「なぜ、イスラム教徒は、イスラム過激派のテロを非難しないのか」という問いは、なぜ「差別」なのか。(2014年12月)

「陰謀論」と、「陰謀」について。そして人が死傷させられていることへのシニシズムについて。(2014年11月)

◆知らない人に気軽に話しかけることのできる場で、知らない人から話しかけられたときに応答することをやめました。また、知らない人から話しかけられているかもしれない場所をチェックすることもやめました。あなたの主張は、私を巻き込まずに、あなたがやってください。

【お知らせ】本ブログは、はてなブックマークの「ブ コメ一覧」とやらについては、こういう経緯で非表示にしています。(こういうエントリをアップしてあってもなお「ブ コメ非表示」についてうるさいので、ちょい目立つようにしておきますが、当方のことは「揉め事」に巻き込まないでください。また、言うまでもないことですが、当方がブ コメ一覧を非表示に設定することは、あなたの言論の自由をおかすものではありません。)

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2014年10月30日

ここには善意しかないが、これはまるで伊藤計劃の『ハーモニー』だ。

伊藤計劃の小説に「善意しかないディストピア」を描いたものがある。『ハーモニー』だ。

ハーモニー〔新版〕 (ハヤカワ文庫JA)ハーモニー〔新版〕 (ハヤカワ文庫JA)
伊藤計劃 redjuice

虐殺器官〔新版〕 (ハヤカワ文庫JA) PSYCHO-PASS ASYLUM 1 (ハヤカワ文庫JA) PSYCHO-PASS サイコパス (下) (角川文庫) PSYCHO-PASS サイコパス (上) (角川文庫) 屍者の帝国 (河出文庫)

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個人的には、筆致の基調(「おにゃのこ」的な《文化》の前提、「萌え」とか何とかいう気持ちの悪い心性の全面的肯定。subjectの側から見ればその「作者の存在」自体がディストピアなんだが……)や登場人物の名前のセンスが生理的に受け付けず(あと、NINが参照・引用されているのはすてきなのだが、伊藤さんは英語が苦手だったので、英文法が微妙で……)、ストーリーもぼやーっとした感じがして、一度読んだらもうそれっきりなのだが、あの「善意しかない世界」という《設定》は(『虐殺器官』におけるあの「言語」と同様に)「みょうにリアル」なものとして感じられた。

それが「ほんとうにリアル」なものになる日が来たらしい。



29oct14.pngこのハッシュタグはこのツイートが最初で、その後「サマリタンズ」のプレスリリースや報道機関の報道を経て告知(orアウェアネスのための)キャンペーンが行われ、日本時間29日夜にはUKのTrending Topicsに入っていた。

なお、「サマリタンズ」は聖書の「よきサマリア人」に由来する名称を有する組織で、「だれかに話を聞いてほしい」というときのヘルプライン(日本で言う「いのちの電話」)。1950年代に、月経を性病と思い込んで誰にも何も相談できずに自殺してしまった10代の女の子を埋葬したキリスト教の聖職者が、このままではいけないと立ち上げた活動で、その後、多種多様な宗教に対応できるようにし、言語の幅も広げている。日本語のヘルプラインもある(曜日は限定される)。相談電話を受ける人は無報酬のボランティアで、専門の研修を受けている。
http://en.wikipedia.org/wiki/Samaritans_%28charity%29

その「サマリタンズ」が、ソーシャルネットをいわば「監視」し、「危ない状態にある人」を見つけて、その友人に知らせるというアプリ、「サマリタンズ・レーダー」を開発したというのだ。




Samaritans, the leading suicide prevention charity, today is launching Samaritans Radar - a free web application that monitors your friends’ Tweets, alerting you if it spots anyone who may be struggling to cope. The app gives users a second chance to see potentially worrying Tweets, which might have otherwise been missed.

