「なぜ、イスラム教徒は、イスラム過激派のテロを非難しないのか」という問いは、なぜ「差別」なのか。(2014年12月)

「陰謀論」と、「陰謀」について。そして人が死傷させられていることへのシニシズムについて。(2014年11月)

◆知らない人に気軽に話しかけることのできる場で、知らない人から話しかけられたときに応答することをやめました。また、知らない人から話しかけられているかもしれない場所をチェックすることもやめました。あなたの主張は、私を巻き込まずに、あなたがやってください。

【お知らせ】本ブログは、はてなブックマークの「ブ コメ一覧」とやらについては、こういう経緯で非表示にしています。(こういうエントリをアップしてあってもなお「ブ コメ非表示」についてうるさいので、ちょい目立つようにしておきますが、当方のことは「揉め事」に巻き込まないでください。また、言うまでもないことですが、当方がブ コメ一覧を非表示に設定することは、あなたの言論の自由をおかすものではありません。)

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2015年08月30日

「IRA内部での殺し合い」が、ストーモントの自治政府を機能停止させそうな件。

北アイルランド政治が、「なぜそんなことで膠着状態に陥るのか」ということで膠着状態に陥るのは単に「デフォ」だが、今また味わい深いことになっているのは「いつものこと」とはちょっと違う。「いつも」とは違う結果になる可能性が高い。つまり「ただの膠着状態」では終わらなさそうだ。

存在していて、同時に存在していないあの組織が存在していることが、あったりまえだのくらっかー的なことというか、「部屋の中の象」的なものではなく、(紛糾している状態を維持することは得意な政治家たちによって)「何か明確な反応を示すべき問題」となっている。UUPがストーモントの自治政府から離脱するのだ。(といっても、UUPは閣僚ポストは1つしか持っていない。)

党としての意思は既に決定されているが、正式な手続きが済むのは土曜日(8月29日)の予定で、そのための会合がもうすぐという段階のBBC News NIのトップページはこうなっている。(下記画像はクリッカブル。記事が上書きされると思うので現時点のもの→ https://archive.is/Wofs3



UUP党首、マイク・ネスビットの舵取りについて、アレックス・ケインさんがBTに書いている記事が非常に興味深い。(記事自体はネスビットの人となりを説明する部分がとても長いので、読むのには時間がかかるかもしれない。お茶いれてどうぞ)
http://www.belfasttelegraph.co.uk/opinion/debateni/uup-leader-mike-nesbitt-is-taking-his-biggest-gamble-yet-31486114.html
Removing the UUP from the Executive is the biggest risk he has taken. It will, almost certainly, lead to the collapse of the Executive in the next couple of weeks and nobody can be sure what happens afterwards. He is clearly up for an early election, reckoning that Robinson and the DUP are weaker than they were, yet not so weak that Sinn Fein could sneak into the First Minister's Office - an outcome that would damage Nesbitt.

But if there isn't an early election and if the DUP decides to play rough with him - and it's worth remembering that the DUP is at its most ruthlessly effective when its back is to the wall - then there could be a very unpleasant war between the two big unionist brands.

Nesbitt is also going to need to nail down a coherent, credible response to the question, "under what conditions would you return to an Executive that includes Sinn Fein"? He cannot go into an election without that answer.

The next election will be the most important election for the UUP since the 1998 Assembly election: which is when the first signs of decline were obvious. Nesbitt has raised the stakes by setting an agenda the DUP is not comfortable with. There are enormous risks for him, of course, but also enormous possible rewards. ...


ネスビットは元々政治畑の人ではなかった。リネン工場を経営する実業家の家に生まれたが、工場が1973年にボムられて家業が途絶え、ケンブリッジ大を経てベルファストのクイーンズ大学の修士課程にいるときにスポーツ・ニュースの分野でBBCで仕事を始め、その後UTVに移ってニュースキャスターとして活躍し、Victims Commissionを2年ほど率いたあと、2010年にUUPで政治活動を開始。そして、早くも2012年にUUP党首となって以降は、2000年代に一度は溶け去ってしまったかに見えたUUPが党勢を回復しつつある(と見られている)。そこで思い切った策に出た、というのがケインさんの解説だ。

そんなUUPの態度に、当初は否定的なことを発言していたDUPも、結局はUUPと同じように行動するしかないらしく、今度こそは本当に「あなた、ストーモントちゃんが、息をしていないの!」だ。

