自分の好みに合わせた音楽をかけっぱなしにしておける音楽配信サービスの代表格であるSpotify(日本ではサービス開始すらされていない)とガーディアンが、英国内の各都市について、特定の音楽ジャンルが突出して好まれている(聴かれている)のはどこかということを調べた、というインタラクティヴ記事。
Is Bournemouth really a hip-hop hotbed? The UK's favourite music genres – a city-by-city interactive
http://www.theguardian.com/music/ng-interactive/2015/feb/10/uk-city-music-genre-spotify-interactive
Punk, metal, hip-hop, R&B, folk, pop, jazz, indiepop, indie rock, country, electronic, EDMというジャンル分けで、下記のようにして各ジャンルごとの「王者」を決めている。(普通のrockというか、ストーンズやビートルズのような定番ものはどこに入るのか、といった疑問はあるが、このジャンル分け自体も興味深い。)
Spotify started with a list of the most popular tracks in each city, and another for the rest of the world. They compared lists to see which songs were notably popular in each city relative to the world. The city with the most distinctive tracks in a given genre "won" that genre
ざっと見た感じ、ロンドンのような大都市はこういう「突出」が見られづらいのかなという印象だが、それ以前にベルファストがめちゃおもしろいことになっている。
たとえばmetalではこのような結果。(これは結果が出たときにデータ解析の人が「やはり」と思っただろうな、と思う。バーミンガムが1位でないのはやや意外かもしれないが。)

ベルファストは堂々の6位。「ベルファスト」に「メタル」と来ると、ロイヤリスト側によるあれらのミューラルを思い出す。

しかし何と言ってもPunkだろう。記事で実際にクリックしてその感動を味わっていただきたい。げらげらげらげら
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同時に、「ジャズ」とか「カントリー」もすごいことになってて、ベルファストって「個性的」なんですね、と、20年前のタームで語りたくなる。
というわけで、YouTubeにアップされている1980年のドイツでのライヴ映像を見ていたのだが:
Stiff Little Fingers-Rockpalast German Tv 30-11-1980: http://t.co/Scoi3hwZxr via @YouTube
— nofrills (@nofrills) February 10, 2015
1980年11月の北アイルランド。 http://t.co/2TLIyId1B8 ロングケッシュの第一次ハンスト(ブレンダン・ヒューズがリーダーとなってやったもの)が10月27日開始。サッチャーは「絶対に屈さない」の姿勢。
— nofrills (@nofrills) February 10, 2015
(このときのJohnny Wasはすごい。Johnny Wasはいつもすごいし来日公演の小さな会場でもすごかったんだけど、このときは本当に凄みがある。見たほうがいいですよ)
開演前のフロアをとらえた映像に、「ユニオン・ジャックをはためかせている客」の姿がある。これはドイツの音楽番組(西ドイツだった時代に始まった番組)のもので、収録は確かハンブルクのライヴハウスだと思うのだが、細かい話はさておき、これが「英国でもアイルランドでもない」場所での、1980年の「ブリティッシュ・パンク」の受容の光景だということに、(ここ数年来のベルファストでの「旗騒動」を見たあとの)2015年2月の私は失笑せざるをえない。

Stiff Little Fingersには、このライヴ当時既にFly the Flagという曲があったのだが、その歌詞の皮肉(この皮肉の解説が必要な方はこちらの2つ目のコメント参照)を汲み取っての「旗を振って皮肉に歓迎」という行為というわけではなかろう。何しろ、「80年代の子供」にとって英国のあのユニオン・フラッグは「抑圧」や「帝国主義」の象徴であるというより、「パンク」や「反抗」のシンボルだったのだ。えらくねじくれているが、ジェイミー・リードのすばらしいアートワークのおかげで、最初にそういうものとして目に入ってしまったのだからしょうがない。

ユニオン・フラッグは当時、(80〜90年代的な言い方をすれば)「あらかじめ脱構築されていた」ともいえるのではないかと思うが、それは「帝国主義の象徴」たる "ブリティッシュ・エンパイアの旗" だけではない。
同じビデオ(1980年のドイツにおけるSLFのライヴ)にこんな図像が記録されている。下記キャプチャの画面左下。