Created by digital agency Jam using Twitter’s API, Samaritans Radar uses a specially designed algorithm that looks for specific keywords and phrases within a Tweet. It then sends an email alert to the user with a link to the Tweet it has detected, and offers guidance on the best way of reaching out and providing support.

【要旨】「サマリタンズ」は今日、「サマリタンズ・レーダー」というウェブ・アプリケーションをリリースします。これは人々のツイートをモニターし、もし対処に困難な思いをしている可能性があったらその人の友達にそのことを知らせるというものです。このアプリを使うことで、ユーザーはひょっとしたら自殺企図の兆候ではないかというツイートを確認することができます。ツイートされたときに見逃していてもあとから知らせてくれます。

デジタル・エージェンシー(※って何?気持ち悪いな)のJamによって、TwitterのAPIを利用して作られたこのアプリは、ツイート内に含まれる特定のキーワードやフレーズを、特別にデザインされたアルゴリズムで……うわ、だめだきもちわるい、これ以上は日本語化できない。「アルゴリズム」がそんなに信用できるものだという妄信はどっからくるの、「人間の心」を扱っている人の間で?





「アルゴリズム」がどの程度信頼できるのかとかいったことよりもっと深刻な問題がある。「友達」とは誰か、という点だ。

私が昨日このアプリに登録して、今日までつきあってた人/友人だった人と、明日別れて/決裂して、明後日からいやがらせが始まった、という場合、来週私がそのアルゴリズムにひっかかるような発言をしたらどうなるのだろう。

相手にさらなるいやがらせの材料を与えてしまうだけではないか。

しかも、このアプリの開発者のツイート(事項)では、「友人」の範囲が、信じられないほど広い。



例えばAさんがBさんとTwitterで絶縁してなおBさんのことが気になるので、別アカ作ってBさんをフォローしている、という場合も想定されるんだけど……。Bさんが敷居を高くしていても、Aさんが虚偽のプロフィールで別アカ作ってアプローチして、「こんにちは。かわいい犬ですね。私も同じ犬種の犬を飼っています。フォローしました。よろしくです」的に接触したら、防ぎきれないでしょう。

しかしこのアプリについてのTwitter上の反応が、まったき「善」の世界。まさに『ハーモニー』の冒頭(登場人物の「オタク」くさい名前を覚えていないのだが、主人公の家族がこんな感じの人たちだったはずだ)。






や、これ、「つぶやく」場所さえ奪われるってことなんですけど……。

「言葉」になってるうちは、まだいいんですよ。そうできるエネルギーがあるうちは。そして、「言葉」にすることで整理され、発散されるものがある。それも全部「モニター(監視)」されていたら、と思ったら、あるタイプの人々は黙るしかなくなるんじゃないの。

"Leave me alone" としか言えない気分のときに。



うん、深刻な問題になりつつあるというのは世界的に報じられてる。

イスラエル(軍人がね……):


アメリカ:




全世界的に:


日本にいると、理研の笹井さんのような「渦中の人になってしまい、明らかに役職から外して世間の注目を浴びさせないようにしなければならないというくらいに危険になっていても役職続行させて、あげく職場で自殺されてしまう」ということが普通に起きて、それがsuicide preventionの問題という扱いがされないから感覚がおかしくなるのだけれども、いくら「プライバシーに踏み込んででも自殺は阻止せねばならない」ものであるとしても、「アルゴリズム」なんてそんなに信用できるものじゃないのではないかと。

それでもこれで阻止される自殺はあるかもしれない。短期的には。でも数ヶ月もしてみたら、日本語で言う「死ぬ死ぬ詐欺」みたいな意地の悪い、呪詛しかないような表現がサマリタンズのアプリのある圏でもあふれかえらないという保障はない。というか、昨今のクソみたいなインターネットではそうなる可能性を無視すべきではないと思う。「女性の肖像を紙幣に」というキャンペーンをやった人としてニュースに出れば、どこの誰なのかもわからない阿呆から「クソフェミ死ね」「犯してぶっ殺す」という呪詛が山ほど送られてくるのがデフォなのだ。

「サマリタンズ・レーダー」のBBCでの紹介。




Wiredが取り上げてるけど、何だこの写真……学校での「サイバーいじめ」?


