「なぜ、イスラム教徒は、イスラム過激派のテロを非難しないのか」という問いは、なぜ「差別」なのか。(2014年12月)

「陰謀論」と、「陰謀」について。そして人が死傷させられていることへのシニシズムについて。(2014年11月)

◆知らない人に気軽に話しかけることのできる場で、知らない人から話しかけられたときに応答することをやめました。また、知らない人から話しかけられているかもしれない場所をチェックすることもやめました。あなたの主張は、私を巻き込まずに、あなたがやってください。

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2007年05月24日

トランスジェンダーの市長さん「夫妻」@ケンブリッジ

ガーディアンの有料メールニュース the Wrap経由:
http://www.guardian.co.uk/wrap

市長という制度を導入してから今年で800年になるケンブリッジ市で、トランスジェンダーの市長さんが誕生した(英国史上初)とのことで、「ザ・サンがエキサイトしている(The Sun gets excited)」のだそうだ。どれどれ、見てみよう。

Meet the agenda benders
By JOHN TROUP
May 24, 2007
http://www.thesun.co.uk/article/0,,2-2007230838,00.html

"the agenda benders" ねぇ。まあ、流そう、この新聞の書いていることは。(この記事は、当事者の方は読むとムカっとくるかもしれない。)(なお、元ネタはgender benderという表現。)

記事が伝えている内容から事実だけ抜き出すと(といってもほとんど元記事そのままなので、元記事のバイアスがそのまま反映されている部分もあるかもしれない):

ケンブリッジ市の市長となったジェニー・ベイリーさん(45歳)は、30代のときに手術を受けて男性から女性に転換した。その前、ジェニーさんは女性と結婚しており、2人の子の父親だった。

そしてジェニーさんの現在のパートナーであるジェニファー・リドルさん(49歳)も「同じ過程をたどった(has undergone the same process)」(<とあるだけで、詳細はわからない。つまり「2人の子供の父親だったが30代で性転換した」のか、単に「30代で性転換した」のか、わからない。)

2人ともLiberal Democrats(LibDem、自由民主党)所属で、2人とも市議会議員をつとめてきた。(後述するケンブリッジ・イヴニング・ニュースによると、ジェニファーさんはこの5月の地方選で政界から引退した。)2人はソフトウェア・エンジニアの仕事(自営)をしていて、ジェニーさんが市長として当選したあとに、かつて男性であったという事実を公表することにした。(これまでも特に隠していたわけではないようだ。)

ジェニーさんとジェニファーさんが性転換したのは15年前。ホルモン補充療法(hormone replacement therapy)によるものだった。2人は生活をともにしており、ジェニーさんと前の妻との間に生まれた2人の子供(18歳と20歳)を育てている。ジェニーさんの前の妻は元夫(ジェニーさん)のことを「非常に自慢に思っている」と語り、自分にとっては「親友」だと言い、「彼女なら市長としてすばらしい働きをするし、いろいろやってくれる」と語る。

ジェニーさんは、前の妻と結婚する前に性の混乱(gender confusion)について話をしていたが、お互いにソウルメイトだということで結婚した。しかしジェニーさんが女性になりたいという気持ちはふくらみ、ついに結婚は終わりを迎えた。

ジェニーさんは「非常に難しいことを自分が何とか乗り越えられたということ、その結果前より優れた人間になれたことを自分では誇りに思っている」と語っている。そして、「もしこれでケンブリッジ市長というものに傷がつくということになったら私としても平静ではいられない(I'll be upset)。この市のことは私は誇りに思っている」と言う。

ジェニーさんとジェニファーさんは、セクシュアリティが原因で敵意ある扱いを受けたことは一度もない、としているが、ケンブリッジ市民の反応はさまざまだ。年金受給者のアーネストさんは「何たる混乱か。まったくどうなっているのか」と言う。匿名で取材に応じたある女性は「気色悪いですわね (I think it's disgusting.)」と言う。

・・・ザ・サンの記事の内容はここまで。記事にはおふたりの写真も掲載されているが、写真を見る限り、「元ちょいヒッピー、もしくは元GOTHで、今はばりばりの環境活動家」とかいうバックグラウンドの人によくいる感じの女の人という感じ。

ザ・サンのコメント欄は、1件はサーカスティックだが(投稿者自身がそう告白している)、あとの3件は非常に好意的(というか、「好意的」という言葉も変な感じがするから別の表現を使いたいが、うまく言葉が見つからない)。

この話題を扱った記事の一覧@Google News UK:
http://news.google.co.uk/news?hl=en&ned=uk&ie=UTF-8&ncl=1116610290

こうなると楽しみなのがデイリー・メイルなのだが:
http://www.dailymail.co.uk/pages/live/articles/news/news.html?in_article_id=457168&in_page_id=1770
書き出しがいきなり
The world's first sex-change mayor and mayoress have been elected in Cambridge.

