日本ではDVD化されているが、すでに入手困難なので、オンライン・ストリームを利用するのが手軽でよいと思う(楽天のストリーム、SHOWTIMEってなかなか渋い作品が入ってますね。『シリアの花嫁』は、なんとなくどんな映画があるのかなと見て回っているときに、「この映画を買った人はこんなのも買っています」の欄に表示されていたので「おお!」と思ったのだけど)。
![]() | シリアの花嫁 [DVD] CCRE 2009-10-02 by G-Tools |
いずれにせよ。
映画はイスラエルが占領し、実効支配するゴラン高原のある村に暮らすドゥルーズの一家の人間模様を、娘のひとりが結婚して「境界」の向こう側に行く日の一日のお話として描き出した作品で、構成の緻密さやキャストのよさも含め、見ごたえのあるとてもよい映画だ。我が物顔で人々の暮らしに入り込み、人々の移動や集会に目を光らせ、それを制限するイスラエルの支配は、「空気」のように描かれているが、それゆえますます不条理に見える。
結婚式の今日は、花嫁モナにとって最高に幸福な日となるはずだ。
けれど、彼女も姉のアマルも、悲しげな顔をしている。なぜなら、一度“境界線”(現在の軍事境界線の意)を越えて花婿のいるシリア側へ行ってしまうと、二度と家族のもとへ帰れないのだから。
彼女たちをはじめ、家族もみな、国、宗教、伝統、しきたり…あちこちに引かれたあらゆる境界に翻弄され、もがきながら生きていた。モナは決意を胸に、家族とともに“境界線”へと向かうが、そこで待ち受けていたのは、通行手続きを巡る思わぬトラブルだった…。
http://www.bitters.co.jp/hanayome/intro.html
1時間40分弱、時間をかけて見る価値のある映画だ。ストリーミングで気軽にレンタルできることを素直に喜びたい。
モナ(主役というには影が薄い)には姉のアマル(強烈な存在感)のほか、2人の兄がいる。長兄は村のしきたりを破ったので親に勘当され村から追放されたが、モナの結婚式のために戻ってきた。次兄はイタリアで怪しげな商売をして羽振りがよいらしいが、「ステレオタイプのイタリア人のパロディ」になっている。
ステレオタイプなのは次兄だけではない。母親はどっしりとした「主婦」で「おかあちゃん」、父親は「気骨ある政治活動家」で、アマルの夫は「冴えないわりに横暴な保守的な男」だ。今回見直して、これはひとつの「寓話」だなあと強く感じたのは、登場人物たちが類型的だったせいかもしれない(「ゴラン高原って、こんなふうなのかあ」というのが印象的だった初見ではそうは感じなかったが)。
監督はイスラエルのエラン・リクリスで、出演者は、主要キャストはイスラエリ・アラブ(イスラエル国籍を持つパレスチナ人)で、IMDBを見ると、この映画(モントリオール国際映画祭グランプリ)のあと、ハリウッド映画やアメリカのTVドラマに出ている人もちらほら。。。
さて。
最初に見たときは、シリアにほぼ興味がなかったのと(「イラク戦争と、その後のセクタリアン紛争により、イラク人が亡命していく先だが、バアス党だ」と認識していた)、ストーリーの展開にぽわんとなって記憶から飛んでしまったようだが、映画の最初のほうで、2011年の「アラブの春」であちこちのデモ隊から聞こえてきたあのリズムのスローガンが聞こえる。
オープニング・シークエンスで、花嫁の支度をするため、坂の多い道を歩いて美容院へ向かうアマルとモナと、アマルの娘たちの場面で、町のあちこちに黒い旗が掲げられている。
それが「信仰」を表す旗だと教えられたのは、「アラブの春」でのことだった。最初に『シリアの花嫁』という映画をみたときは、気にもとめなかった。
まさか楽天のオンライン配信にあるとは、と先日驚いた映画『シリアの花嫁』、見た。初見では映画として楽しく見ながら、イスラエルの占領という問題が話が進むにつれてぼやーっとしてくるのがううむ、だったが、今見るとこの戯画化された「シリア」が… http://t.co/Gc7ASy5vaP
— nofrills (@nofrills) July 26, 2015
「官僚主義的で融通がきかない」といういかにもな専制国家のありよう、「芸能人は、政治的なことはほっといて、芸を見せろ」とかいうムード。などなど。
『シリアの花嫁』は、映画としてはとてもおもしろいしよくできてる。でも、その「とてもおもしろい映画」に内在する「イスラエルのリベラル・シオニストの限界」(See http://t.co/xBOYMSDZNh 2009年の早尾さんの解説文)は、年月を経てますます際立って見えると思う。
— nofrills (@nofrills) July 26, 2015
この映画 http://t.co/Gc7ASy5vaP は、ゴラン高原が舞台だが、カメラが基本的にずっとイスラエルが実効支配する側にあり、無国籍状態に置かれているドゥールーズ派の人々(主人公一家)の次にみっちりと描写されているのがイスラエルの警官、軍人、イミグレ担当の役人で、…
— nofrills (@nofrills) July 26, 2015
…シリア人は描写らしい描写をされているのは結婚相手のテレビ俳優だけといってよい。その彼も仕事がコメディ俳優だし、ほかに出てくるシリア人(国境で任務についている軍人など)も極めて類型的だ。http://t.co/xBOYMSDZNh で指摘されているのはそういう問題。
— nofrills (@nofrills) July 26, 2015
映画 http://t.co/Gc7ASy5vaP の背景は、ハーフィズ・アサドが死に、バシャール・アサドが大統領に就任したころ(2000年7月)で、主人公たちが暮らすゴラン高原の村では、「バシャール・アサドを支持するデモ」が行われている(今日再見するまで、忘れていた)。
— nofrills (@nofrills) July 26, 2015
映画『シリアの花嫁』はエンドロールまで見て1時間40分弱。 http://t.co/Gc7ASy5vaP 特に予備知識なく見ても映画の中でかなりしっかり説明されているので、「難しくてわからない」ということはないと思う。予告編: https://t.co/4Sv3mJBapn
— nofrills (@nofrills) July 26, 2015
しかし、この映画が「ゴラン高原のこの村から外に出ることが『生きる』こと」というメッセージを発していることの意味をどうしても考えてしまうな(ロシア人医師と結婚して勘当された弁護士の長男、イタリアでチャラい系の商売をしている女たらしの次男、ほかでもないハイファ大学入学許可を得る姉)。
— nofrills (@nofrills) July 26, 2015
2004年の映画。2006年のレバノン南部の攻撃もまだ行われていなかったころの。
※この記事は
2015年07月27日
にアップロードしました。
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