「なぜ、イスラム教徒は、イスラム過激派のテロを非難しないのか」という問いは、なぜ「差別」なのか。(2014年12月)

「陰謀論」と、「陰謀」について。そして人が死傷させられていることへのシニシズムについて。(2014年11月)

◆知らない人に気軽に話しかけることのできる場で、知らない人から話しかけられたときに応答することをやめました。また、知らない人から話しかけられているかもしれない場所をチェックすることもやめました。あなたの主張は、私を巻き込まずに、あなたがやってください。

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2014年09月11日

日本の政府専用機の位置情報を公開していたFlightRadar24は「怪しいサイト」ではありません。

9月上旬、日本の政府専用機の飛行中の位置情報が、ネット上で誰でも見られる状態になっていた、といったふうに日本のメディアで報道された。といっても「リーク」とか「漏洩」とかではなく、元々非公開ではない/公開されている情報を見やすく整理してわかりやすく表示しているサイトがある、ということである。(2013年4月のボストン・マラソン爆弾事件の後の銃撃事件・犯人追跡中に、誰にでも公開されている警察の無線 police scanner をライヴツイートするということが「問題」となったことを想起されたい。)



どういうことかというと、「レスポンス」さんの記事での説明がわかりやすい。
航空機に搭載された機器が発信する信号(ADS-B)を元に、現在地の情報を表示するというものだ。航空機が発信するGPS連携の位置情報や高度、速度などの信号を世界各地の有志が無線機で受信。その情報をFlightRadar24のサーバーにインターネットを介して送信し、FlightRadar24は地図上に航空機を表示するPC向けサイトや、スマートフォン向けアプリケーションで公開している。


このFlightradar24という「世界各地の有志」によるクラウドソースのサイトのキャプチャ画像は、私の環境ではTwitterでかなり頻繁に見る。といっても私は航空マニアではないし、航空マニアをフォローしてもいない。ジャーナリストが普通に見ているサイトのひとつなのだ。

ほぼ半年前に、マレーシア航空370便が忽然と姿を消したときにも参照されていたし、7月にマレーシア航空17便がウクライナ東部で撃墜された(と思われる)ときにも、「見事にウクライナの上空に飛行機の姿がないでしょ」的に画像が回ってきた。たとえばこういうものだ。



2010年にアイスランドの火山が噴火して欧州・北米の航空網の大きな部分が停止したときに大手メディアがこのサイトを参照していたし、2013年にエドワード・スノーデンを乗せた飛行機(民間の旅客機。アエロフロート、SU213便)がどこにいるかというのもほぼリアルタイムで追跡されていた。



スノーデンがロシアに行った直後にボリビアの大統領を乗せた専用機がルート変更になったときもここのキャプチャ画像が流れてきたと思う。シリア、イラクに関しても上空の様子がキャプチャ画像で流れてきたことがあるし、この7月から8月にかけて50日間にわたって行なわれたイスラエル軍によるガザ攻撃の際は、テルアビブの空港への国際線の状況がこのサイトでウォッチされていた。6月にモスルがISIS(イスラム国、IS)に掌握されイラク軍が置いていった武器が彼らの手に落ちて以降のイラク上空の様子なども、Twitterのアカウントで次のように伝えている。




というわけで、FlightRadar24は、きっとそんなに古いサイトではないが(→2006年にスウェーデンの航空マニア2人が北欧と中欧についてプロジェクトを開始したのが2009年にクラウドソースのサイトとして本格稼動し、ここまで大きくなったのだそうだ)、今では「普通に使われている普通のサイト」になっているし、新聞記事で「ソース」として参照されることもよくある。

基本的に、FlightRadar24がやっていることは、公開情報/非公開ではない情報をオタクが勝手に拾って「まとめ」ているだけで、どこかの政府や公的機関が後ろ盾になっているわけでもなく、ましてや「リーク」ではない。
http://www.flightradar24.com/about

さて、このサイト(アプリ)に関する日本語報道を見て、「正体不明の会社が勝手に何かをしている」という印象を持ったという話を小耳に挟んだので、日本語の記事をGoogle Newsで見つかったものはすべて見てみた。確かに、説明が短いし、FlightRadar24側に取材したような詳しい記述もないので、これでは「正体不明の怪しいアプリ」と思う人がいても仕方がないのかも、と感じられる。

まず、最初に問題を発見したのは読売新聞のようだが(読売は最初に防衛省に「こんなの見えてますけど」と連絡し、防衛省からFlightRadar24に連絡して当該のデータが非表示となったところで、新聞記事として報道したようだ)、その記事は「専用機の飛行ルートはテロ対策のため非公開とされているが、スマートフォンなどに市販のアプリを入れるだけで動向を把握することが可能だった」、「スウェーデンのアプリ提供会社の説明によると、2006年から提供を始め、スマホ版は300円で販売している。飛行中の航空機が空中衝突を防止するために発信する「ADS―B」という信号を受信し、航空機の現在地を地図上にアイコンで表示する仕組み」と述べている(ただしオンラインで読めるのは、紙版の記事のごく一部に過ぎない)。


