ISISによるパルミラの破壊がさらに進む……今度は「記念門」が爆破された。
http://matome.naver.jp/odai/2144401376312972901
今一度、この本を読み返すべきタイミングなのかもしれない(何度目かの)。
アフガニスタンの仏像は破壊されたのではない恥辱のあまり崩れ落ちたのだ モフセン マフマルバフ Mohsen Makhmalbaf 現代企画室 2001-11 by G-Tools |
よい書評がある。
http://hayamonogurai.net/archives/22
この本においてもっとも切実に、何度も語られるのは、「なぜ、アフガニスタンにはイメージ(映像)がないのか?」という問いだ。イメージを奪われ、あらゆる意味で顔を失った、アフガニスタンという国家。この世界では、イメージを持たないものには誰も関心を抱くことはない。この無関心に対して、マフマルバフは冷静なことばで、しかし激しく抵抗する。
……
仏像の破壊についてはたくさんの報道がされ、国際的に非難がなされるのに、人々の飢餓がほとんど語られないのはどういうわけか。マフマルバフは憤る。アフガニスタンを見ているはずなのに、なぜこれほどまでに深刻な事態に、誰も関心を払わないのか。仏像の破壊というニュースがあるのに、アフガニスタンの現状に対して、世界はあまりに無関心にすぎるのではないか。
マフマルバフがこの本を書いたときと今との大きな違いは、インターネットが普及しきっていること、さらに「Web 2.0」と呼ばれた時代を通り過ぎて、「つながりっぱなし」のSNSの時代になっていることだ。そこでは《情報》は自由になりたがり、自由に流通する。
そして、かつて私たち(私ももちろん含めて)は、情報が自由に流通するようになれば、人々はより「知りたがる」だろうと想像し、想定していた。
甘かった。
実際には必ずしもそうではなく、人々はより「語りたがる」ようになった。それも、軽視できない程度に多くの場合、「知る」以前に「(感想を)語りたがる、口にしたがる」ようになった。読みもせずに「感想」を
読み手としての立場では、誰かが何かを言っていることについて精査も熟考もせず「な、なんだってーっ」と「脊髄反射」しやすくなった。そういう「脊髄反射」の言葉が情報の流通量をかさ上げしていて、中身のほとんどない、「マジか」、「ショックだ」、「やっぱり」といった《反応》の言葉があふれかえる中で、落ち着いて物を考えることは大変に難しい。自分でも、そういう単純な《反応》がアウトプットしやすい場で、何かを考えるのは、とても難しい。
そしてやっぱり、「無関心」という問題は続いている。ネットが普及しようと、SNSの時代になろうと、「無関心」は変わらない。
モフセン・マフマルバフは2年前に東京フィルメックスで日本に来た際に、次のようにインタビューで語っている。(2013年11月30日付)
http://webneo.org/archives/12568
「アラブの春」というのは国によって状況が全く違います。……リビアで革命が起きた時、暴動が激しくなって、たくさんの人が殺されました。最終的に独裁者のカダフィは殺害されました。その例を見ているのでシリアのアサド大統領は怖がって、政権はあのような残虐な振る舞いをしているのでしょう。なぜこのような悲惨な出来事が起きているのか? 「アラブの春」の負の側面を捉えることも必要です。私はイラン人として、イラン政府がアサド政権を支持していることを恥ずかしく思います。シリアにイランの兵士を送っているのはとても悲しいことですし、すぐに撤退してほしいです。
シリア内戦の問題には様々な要因が絡んでいますが、一番大きい問題は、私たちが他国の問題に無関心であるということです。これは芸術家の責任でもあります。誰が「シリアで2年間に10万人殺された」ことについて、映画を作ったり、何かを書いたりしたでしょうか。誰もしていないですよね。私自身もそのことに関してシナリオを書いて、プロデューサーに持ち込んでみましたが、全く相手にされませんでしたね。
パルミラは破壊されたが、破壊されたのはパルミラだけではない。シリアという国のソーシャル・ファブリックが完全にずたずたになっているときに、私はこと「パルミラの遺跡」のことだけを悲しむことはできない。むろん、あの遺跡に特別の愛着を持っている人(研究対象としていた人、近くに住んでいた人、旅行で訪れたことがある人……みなそれぞれに愛着はあるはずだ)は、私とは違った感覚を持っているだろうし、それはどれがよい、悪いという話ではない。
しかし、人間と人間性の破壊を無視して、遺跡の破壊だけを語り、それを嘆くことは、結局は「無関心」のあらわれではないかと思う。
では関心を持てばよいのだろうか。
その答えは、おそらく単純にはNoである。イラク戦争以来の「亀裂」や「不信」は、もう埋めがたいほどになっている。そこにgeopoliticsが存立している。
そして、「人権や民主主義は嫌いだ」と公言する人が、言論の自由を存分に謳歌して、ブログやSNSで発言している。「なぜわたしが人権や民主主義が嫌いか、このワードを検索してもらえればわかります」と書き添えて(その「ワード」は、少なくとも日本語圏で検索して見つかる結果はトンデモ系ばかりというキーワードである)。あるいは英語圏の情報は全部「歪んでいる」と決め付けながら。
おかしな自己矛盾を露呈しながら、「個々の発言」の集積は、どこにも行き着きそうにない。
パルミラの遺跡は、何ゆえに「崩れ落ちた」のだろう。
彼らはきっと言うだろう。「欧米の帝国主義のせいだ」と、約100年前のことを引き合いに出しながら。
その遺跡は、100年よりずっと前から、「欧米の帝国主義」なんかのずっと前から、そこにあって、人びとが保存してきたのに。
砂漠の女王―イラク建国の母ガートルード・ベルの生涯 ジャネット ウォラック Janet Wallach ソニーマガジンズ 2006-03 by G-Tools |
※この記事は
2015年10月05日
にアップロードしました。
1年も経ったころには、書いた本人の記憶から消えているかもしれません。
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