まず、かなり「ローカル」な話で、イングランドと北アイルランドで22日に投票が行なわれた地方議会選挙の開票が進み、土曜日1日をかけてすべての結果が出揃った(今回、開票が遅いのはイレギュラーだと思う)。結果はガーディアンの画面がシンプルで見やすい。
http://www.theguardian.com/politics/ng-interactive/2014/may/22/local-elections-2014-live-results-updated
イングランド地方選(つい「英地方選」と書いてしまいそうになるw)、金曜日に結果が出なかったのはグレーターロンドン3区。キングストン・アポン・テムズ(いったん敗北宣言が出たっぽいが数え直しか)、ルウィシャム、そしてタワハム(想定内): pic.twitter.com/3w0sNPo1J8
— nofrills (@nofrills) May 24, 2014
ソース: http://t.co/u6nUgutdoY グレイアウトしている3区が未決。その上の、サンダーランド、サウス・タインサイド、スウィンドン…は早期に結果が出たところだと思われる。
— nofrills (@nofrills) May 24, 2014
これら3区のうち、土曜日中にまだ結果が出なかったのが2区(キングストンとタワーハムレッツ)。どんだけ激戦なの……。

土曜日に結果確定したルイシャムは……見てお茶ふいた。元々労働党の地域で保守党は「珍しい生き物」のレベルだったが、今回、LDが完全に溶けてしまったので、労働党とGreensしかいない。しかもGreensは1議席なので、ほぼ労働党独裁! 首都の中心に近いところで民主的に選挙されて!

キングストン・アポン・テムズで開票に手間取っているのもおそらくこれと同じような、「LDがどこまで溶けたか」の話だと思われ。タワハムは……混戦になるのは目に見えていたけれど、ここについて早まって何かを言いたくない。
私が見ているTwitterのTLでは、イングランドの人々(ジャーナリスト、コラムニスト、学生など)の間での、イングランドの選挙結果の分析(とも言えないような印象論)がメインだったが、これは「議論」としてはほとんど中身がなかった。「BBCはUKIPが躍進したと言い張るけれど、議席取れてないじゃないか」、「BBCは労働党の議席の積み増し、過半数を得た議会数の増加は無視して、UKIP, UKIPと大騒ぎしている」など。(「メディアがー」の大合唱は日本語圏だけでおなかいっぱいです。)
排外主義というか孤立主義というか、という「英国らしくない」思想をコアに持つUKIPの「躍進」(カギカッコつきで。10年前のBNPの「躍進」と同じ類)について、読む価値があるなと思った解説・分析は、誰かが「おい、おまえら、これを読め」といって回してきたThe Times掲載のMatthew Parrisによる論考だけだった。
北アイルランドの地方議会選挙は、最終的に落ち着いたデータで詳しく見たいのでまだ見てないが(ウィキペディアでいろいろまとまって出るはず)、開票作業中の悲喜こもごもが流れてくるのを見ていた限り、SDLPだけが「負けた」状態のようだ。例の「旗騒動」関連で、「波乱の第二章の幕開けである」感が漂っている。もうすぐ夏のパレードシーズン、wktkして待て。というかNIのリストが、こういうの見てニラニラする人と、当選した議員のセルフィ的なものを投稿する人しかいない状態になって、おもしろかったー。
State of the parties tonight with a few results still to come in. More in #SundayPolitics at 11.35 tomorrow @bbconeni pic.twitter.com/wKuaXAhTrK
— Mark Carruthers (@MarkCarruthers7) May 24, 2014
北アイルランドは地方選は投票方法が「候補者の中から1人だけ選ぶ」という前近代的な単純なもの(イングランドや米国や日本で使われている方式)ではなく、「どの候補者に最も議員になってほしいか (first preference)、二番目はどの候補者か……」という順位付けをする方式だが(なので開票・集計に時間がかかる)、これで北アイルランド全域で最大のfirst preferenceを獲得したのがシン・フェインだというので、「シン・フェインが最大政党になった」とベルテレさんが見出しを立てている。
Sinn Fein has emerged as the biggest party in Northern Ireland following the local government elections - but the DUP has claimed the greater number of council seats.
The republican party claimed 24.1% of all first preference votes with the DUP on 23.1%.
Both parties, however, saw their share of the vote slip with the DUP down by 4.1% and Sinn Fein marginally down by 0.7%.
Of the four main parties only the Ulster Unionists saw an increase in its overall share, up 0.9%.
The SDLP slipped from 15% to 13.5%.
