詳細は下記にて。
【怪情報注意】あの「白い未亡人」が "ウクライナで…" との報道。でも信憑性のカケラも感じられない。
http://matome.naver.jp/odai/2141584172036464401
※見出しを書いたときにはまだ「怪情報」だったのですが、その後、工作活動を伴う「デマ」であることが確定。詳細は2ページ目に。
サマンサ・ルースウェイトは、2005年7月7日のロンドン公共交通機関自爆テロの自爆者4人のうちのひとり、ジャーメイン・リンゼイの妻で、当初は「妻の知らないところで過激化された夫がいきなり自爆してしまい、お腹の中の子と残された悲劇の女性」とみなされていましたが、その後、どういう経緯があったのか自身が「過激化」された存在として東アフリカ発の調査報道記事(BBCやデイリー・テレグラフ、2012年)に登場し、2013年9月のケニアの首都ナイロビのショッピングモール襲撃事件(死者70人近く)への関与が疑われ(「首謀者」とかいう話もありましたが、それはなさそう)、インターポールの最重要手配者となっています。
1983年生まれの彼女は、出身は北アイルランド(父親は英軍兵士、母親は地元女性)で、子供のころに父親の転勤で両親ともどもイングランドに移りましたが、両親の離婚の衝撃で「家族の絆」に強い憧れを抱き、そこからイスラム教に傾倒、17歳で改宗し、イラク戦争前の反戦デモでジャーメイン・リンゼイと知り合い結婚……という人です。夫はジャマイカ系の黒人で本人は白人。過激派組織ではキリスト教(プロテスタント)のバックグラウンドからジハディズムに入った彼女をスワヒリ語で「ホワイト・シスター(白い姉妹)」と呼んでいたそうです。
英メディアでは彼女は「ホワイト・ウィドウ(白い未亡人)」と呼ばれています。東アフリカではかなり目立ったかもしれない彼女の肌の色を指すのと同時に、チェチェンの「黒い未亡人」を連想させる呼び方です。
2012年7月のDTの報道:
さて、今回英語圏メディアで流れた「怪情報」は、彼女の(何度目かの)「死亡説」なのですが、その中身が笑っちゃうほどデタラメです。
どのくらいデタラメかは、デイリー・メイルだの何だののクリック数が稼げればなんでもいいような媒体が最初に食いついてから24時間以内に、ウクライナのキエフを拠点とするジャーナリストのマックス・セドンさん(BuzzFeed所属)がまとめて解説してくれている通りです。(既存のメディアより、BuzzFeedのほうが信頼性が高いというのは完全に逆転現象。Buzzfeedは、資金調達して、「信頼されるメディア」としての地歩を固めるためにプロフェッショナルを引き抜きまくっているので……ちなみにマックス・セドンさんはAPの記者でした)
That Russian story about the "White Widow" being killed in east Ukraine is, surprise surprise, utter garbage http://t.co/dfR7cdDY4J
— max seddon (@maxseddon) November 13, 2014 このツイートに埋め込まれている「パスポートの写真」は、実際にサマンサ・ルースウェイトが所持していたという偽造パスポート(南アフリカ国籍で「ナタリー・フェイ・ウェッブ」の名義)の写真。彼女がケニアに入るときに使われたとして、2013年にケニア当局が公開したものですが、それとまったく同じ写真です。確認したい方はこちらなどをどうぞ(2013年9月の南アフリカのメディアの記事)。
セドンさんの記事より。撮影のアングルも、写真に写りこんでいるフラッシュの光の反射もぴったり一致すると指摘しています(実際にそうです)。
The photograph exactly matches a file photo of the fake South African passport that authorities in Nairobi say Lewthwaite used to enter Kenya in 2011 − including the angle from which it was taken and the light reflecting onto the passport.
セドンさんにこの「ナタリー・フェイ・ウェッブ名義の偽造パスポート」を見せたのは、今回の「怪情報」の元となったRegnumなる通信社で元々の「死亡説」報道記事を書いたアレクセイ・トポロフ(Alexei Toporov)という人。彼は以前、ウクライナ東部の親ロシア勢力の広報を担当していた人で、「死亡説」は匿名の情報筋からもたらされ、彼自身が確認したとセドンさんに語ったそうです。「サマンサ・ルースウェイトを撃った人たちに話を聞きましたが、顔や名前は出したくないということで。私にとっては彼らを信用しない理由はありません。情報は100パーセント正確だとわかっています」と。
(だめだこりゃ)
そしてその証拠としてトポロフ氏が出してきたのが、上で見た南アの偽造パスポートの写真。「これが撃ち殺された女性スナイパーのそばにあったのです。だから死体はこのパスポートの持ち主で、このパスポートはサマンサ・ルースウェイトのものだから……」etc etc.
