることで心のバランスを保っている。それ以上に、そうすることで、知らなかったことを知り、見えてなかったものが見えるようになる。
2012年に「政府側対反政府側なんていう単純な話じゃないんですよー」という単純な話に感心して、FSAを「アルカイダの味方」呼ばわりしていた人たちは、きっとそういう作業を自分でしていなかったのだろうと思う。自分の中にあるストーリーに合う解説を求めていたのであって。人間、「ええっ、そうなんですか」と言うことになるより、「やっぱりそうですよね」と言うことになったほうが気分がよいものだ。
イスイス団のマインド・コントロールもそこをついてくる。「わかる〜」っていう話ができる友人として、彼らは現れる。
「なぜパリのことだけこんなに報じられるんですかね」
「わかる〜。そういう違和感あるよね〜。……」
その先に、「元大統領」の顔写真を掲げた殺人カルト集団がいないとも限らない……それは警戒のしすぎかもしれないが、現実だ。
かといって、「なぜパリのことだけがこんなに」という疑問を持つこと自体が、あの殺人カルト集団と関係しているかのように短絡するようなことがあってもいけない。
あなたの話に「わかる〜」と言い、あなたの気持ちを共有してくれる人は、多くの場合は友人だ。ただし、そうでない場合もある。今はそういうときにつけこむ活動をしている人がとても活動しやすい状況である。それだけのことだ。
アメリカ人女性アレックスのケースは非常に多くを示している。不条理で理不尽なことが起きた。そのときに自分が何を感じたかを話せる相手がいない。疑問をぶつけられる相手もいない。そこでネットに書き込んでみたらいろいろ話ができた。しかしその先に……というケースだ。
4/ and this approach makes it that much more insidious and dangerous. It bears noting that it was moderate Muslims on Twitter who reached
— Rukmini Callimachi (@rcallimachi) June 27, 2015
カルトがやっかいなのは、ターゲットを「友人」として扱うところだ。ISISもそこは、日本でそこらじゅうにあふれているカルトのやり方と同じ。孤独な人との「つながり」を作り、そこに強固な「友人関係」を築く。まめな電話やメールを出し(「元気? 気になってたんだ」)、求めていても得られずにいる評価を与える(「がんばってるもんねー」)。
パリの同時多発テロをめぐって、多くの人々の感情が大揺れに揺れて、疑問も噴出しているときだからこそ、心配に思う。
とりあえず、アンナ・エレルの本は読んでおくと、一種の「ワクチン」になるのではないかと。あと、アレックスのケースの5ページ目。
ジハーディストのベールをかぶった私 -
あと、書くまでもないと思ったんですが、ISISは、半分はサダム・フセイン支持者の残党でできています。つまりイラクのバアス党です。
The hidden hand behind the Islamic State militants? Saddam Hussein’s.
By Liz Sly April 4
https://www.washingtonpost.com/world/middle_east/the-hidden-hand-behind-the-islamic-state-militants-saddam-husseins/2015/04/04/aa97676c-cc32-11e4-8730-4f473416e759_story.html
ISIS FORCES THAT NOW CONTROL RAMADI ARE EX-BAATHIST SADDAM LOYALISTS
Malcolm W. Nance
June 3 2015, 11:35 p.m.
https://theintercept.com/2015/06/03/isis-forces-exbaathist-saddam-loyalists/
※この記事は
2015年11月19日
にアップロードしました。
1年も経ったころには、書いた本人の記憶から消えているかもしれません。
【i dont think im a pacifist/words at warの最新記事】
- 「私が死ななければならないのなら、あなたは必ず生きなくてはならない」展(東京・六..
- アメリカのジャーナリストたちと一緒に、Twitterアカウントを凍結された件につ..
- パンデミック下の東京都、「コロナ疑い例」ではないかと疑った私の記録(検査はすぐに..
- 都教委のサイトと外務省のサイトで、イスラエルの首都がなぜか「エルサレム」というこ..
- ファルージャ戦の娯楽素材化に反対の意思を示す請願文・署名のご案内 #イラク戦争 ..
- アベノマスクが届いたので、糸をほどいて解体してみた。 #abenomask #a..
- 「漂白剤は飲んで効く奇跡の薬」と主張するアメリカのカルトまがいと、ドナルド・トラ..
- 「オーバーシュート overshoot」なる用語について(この用語で「爆発的な感..
- 学術的に確認はされていないことでも、報道はされていたということについてのメモ(新..
- 「難しいことはわからない私」でも、「言葉」を見る目があれば、誤情報から自分も家族..