そのへんの流れは、タイムラインにて。
http://www.bbc.com/news/uk-northern-ireland-34083430

このあとがどうなるかはわからない。

これを引き起こしたきっかけというのが、IRA内部での殺し合いの発生と「IRA (Provisional IRA) がまだ存在している」ということで、そんなわかりきった、あったりまえのことで、今更何を……と思うのだが、そこはそれ、ほれ、例の「政治的駆け引き」ってことのようで、正直、何が何やら。

おかげでジェリー・アダムズの「根拠のよくわからない全否定」がまた見られるなど、マニアにはたまらない展開ではあるんですけどね。。。

というわけで、今回のこの事態の発端となった「IRA内部での殺し合い」について、少し書いておきます。

本題の前にもう少し。

アダムズの「全否定」。They haven't gone away you know! から20年が経過しての全否定。This is an ex parrot. 的な全否定。




BBC Newsで読むなら:
Sinn Féin's Gerry Adams says IRA 'has gone away'
23 August 2015
http://www.bbc.com/news/uk-northern-ireland-politics-34033753

この「全否定」の前に、こういうのもあった。

Gerry Adams rejects threats to Sinn Féin
21 August, 2015
http://www.sinnfein.ie/contents/36149

The killing of Kevin McGuigan was wrong and those who were involved in it are criminals who do not represent republicanism. The so-called group Action against Drugs is a criminal gang. It is a mix of criminals and former republicans who have engaged in intimidation and violence in pursuit of their criminal ends.

...

There has been a lot of speculation and media spin about whether the IRA was involved in the killing of Kevin McGuigan.

The IRA was not involved.

In July 2005 the IRA left the stage. Its leadership ordered an end to the armed campaign; its representatives to 'engage with the IICD to complete the process to verifiably put its arms beyond use' and instructed its volunteers to take part only in 'purely political and democratic programmes' and no 'other activities whatsoever'.

All of this was done as part of a genuine initiative to build a just and lasting peace and in support of the full implementation of the Good Friday Agreement. ...


……と、このように、北アイルランド名物の「曖昧話法」(「武装解除」ではなく「デコミッション」だし、put the weapons beyond useとか、ひどい場合はbeyond reachとか言うこともある)がキラキラまぶしい声明だが、この段階では「IRAはもういない」とは言っていない。「問題の殺人事件にIRAは関わっていない」と言っている。ということは、普通に論理的に読めば、「IRAは存在している(が、事件とは無関係だ)」ということだ。

それが2日後には「IRAはもういない」になった。

実に、味わい深いではないか。(・_・)

そして間に数日あって、UUPのこれである。




UUPは今、エグゼクティヴ(自治政府)の閣僚ポストは1つしか持ってないし、そのポストも「財務」とか「教育」といった大きなポストではないんだけどね。




さて、話は23日の時点にいったん戻る。なぜ今になって、北アイルランド警察のトップが「Provisional IRAは存続しているが、テロ活動には関わっていない」などということを言いだしたのか。

あまりにギャングランド的な2件の殺人事件のせいである。

北アイルランド、いろいろ続いている中でIRAの大物が射殺された。(3ヵ月後、報復と思われる殺人が…)
http://matome.naver.jp/odai/2143086835338806101


かいつまんで説明すると、こういう経緯だ――今年5月5日(ボビー・サンズの死んだ日)に、南ベルファスト(と言ってもベルファスト中心部と言ってもよいエリア)のマーケット地区で、ジェラード・「ジョック」・デイヴィソンという(元)IRAの大物が、プロの殺し屋の手口で射殺された。そして約3ヵ月後の8月12日、今度は東ベルファストのショート・ストランド地区で、ケヴィン・マギガンというやはり(元)IRAの大物が射殺された。どちらも40代。今から約20年前のPIRA停戦(1994年)のときに20代半ばという年齢である。

8月に殺されたマギガンは、5月に殺されたデイヴィソン殺害に関わっていると考えられている人物だった。

(BGM: ゴッドファーザーのサントラ……とかいうことをやってないとちょっと無理ですわ、この話)

そしてさらに、5月に殺されたデイヴィソンは、10年前、2005年に大西洋の向こうでまで政治問題化したロバート・マッカートニー殺害事件の……

デイヴィソン殺害時(2015年5月)のBBC記事より:
http://www.bbc.com/news/uk-northern-ireland-32590286
Gerard 'Jock' Davison, a former senior IRA figure in the city, was shot dead at his home in the Markets area on Tuesday.

In January 2005, the prominent republican was there on the night that Robert McCartney, a 33-year-old father-of two, was stabbed to death outside a bar.