※読売新聞は、このように、記事の一部だけを表示し、「続きの閲覧は要登録」の形。

日経新聞はこう。「同アプリは第三者が受信したADS―Bの信号などを集め、多数の民間航空機の飛行情報を表示しているという」という説明で、やはり「なんか勝手に怪しいことをしている」ように見えても不思議ではないかな、という印象だ。



毎日新聞も記事は短いし、淡々としている。紙のほうではわからないがウェブでは「関連記事」として表示されている各記事見出しと重ねると、それぞれ立体的になるように思うが(「行動履歴もビジネスに」と関連付けるか、「米国家安全保障局」のと関連付けるかで見えるものが変わってくると思う)、「フライトレーダー24」が「本来非公開の情報を勝手に覗き見していた」という印象は、この記述自体からは受けないと思う。(ただし読み手の予断や予備知識次第だろう。)



Google Newsで唯一見つかったテレビ報道がテレビ朝日のものだが、そこも「なんかあやしいサイトが……」感をかもし出す日本語で語っている。「政府専用機のルートはテロ対策などのため非公開ですが、このサイトでは民間の航空機と同様にその動向を見ることができていました」と言われたら、「勝手に覗き見されてたんだ!」と思う人がいても不思議ではない(昔懐かしい「無断リンク禁止」問題を参照。最近では「勝手に人のツイッターを覗き見しないでください!」的なものもありますね)。



産経新聞はこう。「政府はテロ対策のため、専用機の飛行情報の公表を、発着する空港名に限っているが、インターネット上では詳細な情報が丸見えの状態だった」という記述は、的確な記述という印象だが、それでも「丸見えの状態」のような表現は、「政府がザルすぎる」と言いたいときにも、(政府が変なことをするとは想定していない人々の間で)「あやしいサイトが勝手に覗き見している」という誤解を招くと思う。



さて、この件、英語でも報道されていたことを今頃知った。BBCである。



BBCの記事はAFPや共同通信の英語版のまとめだが、FlightRadar24による説明をしっかり書き込んでいて(それも特に取材の手間をかけたというものでもなく、同サイトのAbout > How it worksのページに書いてあることの「まとめ」だが)、「あやしいサイトが何か勝手に……」という印象は与えない。日本語の報道は、文字数の制限が厳しいので仕方がないのだが、こういった基本的な情報のためのスペースが少なく(紙面では別途用語解説のようなものがあるかもしれないが)、そのために情報源が日本語だけに限られていて、なおかつ「外国ってよく知らないし」という意識を持っている人が「外国(海外)」の何かについて、「得体の知れないものが……」と思い込んでいるということは、ままある。

Flightradar24 says it tracks flights primarily through signals which are broadcast by aircraft, called ADS-B. It also uses data provided by the US Federal Aviation Administration and a navigation technique called multilateration.

The site relies on a network of 4,000 data receivers, hosted by volunteers around the world, which send the information to its servers.


なお、BBC記事の末尾で参照されている毎日新聞の英語版の記事からの抜粋(新しい政府専用機についての説明)は、実際には共同通信の英語版の記事である。
http://mainichi.jp/english/english/newsselect/news/20140813p2g00m0dm022000c.html
The new planes have the ability to fly nonstop to the US east coast and are large enough for VIPs, their entourages and communication equipment to handle sensitive information, reported Mainichi.


というわけで、この件、別に「ネット上の怪しい連中が勝手に非公開情報を集めていた」わけではない。読売新聞が別の記事で「専門家の指摘」として述べているように、"専用機を運航する防衛省に「危機意識が不足していた」" ということだ。

ちなみに、FlightRadar24はTwitterのアカウントで情報を細かく提供している。今は、また噴火しているアイスランドの火山の状況ウォッチが、大手報道機関よりずっときめ細かく提供されている。
https://twitter.com/flightradar24

火山情報を除けば、何らかの原因による旅客機の行き先変更とか、通常ではないルートとかいったものがよくツイートされているが、中にはgovernment aircraftの情報もある。




いずれにせよ、FlightRadar24.comはTwitterを英語で使ってれば頻繁に目にするサイトだし、「あやしいサイト」ではない、ということだけは広く共有したいと思う。

※この記事は

2014年09月11日

にアップロードしました。
1年も経ったころには、書いた本人の記憶から消えているかもしれません。


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【2003年に翻訳した文章】The Nuclear Love Affair 核との火遊び
2003年8月14日、John Pilger|ジョン・ピルジャー

私が初めて広島を訪れたのは,原爆投下の22年後のことだった。街はすっかり再建され,ガラス張りの建築物や環状道路が作られていたが,爪痕を見つけることは難しくはなかった。爆弾が炸裂した地点から1マイルも離れていない河原では,泥の中に掘っ立て小屋が建てられ,生気のない人の影がごみの山をあさっていた。現在,こんな日本の姿を想像できる人はほとんどいないだろう。

彼らは生き残った人々だった。ほとんどが病気で貧しく職もなく,社会から追放されていた。「原子病」の恐怖はとても大きかったので,人々は名前を変え,多くは住居を変えた。病人たちは混雑した国立病院で治療を受けた。米国人が作って経営する近代的な原爆病院が松の木に囲まれ市街地を見下ろす場所にあったが,そこではわずかな患者を「研究」目的で受け入れるだけだった。

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