保守党のウィリアム・ヘイグ(ガチ保守の政治家だが、極右化する保守党から彼が抜けるのは英国政治全体の損失)、労働党のピーター・ヘイン(北アイルランド・ヲチャとしては寂しいというか微妙な気持ち)、アリスター・ダーリング(スコットランド独立可否レファレンダムの「No」陣営頭領)、ジャック・ストロー(トニー・ブレアともども、とっととハーグに送られるべき)といった大物たちが、既に引退を表明しているが、そこにさらに大物が加わった。
ゴードン・ブラウンが引退を表明した。
If you missed Gordon Brown’s speech earlier this evening, here it is. #ThanksForAllYouDo http://t.co/2NZojpYNOU
— Mark Ferguson (@Markfergusonuk) December 1, 2014
今年9月のスコットランド独立可否レファレンダムのときになかなか表に立たず、投票直前に「Yes」陣営が勢いづきすぎてウエストミンスターがパニクったあとになってようやく出てきて、最後にがっつり押さえるという仕事をし、その後、スコティッシュ・レイバー(スコットランド労働党)のリーダーになるのではという憶測もあったが、その憶測をはっきりと否定したことで政界引退するつもりではないかとささやかれていた、とガーディアン記事にはある。
Gordon Brown stands down as MP
Rowena Mason, political correspondent
The Guardian, Monday 1 December 2014 12.03 GMT
http://www.theguardian.com/politics/2014/dec/01/gordon-brown-stand-down-mp
ゴードン・ブラウンはスコットランドのグラスゴーの人で、現在はファイフ(Fife)のKirkcaldy and Cowdenbeathを選挙区とする。1951年生まれ。父親はプレスビテリアン(チャーチ・オヴ・スコットランド)の牧師で、本人は高校生のころから成績優秀で飛び級で大学(エディンバラ大学)に入り、社会科学系の学者、およびテレビのジャーナリストとして仕事をしたあと政界入り。1983年に初当選して以降、主に経済・産業の分野を専門として30年にわたって英国の下院議員として活動してきた。1997年から2007年まで、ブレア政権で一貫して財務大臣を務め、2007年のブレア退陣で首相になったが、ブレアの愚行の「尻拭い」役を押し付けられた形になった上に2008年の「リーマンショック」が発生して英国はかなりひどく影響をこうむり、さらには労働党の「長期政権化」(10年以上)で支持が低下し、とにかく派手(というより「デーハー」)なブレアと比べて「ぱっとしない首相」だったし、党内も「ブレア派」があれこれちょっかいを出してる状態で何だかなあ、という感じで終わってしまった。南アで大々的に行われたネルソン・マンデラさんの追悼集会のときも、注目が集まって嬉しくて嬉しくてならない様子のブレアとは対照的に、ブラウンはメディアのカメラマンでさえスルー気味だった。
1994年、労働党党首のジョン・スミス(スコットランド人で、ブレア政権で実行された「地方分権 devolution」のプロトタイプを作った政治家)の急逝で、「次の労働党党首はブラウンだ」とうわさされたが、ここで「イズリントンのレストランでの会食」があり、The Deal! ... って話がイラク戦争前の英国のニュースでは最大の関心事のひとつでしたね。と、日本語版ウィキペディアにも「ブレア=ブラウン密約」なんてエントリがあるじゃないですかー。これ、2003年にはスティーヴン・フリアーズ監督でドラマ化されてるんですよ。検索してみたら、YouTubeにクリップが……ブラウンとブレアの初対面のシーン(議員会館のブラウンの部屋に、ブレアが間借りすることになる)。
ともあれ、ガーディアンの記事だが、これは淡々とした速報の記事であって深い分析や関係者のコメントなど取ってきたものではないとはいえ(ガーディアンではそういう記事は別に何本も出ている)、なんかちょっと (´・_・`) な読後感に襲われるのは、「ガーディアンなんだからもう少し……」という期待があるからだろう。労働党支持新聞にこんなにあっさり扱われる労働党の首相経験者。記事の冒頭に、選挙区での集会の映像(そこで政界引退を宣言した)が埋め込まれているが、ちょっとした集会場のようなところで肉声でしゃべっているのをお手軽な機材で録音・録画しているのだろう、音がひどい(声が遠くて、響いてしまっていて、とても聞き取りづらい)。
この人の「首相生命を終わらせた」のが「切り忘れていたマイク」だったことを思うと、なお感慨深い。
(2010年の総選挙の際、選挙運動で「街で会った有権者と対話する」というキャンペーンの最中、反EU、反移民、反外国人の労働党支持のおばちゃんに全然筋道だっていないことを言われ、辟易として車に戻って「誰だ、あんなbigoted womanとの対話をセッティングしたのは」といった悪態をついたのが、服につけたピンマイクに拾われて録音されていた。それが公開されたとき、ゴードン・ブラウンは塩をかけられたナメクジのようにしぼんでしまった)
しかし、ガーディアン記事にこんなことが書かれているのだが:
Brown was chancellor for a decade from the start of Tony Blair’s premiership in 1997 to the day when he took over as prime minister in 2007, before losing the job to David Cameron at the last election.
