「なぜ、イスラム教徒は、イスラム過激派のテロを非難しないのか」という問いは、なぜ「差別」なのか。(2014年12月)

「陰謀論」と、「陰謀」について。そして人が死傷させられていることへのシニシズムについて。(2014年11月)

◆知らない人に気軽に話しかけることのできる場で、知らない人から話しかけられたときに応答することをやめました。また、知らない人から話しかけられているかもしれない場所をチェックすることもやめました。あなたの主張は、私を巻き込まずに、あなたがやってください。

【お知らせ】本ブログは、はてなブックマークの「ブ コメ一覧」とやらについては、こういう経緯で非表示にしています。(こういうエントリをアップしてあってもなお「ブ コメ非表示」についてうるさいので、ちょい目立つようにしておきますが、当方のことは「揉め事」に巻き込まないでください。また、言うまでもないことですが、当方がブ コメ一覧を非表示に設定することは、あなたの言論の自由をおかすものではありません。)

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2015年02月20日

「観客席で差別主義のお歌ががんがん歌われる試合のテレビ中継などすべきではない」と主張した解説者が番組を下ろされた。

さて、前項に引き続き、チェルシーにくっついてる差別主義者がやらかした件で延焼中の件、スタン・コリモア編。

スタン・コリモアは1971年生まれ。90年代にリヴァプールやアストン・ヴィラなどのクラブでプレイし、イングランド代表歴もあるストライカーで、2001年に現役を引退したあとは主に解説者の仕事をしている。
http://en.wikipedia.org/wiki/Stan_Collymore

現役時代にガールフレンドを殴るという問題を起こしており、また引退後も変な問題を起こしてBBC Radioの解説の仕事をクビになっている。Twitterはかなり早い時期から積極的に使っているが、過去の問題だけでなく、新たに問題にされるような政治的な発言もよくしていて、しょっちゅう「炎上」している。一度は「Twitterをやめる」ところまで行っていた(一度ではないかもしれない)。観客としては、彼の名前がtrendsに出てると「今度は何の《お騒がせ》ですか」とポップコーンを持ってモニターの前に座りたくなるような「キャラ」だと言ってよいだろう。本人はまじめにやっているのだと思うが。

で、「人種差別」関連で発言することも多い彼が、今回のパリのメトロでの一件で黙っているはずはないのだが、それについての発言は「炎上」の余地のない、良識的で穏当なものだった。






元々コリモアは「うざい奴」扱いされているので、「うるせーよ、お前関係ないじゃん」と言われて「おまえらのクラブがアフリカやアジアや《マーケット》でどうなのかって点では、関係ないとは言えないんじゃないの」とやり返すくらいのことはあるし、それがヒートアップして「炎上」することもあるだろう。でもそれだけでは名前がtrendsに載るということはなかったはずだ。何があったのかと見てみれば……



BT Sport(衛星&ケーブルTVのスポーツ専門チャンネル)でのサッカー解説から下ろされたって? o_O

いったい何が……と、記事を見る前にTwitterをさかのぼってみると……あー。(^^;)




Famine Song周りを

つっついたんですね。

(・_・) 説明されなくてもわかるわー


↓↓↓この件です↓↓↓
2008年09月17日 グラスゴー、Old Firmの「お歌」の応酬について――背景は北アイルランド紛争です。
http://nofrills.seesaa.net/article/106686530.html










レンジャーズはあれを「文化」としておきたいから(なぜならああいうのを「文化」としておきたい人たちがサポには少なくないから……グラスゴーでどうかというより、もうひとつの大きなファン・ベースである北アイルランドでどうか、ということなのかもしれないけれど)。あれにうんざりしているレンジャーズのサポの人たちも大勢いるんだけど(北アイルランドにも)。










後半開始時に、中継の実況のアナウンサーが、「前半で、セクタリアンなお歌が歌われたので警察に連絡しました」と視聴者に説明している。コリモアは「こんな試合の放送でCM流されてもスポンサーは困惑するだろう」と言っている。

さらに燃料投下するコリモア兄さんパネェ。










FLEGS!






というわけで、スタン・コリモアが「レンジャーズのサポ席のお歌を何とかしろ」と言いだしたところでレンジャーズのサポが「女を殴って問題になった奴が、どの口で言う」と反撃し(日本語圏でもよく見ますね、「平和主義を訴える奴が、家では暴力的だ」とかいうの。この論法はユニヴァーサルなんでしょうね)、番組の側に苦情を浴びせたのだろう。結局はこういうことになり……




これが上で見たガーディアンのツイート(中身はPAの配信記事)。

Stan Collymore reveals BT Sport has dropped him as a football pundit
http://www.theguardian.com/football/2015/feb/20/stan-collymore-bt-sport-dropped-football-pundit
The outspoken broadcaster had called for Rangers to be pulled off the television if their fans continue to sing sectarian songs.

After announcing the news on Twitter, Collymore became locked in a fiery online exchange with some sports fans, many of whom brought up his violent past and domestic violence.

It had been triggered after Collymore backed a petition which said: “Boycott sponsors Sectarian chanting is illegal. Demeaning.”

He urged his Twitter followers to show their support and said if they signed the petition, he would “take it to every sponsor and tv/radio station i know.”