The chain of events that led to Mr McCartney's death began inside Magennis's bar when his friend was involved in a row with Mr Davison that then spilled outside.
...

At first, Sinn Féin rejected claims that IRA members were present. The killing came at a crucial time for the party, when it was involved in delicate political negotiations aimed at securing its support for the police.

It would eventually become clear that IRA members had indeed been involved in the killing in Market Street, a narrow side street beside the pub.

Sinn Féin announced that it had suspended seven members of the party who were in the pub on the night of the murder, and the IRA even offered to shoot those responsible. (←ギャングランドすぎる)

While there were about 50 people in the pub on the night of the killing, none initially appeared willing to tell the police what they saw.

Witnesses eventually came forward and in 2008, Mr Davison's uncle Terence was put on trial charged with murder, and two other men were charged with affray.

All three were acquitted.


つまり、デイヴィソンは2005年1月、ロバート・マッカートニーさんがバーの外で刺し殺されたときにそのバーにいた。当初はシン・フェインは、事件現場にIRAのメンバーがいたということを否定していたが、結局はIRAのメンバーが殺害に関わったということは明らかになった。そしてシン・フェインはその晩、事件のあったバーにいた党員7人を党員資格停止とし、IRAはマッカートニーさん家族に「犯人わかったんですが、こっちで撃っとくということでよろしいですかね」などと伝えた(そしてマッカートニーさんご家族は驚き呆れ、報道機関もギャングランドっぷりを書きたてた)。事件のあった晩、バーの中には約50人がいたが、誰も警察に目撃証言をしようとしなかった(別の記事では「71人が、そのときはトイレに行っていたという」というありさまで、そのトイレが「ターディス」呼ばわり……)。そして2008年(「シン・フェインの警察支持」が決まった翌年)、ようやく目撃者が名乗り出て、それによりジョック・デイヴィソンのおじであるテレンス・デイヴィソンが殺人罪で、ほかの2人が喧嘩で起訴された。が、結局は無罪に。

起訴された被告らが無罪になったときの当ブログのエントリ(2008年6月28日)を見ると、私がキツネにつままれた状態であることがよくわかる。

それがようやく「霧が晴れた」状態になったのが、今年5月のジョック・デイヴィソン殺害時の記事だ。無罪となったテレンス・デイヴィソンいわく、殺されたロバート・マッカートニーさんの連れの人が口にした言葉がジョック・デイヴィソンの気に障り、その連れの人とデイヴィソンがパブの中で口論となった。マッカートニーさんが「そういうつもりで言った言葉ではない」ととりなして、その場は握手で終わったものの、ほどなく、連れの人とデイヴィソンの間で喧嘩となり、パブの外に。そして悲劇が起きた。発端は酔っ払いの喧嘩で、それぞれそこでその場を離れて家に帰っていれば、誰も死ななかったかもしれない。(ただしこの説明には、異論もあるという。)

ジョック・デイヴィソンはこのように「パブでの喧嘩」の当事者で、マッカートニーさん殺害と連れの人の傷害の中心的な人物だったというが、不起訴となっていた(なぜだろうね。こういうの、いっぱいあるよね、北アイルランドは)。

というわけで、2005年に南ベルファストのパブで起きたロバート・マッカートニーさん刺殺事件は、2008年に3人の被告が無罪となり、その後は誰も起訴されていない。今もなお未解決で、その事件の「中心的存在」と考えられているジョック・デイヴィソンが2015年5月に撃ち殺された。

しかし、10年も前のロバート・マッカートニーさん殺害事件の報復とは考えられず、警察はより新しい出来事を追っていると5月のBBC記事の記者の解説のところにある

そしてその3ヵ月後の8月に、ケヴィン・マギガンが殺された。マギガンはデイヴィソン殺害事件のあとに警察に事情聴取されていたという。
http://www.bbc.com/news/uk-northern-ireland-33896234

(BGM: ゴッドファーザーのメインテーマ

Mr McGuigan had been questioned by police after the murder of Jock Davison in the Markets area of Belfast three months ago.

Mr Davison, 47, was a former IRA commander and a former friend of Mr McGuigan.

The IRA pair were also founding members of the paramilitary group Direct Action Against Drugs (DAAD), which killed more than a dozen alleged drug dealers.

They were later involved in a feud, and Mr McGuigan was shot several times in a so-called punishment attack.

It was claimed that Mr Davison gave the order for that attack on his former friend.