確かに市長「夫妻」が揃ってMtF(元男性の女性)というのは世界初なのかもしれない。

メイルの記事は行間から「覗き見趣味」が漂っているように私には思えるが(<メイルに対しては私が偏見の塊なので)、先日の「BPのボス」の件のときと比べたら全然まともに見える。(メイルはポピュリストだから、ウケないふうには書かないんだと思うけど。)

サンに書かれていないこととして:
She met her future wife aged 24 and, believing that becoming a family man would make her feel "normal",

ジェニー・ベイリー市長は24歳のときに先々結婚することになった女性と出会ったが、そのときはよき父親となることで「ノーマル」だという感覚が得られると思っていた

She began hormone therapy aged 29 and a sex change at a private clinic followed three years later.

29歳でホルモン治療を受け始め、その3年後にプライベート(私費)のクリニックで性転換した

Miss Liddle was elected to Cambridge City Council in 2000 and Miss Bailey won her seat two years later.

ジェニファー・リドルさんは2000年にケンブリッジ市議会議員として当選し、ジェニー・ベイリーさんも2年後に議席を獲得した

Miss Bailey said neither of them had ever had a problem with being transgender and had not tried to conceal it.

She said: "When I first joined the Liberal Democrats there was a vetting process and they asked, 'Is there anything in your past that is going to be difficult?'

"I said I was a transgender and they said, 'No, is there anything that is going to be difficult?'"

ジェニー・ベイリーさんは、ふたりとも、トランスジェンダーであることに問題があったことはこれまでになかったと語り、また、それを隠そうともしていなかったと言う。

「LibDemに入ったときの審査で、『あなたの過去において何か今後問題になりそうなことはありましたか?』と質問されたので、自分はトランスジェンダーですと答えたのですが、『そうですか、それが何か問題になりますか?』といわれました」

Former LibDem mayor John Hipkin described the couple as "very womanly", adding: "They have been devoted to the council and served it well."

Labour councillor Elizabeth Hughes said: "I find them both amicable and easy to work with."

LibDem所属で前の市長のジョン・ヒプキンさんは、ジェニーさんとジェニファーさんのことを「非常に女性らしい」カップルだと言い、「市議会にとても熱心に取り組んでくれていた」と語る。

労働党所属の市議会議員のエリザベス・ヒューズさんは、「ふたりともとても友好的で仕事がしやすい」と語る。

メイルのコメント欄(現時点で全5件)も、1件(アメリカのオハイオからの投稿)を除いては、非常に「好意的」。また「メイルさん、いい記事だ」というものもある。

努めて公平に見て、サンのほうがメイルより偏見ばりばりの書きっぷりに思える。(まあ、サンのホモフォビアというかそういうのは、ポピュリズムというより真性なのかも。)

ケンブリッジの地域メディア、ケンブリッジ・イヴニング・ニューズ:
http://www.cambridge-news.co.uk/news/city/2007/05/23/580936a4-8341-4e1d-aae7-9d91969207b1.lpf

すっごい詳しい。メイルにあったけど、「結婚してパパになればノーマルになれるのではないか」と思って結婚して子供をもうけたことのほかに、
- 幼い子供2人に、クリスマスが終わったらパパは女の人になって帰ってくるからねと説明しなければならなかったこと

- ベイリーさんは(親が刑務官の仕事をしていたために)刑務所で育ち、女の子に囲まれて育ったわけではないということ。6歳か7歳くらいで違和感を覚えはじめ、13歳でそれは確信になっていたということ

