kafranbel-aug2011.jpgシリア緊急募金、およびそのための情報源
UNHCR (国連難民高等弁務官事務所)
WFP (国連・世界食糧計画)
MSF (国境なき医師団)
認定NPO法人 難民支援協会

……ほか、sskjzさん作成の「まとめ」も参照

お読みください:
「なぜ、イスラム教徒は、イスラム過激派のテロを非難しないのか」という問いは、なぜ「差別」なのか。(2014年12月)

「陰謀論」と、「陰謀」について。そして人が死傷させられていることへのシニシズムについて。(2014年11月)

◆知らない人に気軽に話しかけることのできる場で、知らない人から話しかけられたときに応答することをやめました。また、知らない人から話しかけられているかもしれない場所をチェックすることもやめました。あなたの主張は、私を巻き込まずに、あなたがやってください。

【お知らせ】本ブログは、はてなブックマークの「ブ コメ一覧」とやらについては、こういう経緯で非表示にしています。(こういうエントリをアップしてあってもなお「ブ コメ非表示」についてうるさいので、ちょい目立つようにしておきますが、当方のことは「揉め事」に巻き込まないでください。また、言うまでもないことですが、当方がブ コメ一覧を非表示に設定することは、あなたの言論の自由をおかすものではありません。)

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2015年07月21日

ideologistを(「アイデオロジスト」ではなく)「イデオロギスト」と読むのはどこソース?

ずーっと以前のことだが、人と話をしていて「イデオロギー」の意味がかみ合わず、話が混乱してしまったことがある。私は相手も英語でものを読んだりしている人だと思っていたのだが、実は日本語モノリンガルで、一方の私は、自分の言葉として「イデオロギー」という言葉を使ったことはほとんどなかったし、つまり日本語の「イデオロギー」の意味合い(「意味」ではなく「意味合い」)がまるでわかっていない(そういう世代じゃないし、「イデオロギー」だの何だのという言葉を振り回して「政治的な自分」を気取っていたタイプでもない)。シニフィアンが同じでもシニフィエが違っていれば、話が通じるわけがない。(同じことは「右翼」という語でも起こる。)

0860915387Ideology: An Introduction
Terry Eagleton
Verso 1991-04-17

by G-Tools


4582762816イデオロギーとは何か (平凡社ライブラリー)
テリー イーグルトン Terry Eagleton
平凡社 1999-03

by G-Tools


さて、その「イデオロギー」だが、英語では "ideology", 英語以外の欧州の言語の多くでは "ideologie" と綴る(言語によってはアクサンがつく)。読み方は、言語によっていろいろだが、英語では「アイディオロジー」「イディオロジー」(最後のg音が「ジ」であることに注意。edge, genuineのg音であり、get, photographのg音ではない)。

日本語の語彙に取り入れられたideologieの音(「イデオロギー」)は、広く知られているように、ドイツ語由来である

さて、ここで "ideology/ideologie" から派生した "ideologist" という語がある。私は日本語のほかは英語しかできないので、英語以外の言語ではどうかは知らないが、英語は実はめんどくさい言語で、外来語に英語の接尾辞をつけてみたりとかいうこともあるので、「フランス語ならそこ、別々の単語になってないでしょ」みたいなことがいろいろある(フランス語と英語の機械翻訳はそういうところで混乱することがある)。なので、英語のこの "ideologist" という語が英語以外の言語にも存在するのかどうかといったことを調べてみようと思った。

というのは、"ideologist" は「アイデオロジスト」(もしくは「イデオロジスト」)と読むと思うのだが、「イデオロギスト」というカタカナ表記を見かけたからだ。




「アイデオロジスト」はカタカナ語としては定着しておらず、英文中に "ideologist" という語が出てくれば、文脈に応じて、「理論家」、「活動家」、「○○主義の信奉者」などという日本語にするのが普通の翻訳だと思う。

実例を求めてGoogle Newsで検索してみると、次のような例が見つかった。最初の例は「(グループ24運動の)理論家」、あるいは「(グループ24運動の)理論的支柱」だろう。2つ目の例は「理論家」、「活動家」などいくつかの訳語がありえるので、当該の人物についてもう少し調べてからでないと確定ができない(翻訳という作業はこういう文字にならない作業の積み重ねである)。3番目は「ネオコン理論の推進者」くらい踏み込んでいいだろう。

The founder of the Group 24 movement, its ideologist and inspiration, is Umarali Quvvatov, a businessmen who had fled Tajikistan several years ago. Up until 2012, he was the head of Faroz, one of the most successful companies in Tajikistan that was supplying fuel to the NATO forces in Afghanistan.

http://www.silkroadreporters.com/2015/07/20/is-tajikistans-group-24-capable-of-becoming-real-opposition/

Maria Gaidar is the daughter of Yegor Gaidar, an ideologist of liberal economic reforms in Russia in the 1990s.

http://in.rbth.com/news/2015/07/20/new_vice-governor_of_ukraines_odessa_region_doesnt_want_to_renounce_russ_44307.html

