「あれ」に関するBBC記事について書こうと思ったのだが、一向に、書く気にならない。
「あれ」のことは、話題になった当日は知らなかった。基本的に、Twitterで日本語圏を見ないことにしているからだ。知った、というか現物を見たのは、話題になった翌日か翌々日、はてブ経由で見たTogetterの記事でのことだ。(現物を見る前から、何人かの言葉によって、だいたいどういうものかは察しがついていたが。)
一度見たら、私自身がそのトピックについて直接やり取りをしてきた人々が、なぜ「あれ」について立腹し、憤慨し、嫌悪感を覚えているのかは即座にわかったし、その感情は私のものでもある。が、遅れて知った(見た)自分が立腹し、憤慨し、嫌悪感を表明しても「周回遅れ」になるだけだし、何よりまったく生産的ではない。それに、上述のTogetter記事が指摘していることが当たっているのなら(Togetterで述べられていることから、外れている可能性はほとんどないと思うが)、「あれ」について外部の者が注目してやんややんや言うこと自体が「宣伝」となる可能性がある(イスイス団のグロテスクでサディスティックなプロパガンダ・ビデオと同じく)。
なので、「あれ」について1行書くとしたら、「あれ」のカウンターになるようなことを2行書くことにしようと自分の中で決めたのだ。それゆえにその方向のことをTwitterに書いたり、過去に作成したページを改めてフィードするようbotを設定したりしているのだ。
だが、それから6日ほど経過して、いつものようにBBCで記事を読んでいるときに、「あれ」が突然視界に入ってきた。BBCが記事にしているのだ。
Is this manga cartoon of a six-year-old Syrian girl racist?
http://www.bbc.com/news/blogs-trending-34460325
記事は、10月8日の昼ごろの時点で、BBC Newsのトップページにある(&午後10時台にも確認したが同じ)。
※この画像をクリックで、ページ全体の原寸大のキャプチャを見られるようにしています(2015年10月8日 07:45:43 UTCのスクリーンショットもあるけど、画像がキャプチャされていない)。
※10月9日午前、アップデート: 当該のマンガ絵の作者が盗用した写真の著作権者であるSave the Childrenから、「当該イラストの転載・流用はお控えくださるようお願いいたします」という声明が出たので、上記画像のうち当該イラスト掲載部分にぼかしを入れた。ただし記録の保持という観点から、クリックして表示させるようにしている原寸大のキャプチャのほうは元のままにしてある。
正直、「レイシストか」というBBC記事の見出しはピンとこない。「〜はレイシストか?」は、ほとんど紋切り型と化しているということもあるのだが、それより、「あれ」が行なっているのは「差別、偏見」ではなく、「非人間化」だからだ。あるいは「あれ」の作者本人にはそんな意図はないのかもしれないが、自身の中に自覚されぬまま存在している「差別や偏見」に、あのように形を与えることは、第一に、描く対象のことを何も知ろうとしていないという時点で、相手を人間扱いしていない。(なお、「差別」や「偏見」をそのまま表現することは「差別の垂れ流し」であり「風刺」ではないということは、シャルリー・エブド事件のときに「連帯ごっこ」にえんがちょしながら "Je ne suis pas Charlie" と叫び、「過剰反応」だとか、場合によっては「テロ組織のアポロジスト」と白眼視されつつ、書いたとおり。あのとき "Je suis" に感動してたみなさん、今、例えばイエメン見て、どう思います? いわれのない暴力にさらされている人々に、一方的に自己同一化することで「連帯」できると思います?)
バレンボイムなどが明確に述べているのだが、およそ「アート arts」と呼ばれるものは人の手でなされるものである。それは常に「人間」を相手にしている。(音楽の打ち込みビートとか、コンピューター・プログラムで再現される「巨匠の筆遣い」のようなものだって、機械がやるようになる前に長い時間をかけて人間たちの社会に蓄積されてきたものがあってのことだ。)そのことを忘れた「芸術表現」は成立しないと思う。
そういう点での違和感などもありつつ、そのBBC記事に「何が書かれているのか」くらいはブログで書こうとしたのだが、上に述べたような理由で、まったくやる気にならない。こんなものについて書いているヒマに、人命救助に当たっている人々のことを書くべきではないのか? あるいは、書きかけのまま下書きにしてある北アイルランドについてのエントリをアップすべきではないのか?
……などと思いつつ、である。
以下、「あれ」について。およびそれを扱ったBBC記事について。ただしBBC記事の内容のことはここには書かない。
BBCの前に、日本語の媒体で、毎日新聞:
"蓮見氏は毎日新聞の取材には回答せず、FBに「今回のシリア難民は『なりすまし(偽装)難民』ではないかと考えています」と投稿していた。" ←何を根拠に「偽装」と断定したのか、質問して回答させないと。 / “難民中傷:日本人漫画家に批…” http://t.co/2bZvBe1nUR
— nofrills (@nofrills) October 7, 2015
BBC:
http://t.co/rLgYM9arWG で、ヒラリー・クリントンがTPPに反対する発言をしたというニュースを読んでたら、右サイドバーに例の「偽装難民」云々の自称「風刺画」が現れて驚いた。BBCが記事にしている。 pic.twitter.com/Ykr01DYvtm
— nofrills (@nofrills) October 8, 2015
http://t.co/rLgYM9arWG http://t.co/dmC1Xgnoar これから読む。
— nofrills (@nofrills) October 8, 2015
BBCの「オンラインの話題」のコーナー(Trending blog)で、はすみとしこ氏の「偽装難民」のマンガを紹介。はすみ氏本人にBBCは話を聞いている/氏の詭弁の元となった「難民」「移民」の用語にはBBCは何もいえないとか笑止 http://t.co/XqqRmT73k7
— nofrills (@nofrills) October 8, 2015
http://t.co/XqqRmT73k7 「難民 refugee」、「移民 migrant」の用語については> http://t.co/4hVhuKQlGD ※国連や各NGOは難民条約に準じ「難民」を使い、BBCを含む大手報道はOEDなど普通の辞書を根拠に「移民」を採用。
— nofrills (@nofrills) October 8, 2015
http://t.co/XqqRmT73k7 「難民」と「移民」のどちらが「正確」な用語法かは言うまでもない。(「移民」の用語を使う人々は、IDP「国内避難民」については何と説明するのだろうか)
— nofrills (@nofrills) October 8, 2015
日本の漫画家がフェイスブックに掲載したイラストが、人種差別や偏見の表現かどうか議論されています。削除を求めるオンライン署名が行われ、絵の元となった写真のカメラマンをはじめ、国際児童保護団体などがイラストを批判しました(英語記事) http://t.co/q4WYhpYbAS
— BBC News Japan (@bbcnewsjapan) October 8, 2015
いや、「人種差別かどうか」はBBCが与えた紋切り型の言葉でしょう。
今更なんだけど、シリア内戦を「難民問題」に矮小化しちゃいけないんです。これは、「保護する責任」の無視の問題なんです。>【署名運動】ロシアのシリア空爆開始で改めて要請される戦闘停止への圧力。「爆弾はもうこれ以上必要ない」 http://t.co/NxIB2fXoCz
— nofrills (@nofrills) October 3, 2015
※この記事は
2015年10月09日
にアップロードしました。
1年も経ったころには、書いた本人の記憶から消えているかもしれません。
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