- ベイリーさんの母親は、息子が女性になっていくのになかなか適応できなかったこと

- 自分は「夜にしか出られない」のではないかと思っていたということ

- 女性になりたいという気持ちを消すために、電気ショック療法を勧められたこと

- 性転換する前に2年間女性の服装をして過ごすことを拒絶したこと(She refused to spend two years dressing as a woman beforehand)

そしてパートナーのジェニファー・リドルさんからは:
- 幼いころ(from an early age)から、自分は本来は女性だと感じていたこと

- 一般医(GP)に相談しに行ったが、「服装で何とかすればよいのでは(become a transvestite)」と助言されたこと

- ホルモン療法はきつくて、誰にも頼れないと思っていたときに、ジェニーと出会ったこと

それから:
2人とも、誰にも症状 (condition) を話せなかったことでつらい思いをし、20代はじめに医師に相談したときは全然うまく行かなかった。ジェニーさんは、15年前、ホルモン補充療法を受けていたときにロンドンの友人を通じてジェニファーさんに出会い、2人ともソフトウェア・エンジニアだったので、1994年に共同で起業した。

ジェニーさんは現在でも元妻と近い関係にあり、息子2人の養育は両者でおこなっていて、息子の1人はジェニーとジェニファーと同居し、もう1人は母親と同居している。

ジェニーさんのことば(上の、サンの記事の内容とちょっとかぶる):
Jenny said: "So many more things define me than being transgender, a medical condition I had 15 years ago which I have now recovered from.

"I'm proud that I managed to get through something which was quite difficult and managed to come out of it a better person. I certainly do not want it to eclipse being mayor.

"If it damages the Cambridge mayoralty I will be so upset. I'm so proud of Cambridge. It's an honour to be mayor."

「私はトランスジェンダーであるけれども、それだけではまったくない。トランスジェンダーというのは医学的な状態で、私は15年前にその状態を有していたが、今はそれを克服している。非常に難しいことを自分が何とか乗り越えられたということ、その結果前より優れた人間になれたことを自分では誇りに思っている。MtFであるということが市長であるということを食ってしまわないようにしたい。もし私がMtFであることでケンブリッジ市長というものに傷がつくということになったら私としても平静ではいられない(I'll be upset)。この市のことは私は誇りに思っているし、市長をつとめられることは名誉なことだ」

二人とも、性転換していることを隠していたわけではなく、ジェニファーさんや市議会の人々は「ケンブリッジで最も隠しきれていない秘密と言われていた」と言う。ジェニーさんは「自分たちが把握している限り、MtFであることは秘密でもなんでもなかった」と言う。

記事はこのあと、ケンブリッジという街の環境について(特にテクノロジーとの関係について)、市長さん(テクノロジー畑の人)の口から詳細に述べられている。例えば「私が育ったコヴェントリーではパブでの話題といえばサッカーだったけど、ここではIPアドレスがどうのとか、バイオテクノロジーがどうのといった話をしている」というように。

それから、2人の政治とのかかわりについて、それから「身体的な性」への違和感について、彼女のこれまでの人生について、女性となることを決意したことについて、非常に詳しく書かれている。長いけれども、そういった点について詳しく知りたい人は読む価値があると思う。

個人的にメモっておきたいこと:
Jennifer took the leap into politics as a stand against the Prevention of Terrorism Act, introduced after the Birmingham pub bombings.

She said: "Because it was such a draconian piece of legislation it had to be renewed.

"Every year the Tories would vote for it and Labour, in opposition, would vote against it until Tony Blair took over as leader of the Labour Party and started to vote for it.

"I became a card carrying member of the Liberal Democrats because they were the only party prepared to protect civil liberties.

"I stood for the first time in 1999 and lost by 72 votes. It was very close and encouraged me to stand again the next year and I won."

