が、ともあれ、今日は11月11日、第一次世界大戦の休戦記念日である。現地11時(日本時間20時)に黙祷が捧げられる。
https://en.wikipedia.org/wiki/Armistice_Day
英国での「11月11日」とそれに最も近い日曜日(リメンブランス・サンデー。今年は8日)については、昨年「まとめ」を作成したのでそちらをご参照いただきたい。と書いておいても閲覧などされない。わかってる。
戦没者追悼のかたち〜英国の例〜 ("Lest we forget")
http://matome.naver.jp/odai/2139023621178867301
で、昨年(2014年)のリメンブランス・サンデーと休戦記念日の週に向けては、ロンドン塔の外周部に、第一次世界大戦での戦没者の数だけ、セラミックで作った赤いポピー(英国での「戦没者」のシンボル)が植えられた(イベント終了後は1本ずつ希望者に頒布)。リメンブランス・サンデーまでの数週間に街頭などで行なわれる「レッド・ポピーのための寄付」(日本の「赤い羽根」などと同じく、寄付金箱にお金を入れると赤いポピーの造花がもらえる)を含め、この時期のレッド・ポピーを介した収入が軍人会の活動を支えるのだが、その「レッド・ポピー」の活動が、特に2012年のエリザベス女王のダイヤモンド・ジュビリーとロンドン五輪以降、目に見えて派手になっている(ことは前にも書いた)。既に英軍はイラクからは2009年に撤収しており、13年間も駐留と戦闘を続けたアフガニスタンからも2014年におおかた引き上げている(「現地関係当局の支援」を目的とする顧問的な形では残っている)。自分たちの身の回りが戦場になっていなくても、生活・人生は戦争と隣り合わせだ、というのは、社会から(今のところ)消えつつあるが、それが「平和を祈念する」という方向に行くかどうかは別問題で、というか「平和を祈念」云々が通常のルートとしてあらかじめそこにあった「戦後日本」の環境は、とても恵まれた、すばらしいものだったのだと私は思う。
英国では、「平和を祈念する」傾向を隠していない政治家がものすごい勢いであら捜しをされ、大手メディアによってdisられている。「平和を祈念」するシンボルであるホワイト・ポピーは完全に黙殺され(あるいは徹底的に叩かれ)、「平和主義 pacifism」は「戦闘意欲がない」、「臆病者」という扱いを受ける(あの人たちは、Shot at Dawnから何も学んでおらず、学んだのは「臆病者は処刑されるので臆病は悪いことだ」という単純な教訓だけかもしれない)。
それどころか、今年は、「わが国のテレビに出演する人は外国人であってもレッド・ポピーを身につけていただきましょう」といわんばかりだ。
マイケル・ファスベンダーまでテレビでレッド・ポピーつけさせられてるのか。前からこんなに熱心だった? Michael Fassbender Rides An Aroused Prince - The GrahNorton Show https://t.co/z0HhUvpeHZ
— nofrills (@nofrills) November 6, 2015
マイケル・ファスベンダーは、俳優としての拠点はロンドンかもしれないが(あとアメリカにも拠点を置いてる)、生まれたのはドイツ(両親のどちらか、たぶん父親がドイツ人、もう一方がアイルランド人)で、物心がつかないうちにアイルランド共和国に引っ越して、アイルランドで育った人だ。少しさかのぼると、マイケル・コリンズが親戚にいるような家だそうだ(アイルランドは狭いので、そういうことは案外よくあるらしい)。
つまり、「英国人」ではまったくない。
だが、グレイアム・ノートン・ショーに出演した彼は、左のラペルに赤い花のバッジをつけている。他の出演者(英国人の芸能人たち)のような、The Royal Britieh Legionの「レッド・ポピー」そのものではないことが、「差別化」(彼は違う)ということを物語っているのだが、そこまでしてあの「赤いお花ちゃん」の着用が求められるのかというのは、私はちょっと引いた。今まで、こんなふうだっただろうか。
また、ジャーナリストのニコラ・エナンさん。シリアで誘拐され「イスラム国」を自称する勢力(ネットスラングで「イスイス団」、本稿では「ISIS」と表記)に人質として拘束されていて、最終的には解放された「西洋のジャーナリストたち」の一人で、フランス人だ。
そのエナンさんが10日のBBC Hard TalkでISISについて語っていたのだが、彼も「赤い花」をつけている。アップの写真を見ると、The Royal British Legionの「レッド・ポピー」そのものだ。
Don't miss courageous journalist @nhenin75 discussing his time as a hostage in #Syria & new book @JihadAcademyEN pic.twitter.com/YS102CPpCl
— BBC HARDtalk (@BBCHARDtalk) November 10, 2015
Coming up: journalist @nhenin75 tells @bbczeinabbadawi about his "duty" to report from #Syria despite the dangers pic.twitter.com/dggST3wIHT
— BBC HARDtalk (@BBCHARDtalk) November 10, 2015
フランスは、第一次大戦でも第二次大戦でも英国と同じ側だったが(第二次大戦ではドイツに占領されていたが)、フランスは英国(英連邦)ではない。
これまでも、リメンブランス・サンデーから休戦記念日にかけてのこの時期に英国のテレビ(特にBBC)に出るフランス人は、こういうふうに「レッド・ポピー」を着用していたのだろうか。
私は個人的に「この時期にBBCに出ているフランス人」を他に見たことがないので、単に私が知らないだけで、他の例があるのかもしれない。
だが、ニコラ・エナンさんがこうということは、では、BBCのインタビューに答えていたのが、エナンさんと同じ時期にISISに拘束されていたハビエル・エスピノサさんだったらどうだったのだろう。エスピノサさんはスペイン人だ。
あるいは日本人のジャーナリストだったら? 日本は、第一次大戦は「日英同盟」の時代だったが、第二次大戦では周知の通りである。
