同じようなことが、11月下旬にもあった。「ブラック・フライデー」とやらだ。北米の習慣が、去年か一昨年くらいに、英国にも持ち込まれたらしい。米国の「感謝祭」(11月最後の木曜日)のあとの金曜日が、冬のセールの開始日として「ブラック・フライデー」と呼ばれる。北米でのその表現を知ったのはずいぶん前のことだが、光景の凡庸さと醜さ(かつて日本の民放の夕方のニュースのどうでもいいワイドショー的な時間帯にやっていた「時間限定セールに我先にと群がるおばちゃん」のいかにも「やらせ」くさい映像を思わせた)にげんなりしただけだ。そもそも北米に興味がないから語源とか見る気にもならずにいて、今もウィキペディアを見てみたが「めっちゃ長い」(百科事典とするにはあまりにも「オタク」趣味な記事のひとつだと思う)というだけで読む気にもなれない。語源としても新しい物件で(1960年代、70年代)、興味をひかれない。ともあれ、そういう米国の「消費」の文化(それを「文化」と呼ぶことが妥当かどうかはさておき)が、「感謝祭」をやりもしない英国にも導入された。2003年に既に1つの例が確認されているようだが、大々的にやったのは2013年のASDAだそうだ(ASDAは元々は英企業だが、いろいろあって、今はWalmart系列で、その「アメリカン・ウェイ」を売りのひとつにしているらしい。日本では西友が系列)。そこからスタートした「英国のブラック・フライデー」は、今年2014年に全土的に広まったようで、11月最後の土曜日(日本時間)の英国のニュースサイトは「殺気立った買い物客の行列」だとか「目を血走らせて大きなテレビにつかみかかっている人」のようなセンセーショナルな写真であふれた。英国は、同じようなことをボクシング・デー(クリスマスの翌日、12月26日)にもやるくせに。どんだけ「消費」させたがってるんだか。
ともあれ、その「ブラック・フライデー」と混同しないでね、という注意書きが必要なのではないかと思われるのが、もうひとつの「ブラック・フライデー」だ(英国では既に「ブラック・フライデー」といえばこれ、というものがあったのを、ASDAが破壊したのだ)。
http://en.wikipedia.org/wiki/Black_Friday_%28partying%29
Black Friday (partying)
In the United Kingdom, Black Friday was a historic nickname within the emergency services for the last Friday before Christmas, as this is the most popular night for office Christmas parties, which consequently makes it one of the busiest nights in the year for ambulances and the police.
「英国において、ブラック・フライデーとは、クリスマスを前にした最後の金曜日のことで、救急サービス内部で古くから使われていた愛称であった。職場のクリスマス会はこの日を選んで行なわれることが最も多く、その結果、救急車や警察にとっては一年で最も忙しい夜のひとつになるから『ブラック』呼ばわりされたのである」
この部分のソースとして、2007年や2008年のBBCなどの記事がリンクされているので、興味のある人はそれを見てみるとおもしろいだろう。
さて、英国が英国なのはこっからである。
However in most of the United Kingdom, including Cumbria, Tyne and Wear, County Durham, North Yorkshire, Northumberland, East Anglia and Scotland, the Friday is referred to as Black Eye Friday, due to extremely high number of fights that break out in bars, pubs and clubs in the area.
「しかしながら、カンブリア、タイン&ウェア、ダーラム州、ノース・ヨークシャー、ノーサンバランド、イースト・アングリア、スコットランドをはじめ、英国のほとんどの地域では、この金曜日は『ブラック・アイ・フライデー』と呼ばれる。理由は、バーやパブやクラブで、喧嘩・乱闘がやたらと多発するからである」
(・_・)
「ブラック・フライデーじゃなくて、ブラック・アイ・フライデーだな、ガハハ!」ってことですね。
なお、「ブラック・アイ」というのは、「日本人が間違える英語」の定番として解説されることがやたらと多いのでみなさんご存知だろうと思うが、「黒い目」のことではなく「目の周りの黒いあざ」のことだ。下記の写真のような……
Take care on "Black Eye Friday" - police warn Christmas revellers to start festivities safely http://t.co/fxxgH5tdk7 pic.twitter.com/Hg3SnG1byU
— BBC Scotland News (@BBCScotlandNews) December 17, 2014
Supt Leslie said: "Having a good time should not impact on those who just want to have a peaceful festive season.
