「なぜ、イスラム教徒は、イスラム過激派のテロを非難しないのか」という問いは、なぜ「差別」なのか。(2014年12月)

「陰謀論」と、「陰謀」について。そして人が死傷させられていることへのシニシズムについて。(2014年11月)

◆知らない人に気軽に話しかけることのできる場で、知らない人から話しかけられたときに応答することをやめました。また、知らない人から話しかけられているかもしれない場所をチェックすることもやめました。あなたの主張は、私を巻き込まずに、あなたがやってください。

【お知らせ】本ブログは、はてなブックマークの「ブ コメ一覧」とやらについては、こういう経緯で非表示にしています。(こういうエントリをアップしてあってもなお「ブ コメ非表示」についてうるさいので、ちょい目立つようにしておきますが、当方のことは「揉め事」に巻き込まないでください。また、言うまでもないことですが、当方がブ コメ一覧を非表示に設定することは、あなたの言論の自由をおかすものではありません。)

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2007年05月08日

「北アイルランド紛争」が本当に終わる日。

2007年5月8日でございます。「北アイルランド自治」というシステムの再起動の日でございます。ストーモントの議会(アセンブリー)と自治政府(エクゼクティヴ)が今日から復活いたします。

2002年10月に、いわゆる「ストーモントゲイト」でフリーズして以来のことですから、4年半ぶりです。その4年半の間に、Provisional IRAの武装集団としての活動停止武器放棄(いずれも2005年)を最も大きなターニングポイントとし、今年3月のイアン・ペイズリーとジェリー・アダムズの史上初の直接会談と合意という最も信じがたい光景をシンボリックなものとし、つい数日前のUVF(アルスター義勇軍)の武装集団としての活動停止宣言を最後の一幕のうちのひとつとする「北アイルランド紛争」の本当の終わりが、今日ここに現実のものとなるのです。

・・・と書いているとトニー・ブレアかピーター・ヘインが憑依してるんじゃないかと思われてしかたがないのだが、説明しようとするとこうなってしまう。

Historic NI devolution day comes
Last Updated: Tuesday, 8 May 2007, 07:54 GMT 08:54 UK
http://news.bbc.co.uk/2/hi/uk_news/northern_ireland/6633493.stm
同じURLで記事が変わりつつあるので、キャプっておいたもの

再起動のセレモニーには英国からブレアとヘイン、アイルランド共和国からバーティ・アハーンに加え、米国からテッド・ケネディ(<アイリッシュ・アメリカンの超大物)も参加するそうだ。
(USの代表団は、The delegation includes the US envoy to Northern Ireland, Paula Dobriansky, Senator Ted Kennedy, US Consul General in Belfast, Dean Pittman, the US ambassador to Ireland, Thomas Foley as well as Richard Powers, the former president of the Morgan Stanley investment group.だそうです。)

UDA(アルスター防衛協会)、INLA(アイルランド民族解放軍)、Continuity IRA(IRA継続派)、Real IRA(真のIRA)などは、PIRAやUVFのようなシンボリックな動きをすることはなかったが、ともあれ、「政治」は正常化する。UVFのビリーのように、あるいは映画『麦の穂をゆらす風』のデミアン・オドノヴァンのように、政治的信念のために、自分の手に握った銃の引き金を他人に向けて引くことで、自分の一部を殺してしまうという人間としての悲劇があちらでもこちらでも当たり前のようにある、という世の中ではなくなるだろう。

もちろんこれで終わりというわけではない。英治安当局とロイヤリスト武装組織との癒着、dirty warと呼ばれる事態についての真相解明はまだまだこれからだし(それどころか、NIで大物スパイのハンドラーだった人がMI5長官に就任という、何ともいやはやなことになっている)、「カトリックだから」という理由で襲撃され殺されるというような事態がもうないという確信はできないかもしれない。すべての武装組織が活動停止・武装解除を宣言したわけではない以上、これからも時々は「爆発物」とか「襲撃」といったことが報道されるかもしれない。そして「紛争のメンタリティ」は急にリセットされうるものでもない。それでも、これは「終わり」であり「始まり」である。

自治政府のファーストミニスター(首相)となるイアン・ペイズリー(DUP)と副ファーストミニスター(副首相)となるマーティン・マッギネス(シン・フェイン)は、3月のペイズリー・アダムズ会談後、一緒に(!)英国政府財務省・財務大臣と「和平振興のための補助金」をめぐって交渉するなどしている。先週はこの2人が共同で記者会見を開いたのだそうだ。BBCの記事についている写真はそのときのものだろう。この記者会見がまた、ジョークは飛ぶ、笑いは起きるで、30年以上にわたって非常に暴力的な形でいがみ合ってきた両勢力の巨頭同士の会見とは信じがたいものであったらしい。

Martin McGuinness: Peacemaker and poet
Monday, May 07, 2007
By David McKittrick
http://www.belfasttelegraph.co.uk/news/politics/article2519386.ece
... Unlikely is far too mild a word to describe this emerging partnership between two lifelong adversaries, the dedicated republican and the staunch loyalist.

Yet last week they astonished Belfast by conducting a news conference together - joking, joshing and exuding large amounts of twinkling geniality. Later they sat side by side in Edinburgh pressing Gordon Brown for more funds. "Martin is a people person," according to one who works closely with him. "People warm to him: they just do. It's early days, but he and Ian Paisley are just getting on with the business. It's astonishing."