あの、それ、「偽造パスポート」だということは1年も前に世界中に知らされているんですよ。その時点で既に無効。で、そのとき彼女がウクライナにいたんならまだ話の筋は1ミリくらいは通るかもしれないけれど、2013年9月なんてウクライナでは外国人に支援を頼まねばならないようなことは何も起きてなかったでしょうし(キエフの「ユーロマイダン」が始まったのが2013年11月下旬、極右が暴れだしたのは2014年1月)、そもそもなぜそのパスポートの写真が世界中にばら撒かれたかというと、2013年9月21日のケニアでのショッピングモール襲撃に彼女が関与しているという話でしょう。
そんなものをつかまされたら、ジャーナリストなら呆れるか怒るかするのが筋でしょう。しかしそのトポロフ氏は、その「説」を「報道記事」に仕立て上げてばら撒いた。
彼の所属媒体は、Regnumという通信社だそうですが、それがもう……あの、よくラテンアメリカや中東で米国の工作機関がどうのこうのという話が出るんですが、そういうことをやってるのは「米国だけ」じゃないんですね(っていうと「帝国主義者めー」みたいなヘイトメールが来るんだけど)。
このRegnumという「通信社」について、ウェブ検索してもロシア語のページばかりだった中にロシア語のウィキペディアがあり、そこから英語版へのリンクがあったのでそれを参照してみると(→ウィキペディアなので更新されるかもしれないけれど、私が参照した版はこちら)……唖然。
In its internal workings Regnum editorial office employees greet each other with a special greeting, ≪СФО≫, which in Russian means ≪Death to the Fascist Occupiers≫, thus stressing the anti-fascist role of the news agency. In an interview by editor-in-chief of Regnum, Vigen Akopyan to the Russan portal gorod.lv, the principal position of the agency was explained as to oppose Russian investments in any country, whose politics are hostile to Russia or which is promoting rehabilitation of fascism. Although Mr Akopyan did not say what could be the country he meant, Russian journalist figured out it was Estonia.
つまり、「ファシスト殲滅」の標語を内部的に挨拶として使っているような組織で、ロシアに敵対的な政策をとる国やファシズム復興を促進している国へのロシアからの投資に反対することが第一の立場。(エストニアが何ちゃらというのは、ここではスルーしていいと思う。)
これを「報道機関」と扱うのは、プラウダでイズベスチヤなことだと個人的には強く思いますが、実際には、これが英国の(クリックさえされればいい、印刷した新聞が売れればいいような)媒体で「……という《報道》がある」という形で取り上げられ、そこからさらに、もう少し信頼性の高いような媒体のウェブ版にも入りました。
おまえら、いったい何の手のひらの上で踊っているんですかと問い詰めたい。小一時間、問い詰めたい。そんな気持ちを抑えることができません。
マックス・セドンさんもそこに呆れたらしく、Buzzfeedの記事は次のような段落で結ばれています。(原文には細かくリンクが入っているので原文をご参照ください)
Unlike Russia’s more reputable news wires − the government-controlled TASS and RIA Novosti and the privately held Interfax − it is rare to see a story from the far murkier Regnum cited so widely in the Western press. Estonia’s secret services claimed in 2005 that Regnum “is not an ordinary information agency, but a structure controlled by the power elite and special services of Russia via which they try to affect [the] internal political situation in the neighboring countries in the direction favorable for Russia.” Its founder, former Kremlin adviser Modest Kolerov, has been declared persona non grata in Estonia, Latvia, Lithuania, and Georgia, according to RIA Novosti.