William Kristol, the editor of The Weekly Standard and an ideologist of the neoconservatives, is quick to say that he does not support Trump...

http://www.newyorker.com/news/daily-comment/the-trump-balloon


いずれにせよ、「イデオロギスト」というカタカナ語は私には奇妙なものに見えるし、聞いたことがない響きがする。




何が「あ(察し)」かというと、検索してみたらこういうものが表示されたのである。「まいまいなんちゃら」などなど。

gglsrc.png


※ちなみに「デマゴーグ」は「デマをまく人」の意味で、「デマ」はフル表記するなら「デマゴギー」である。この「デマ」という日本語もドイツ語由来で、英語では通じない(というか、「あえて外国の言葉を使っている」ようになる。Tsunamiなどと違い、英語に外来語として入っていない)。英語では「デマ」を表すためには、rumour, false rumour, baseless rumour, nonsenseなど、その文脈に適した表現が用いられる。(なお、ドイツ語の「デマゴギー」の元はもちろんギリシャ語だが、そういうことを言い出したら欧州系の用語はほぼすべてギリシャ語由来かラテン語由来になる。「日本語に入ったときの音」の由来をのみ言う場合には、そこまでさかのぼる意味はない。)

話があちこちふらふらするが、"ideology/ideologie" は18世紀末のフランスで用いられたことから定着した語である。思想家が、市民革命の激動と動乱の時代に、ideaと-logyをくっつけて新しい概念を語ろうとしたのである。

The term "ideology" was born in the highly controversial philosophical and political debates and fights of the French Revolution, and acquired several other meanings from the early days of the First French Empire to the present. The word was coined by Antoine Destutt de Tracy in 1796, assembling the words idea, from Greek ἰδέα (near to the Lockean sense) and -logy, from -λογία. He used it to refer to one aspect of his "science of ideas" (to the study itself, not the subject of the study). ...

https://en.wikipedia.org/wiki/Ideology


※フランス語世界のことを英語で描写されることに不安を覚える方は、フランス語のウィキペディアのエントリをご参照ください。

というわけで、"ideology/ideologie" は、がっさり言えば「考え、理論」であるが、その「中の人」(すなわち「理論家、思想家」などと日本語にしうるもの)を表す語もある。「イデオローグ "ideologue"」である。

According to Karl Mannheim's historical reconstruction of the shifts in the meaning of ideology, the modern meaning of the word was born when Napoleon Bonaparte (as a politician) used it in an abusive way against "the ideologues"

https://en.wikipedia.org/wiki/Ideology

Napoleon Bonaparte took the word "ideologues" to ridicule his intellectual opponents. Gradually, however, the term "ideology" has dropped some of its pejorative sting, and has become a neutral term in the analysis of differing political opinions and views of social groups.

https://en.wikipedia.org/wiki/Ideology


この、"ideologue" という語(ナポレオン・ボナパルトが否定的なニュアンスで用いたというが、それはたぶん「頭でっかちのモヤシ野郎」的な意味合いだったことだろう)については、フランス語版に英語版よりは詳しいが簡単な説明がある。1796年に "ideologie" という語を中身のある語として使ったAntoine Destutt de Tracyが中心となった思想家集団(1795年〜)が、La société des idéologues(イデオローグ協会)という集団だった。
https://fr.wikipedia.org/wiki/Soci%C3%A9t%C3%A9_des_id%C3%A9ologues

つまり、フランス語では、
  ideologie - ideologue
という関係が最初からあったと考えてよかろう。(そのideologueに先行する語としてideologistがあったという可能性は、ここではまだ否定されないかもしれないが。)

となると、英語の ideologist とは何か。

"ideologist" という語は、あまりドイツ語っぽくはないのだが、ページを開いているついでに "ideologie" のドイツ語のページに飛んで、確認をしてみた。ただし私はドイツ語は「グーテンモルゲン」しか知らないレベルである。それでも長文の中で固有名詞を拾えればなんとか該当する部分が見つけられるのが、欧州の各言語の百科事典だ(だからGoogle翻訳のような芸当が最初っから想定されうるものになる)。

Den Machtansprüchen von Napoléon Bonaparte standen die spätaufklärerischen Ideologen im Weg. Das Programm von Destutt de Tracy und Condillac, die Freiheit als höchsten Wert ansahen, erschien dem Diktator als bedrohlich. Napoleon nahm eine polemische Abgrenzung vor, indem er die Gruppe der renommierten Idéologistes abwertend als Idéologues bezeichnete.

https://de.wikipedia.org/wiki/Ideologie


をを。この記述の重要そうなところをGoogle翻訳でドイツ語→英語にすると(※この工程は、ドイツ語が読める人には不要):
Napoleon undertook a polemic demarcation , by describing the group of renowned Idéologistes pejoratively as ideologues .