The Alliance Party share of the vote was also down - by less than 1% and is on around 6%.
北アイルランドでほかに注目すべきは、「(紛争の枠組みから離れた)フレッシュな政治」で「旋風」を巻き起こしていたはずの "N21" (元UUPの「リベラル」な人たちの新政党)が投票日前日に党首と副党首の言い争いという形で溶けたところに、党首の性暴力への告発が女性たちからなされるというぐだぐだっぷりを見せているにも関わらず、まったく初めての選挙で議席を獲得したこと。それから、シン・フェインの牙城である西ベルファストで、いわゆる「ディシデント・リパブリカン」の諸政党は話題にもならないが、People Before Profit Allianceという本当に左翼の(民族主義の色の薄い)アイルランド全島規模の政党の候補者がベルファスト市議会に議席を得たこと(これはジェリー・アダムズには個人的に打撃だと思う)。
@mickfealty I told you gerry Carroll would do well...he had strong crew working for him mostly young https://t.co/zbO47cmLCt
— Katie-o (@kateyo) May 23, 2014
Gerry Carroll's campaign very effective, no surprise that he's in there fighting. Spoke to a lot of people yesterday who gave him "a touch"
— Squinter (@squinteratn) May 23, 2014
Sinn Fein has dominated Black Mountain DEA but big vote for Gerry Carroll too pic.twitter.com/Vd6laH15Aa
— Rebecca Black (@RBlackBT) May 23, 2014
People Before Profit's Gerry Carroll heckled Nigel Farage when he visited Belfast - now he looks to have a good chance of getting elected
— Mark Devenport (@markdevenport) May 23, 2014
Gerry Carroll (PBPA) is elected in Belfast District #VoteNI2014 #LE14
— BBC News NI (@BBCNewsNI) May 23, 2014
It's fitting that as a 32 county alternative PBPA should have our first Cllr of #le14 elected in Belfast. Well done Gerry Carroll.
— People Before Profit (@pb4p) May 24, 2014
Big shake up as Gerry Carroll wins seat in #belfastelection says he will be "thorn in side of establishment" pic.twitter.com/Bkd7LFA1hE
— maurice fitzmaurice (@mofitzmaurice) May 23, 2014
Historic breakthrough for the anti-sectarian left in NI as Gerry Carroll takes council seat in West Belfast for People Before Profit.
— Dave Lordan (@vadenadrol) May 23, 2014
I am not a nationalist or a unionist, I am a socialist, says @GerryCarrollPBP http://t.co/S4zTePo8zd #NIelections
— Belfast Telegraph (@BelTel) May 24, 2014
Just sent congrats to Tim Attwood. Will be returned in west, comhghairdeas also to Gerry Carroll. Will be interesting new council.
— Máirtín Ó Muilleoir (@newbelfast) May 23, 2014
※シン・フェイン所属の現ベルファストのロードメイヤー。
「旗騒動」方面では、プロテスタント過激派で武装組織UVFとつながっており「旗騒動」をあおっているPUPの党首もやっと議席を得たし、DUPから離脱した過激派のTUVも(たぶんストーモントでの仕事っぷりが印象を残したのもあって)ベルファスト市議会に議席を得た。
あと気になってるのは、UKIPが無視できない数の議席を獲得している点だが、これについてはまだ識者の分析を見ていない。北アイルランドの政治は独自の枠組みで語られるから、UKIPはそのナラティヴに入ってこないのだが、C18や元BNPの系統の極右が「旗騒動」で組織化している中、「外国人」(東欧出身者、アフリカ出身者、アジア出身者)への「国へ帰れ」という暴言や脅迫、器物損壊といったヘイトクライムがますます見えるようになってきていて、非常に不気味ではある。
それと、出馬するする詐欺の「旗騒動」オーガナイザー、ジェイミーは、アジ演説と(よくわからない)勝利宣言と、読みたいものを読みたいように読んで祝杯をあげている状態。その分、ジェイミーの声高な陰謀論(「すべてを支配しているのはSinn Fein/IRA」という陰謀論が、本当にあるんです)が聞こえないのはちょっと歓迎すべきか(笑)。
