被害者(乗り込もうとして小突かれ、罵倒された人。33歳のスレイマン・Sさん)が "These people, these English fans... should be locked up." (ああいう人たちは出てこられないようにすべき)とフランスのメディアに語っていることをBBCなどが報じている。
In the interview with Le Parisien, Souleymane S said he had not been particularly surprised by the abuse because he "lives with racism".
The father of three, a French-Mauritanian born in Paris, said he had not understood what the fans were saying but that he knew he was being targeted because of the colour of his skin.
スレイマン・Sさんはモーリタニア系の人でパリ生まれ。「レイシズムは常について回っていた」ことで特に驚きはしなかったと言うが、それ自体が残念で悲しいことだ。あの連中の言っていることはわからなかったが、肌の色ゆえに標的にされているということはわかったと語っている。
記事はこの先がつらい。いわく、「駅員が来たが、単に喧嘩にならないようにするだけだった」といい、撮影されていることには気づいておらず、ああいうことがあったとは誰にも言わずにいた。スレイマンさんには3人の子供がいて、その子供たちに何て言ったらいいかわからないと彼は言う。「パパは黒人だから、地下鉄で小突かれたんだよなんて言えますか?」。しかしああいうことがあったことが公にされた現在、警察に訴える自信がついたともいう。「ああいうことをして、誰も罰されないなんてことがあってはなりません」……ということは、メディアで騒ぎになっていなければ、この人はこの体験をぐっと飲み込んでこらえていたということだ。
(日本では「フランスではヘイトスピーチは即逮捕」だの「逮捕実刑」だのといったことがまことしやかにささやかれているようだが、根拠など特にない話なのでご注意を。)
また、現場を記録した人が、そのときの状況などを複数のメディアで語っている。撮影者はパリ在住の英国人、ポール・ノーランさん。
Why I filmed Chelsea fans on the Paris Métro
http://www.theguardian.com/world/2015/feb/18/why-filmed-chelsea-fans-paris-metro
この記事は、ガーディアンのハルーン・シディク記者がノーランさんに話を聞いてまとめたものだ。
いわく、ノーランさんは仕事からの帰宅途中だった。地下鉄のホームに降りたときに混雑した列車が入ってきた。どうも様子がおかしかった。何人かが叫んでいて、イングランド人がいることは明らかだった。「チェルシー、チェルシー」とチャントしていた。
ノーランさんは試合があるということを知らなかった(チェルシーのファンではないのだろう。あるいはサッカーに関心がないのかもしれない)。
それらのチェルシーのサポーター(と呼ばれている人々)は、何人かの人を列車の外に押し出していた。言葉で侮辱し、失せろなどと言っていた。それはパリ・サンジェルマンのサポーターだった(マフラーを着用していた)。「うぜぇな、刺すぞ」とも言っていた。ホームにいる人に小銭を投げつけてもいた。
列車は既に2,3分停車したままだった。ドアが閉められないようだった。ある車両は乗っている多くがチェルシーのサポーターで非常にやかましく、降りてくる人もいた。その車両の人たちのところだけドアが開いていた。ノーランさんは携帯電話を取り出してこっそり撮影した。ジャーナリストとして仕事をしてきた彼は、目の前の光景にひどく憤っていた。
そのときに、問題の出来事が起きた。黒人男性が乗り込もうとしたら押し出され罵倒された。小突かれ人前で恥をかかされたその男性がもっと小柄だったら地面に倒されていたかもしれない。ノーランさんは、「同じ英国人として、あの集団の行動を恥ずかしく思いました」と言っている。
ノーランさんはビデオをガーディアンに送った。取り上げられなければそれはそれでいいと思っていて、このような大きな反響になるとは思っていなかったという。メディアからの取材の申し込みがひっきりなしだというが、彼自身、これがロンドンやマンチェスターでの出来事だったら驚いていなかっただろうと語っている。「こういうことは起こるものです。ショッキングだったのは、ここはパリで、ああいう英国人を見るとは思っていなかったからです」と彼は言う。
実際、私も最初にTwitterでビデオを見たときに、「なんでこの人たち、パリにいるの?」としか思わなかった。年齢もさほど若くなく、15年前には既に「サッカー暴動にかかわるフーリガン」として当局にマークされていただろうなという年齢で、ああいう暴れ屋さんたちは、パスポート没収対象のはずじゃないかと思ったのだ(実際、Euroとかワールドカップのときはパスポート没収されているのではないかと思う)。
が、Chelsea Headhuntersのウィキペディアの記述を見て、昨年もパリの街で大暴れしていたということを知って驚愕したというか呆れたということは既に書いた。
さて、撮影者のポール・ノーランさんはBBCの取材にもこたえている。Radio 4 Todayのインタビューの音声が下記の記事に埋め込まれているので、聞いてみていただきたい(2分51秒)。
Film shows Chelsea fans in Paris Metro incident
http://www.bbc.com/news/uk-31514168
British expatriate Paul Nolan, who filmed the incident on his phone, told the BBC it was an "ugly scene" and "very aggressive".
Speaking on Radio 4's Today programme he said he could hear mentions of World War Two as well as the racist chanting.
He said he and the people around him all felt quite threatened by the scene. "I think there was a certain amount of pack mentality," he said.
Mr Nolan earlier told the Guardian that the man trying to board the train was "completely shocked" when he was pushed off.
"I don't think he realised who they were," he said.
"There definitely was a culture shock. I heard a couple of French guys saying: 'I can't believe this. It's insane'."
Todayのインタビュアーはノーランさんに「彼らはどういう様子だったか、怒っていたのか、あるいはただの酔っ払いの集団だったのか」ということを質問しているが、ノーランさんは「群集心理 pack mentality」ではないかと答えていて、それはまさに、80年代のフーリガンを語るキーワードのひとつだったじゃないですかー、と頭を抱えたくなる。
フーリガンという問題は、(セルビアなどはまた別かもしれないが)少なくともイングランドなどに関する限りは、2002年のワールドカップ(日本と韓国で開催された)での当局の徹底した対策がうまく行って以降、「過去のもの」となっていたはずなのに。
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※この記事は
2015年02月19日
にアップロードしました。
1年も経ったころには、書いた本人の記憶から消えているかもしれません。
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