Sky news:




開発者側のプッシュの声:




この "friends" への無条件の信頼は、どこから来るのかね。たかが「ソーシャル・ネット」で。(例えば私はジェリー・アダムズをフォローしているが、アダムズの「友達」じゃない。英国首相官邸とは相互フォローの関係にあるが面識なんかないぞ。)

しばらく、いちいち貼りこんでいたらきりがないのでキャプチャ。

キャプチャ






……と、アプリ制作側のヨイショばかりじゃないかと思ってるところにランセット。




サマリタンズのビデオきたけど、これ、「アルゴリズム」とやらについての説明がないし、このビデオで「危険な状態」の人は沈黙してる。沈黙はアルゴリズムでは計れないよ。。。



「アルゴリズムで何とかなるぜ」っていうのは、ありていにいえば「信仰」だと思う。圧力鍋がボムの「ガワ」として使われたボストン・マラソン爆弾事件の直後に、模倣犯が出ることを警戒して米当局が網をかけたときに、アマゾンの通販で圧力鍋とあと何か(忘れたけど)、爆弾犯と同じものを買った人が「警察に事情を聴かれる」ようなことになって失笑を買ったが、それは「アルゴリズム」信仰、「ビッグデータ」信仰のあらわれだった。



さっきから何度も出てくるこの "turn your social net into a safety net" (あなたのソーシャルネットを、セーフティネットにしよう)というのは、おそらく企画側の用意したスローガンだが、「ソーシャルネット」が「投げ出されたときに受け止めてくれるもの」だという前提に立っているテクストだ(しかもa safety netであり、your safety net, your friends' safety netではない。このワーディング!)。

以下、疑問を感じている人の声(ないわけではない)。


→どのくらいの規模になるかというのがあるけれど、この側面ありますよね。





→これは衝撃的。サマリタンズって、今こんな人がやってるの? ヴァレリーさんの疑問点はとても重要なことですよ。それをこんな、漠然としたcan do主義で乗り越えられると? The fact that someone caresにすがった人が裏切られたときに何が起きるかという話をヴァレリーさんはしているのに。

サマリタンズのような活動は、「140字しか書けない(140字にはまらないことは書かない)」Twitterのようなツールに頼るべきではないし、それに頼っているかのように振舞って見せることもすべきではないと思うのだけど。



→本当にそうですよね。Twitterでフォローしていればfriendsだという前提がおかしい。むろん、顔も名前も声も年齢も背格好も何も知らない人の「ネット上の一言」に救われることも、ネット使ってればふつうにあるのだろうけれど、でもそれは「友人関係」ではないわけです。





宗教の人、寄ってくるよね。誰かをフォローしていればアプリが勝手に「この人、精神的に不安定になってますよー」と告知してくれるのだから。



ストーカーもうはうはだよね。


→Paternalisticというより、単にill-caluculatedだと思いますけど、でもpaternalisticですね、実際。「慈愛に満ちたお父様」の世界ですよ、これ。サダム・フセイン政権とかムアンマル・カダフィの政権とかのような。




「ビッグ・ブラザー的」という指摘。



そして出てくる、「いやなら鍵かければ?」論。



こわいよままん。


「次のステップ」っていうか、順番間違えてないっすか(あるいは「ソーシャル・メディア」の実態わかってますか)。




→ああ、なるほど、すでにTumblrではそういうストーカーが湧いて出てるんですね。(そういえば、ボストン・マラソン事件の容疑者は「無実」だと主張するハッシュタグの界隈で、そういうのいましたわ……。「周囲は理解してくれない」という状況にある女の子に熱心に声をかけてる男が)

