敷地内に一度に入れる人数に限りがあるため、毎日時間を区切って入場券をネットで前売りしていたのだが、それも連日完売という大盛況で、開催地となった「寂れた海岸リゾート地」はかなり潤った(2000万ポンド!)という。ちなみに1日あたりの入場者数は4000人くらいとのこと。それが5週間なので、来場者数は14〜15万人。
そもそもバンクシーがこの街を会場に選んだのは、ブリストル育ちの彼が「17歳になるまで毎年ここに来ていた」からで、つまり「がっかりランド」の着想を得たときにすぐに開催場所として思いついたから ("The location was easy to find – I came here every summer for the first 17 years of my life." というのが本人の弁) だという。

その「反資本主義」のコアにあるのは「地域のコミュニティのため」という精神、具体的には「大手チェーンのスーパーマーケットで買い物をするのをやめて、個人経営の八百屋・肉屋・魚屋・食料品店で買い物をしよう」というようなことだ。ブリストルでの消費はブリストルに還元されるべきであり、大手チェーンの本拠であるロンドン(や、多国籍企業の場合は英国外のどこかの都市)にいる少数の資本家と、どこにいるのかはわからないがたぶん地域のコミュニティには関心はないであろう株主たちがカネを吸い上げることには反対だ、という考え方。これは「右翼」「左翼」の話では本来ないのだが、「コーポラティヴ」の考え方の流れで「左翼」に色濃いと思う。(「右翼」の側では、何よりまずBuy Britishという標語として現れているような理念だ。)
そんなことは説明するまでもないことだと思っていたが、どうやらそうではないらしい。
ほかでもないBBCで、「反資本主義」のそういう背景・文脈を見ず、単に字義通りにしか捉えようとしない人が、"「資本主義」、つまり「商売」の否定をするのが「反資本主義」である" という浅い前提でDismalandについて記事を書いているのが、残念でならない。今のBBCには、ほかに人材はいないのかと思う。
BBC記事の導入部が頭悪すぎて二度読み不可避。「反資本主義 anti-Capitalism」は「商業行為否定」ではない。肥大化した独占的資本や利益最優先のあり方にNoというもの。TescoにNoと言い地元の個人商店で買い物をする行為… http://t.co/lHNGFpXgZu
— nofrills (@nofrills) September 26, 2015
http://t.co/lHNGFpXgZu 頭悪いのは導入部だけかと思ったら結論もそうだ。記事を書いたBBC記者は「反資本主義のアートショーが地域経済に大いに刺激したことはアイロニーだ」ということを書いている。これは、BBCなどだれも深刻に受け取らないはずだ。
— nofrills (@nofrills) September 26, 2015
http://t.co/lHNGFpXgZu 「深刻に受け取らない」云々は、記事内に地元の人のインタビューで「自分たちのことをあまりに深刻に受け取らない」とあるものを受け継いだ。念のため書いておく。記事を読まずに私に向かってぎゃあぎゃあ言う人避けの願いをこめて。
— nofrills (@nofrills) September 26, 2015
私のブクマ&ツイートなどどうでもいいので、とにかく記事を読んでいただきたいと思う。私でも苦痛なので、本気で「反資本主義」の人はもっと苦痛だと思うが。
Restaurants have been busy too. In her contemporary Italian eatery on the seafront, Victoria Upward showed me her reservations diary.
Every night has been full, even midweek, which is normally unheard of at this time of year - and attracting a much wider range of customers.
"Traditionally, we would have small families or coach trips," she said. "But we've had Americans, Germans, hipsters, new age travellers, you name it."
Anyone with a small plot of land on the seafront has opened temporary car parks, often charging £5, which is more than the £3 admission to Dismaland itself.
Thousands have come by train. Great Western Railways report a doubling of numbers on the Paddington to Weston line, equating to about £4.5m extra revenue.
Everyone has noted the irony of the anti-capitalist art show boosting business.
But, Banksy said he chose Weston because "I went there every summer until I was 17", so perhaps he would feel a little less animosity to small local traders than multi-nationals.
For Mr Turner, the event shows Weston can laugh at itself.
"It's just like the British, really," he said. "We never take ourselves too seriously.
