"I'm a survivor. I'm surviving every day" 10年前、2005年11月9日のヨルダン、アンマンのホテルへの自爆攻撃(ISISの前身組織が計画し、後藤さんとの身柄交換要求が出されたリシャウィらの起こした事件←リンク先に当時の写真などあり)の標的となった結婚式。夫婦の現在。
http://b.hatena.ne.jp/nofrills/20151110#bookmark-270995508
re: http://www.bbc.com/news/world-middle-east-34745196
リシャウィ……サジダ・リシャウィ。イラクのアンバール県出身の女性。夫と一緒に自爆テロを行なおうとして、生き残り、死刑判決を受けて収監されていた爆弾犯。
2015年01月29日 ISISはヨルダン人パイロットと後藤さんと何を天秤にかけているのか(サジダ・リシャウィとは誰なのか)
http://nofrills.seesaa.net/article/413137710.html
後藤健二さんが無残に殺され、後藤さんのビデオのあとに「処刑」ビデオが公開されたヨルダン人パイロットのカサスベ中尉が、身柄交換要求が出されたときにはとっくに殺されていたと明らかになって、ほどなく、サジダ・リシャウィもまた吊るされた。語られている限り、彼女は「わけもわからず、夫に巻き込まれた哀れな女」で(彼女には発達障害があったという)、「だからといって彼女の罪が少なくなるわけではない」という言葉で批判される彼女の行ないが、2005年11月9日のヨルダンの首都、アンマンでのホテルを標的とした攻撃(テロ)である。
それから10年が経過し、事件当時、現場に取材に入ったBBC記者が、自爆の標的とされた結婚式の主役(新郎・新婦)を訪ねたときの模様が、5分ほどのビデオにまとめられている。
Surviving the 2005 suicide bombings on Jordan hotels
http://www.bbc.com/news/world-middle-east-34745196
標的とされたのはアンマンの高級ホテル(ハイアット・ホテル)。新婦のナディア、新郎のアシュラフ。どちらも流暢な英語でBBCの取材に応じている(相当な教育のある人々なのだろう)。ナディアは両親を、アシュラフは父親を殺された。
ナディアは「とにかく完璧な一日にしたかった。実際にそうできて、幸せでした。あの瞬間までは」と語っている。アシュラフは「自分の好きな女性といよいよ結婚するという人生で最高の日。そのまま終わるはずでした」と。
純白のウエディング・ドレスに白の花束を持ったナディアと、ぱりっとしたスーツに紅色のネクタイのアシュラフが目と目を見交わす幸せそうな写真。人々に祝福される、新婚カップルの写真……ビデオでは、そこから、一転して阿鼻叫喚の光景となる。ホテル前に急行した救急車、必死の形相の救急隊員によって搬送される負傷者、鳴り響くサイレン。
2005年11月9日午後9時少し前、ナディアとアシュラフの結婚披露宴を、自爆攻撃者が襲った。
その夜、アンマンのホテルには3件の攻撃が行なわれた。その中で最大の被害を出したのが、ハイアット・ホテルの結婚式場を標的とした攻撃だった。
攻撃主は、当時はTanzim Qaidat al-Jihad fi Bilad al-Rafidayn、つまり「アルカイダ・イン・イラク(イラクのアルカイダ)」と呼ばれていた、ヨルダン人テロリスト、アブ・ムサブ・アル=ザルカウィ(2006年死亡)の率いる集団。つまり、現在のISIS/ISIL/IS/イスラム国/イスラミック・ステート/イスイス団。
この日のホテルへの3件の攻撃で60人近くが死亡。ナディアとアシュラフの結婚式では27人も殺された。ナディアの両親とアシュラフの父親もその中に含まれている。
10年後の現在、ナディアとアシュラフは、あの日、披露宴が行なわれる前に撮影された写真をおさめたアルバムを開いて見せる。
「この写真は、私の人生が急転換する前の、最後の写真です」とナディアは言う。
This is what terrorism means for a young couple.
取材に訪れたBBC記者自身も、10年前に非常に激しい衝撃を受けたと語っている。
あの現場は、そうだろう。当時のウェブでの、一辺が300ピクセル程度しかなかった報道写真でも、十二分に衝撃的だった(が、そのときはイラクでも米軍による攻撃が起きていて、どこもかしこもひどく衝撃的な光景ばかりだった……それでも、現在のシリアとイエメンとウクライナとパレスチナの同時進行には、及ばない)。
映像の中で、ナディアとアシュラフは慰霊碑(モニュメント)を訪れ、祈りを捧げている。黒い御影石か何かに彫りこまれたアラビア文字は、きっと、彼女と彼の親御さんのお名前だろう。
この映像がとてもよいのは、過激主義への反対を力強い言葉で語るアシュラフ(と、無言のうちに力強い目をして全面的な賛同の意を示しているナディア)の映像に続いて、公園のブランコやシーソーで2人の子供たちを遊ばせている夫婦の映像をつないでいるところだ。
娘は8歳。ナディアのおかあさんにちなんで「ハラ」と名づけられた。
息子は4歳。アシュラフのおとうさんにちなんで「ハレド」と名づけられた。
家族によって語り継がれていく《物語》は、ここでは「希望」であり、「暴力反対の強い意思」であろう。
ナディアは言う。「犠牲者 (victim) ではなく、サバイバー (survivor) です」と。
"I'm a survivor. I survive. I'm surviving every day."
サジダ・リシャウィについては、後藤さんの殺害ビデオが出される前の段階で随分、日本語圏で同情論がありましたね。その「同情論」が「夫によって変な方向に引っ張っていかれた女性」というのなら私も同意なんですが、中には「オウベイガー」ってのがいましたね。
「オウベイガー」の人たち、最近ますます元気なんじゃないですかね。私は何より、それが心配ですよ。
※この記事は
2015年11月10日
にアップロードしました。
1年も経ったころには、書いた本人の記憶から消えているかもしれません。
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