昔は「盟友」だったんだね。

DAADというのは、1994年の停戦後にProvisional IRAが武装活動を行なう際に使っていた組織名で、「IRAの別働隊」のようなものだ。その標的は英軍や警察ではなく、コミュニティ内の「反IRA的活動をする者」で、当人たちはそれを「麻薬密売人」としていた。

北アイルランド紛争においてIRAはナショナリスト/リパブリカンのコミュニティで事実上の「警察」として機能していた。やることは「自分たちの秩序の維持」で、「パニッシュメント・シューティング」と呼ばれる銃撃(膝の皿を撃ち抜く。これが多発したので、北アイルランドの救急隊員やERの医師たちは、膝の皿にかけてはめっちゃ腕が良いという)が頻繁に行なわれた。「麻薬の密売」は「コミュニティの人々を破壊するもの」でもあり、厳しい懲罰対象だ、というのがDAADの理屈だった。

IRA本体が武器を置いているときに、従前どおりに武器を持って活動をしていたDAADの発起人(の中の)2人が、デイヴィソンとマギガンだったのだが、この2人はその後仲たがいをしていたという。

なお、1990年代後半の「和平」路線をめぐり、PIRAからReal IRAが分派したが、DAADもまた分派してRAAD (Republican Action Against Drugs) というのができた。デリーで活発な彼らは2012年にRIRAなどと合流して、現在「自称IRA」(一時はthe New IRA, the new IRAなどとも呼ばれた集団)となっている。(誰ですか、日本のギャングランドの話を連想してるのは)
https://en.wikipedia.org/wiki/Republican_Action_Against_Drugs

そうして分派していったReal IRA, RAADとは別に、Provisional IRA, DAADの活動は(少なくとも2005年のあの声明まではおおっぴらに)続いていたのだが、その後新たに組織となったのが、AAD (Action Against Drugs) ということのようだ。




「IRAの側の内部的いさかい」が、IRAを撲滅したい側によって政治的に利用されるということは、2005年のロバート・マッカートニーさん殺害事件のときに見られたことだ。このときは、結局、「シン・フェインは警察を支持する(IRAは自分で警察として振舞わない)」という具体的でなおかつ大きな前進が見られた。

今回はどうか。ユニオニスト側(というか少なくともUUP)は、「今のストーモント体制を終わりにする」ことを目指しているように見えるが(そしてそれは、「旗騒動」をやってるロイヤリスト過激派を喜ばせる)、アレックス・ケインさんがBTで書いていた通り、今のがいったん終わりということになっても、その後、シン・フェインの参画しない北アイルランド自治政府というものはありえない(それどころか、シン・フェインがDUPに代わって第一党になる可能性すら現実的にあるのだ)。

どうすんのかしらね、これ。




もうちょっとひねってくれれば無限ループが開始されてアイルランド成分が大量補給できそうな感じだが、それで補給してもたぶんものすごく悪酔いすると思う。







しかし、シン・フェインが「現状維持」を主張している(ように見える)のは、シュール。

最後にお笑いを一席。









※この記事は

2015年08月30日

にアップロードしました。
1年も経ったころには、書いた本人の記憶から消えているかもしれません。


posted by nofrills at 05:00 | TrackBack(1) | todays news from uk/northern ireland | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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北アイルランド、ストーモント体制は、本当に、もちこたえられないかもしれない。
Excerpt: さて、前項でみた「人名 (はぁと)」などのTwitterスパムは、ボビー・ストーリーの逮捕についてのツイートを見ていたときにあまりに目障りだったので記録しておくことにしたものだが(以前のTwitter..
Weblog: tnfuk [today's news from uk+]
Tracked: 2015-09-10 06:01

【2003年に翻訳した文章】The Nuclear Love Affair 核との火遊び
2003年8月14日、John Pilger|ジョン・ピルジャー

私が初めて広島を訪れたのは,原爆投下の22年後のことだった。街はすっかり再建され,ガラス張りの建築物や環状道路が作られていたが,爪痕を見つけることは難しくはなかった。爆弾が炸裂した地点から1マイルも離れていない河原では,泥の中に掘っ立て小屋が建てられ,生気のない人の影がごみの山をあさっていた。現在,こんな日本の姿を想像できる人はほとんどいないだろう。

彼らは生き残った人々だった。ほとんどが病気で貧しく職もなく,社会から追放されていた。「原子病」の恐怖はとても大きかったので,人々は名前を変え,多くは住居を変えた。病人たちは混雑した国立病院で治療を受けた。米国人が作って経営する近代的な原爆病院が松の木に囲まれ市街地を見下ろす場所にあったが,そこではわずかな患者を「研究」目的で受け入れるだけだった。

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