イラク西部、アンバル県(アンバール州とも表記されうる)は、「イスラム国」を自称する勢力(ネットスラングで「イスイス団」、本稿では「ISIS」と表記)の前駆組織が11年前に足がかりを築いた地であり(面積はやたらと広いのだが砂漠地帯なので都市は限られている)、2014年以降のISISは、この県の拠点都市、ファルージャやラマディを超えて伸張したことで、現在のような状況になっている。イラクは基本的に「シーア派(政府)対スンニ派」という構造になってしまっているので、「政府側勢力が反政府勢力を叩いている」のか「シーア派がスンニ派を叩いている」のかも好きなように語れてしまう状況で、恨みや復讐心といったものも巻き込んで憎悪と怒りは増幅されている。またISISは「歯向かう者は皆殺し」にしているので、部族単位で物事が決まる社会で、ISISが制した土地でISISに反対した部族は「皆殺し」の目にあうという(イスラム教徒であることや宗派は関係ないようだ)。
そんなアンバル県でもまだイラク政府側が握っている町がいくつかはあるのだが、その「最後の砦」のひとつが先週末、ISISに落ちた。
BBC News - Islamic State: Key Iraqi town near US training base falls to jihadists http://t.co/qLCPCmSZks ほへー、アンバル県の「最後の砦」のひとつじゃないの。
— nofrills (@nofrills) February 14, 2015
そして陥落したこの町から、「45人が焼き殺された」との報告があった。しかし、それが大きな記事になることもない。そう嘆いているのは私ではない。
#ISIS burned 45 people alive. Think about it. Their omnipresent brutality desensitised us to the point where it's not headline news anymore.
— Julie Lenarz (@MsIntervention) February 17, 2015
"Their omnipresent brutality desensitised us to the point where it's not headline news anymore." ISISの残虐性にすら、私たちは慣れてしまった。刺激は強烈であればあるほど、簡単に慣れる。例えば陸上選手のウサイン・ボルトの足が早いといって、一度は驚嘆するが、二度目は最初っから期待して見ている。
ともあれ、何があったか。
Islamic State militants 'burn to death 45 in Iraq' http://t.co/Xc239T3RaD イスイス団が制圧したイラク、アンバルの「最後の砦」のひとつ、バグダディという町で、45人を生きたまま焼き殺したとの報告。映像なし。
— nofrills (@nofrills) February 18, 2015
承前。イスイス団は「世界に見せ付ける」目的がないときは凝った映像は出さないのだと思うが、イラク国内での45人の焼殺は地域の警察署長の話。殺されたのが誰でどのような理由でかははっきりしないが、45人の中にはイラク政府の治安当局の人員がいると警察署長。
— nofrills (@nofrills) February 18, 2015
承前。また警察署長は地域の役人や治安当局要員の家族の家が襲われていると述べ、イラク政府および国際社会からの助力をと訴えている。地域では戦闘が続き通信環境も悪いので報告の事実確認が難しいとBBCは書いている。アル=バグダディの町は数ヶ月に渡りイスイスに包囲されていたが先週木曜陥落。
— nofrills (@nofrills) February 18, 2015
承前。アル=バグダディの町が落ちるまで数ヶ月はイスイスは新たに勢力を広げることはできずにいたとペンタゴンのスポークスマンは述べているが、この町から8キロ先には米海兵隊がイラク軍を訓練しているアイン・アル=アサド基地がある。この基地自体金曜日にイスイスに攻撃された(撃退)。
— nofrills (@nofrills) February 18, 2015
承前。一方、イスイス団関連とは別に、シーア派のほう。ムクタダ・サドルの私兵集団が、イスイスに対しイラク国軍に協力して戦っているシーア派民兵集団の連合体the Popular Mobilisation Forcesから離脱すると宣言。諸集団の問題行動が多すぎると。
— nofrills (@nofrills) February 18, 2015
21人の一斉斬首の映像で「リビアのISIS」がその存在を宣言した直後に、イラクからはこのような、「45人同時焼殺」の報告があり、それは誰もコンファームできなくて、なおかつまだ殺戮は続いている。そして、記事にはならない。
イラクに関しては、自分でもぞっとするが、それが「当たり前」になってしまっている。これまでISISに制圧されたと報じられた都市や町、村で、どのくらいの殺戮が行なわれたか、たぶん誰も把握していないだろう。