そして「ホンネ」が……



これ、本当に、『ハーモニー』の世界なんですけど。。。

さらに、「情報操作」志向も露呈。


→「株式市場」に出てしまうとこういうのに左右されるので、それとは無縁なチャリティということでチャリティの制度ができたはずです。でもかなり「ゴリ押し」ですよね。サマリタンズと組んでる開発業者とかその裏事情、要注意じゃないっすかね。だいたいいまどきこんなに無邪気に「アルゴリズムでー」とか言ってるのは、絶対怪しいって。



これに尽きるかも。


「ネット」、「ソフトウェア」という観点からはこれに尽きる。




私の発言のログ。








追記。直接は関係ないけれど、Twitterの「アルゴリズム」が、基本設計としていかに「おおざっぱ」か。(広告の表示のために最適化されているのであり、それは「悪いこと」では全然ない。)

3010

これは2014年10月30日に、promotedのものを表示させた状態でのキャプチャ。Promotedの何かがあるときは、Trendsの一番上にこのように「広告主のいるハッシュタグ」が表示される。私はTwitterでの言語は英語で設定してあるし、TrendsはUKを表示させているが、ここに日本語のものが表示されることは何度もあり、きっと接続ポイントで見ているのだろうと思っていたが、今日はなぜかアラビア語のものが表示されている。私はアラビア語はまったく読めないのに。

確かにアラビア語話者は何人もフォローしているし、Twitterでの言語を「アラビア語」で設定しているであろう人のツイートに対してinteractすることは毎日だ(写真を表示させたり、RTしたり)。アラビア語の文面のツイートに含まれているURLやアラビア語のハッシュタグをクリックすることはまずないが、アラビア語と英語の両方が書かれていて「ここに写真がアップされている」などの情報があればURLもクリックする。

けれども、アラビア語のハッシュタグは見てもわからない(読めない)し、アラビア語の広告が私のところに表示されても、広告主には何の利益もない。Promotedのところに表示されている広告主名の欄にあるShawarma(シャワルマ)は、アラビア語圏の「ケバブ」のことで(「ケバブ」はトルコ)、私は何度も書いているように、肉は食わないから、ケバブ/シャワルマの広告など見せられても、まさにねこに小判。

でも、そういうふうになってるのがTwitterだ。人の生死がかかってるようなことを、そういう場で「判定」したいですか。私はいやです。

※この記事は

2014年10月30日

にアップロードしました。
1年も経ったころには、書いた本人の記憶から消えているかもしれません。


posted by nofrills at 02:35 | TrackBack(1) | todays news from uk | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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Twitterがいろいろ変更されて、統計的なものが簡単に見られるようになっているので、見てみるといいと思う。
Excerpt: 2月半ば以降、ブラウザでTwitterの画面を表示させるのにえらく時間がかかるようになっていた。abs.twimg.com(Twitterの画像)の読み込みに何十秒もかかるようになっていたのだ。何か変..
Weblog: tnfuk [today's news from uk+]
Tracked: 2015-03-01 18:01

【2003年に翻訳した文章】The Nuclear Love Affair 核との火遊び
2003年8月14日、John Pilger|ジョン・ピルジャー

私が初めて広島を訪れたのは,原爆投下の22年後のことだった。街はすっかり再建され,ガラス張りの建築物や環状道路が作られていたが,爪痕を見つけることは難しくはなかった。爆弾が炸裂した地点から1マイルも離れていない河原では,泥の中に掘っ立て小屋が建てられ,生気のない人の影がごみの山をあさっていた。現在,こんな日本の姿を想像できる人はほとんどいないだろう。

彼らは生き残った人々だった。ほとんどが病気で貧しく職もなく,社会から追放されていた。「原子病」の恐怖はとても大きかったので,人々は名前を変え,多くは住居を変えた。病人たちは混雑した国立病院で治療を受けた。米国人が作って経営する近代的な原爆病院が松の木に囲まれ市街地を見下ろす場所にあったが,そこではわずかな患者を「研究」目的で受け入れるだけだった。

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