"Banksy has ripped the Michael out of us, but it's brought a great deal back into the local economy."
http://www.bbc.com/news/uk-england-bristol-34347681
ちなみに、£3の入場料(格安!)では、あの規模の展覧会の設営と参加アーティストへの支払いをまかなうのがやっとで、余剰があったとしても、Banksy自身にはほとんど「儲け」はないだろうと見られている。(毎週金曜日にはステージで音楽のライヴやコメディの舞台もやっているので、機材・セットの搬入・搬出なども含め、けっこうかかっているはずだ。)
こうして、廃墟化していたかつてのレジャー施設(「トロピカーナ」という名称)に、期間限定とはいえふたたび息を吹き込むことに成功したBanksyだが、会期が終わったあとのこの施設はどうなるのか。
ここは1930年代に建設されてから多くの人々を楽しませてきたが、2000年にレジャー施設としては閉鎖され、建物(それ自体はアールデコの美しい建物だ)を利用しての再開発計画が出ては立ち消えになり、浮かんでは頓挫してきた。「NAVERまとめ」にも少し書いたが、ロンドンのバタシー発電所の(建物のガワを保持したままの)再開発計画に似ている。
ロンドンでは、バタシー発電所と同じように残っていたテムズ川南岸のバンクサイド発電所の跡地が、(2000年の「ミレニアム再開発事業」で)「テイト・モダーン」として再生された例がある。
ブリストルの地域の海水浴場でも、「あのBanksyが、あのDismalandを開催した地」というネームバリューを使って、モダンアート系の施設としてやっていくという方向はあるのではないかという意見を私はどこかで見かけたが、メモっておかなかったのでどこで見たのか、わからなくなってしまった。ブリストルとまとめてひとつのエリア、という扱いはたぶんさして難しくはない(バスでつなげる距離)。
が、会期終了後の報道によると、この建物はツーリスト・インフォメーション・センター(完全オンライン化の可能性が取りざたされていたそうだが)が入ることになりそうな気配もある。
http://www.bbc.com/news/uk-england-bristol-34377469
うむ。「Dismaland記念館を併設したツーリスト・インフォメーション」みたいな斜め上の展開もありうるかもしれない。。。 (・_・)
一方で、解体されたDismalandの「シンデレラ城」などの構造物だが、これが……
あははは、わはははははは、ぎゃはははは、Banksyってまったくもうね。 / “Dismaland to be sent to Calais to shelter migrants - http://t.co/SZYgi5AYgh” http://t.co/xGE7hXsA3X
— nofrills (@nofrills) September 27, 2015
All the timber and fixtures from Dismaland are being sent to the ‘jungle’ refugee camp near Calais to build shelters. No online tickets will be available.
あははははは。Banksy印のシェルターでは、サルコジでも壊せないだろう。何かあったら「おい、それはBanksyの作品だぞ」というネット署名が必ず出てきてバイラルする。そうなると、選挙に勝つことが第一の政治家は手を出せない。あははははは。
(カレーにはかつて「サンガット難民キャンプ」という施設があり、国際赤十字なども入って運営されていたが、2002年に当時内務大臣だったニコラ・サルコジが音頭を取ってキャンプを閉鎖し、物理的に破壊してしまった。今ある「ジャングル」と呼ばれる施設は、サンガットが取り壊されたあとに人々が作った掘っ立て小屋やテントの集合体。フランス警察がブルドーザーで乗り込んでつぶしたり、人々を拘束したりしている。)
今そこにいる人を死なせないこと、生かすこと。Banksyというアーティストが、そこまでシリアスなことにかかわるようになるとは、彼が有名になりだしたころは思ってもいなかった。単に「きわめて《英国的》な、皮肉で超笑えるストリート・アートをやってる人」、「Prankをいろいろ成功させている芸術ゲリラ」として、にやにやさせてもらっていた。
パレスチナ(ヨルダン川西岸地区)の分離壁への「芸術ゲリラ攻撃」のときだって、ここまで「シリアス」ではなかった。
なお、私は現地にはいけるはずもなかったので、Exit through the Gift Shop見てました。「何なんだよ、これは」っていう映画だけど、ミスター・ブレインウォッシュみたいなあり方に明確に「それは違う」と言ってるBanksyが、今Dismalandをやってる(&やれてる)っていうのは、とても興味深い。
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タグ:Banksy
※この記事は
2015年09月29日
にアップロードしました。
1年も経ったころには、書いた本人の記憶から消えているかもしれません。
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