湯川遥菜さん、続いて後藤健二さんが殺されたことが公表されたとき、日本語圏はもとより、世界的に非難の声が上がったが、シリアからは「正直、外国人が殺されたときだけ外国が騒ぐのを見せられても」というような反応が、そんなに直接的な言い方はしていないにせよ、Twitterには流れてきた。
2014年夏にアメリカ人ジャーナリスト2人が殺されたときも、「既にISISはシリア人ジャーナリストを殺している(のだが、国際メディアははなも引っ掛けない)」という声があった(私はRTしたりTTしたりと、自分のできることはしたが、そんなのは自分で自分に言い訳できるようにしたに過ぎず、別に何にもならない)。
そしてヨルダン空軍のカサスベさんが「檻の中に入れられ、生きたまま焼き殺される」というめちゃくちゃな光景を記録し、凝った仕上げをほどこされたプロパガンダ映像が出たとき、シリアのダマスカスのあたりでは、アサド政権が自国民の上に樽爆弾など攻撃を加えており、なおかつ「樽爆弾なんか使ってませんよ」とBBCのジェレミー・ボーエンのインタビューに答えていたのだが、カサスベさん惨殺映像が注目され、アサドのインタビューが注目される一方で、爆弾を落とされる人々のことはまるで注目されずにいた。
只今、ドゥーマ空爆が再開した同時に、アサドのBBCのインタビューが放送中。「政権は空爆をしていない。そもそもBomb barrealを持ってない」。こんなやつはもう人間ではない。アホだ。アホの怪物だ。
#دوما_تباد
— Noor Mellorine (@KakkoiiNoor) February 10, 2015
「シリア・シヴィル・ディフェンス」(人命救助活動などを行っている人たちのアカウント) @SyriaCivilDef が、 #notbarrelbombs のハッシュタグで、バレル・ボム(たる爆弾)の攻撃のあとの様子の写真をたくさんツイートしています(破壊された建物、残骸など)。
— nofrills (@nofrills) February 10, 2015
続)爆撃後の救助活動の写真はありますが(瓦礫の中から生き埋めの人を掘り出すなど)、目を背けたくなるような凄惨な写真はないと思うので、みなさん、見てみてください。 @SyriaCivilDef なお、 #notbarrelbomb のハッシュタグはもちろん「皮肉」です。
— nofrills (@nofrills) February 10, 2015
そんな中で、「オレンジ色のつなぎを着て檻の中に入ってれば注目してくれるんでしょうか。ただし私たちを殺そうとしているのはISISではなくアサド政権ですが」とばかりに、ダマスカス近郊のゴウタの町の建物の破壊のあとの瓦礫の中からの抗議行動の写真が流れてきたりもした。英デイリー・テレグラフが記事にしている。
Children carry banners inside a cage during a protest, against forces loyal to Syria's President Bashar al-Assad, in Douma Eastern Al-Ghouta, near Damascus | Top News Photos - Yahoo Finance Canada via kwout
Children carry banners inside a cage during a protest, against forces loyal to Syria's President Bashar al-Assad, in Douma Eastern Al-Ghouta, near Damascus, February 15, 2015. The protest, which made children wear orange suits depicting victims of the Islamic State, calls to compare forces loyal to Syria's president Bashar al-Assad to Islamic State forces, and to draw attention to residents living under seige and dieing from strikes by forces loyal to Syria's president Bashar Al-Assad, activists said. REUTERS/ Bassam Khabieh (SYRIA - Tags: POLITICS CIVIL UNREST CONFLICT TPX IMAGES OF THE DAY)
https://ca.finance.yahoo.com/photos/top-news-photos-1370239005-slideshow/children-carry-banners-inside-cage-during-protest-against-photo-134620095.html
※この記事は
2015年02月18日
にアップロードしました。
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