疑問は尽きない。
そんな中だからこそ、あえて「ホワイト・ポピー」についての報道を探してみたりもするのだが、大手はどこもかしこもシカトを決め込んでいる。報道機関の記事で私に見つけられたのは、アイルランドのシン・フェインの機関紙だけだ。
White Poppy ceremony in Dublin by Veterans for Peace - https://t.co/CfGx4DcnDP #poppy pic.twitter.com/uictSESN7s
— An Phoblacht (@An_Phoblacht) November 10, 2015
探し方が、悪いのかもしれない。
以下は、「ホワイト・ポピー」の運動をやっているVeterans for Peace UKや、その代表者のベン・グリフィンさんのTL、関連の検索結果より。
https://t.co/h9UA6GNVny
Veterans For Peace UK
Remembrance Sunday 2015
Film, Pictures and Article. pic.twitter.com/gILkrnsV51
— VFP UK (@vfpuk) November 9, 2015
nofrills / nofrills
RT @GeorgeAylett: The last surviving solider of World War 1, Harry Patch, gave his thoughts on war just before he died.
#ArmisticeDay https… at 11/11 18:51
nofrills / nofrills
RT @PoppiesForPeace: Veterans for Peace marching to the Cenotaph in London to lay a wreath of white poppies: https://t.co/VYUfoTuyO1 #Poppi… at 11/11 18:53
nofrills / nofrills
RT @VFPNational: "Our answer, as veterans who are tired of our name and our legacy being taken in vain and who reject... https://t.co/CtZKp… at 11/11 18:54
↓↓このArtist Taxi Driver(タクシー運転しながら乗客にインタビューした映像を公開しているアーティスト)のベンさんとジョーさんのインタビュー、まだ聞いていない人はぜひ。ジョーさんもベンさんもアフガニスタン派兵経験者。
nofrills / nofrills
RT @chunkymark: Ben and Joe British Soldiers - Veterans for Peace https://t.co/Bj0WthyRiV @vfpuk at 11/11 18:55
nofrills / nofrills
RT @vfpuk: https://t.co/MfGHLAM09f
Check out our new report into the Royal British Legion @PoppyLegion https://t.co/7KF5Vi2ZFV at 11/11 19:58
nofrills / nofrills
RT @TonyGosling: 'Never Again' disappears from the 'branding'. Royal British Legion & the Hijacking of Remembrance Sunday https://t.co/dYhO… at 11/11 19:58
nofrills / nofrills
RT @WarNoGlory: Remembrance Sunday | London 8 Nov | Veterans For Peace UK walk to The Cenotaph | https://t.co/MZWOtxC1vq | @vfpuk https://t… at 11/11 19:58
nofrills / nofrills
RT @tombomp: https://t.co/ImjKvo1mpW a good article about how awful the British Legion and poppy campaign is f.e their close relationship t… at 11/11 19:59
nofrills / nofrills
RT @dannybirchall: Your 'remembrance' poppy is basically marketing merchandise for the arms industry https://t.co/dmAUnLm5WQ at 11/11 19:59
まあ、要はこういうこと↓ですよね。
Why the #Cenotaph is the dark heart of British militarism | @joejglenton
https://t.co/ewoHwxKYTV #RemembranceDay pic.twitter.com/Lt9rxHYK0M
— IBTimes UK (@IBTimesUK) November 9, 2015
「ブリティッシュ・ミリタリズム」はたぶん、ポスト植民地主義、ポスト石油利権の時代の(つまり「21世紀の」)「パックス・ブリタニカ&アメリカーナ」の主要な柱で、日本語ではその「ミリタリズム」は「積極的平和主義」と呼ばれてると思うんですよね。違いますかね。
「戦争」が国と国とのものでなくなった時代、その「ミリタリズム」が「敵」(というか「対象」、「ターゲット」)としているのは、「アルカイダのような」多くの場合リゾーム型の武装勢力で、それと「戦う」のは「銃剣を持った兵士」ではなく、「テクノロジー」だという宣伝の中で、「戦没者追悼の赤いポピー」と軍産複合体がべったりと貼り合わせられているというこの現実。
※この記事は
2015年11月11日
にアップロードしました。
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