The week brought extraordinary displays of an entirely new political tone. Circumstances have brought the two together in scarcely conceivable coalition and - so far at least - their relationship has proved uncannily amicable. Yet it should come as no surprise that McGuinness can forge close ties with people. His relationship with Gerry Adams, President of Sinn Fein, has proved crucial in persuading their republican movement to shed many outdated practices.

Together they have recast a party, previously hidebound by the past, into Ireland's most pragmatic political outfit. During many tense moments it was the McGuinness reputation for flinty, sea-green incorruptibility that reassured traditionalists Adams was not moving too far, too fast. In the past decade the two republicans forged a key working relationship with Tony Blair, becoming frequent visitors to Downing Street and Chequers. No one suggests complete trust exists, but Blair and the republicans have taken chances with each other.

ベルテレさんなので、主要な読者層のプロテスタントに向けて「マーティンって実はいい奴で、能力もすごく高いんです」を懸命にアピールしているのだと思うが(記事の冒頭部分がすごいから興味ある人はぜひ。「自然を愛し家族を愛し詩を愛する男、それがマーティン・マクギネス」って感じ。記事見出しには脱力するか爆笑するかだ)、IRAデリーのストリート・ファイティング・マン(というよりガンマン)としてぶいぶい言わせてきた男がだね、報道陣の前でその仇敵とジョークをやりとりしているというのは、シュールというのを超えている、いわば「シュール・シュールリアル」なのですよ。一回転した現実というか。

一方で、ネットはなかなかあわただしいようだ。ベルテレさんがWikipediaのGerry Adamsのエントリのことを伝えている。「例の件」(いわば「タブー」なのだけど、誰もが真実と思われることを知っているという奇妙なタブー)で編集合戦になりロックされているのだそうだ。同じことは前もあったと思う(というか定番ネタかな)が、Slugger O'Tooleの記事では各種資料類から、論理的に読めば「AはBである」という結論が容易に導き出せる部分をいくつか紹介してくれている。否定しようがないと思うんだけどね、Whitelawとの会談のときのことは特に。ソースはショーン・マクシュトイファンなのだし、「MI5のカウンターインテリジェンスだ」といった「陰謀論」の余地もない。

マーティン・マクギネスは自分とIRAとの関係ははっきり示しているけれど(そもそも隠しようがない)、あくまで「シン・フェインのポリティシャン」として活動してきたジェリー・アダムズはそこらへんでいろいろとある。いろいろあって、真っ黒なことは真っ黒だろうけれども、それでも、今は「過去」よりも「未来」を、という考え方をせざるを得ない(北アイルランドのピースプロセスにおける「過去」も「未来」も独特のシニフィエを持ち、一般化できる語ではないが)。こういう態度は私は非常に「英国的」なもののひとつだと思うし、「いや、それより原理原則 (principles) を優先せねばらならない」という態度もあるとは思うが。

UVFのビリーのような苦しみがもう二度と誰かの上にふりかかることのないように、「過去」よりも「未来」を。あの物語は彼ひとりのものではないし、UVFのメンバーに限ったことでもない。

映画『プルートで朝食を』で、IRAメンバー2人が情報を漏らしたメンバー1人を「処刑」するシーンがある。2人のうちの1人が「俺にはできないよ、弟の友達だ」と言う。そして別の1人がすぐさま銃を抜いて、後頭部に一発。その2人は映画ではまったく重要な役割をふられていないから、その後彼らがどうなったのかは描かれないし、映画はそのまま主人公のほうにシフトするから、ただ映画を見ているだけの観客はそんなことは考えないだろう。私もDVDで再見するまでそんなことは考えなかった。でも「俺にはできないよ」という台詞をあのシーンに入れたニール・ジョーダンとパトリック・マッケーブには、言いたいこと、伝えたいことがたくさんあったに違いない。



AFPさんの報道:


写真はペイズリーとマクギネスと、真ん中はEUの欧州委員会のバローゾ。

※この記事は

2007年05月08日

にアップロードしました。
1年も経ったころには、書いた本人の記憶から消えているかもしれません。


posted by nofrills at 19:21 | Comment(0) | TrackBack(0) | todays news from uk/northern ireland | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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【2003年に翻訳した文章】The Nuclear Love Affair 核との火遊び
2003年8月14日、John Pilger|ジョン・ピルジャー

私が初めて広島を訪れたのは,原爆投下の22年後のことだった。街はすっかり再建され,ガラス張りの建築物や環状道路が作られていたが,爪痕を見つけることは難しくはなかった。爆弾が炸裂した地点から1マイルも離れていない河原では,泥の中に掘っ立て小屋が建てられ,生気のない人の影がごみの山をあさっていた。現在,こんな日本の姿を想像できる人はほとんどいないだろう。

彼らは生き残った人々だった。ほとんどが病気で貧しく職もなく,社会から追放されていた。「原子病」の恐怖はとても大きかったので,人々は名前を変え,多くは住居を変えた。病人たちは混雑した国立病院で治療を受けた。米国人が作って経営する近代的な原爆病院が松の木に囲まれ市街地を見下ろす場所にあったが,そこではわずかな患者を「研究」目的で受け入れるだけだった。

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▼当ブログで参照・言及するなどした書籍・映画などから▼















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