バーミンガム爆弾事件が1974年(Provisional IRA)、そのあとドラコニアンな「テロ予防法」ができて、そのころは保守党がそういうのに賛成、労働党がそういうのに反対していたのだが、ブレアの労働党になってからは労働党がそういうのに賛成するようになり、LibDemだけが反対していた。それが彼女がLibDemの党員になったきっかけだった、と。

日本で「英国の対テロ法制」が語られるときにしばしば欠落しているコンテクストだ。(ついでに言うと、バーミンガム爆弾事件のときは単にアイリッシュだというだけで6人が逮捕・起訴で有罪というひどい冤罪になった。しかもテッド・ヒース保守党政権の次の、ハロルド・ウィルソン労働党政権でのことだが。)

それと、ケンブリッジ・イヴニング・ニューズの別の記事(上の記事のあとに出ている):
http://www.cambridge-news.co.uk/news/city/2007/05/24/dbf1573f-abac-4b9a-a8c0-0387f09783fc.lpf

市長さんには激励が続々、という感じの記事だけど、後半部に「英国で最初のMtF」となったロバータ(元ロバート)・カウェルさん(元スピットファイアのパイロット)について述べられ、トランスジェンダー/性同一性障害についてが詳細に書かれている。

ほかのメディアで「巷では複雑な反応」というのがあったのだが(ザ・サン、引用とかしてないけどデイリー・ミラーなど)、やはり地元の新聞ではそういうところをフォローしているのだと思う。

BBCはごくごくあっさりと報じている:
http://news.bbc.co.uk/2/hi/uk_news/england/cambridgeshire/6686933.stm

ガーディアンはまだ独自記事なしで、PAの配信記事:
http://politics.guardian.co.uk/localgovernment/story/0,,2087166,00.html
明日以降、CiFに何か出るだろう。まあ別にそんなに突き詰めて「元男性の女性市長」について読みたいというわけでもないからCiFで探すこともしないと思うけれども。

で、最近「目指せデイリー・メイル」路線であるらしいテレグラフ:
http://www.telegraph.co.uk/news/main.jhtml?xml=/news/2007/05/24/nmayor124.xml

これがけっこう手堅くまとまっている。手っ取り早く情報を把握するために読むにはテレグラフが優れているかもしれない。

しかし、なーんか、どの記事を見ても「巷の人々の意見」が同じ3人の意見なんだよね。「disgusting」と言う女性と、「最近の若い奴はわけのわからんことを」と言う年金生活者と、「まあ、いいんじゃないの、仕事さえきっちりやってくれれば」という大工さんと。

タイムズは、長い記事ではないけれど、「私はMtFとしてだけ見られるようなことは望んでいない」という市長さんのスタンスをくっきりはっきり明示している。「それで特別扱いされるようだったらそもそも立候補などしていない」という彼女の言葉も紹介している。タイムズのGJだ。
http://www.timesonline.co.uk/tol/news/uk/article1832277.ece

LibDemサポの新聞であるインディペンデントは記事まだ出てません。

というわけで、
- 手っ取り早く情報として知るにはテレグラフ
- 市長として彼女がどういうことをしたいのかを知るにはタイムズ
- MtFとしての彼女の話を聞きたかったらケンブリッジ・イヴニング・ニューズ
というように読むのがよいと思います。

サンとメイルは、最初に紹介しておいてアレですが、どうでもいい。

最後に、ケンブリッジ市からのアナウンス。ジェニー・ベイリー市長のセクシャリティについて一切触れておらず、重点政策などについて簡潔に説明されています。最初はこれに目を通すのがいいかも。
http://www.cambridge.gov.uk/ccm/content/news/cllr-jenny-bailey-set-to-be-appointed-mayor.en

タグ:LGBT

※この記事は

2007年05月24日

にアップロードしました。
1年も経ったころには、書いた本人の記憶から消えているかもしれません。


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【2003年に翻訳した文章】The Nuclear Love Affair 核との火遊び
2003年8月14日、John Pilger|ジョン・ピルジャー

私が初めて広島を訪れたのは,原爆投下の22年後のことだった。街はすっかり再建され,ガラス張りの建築物や環状道路が作られていたが,爪痕を見つけることは難しくはなかった。爆弾が炸裂した地点から1マイルも離れていない河原では,泥の中に掘っ立て小屋が建てられ,生気のない人の影がごみの山をあさっていた。現在,こんな日本の姿を想像できる人はほとんどいないだろう。

彼らは生き残った人々だった。ほとんどが病気で貧しく職もなく,社会から追放されていた。「原子病」の恐怖はとても大きかったので,人々は名前を変え,多くは住居を変えた。病人たちは混雑した国立病院で治療を受けた。米国人が作って経営する近代的な原爆病院が松の木に囲まれ市街地を見下ろす場所にあったが,そこではわずかな患者を「研究」目的で受け入れるだけだった。

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