つまり、コリモアは(観客席でひどいお歌が歌われている以上は)レンジャーズの試合をテレビで流すなと主張し、「レンジャーズの試合のテレビ中継のスポンサーをボイコットしよう」という署名を呼びかけている。

コリモアはイングランドの人で、黒人として差別にさらされてきたけれど、スコットランドのチームに所属したことはなく、もちろんグラスゴー・ダービーはプレイヤーとしては経験していない(コリモアが引き合いに出しているガッザことポール・ガスコインはレンジャーズにいた。そしてかなりひどい煽動をしていた)。

そういう彼の発言だから、レンジャーズの「サポ」としては「部外者が何を言うか」という反応が一番にくるだろうし、それゆえによけいに激しいことになっているのだろうと思う。放送席に座っているコリモアがレンジャーズのあれを「ヘイトスピーチ」として認識しているということをこれだけはっきり示したことは、それ自体がかなり大きなことだ。

「ヘイトスピーチ」を指摘すると「これは文化だ、部外者が口出しする問題ではない」とキレられるということはあまりにありふれたことである。フランスの下劣な、「風刺画」を自称する《他者 les autres》への偏見の垂れ流しをめぐる態度、「スンニ派」による「シーア派」差別(あるいはその逆)のようなこと、"not all men" 的な現象、などなど。








コリモアは、彼の発言が気に食わないといって彼を番組から下ろすように働きかけるという現象が生じたことを、mob ruleと呼んでいる。そしてさらに発言は加速する。













で、これと「パリのメトロでチェルシーにくっついてる人種主義者がやらかした件」と何の関係があるのかというと……ヘラルドの記事より。




He went on an online tirade after more than 2,500 signed a petition calling for his sacking after he linked the club to racist groups such as the National Front and Combat 18.

The row began after he commented on a racist incident in Paris where a black man was pushed off a train by a group of what appeared to be Chelsea supporters travelling to the Parc des Princes stadium for Champions League match against Paris St Germain which ended in a 1-1 draw.

He tweeted: " As I said a couple of weeks ago, Rangers and Chelsea, aka 'The Blues Brothers', made for each other. Quelle surprise.#NF #BNP #C18."

つまり、パリでの一件を受けて、コリモアが「あれは極右」ということで、「数週間前に言った通り、レンジャーズとチェルシー、つまり『青い兄弟(ブルース・ブラザーズ)』はお似合いのカップルだ #ナショナルフロント #BNP #コンバット18」とツイートしたことが発端。

Gersがそうだということは、パリの一件には直接は関係ないのだが、チェルシー・ヘッドハンターズのC18やらNFやらの分子は北アイルランドのユニオニストとつながっていて、北アイルランドのユニオニストは全体的にGersのサポなので、Gersのセクタリアン・ソングに業を煮やしていたコリモアの連想がこのように働いたことは不自然なことではない。

しかし、レンジャーズのサポさんたちにしてみれば、明らかなとばっちりでしかなく、「えっ、うち?!」となるのが当然だろう。

でも、あの醜いセクタリアニズムを解消しようという気がないのは、どうなのだろう。北アイルランド紛争はもう終わっている。いまや、グラスゴーのあれは、北アイルランド紛争が終わったあともなお続いている紛争のメンタリティの、主要な補給源として機能するようになっているんじゃないか。

Earlier this week the SPFL said it would take no action over the singing of offensive songs and the display of a banner at the League Cup semi-final between Rangers and Celtic.

The match at Hampden saw 12 arrests for sectarian offences.

http://www.heraldscotland.com/news/home-news/stan-collymore-campaigns-for-a-rangers-boycott-over-sectarian-chants.118921433

「グラスゴー・ダービー」は(今はレンジャーズが下部にいるのでカップ戦だけだが)ちょっとやそっとで消えるものではないだろう。少なくとも、それを維持するためにセクタリアニズムを「文化」の一部として維持しなければならないということはない。いまだに「フィニアンの血」なんて歌っているというのは、相当に情けないことなのだけど……。

コリモアの怒りの連投は、まだ続いている。(寝てないんじゃないかなあ。眠れないのかもしれないけれど)








無言でこの写真(北アイルランドのUVFのパレードのときのもの。ただし場所はよくわからない)……



※後ろにいる赤毛の少年が着てるのがレンジャーズのレプリカ・ユニ。




スタン・コリモアが呼びかけている署名がこれ。

※この記事は

2015年02月20日

にアップロードしました。
1年も経ったころには、書いた本人の記憶から消えているかもしれません。


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【2003年に翻訳した文章】The Nuclear Love Affair 核との火遊び
2003年8月14日、John Pilger|ジョン・ピルジャー

私が初めて広島を訪れたのは,原爆投下の22年後のことだった。街はすっかり再建され,ガラス張りの建築物や環状道路が作られていたが,爪痕を見つけることは難しくはなかった。爆弾が炸裂した地点から1マイルも離れていない河原では,泥の中に掘っ立て小屋が建てられ,生気のない人の影がごみの山をあさっていた。現在,こんな日本の姿を想像できる人はほとんどいないだろう。

彼らは生き残った人々だった。ほとんどが病気で貧しく職もなく,社会から追放されていた。「原子病」の恐怖はとても大きかったので,人々は名前を変え,多くは住居を変えた。病人たちは混雑した国立病院で治療を受けた。米国人が作って経営する近代的な原爆病院が松の木に囲まれ市街地を見下ろす場所にあったが,そこではわずかな患者を「研究」目的で受け入れるだけだった。

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