A really good overview of DUP losses by @Comberloyal. Major re-alignment within Unionism! pic.twitter.com/JVaM5IsbCI
— Jamie Bryson (@JamieBrysonCPNI) May 24, 2014
土曜日に開票が始まって結果が入ってきていた選挙はこのほか、アイルランド共和国のMEP(欧州議会議員)選挙。土曜日はほんとはお茶飲み地図を眺めながらこれを見ていたかったのだが(アイルランドの選挙は、画面を選挙オタクと速報系が埋め尽くすのを見て、ニラニラしているのが楽しい。趣味です、趣味)それどころではなくなっていた。なぜか……という話は次項に譲る。
なお、北アイルランドは宗教的な理由により日曜日は安息日なので開票作業は行なわれない。北アイルランドでのMEP選挙結果開票は、月曜日である。
Looks like IKEA sell ballot paper sorting furniture! >> RT @SeamusMagee All ready for Monday. Venue looks impressive. pic.twitter.com/GGIRBW0PvS
— Alan in Belfast (@alaninbelfast) May 24, 2014
ちなみに、@UKELECTIONS2015というハーコーな選挙オタクのアカウントを見つけたので、みんなもフォローしてみるといいと思うよ。UKの人だけど、UKだけでなく、欧州議会の各国結果も扱ってくれてて、みんなが気になってるギリシャ「黄金の夜明け」のこととかもわかるよ! ちなみにアカウント名の「英国の選挙2015年」は言うまでもなく、次の総選挙のことで、プロフィールの文面は、"I love General Elections and enjoy all the statistical porn. Visit my blog to enjoy stats and opinion polls". (転記にあたり、「ブログ」をハイパーリンク化した。)
https://twitter.com/UKELECTIONS2015
Totals for the 5 Merseyside metropolitan councils
Lab 158,635
UKIP 48,849
Con 47,781
LD 33,056
Green 22,797
TUSC 2,093
Ind 1,648
— General Election (@UKELECTIONS2015) May 24, 2014
5 Merseyside Met Councils
Changes since 2010 locals
Lab +3.07%
UKIP +12.94%
Con -3.92%
LD -17.50%
Green +4.66%
TUSC +0.59%
Ind +0.17%
— General Election (@UKELECTIONS2015) May 24, 2014
これでも「UKIPなんかたいしたことない」と言い張る労働党支持者は多いんだけど、LDとConからUKIPに票が流れていることは、パーティ・ポリティックスの問題ではないという認識が広まってくれないと、次の選挙でまたメジャー政党(労働党、保守党。LDはさようなら〜)が排外主義ポピュリズムにすり寄り、表面的に数値を達成して(←ニュー・レイバーのころからよくあった)「国民」が満足するようなイミグレ政策(それは資本家には影響しないし、肥え太った銀行家にも影響しない)を、道具の一つとして導入するようになるだけだと思う。今や、「英国人と結婚している外国人」が次々とデポテーションの対象にされている状態(「普通」になりつつあり、ニュースになってない)。一昨日もデリーでコロンビア人女性(結婚相手はデリーの人)の強制退去が寸前で差し止めになったというニュースがあったばかり。英国人と結婚している日本人がデポテーションされそうになったこともある。
以下、知らなかったことを調べたメモ。
グレイター・ロンドン、Haveringで見慣れぬ「R」という政党名略記。ウィキペディアHavering local electionsの項: http://t.co/TQjXdsu72v から調べ「レジデンツ・アソシエーション」と判明 pic.twitter.com/nmWFEmXuxd
— nofrills (@nofrills) May 24, 2014
Haveringにはその「レジデンツ・アソシエーション」も2つある。前回選挙で12議席を得ていたHavering Residents Association http://t.co/p5pCIoj0Wf と、Residents' Association of Londonなる政党
— nofrills (@nofrills) May 24, 2014
後者は http://t.co/xScurXmLqY で、前者からの分派なのか…よくわからないが、選挙のたびに20票ほどを獲得しているブラウン氏の「ひとり政党」のようだ。 http://t.co/TQjXdsu72v がソース。(ウィキペディアだけでここまで調べられるのが英語圏)
— nofrills (@nofrills) May 24, 2014
で、議席を持っている「レジデンツ・アソシエーション」 http://t.co/p5pCIoj0Wf は、改選前の段階(12議席)で、Havering Councilで第二党となっていた。今回2014年の選挙でその議席にどん、さらに倍、で24議席獲得。彼らの増えた12議席は…
— nofrills (@nofrills) May 24, 2014
…無所属の4議席(4→0: 会派に入ったということかも)、保守党の4議席(26→22)、労働党の4議席(5→1)。ちなみにここはUKIPは改選前と同じ7議席のまま。場所はロンドンの東の外れ(テムズ川の北側): http://t.co/sfJTgOnYF3 10年前にBNPがいた区
— nofrills (@nofrills) May 24, 2014
※この記事は
2014年05月25日
にアップロードしました。
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