"They have a right to have a quality of life as well, and we will be out in numbers, in all areas of the division, to make sure they do.
"This year, let the last Friday before Christmas, traditionally when people break up for the holidays, be remembered as Festive Friday, and not Black Eye Friday, as people go out to celebrate at office and works parties."
http://www.bbc.com/news/uk-scotland-south-scotland-30513649
なんかちょっと泣ける。(;_;)
一方で、アメリカからやってきた「ブラック・フライデー」に屈する動きも伝えられている。ウィキペディアから。
In 2013, it started to be named Mad Friday or Builders Friday in parts of South Yorkshire & West Midlands, probably to avoid confusion with the American shopping phenomena at the end of November called Black Friday, as this began to be adopted by many UK retailers in 2012-2013, and it usually coinciding with being the last day of work for many construction workers.
http://en.wikipedia.org/wiki/Black_Friday_%28partying%29
「2013年には、(英国のブラック・フライデーは)、サウス・ヨークシャーやウエスト・ミッドランズの一部地域では、『マッド・フライデー』、『ビルダーズ・フライデー』と呼ばれ始めた。アメリカの商習慣の『ブラック・フライデー』との混同を避けるため、また、建設労働者の多くにとってはこの日が仕事納めとなるからである」
で、Mad FridayはTwitter UKでトレンドしているわけです。
2013年に一部地域で使われだした表現が、拡大・定着してきたのかな。「ブラック・アイ・フライデー」はちょっと物騒すぎるし、警察もあんまり使いたくないみたいだし。。。
……というわけでもなさそうですね。ノース・ヨークシャー警察からのお知らせ。
Black eye Friday!We'll be working with pub watch to make a memorable one for all the right reasons #vibrantnotviolent pic.twitter.com/PUNJvtqPMG
— NYP Richmond Police (@RichmondSNT) December 19, 2014
ロンドンのLBC(ラジオ)からも。
Its #BlackEyeFriday again, the booziest night of the year in Britain - But is the extra alcohol a reason to go completely dry in January?
— LBC (@LBC) December 19, 2014
あ、このbooze(形容詞用法)、実例としてメモっておきたい。これは、日本の企業の宣伝(と企業名)にあった"home - homer - homest" と同じ。
この辺の用語法についてはこんなのが。
"Friday" "Black Eye Friday" "Mad Friday" "The Black Friday of Booze" "Drunkest Day of the Year". Today goes by more names than Grant Shapps.
— The Media Blog (@TheMediaTweets) December 19, 2014
そして、英国有数の(そこが「英国」かどうかは今は措いといてください)オラオラ地帯である北アイルランド、ベルファストからは……
How's black eye Friday going people? Remember if someone tries to jump into a taxi in front of you it's not ok to headbutt them #PlayNice
— Allison Morris (@AllisonMorris1) December 19, 2014
アリソン姐さん(ベルファストのナショナリスト側に軸足のある媒体、アイリッシュ・ニュースの記者)……。
カンブリアはみんなよい子だったみたいです。
Cumbria Police says Black Eye Friday didn't lead to a high number of arrests this year believing most people heeded their advice.
— BBC Cumbria (@BBC_Cumbria) December 20, 2014
ちなみに、どっかの賭け屋の調べでは、今年のオラオラ度ナンバーワンは……(ドラムロール)……スコットランド、グラスゴー。
Morning. Thanks to all who played our #BlackEyeFriday game last night. Glasgow was the winner. Be safe guys! pic.twitter.com/IMUE82fD4W
— WeLoveBetting (@WeLoveBettingUK) December 20, 2014
※写真がグラスゴーかどうかはわかりませんが、半袖シャツにサンタ帽というカオスさが酔っ払いの凄さを物語っています。
グラスゴーといえば、先日「サンタ」(カギカッコつき)が逮捕されましたね……
サンタが町で逮捕された。その町では道路工事用カラーコーンを何かの上にのっけるのが "伝統" だ。
http://matome.naver.jp/odai/2141882189327464901
※この記事は
2014年12月20日
にアップロードしました。
1年も経ったころには、書いた本人の記憶から消えているかもしれません。
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