この一瞬あと、光が当たってこれが「肩車されている人の革ジャンの背中」だということが確認できる(キャプチャとりなおすのが面倒なのでこのままで)。
「いやいや、これは『まんじ』であって『カギ十字』ではない。向きが逆だ」とおっしゃるかもしれないが、「あの文脈」においては、実はそれらは特に区別されていない。それより大きなポイントは「ナナメっていること」だ。
"Left-facing" and "right-facing" ... Nazi ensigns had a through and through image, so both versions were present, one on each side, but the Nazi flag on land was right-facing on both sides and at a 45° rotation.
http://en.wikipedia.org/wiki/Swastika
この「革ジャンの人」が、人の眉をひそめさせては「逆向きですよーだ」とペロっと舌を出すようなことをしていたということも考えられる。そこらへんは(この人に聞いてみない限りは)想像の域を出ない。いずれにせよ、重ねて言うが、これはドイツ(当時は西ドイツ)での映像だ。1980年というと、1945年からまだ35年しか経っていない。1980年に50歳の大人は、1945年には15歳、立派な「軍国少年少女」だった世代だ。その人たちが「自分たちの過去」についてどういう態度を取っていたかは、日本ではどうやら伝説化・神話化されている面があるようだが、実際には微妙だったという記録もいろいろある。自国政府が過去におこした未曾有の犯罪に対する嫌悪感から、当時そこにいた「大人たち」に挑み、「大人たち」を挑発しようとしたドイツの若者たちは少なくはない。(そして彼らは、「ネオナチ」とはまったく別である。)
というわけで、この「革ジャンの人」がどういうつもりだったのかはわからないが、そういう「大人の神経に触るようなことをして、ペロっと舌を出す子供っぽさ」がpunkの基本にあったということは事実。元はSex PistolsのGod Save the Queenの歌詞("The fascist regime")にあったのかもしれないが、ピストルズ自身が(というかマルコム・マクラレンとジェイミー・リードが、と言うべきだろうか)アートワークでスワスティカを使っていたし、パンク・ロックを聞いている人たちが大衆文化(サブカルチャー)の中で「大人(や世間の良識派)を怒らせる」目的でスワスティカ(ハーケンクロイツ、カギ十字)を使っていたことも確かだ。日本にもこれに基づいた「グッズ」はあった(店で売られていた)。
スウェーデンのPunkのファンジン、The Summer Of Hateのカール・バックマンさんは、このような「ナチス・ドイツのイメージの使用」について、次のように述べている。まったく「クソガキ」のすることだが、実際にやってたのが「クソガキ」なのでしょうがない。
It was all there to make a statement, to shock people and force them to react in some way. Some got it, most didn't...
Punk rock was not some sugar-coated background muzak supplied by MTV and it was never meant to be harmless, bland, complacent, happy and ready-made for mass consumtion.
I got into punk rock more than 20 years ago. Being a punk rocker meant you got into arguements if not fights every single day. I was only 10 when I was first beaten bad enough to be hospitalised. Media, cops, school and everyone else told us punk was something bad, so it only attracted the negative kids who didn't care if the authorities hated them - or more to the point, wanted them to. If you want to show your history teacher that you hate him you tell him you like Hitler or Stalin. It's as simple as that.
https://www.acc.umu.se/~samhain/summerofhate/punk.html
これらと、極右の「ナチ・パンクス」は明確に区別されるし、区別されねばならない。その点については2012年にアメリカでシーク教の宗教施設がネオナチに襲撃され、何人もが撃ち殺されたという事件を受けて、ジェロ・ビアフラが語り倒しているので、一読されたい。ちなみにジェロ・ビアフラは下記の曲を書いた人である。
https://www.youtube.com/watch?v=PzHLPnGuVSQ
Punk ain't no religious cult
Punk means thinking for yourself
You ain't hardcore 'cause you spike your hair
When a jock still lives inside your head
パンクは入信のイニシエーションを受ければなれるものじゃない
パンクってのは、自分の頭で考えることだ
頭の中身がジョック(旧態依然とした価値観の人間)のままで
髪の毛ツンツンおっ立てさえすればハードコア
……になるわけじゃない
http://songmeanings.com/songs/view/12517/
The initial premise of the song was "You violent people at shows are acting like a bunch of Nazis," and that was as far as it went. Then the real ideological Nazis began coming out of the closet.
They attacked Dead Kennedys shows after that. One time, a more hard-core version of (Britain’s) National Front showed up in tandem with the road crew of a band, and that connection always creeped me out. Punk is such an extreme form of music, the most extreme form of rock and roll ever invented, and it’s always attracted different kinds of extremes. So "Nazi Punks…" evolved in people’s minds into an anti-fascist, anti-Nazi anthem.
http://articles.latimes.com/2012/aug/09/entertainment/la-et-ms-jello-biafra-nazi-punks-hate-speech-20120809
上記のように、(歴史的なものとして)「反抗のシンボルとしてのナチス・ドイツの表象」を見るとき、2015年の私はデュードネ・ムバラ・ムバラのことを思い起こさずにはいられないということも書き添えておかねばならないだろう。
http://en.wikipedia.org/wiki/Dieudonn%C3%A9_M%27bala_M%27bala
※この記事は
2015年02月12日
にアップロードしました。
1年も経ったころには、書いた本人の記憶から消えているかもしれません。
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