つまり、「ロシアにはタス、RIAノボスチ、インターファクスのようなより信頼性の高い報道機関があるが、それらよりずっとマイナーな存在のRegnumの記事が、ここまで広く西側の報道機関で参照されることは、珍しい」と、murkyという表現を使ってこの「反ファシズム」の「報道機関」について説明。
さらに、「2005年にエストニアのシークレットサービスは、Regnumは『通常の機関ではなく、ロシアのパワーエリートとスペシャルサービスによって支配されている構造体である。ここを通じて彼らは、隣接する国々の内政状況を、ロシアに都合のよいようにしようとしている』と指摘。Regnum設立者で元ロシア政府顧問のModest Kolerovは、エストニア、ラトヴィア、リトアニア、グルジア(ジョージア)からはペルソナ・ノン・グラータと認定されているとRIAノボスチは伝えている」。
というわけで、これは普通の「報道機関」ではありません。そこが、「死体のそばにサマンサ・ルースウェイトのパスポートがあった」として、1年以上も前にケニア当局が国際報道機関に配布した資料写真を根拠に、「サマンサ・ルースウェイトがウクライナのテロ組織の一員として活動中に、現地の義勇兵に射殺された」と述べている。こんなの、信用しろというほうがムリです。
しかし、実際には、それが「西側」の報道機関で引用されることにより、見かけ上の(いわゆる)「ソース・ロンダリング」が生じている上に、RT(旧称ロシア・トゥデイ)のようなロシアの「大手」にも乗ることによって拡散している。
さらに悪いことに、「西側の情報はCIAが洗浄済みだ」などと言ってすべてを疑ってかかるのが賢いと思い込んでいるような痛い人たちはどこにでもいるわけで、「西側は報道したがらない真実」などといってひそひそ話をするように広めるんですね。
でも、どこが報道したとかしていないとか以前に、ツイッター止まってないし(死亡説の報道に爆笑してる)。アカウント名は書かないけどまともなウォッチャーなら知ってるはず。今回彼女の「死亡説」を「こういう報道がある」とだけ伝聞した英国(やアイルランド)の報道機関には、この件に関してまともなウォッチャーすらいないということでOKだと思います。
さらに「サマンサ・ルースウェイトの死亡説」の日にはこんなのもあったらしいんですが、これがきれぎれになって発言者が誰かがそぎ落とされた状態で、私の見た画面にも流れてきてました。「○○が殺されたと言われている」の受動態の形式で(これは「でっち上げ」と「印象操作」が最も簡単にできる話法なので注意)。
It's spurious jihadi death reports day! Ramzan Kadyrov claims to have killed ISIS commander Omar al-Shishani: http://t.co/zXz4a8F5RI
— max seddon (@maxseddon) November 13, 2014 また、ロシアでは下記のようなプロパガンダもあるんですね。こんな世界観で生きていれば世の中単純でいいですよね。「ウクライナのユーロマイダン運動は極右・ネオナチの工作でNATOの陰謀」+「シリアの『革命』は革命などではなく、ジハディストのテロでNATOの陰謀」=「ウクライナがああなったのもシリアがああなったのもNATOの陰謀」で、「ウクライナで葬儀のたびに十字架を掲げているネオナチと、シリアやイラクで信仰告白の旗を掲げている首切りカルトはつながっているんだよ! (な、なんだってーっ)」ってことになるんでしょう。
"NATO agents" are supporting ISIS to "threaten the territorial integrity of Russia," says retired GRU guy http://t.co/7I0yRQdG5N
— max seddon (@maxseddon) November 5, 2014 なお、ドイツのメディアで報告されている、フランスからシリアに行ってしまった17歳女子の「教化」の過程にも見られるとおり、女性の組織参加者を獲得する上で「シスター」たちは重要な役割を果たします(概して女性は戦闘員というより、「産めよ、増やせよ」流の扱いを受けているようです。「子供を生み、育てて、立派なジハディにしましょう」という「おしえ」があるそうです)。サマンサ・ルースウェイトについては「女性の戦闘集団の育成」に関わっているという報道が2012年から出ています。ジハディの女性戦闘員については写真などは出ていますが、どのくらい戦闘に参加しているのかはわかりません。コバニ攻防戦で注目されている「クルド人武装勢力の女性戦闘員」のような位置づけではないと思います(クルド人武装勢力は社会主義の理念での「女性参加」が徹底しており、PKKの女性戦闘員はずっと前から広く知られていて、最近出てきたようなものではありません)。
ロシアのプロパガンダはちょっとよくわかりませんが、東アフリカのジハディのプロパガンダではソマリアでの「戦時性暴力」が利用されているのを見たことがあります。「外国人」(国連平和維持活動のために来ているアフリカ諸国の軍隊)が、「国際社会」(ということになっている「西洋社会」)の黙認・加担のもと(←これを言うのが「プロパガンダ」)、ソマリアの少女たちに対して性暴力を組織的に行使しているという主張です。「だから女たちは自衛しなければならないし、また男たちによって守られねばならない」という理屈になるわけです。
非常に悲しいことだと思います。サマンサ・ルースウェイトも東アフリカの現状を見て、義憤に駆られていることに、たぶん嘘はないはず。問題は、その「義憤」がなぜ「より多くの、無差別な人殺し」につながるのかということ。
![]() | 職業は武装解除 瀬谷ルミ子 by G-Tools |
※この記事は
2014年11月15日
にアップロードしました。
1年も経ったころには、書いた本人の記憶から消えているかもしれません。
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