つまり「ナポレオン・ボナパルトは著名なideologistたちをけなすために、ideologueと呼んだ」という話だ。

だが、18世紀末〜19世紀初頭の時点でideologistという語が用いられていたのか、ドイツ語版ウィキペディアのこの記述の語は、後世の一般語が説明のために使われているのかは、私の能力では判断・検証できない。

いずれにせよ、ドイツ語圏でもideologistという語が使われている例は確認できたので、「ドイツ語のideologistという語が日本語に入ってきたのが、自称保守のみなさんがよく使っておられる『イデオロギスト』なのか」ということでさらに確認すると……あらま。基本的に、ドイツ語の語彙じゃないんですかね。独英辞典ばかり。。。

gglsrc2.png


そして、ドイツ語でideologistという語を使っていそうな雰囲気は、まるでない。。。



というか、最初から素直に、Wiktionaryで見てればよかったのかもしれないけど:
https://en.wiktionary.org/wiki/ideologist
Translations:
Finnish: ideologi
French: idéologue (fr) m, f
Galician: ideólogo
German: Ideologe m, Ideologin f
Polish: ideolog m
Romanian: ideologist m, n, ideologiste f pl, ideolog (ro) m, ideologi m pl


うむ。-ist語尾があるのはルーマニア語だけ(ルーマニア語はイタリア語に近い)。というか、ドイツ語では男性形が "Ideologe" で、女性形が "Ideologin" になってる。

さっきのウィキペディアでも、"Ideologen" という語は出てきている。
Den Machtansprüchen von Napoléon Bonaparte standen die spätaufklärerischen Ideologen im Weg. ...

https://de.wikipedia.org/wiki/Ideologie


というわけで、ドイツ語では("ideologist" ではなく) "Ideologe" (複数形がIdeologen)という単語を使うのだということは確認が取れた。一応、ウィクショナリー。
https://en.wiktionary.org/wiki/Ideologe#German

ということは、「イデオロギスト」という奇妙な響きの日本語は、その語がドイツ語圏で意図される意味を表すために一般に用いられている語とは異なる英語の単語であるということを認識せず、「イデオロギー」と同じようにドイツ語読みした結果だろう。

ちなみに、英語はほんとに摩訶不思議で、「イデオローグ ideologue」も「アイデオロジスト ideologist」もどっちも使われている。今はそれぞれの意味はたぶん少し違うのだが、語源で見ると「アイデオロジスト」は「イデオローグ」の古いもの、などと書かれていて、頭が混乱する(フランス革命の思想家たちは「イデオローグ」を自称していたわけで、「イデオローグ」のほうが古いのではないのか、などなど)。

下記の語源解説は、「確認できる限り、『イデオローグ』が英語に入ったのは1815年だが、それより早く1798年には『アイデオロジスト』が確認されている」という意味。最初に「アイデオロジー/イデオロギー」という語を定着させたというAntoine Destutt de Tracyの文筆活動が1795年とか1796年なので、タイムラグがかなりある。





これ以上は私が「ネットで検索」した程度で確認できる範囲を超えていると思うので、ここで打ち切り。

ちなみに、ラルースの仏英辞典の結果はこれ。





追記







こういうふうに表示される。








あと、日本語圏での「イデオロジスト」は、「イデオローグ」とは異なり、専門用語っぽく使われている例が多いのかなあという印象。しかしこれは、上で見た諸言語版ウィキペディアによると「イデオローグ」のことではないのかと。。。(@_@) あたまがこんらんしてきた。

百科事典マイペディアの解説

イデオロジスト
カバニス,デステュット・ド・トラシーなど,フランスのいわゆる〈観念学派〉をいう。彼らは,とりわけコンディヤックの感覚論の影響下に観念の起源や特質を研究し,これをイデオロジー(観念学)と称した。

https://kotobank.jp/word/%E3%82%A4%E3%83%87%E3%82%AA%E3%83%AD%E3%82%B8%E3%82%B9%E3%83%88-818047


イーグルトンの本に書いてあるかな。。。夏に読みたい本じゃないんだけど。。。

※この記事は

2015年07月21日

にアップロードしました。
1年も経ったころには、書いた本人の記憶から消えているかもしれません。


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【2003年に翻訳した文章】The Nuclear Love Affair 核との火遊び
2003年8月14日、John Pilger|ジョン・ピルジャー

私が初めて広島を訪れたのは,原爆投下の22年後のことだった。街はすっかり再建され,ガラス張りの建築物や環状道路が作られていたが,爪痕を見つけることは難しくはなかった。爆弾が炸裂した地点から1マイルも離れていない河原では,泥の中に掘っ立て小屋が建てられ,生気のない人の影がごみの山をあさっていた。現在,こんな日本の姿を想像できる人はほとんどいないだろう。

彼らは生き残った人々だった。ほとんどが病気で貧しく職もなく,社会から追放されていた。「原子病」の恐怖はとても大きかったので,人々は名前を変え,多くは住居を変えた。病人たちは混雑した国立病院で治療を受けた。米国人が作って経営する近代的な原爆病院が松の木に囲まれ市街地を見下ろす場所にあったが,そこではわずかな患者を「研究」目的で受け入れるだけだった。

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▼当ブログで参照・言及するなどした書籍・映画などから▼