いつから「2010年選挙で労働党は保守党に負けた」という記述がOKになったのだろう。アレスター・キャンベルが牛耳っていたときは許されなかったよね、こんな記述は。
実際、2010年の総選挙では「勝者」はいなかった(hang parliament, 絶対多数なし)。それが、LibDemsが「連立政権」の一角に入った理由だし、それがLDがメルトダウンした原因だ。
あと、ガーディアンの同じ記事の末尾に、引退議員の名前が列挙されている。
His decision to stand down means there is an Commons exodus of major parliamentary figures of the Blair-Brown era from the Labour benches. Alistair Darling, David Blunkett, Jack Straw, Dame Tessa Jowell, Peter Hain, Hazel Blears and Frank Dobson are among those leaving their seats.
12月3日追記:
この下に、BBC記事について書き加えたはずなのだが、投稿せずにページを移動してしまったらしい。orz
BBCの記事は、ガーディアンとは違って、1箇所に全部まとめた感じ。情報盛りだくさんだが、逆に言えば、「首相職経験者」の引退についてこれ1本で済ませている感がある(ただ、政治専門記者の分析は別にある)。記事冒頭の映像は、ガーディアンの映像に比べて全然音質がよく聞きやすい(それだけに、ガーディアンの扱いのひどさが際立つのだが)。
Gordon Brown announces he will stand down as MP
http://www.bbc.com/news/uk-politics-30277709
He said he would also use the skills he learned "fighting the cause of Scotland in Britain" and to "fight also the cause of Britain in Europe".
"And, although I have no desire to return to frontline politics, if the health service needs an additional champion, if the cause of social justice needs someone else to speak up for it, if the cause of Scotland in Britain needs someone to speak for it, and if I feel I can make a difference, then I will do everything in my power to play my part in securing the election of a Labour government in the Scottish parliament elections in 2016 as well," the MP added.
政治家という身分からは引退するが、労働党の活動家としては公的生活は続ける、ということですかね。
ゴードン・ブラウンは2012年7月に国連の教育特使に任命されており、サラ夫人は今後はその活動に取り組んでいくということを語っている。
Asked what he and the family would do next, she said they had both been working on global education projects and would "combine our efforts" to try to tackle the problem of "58 million children who don't get a single day at school around the world".
なお、英国では首相経験者は一代貴族(life peer)に叙せられて上院(貴族院)に議席を得るのが慣例だが、ブラウンは上院には行かないという意思表示をしている。
ピーター・マンデルソンだのトニー・ブレアだののチャラ男とは違う。
ブレアやマンデルソン、スピンドクターのアリスター・キャンベルら「ニュー・レイバー(新しい労働党)」一派はそういうのを「世代論」にしようとしていたのだと思うが、「世代」の問題ではなく「原則」の問題だ。(そういうことすら、彼らはブレアを "man of principle" と先に呼んでおくことによって、否定しているのだが。)
ウィキペディア日本語版のページは更新しといた。不備はどなたかカバーお願いします。
※この記事は
2014年12月03日
にアップロードしました。
1年も経ったころには、書いた本人の記憶から消えているかもしれません。
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