Beslan school gymnasium lined with photos of the 334 victims of the September 2004 hostage-taking: pic.twitter.com/01IlXbJAJx
— Mark MacKinnon (@markmackinnon) January 26, 2014
2004年9月1日、新年度を迎えて登校した子供たちと付添いの親たちが、学校を標的とした武装勢力に「人質」にとられた。非常に悲惨な状況での「立てこもり」が続くなか、政府の治安機関は(武装勢力への説得工作という解決策ではなく)その学校に治安部隊を突入させるという解決策をとった。何百人もが死んだ。ロシアの端(という用語を使うとまた怒られるかな)、北オセチア共和国。
2004年9月の自分のログより:
http://nofrills-o.seesaa.net/article/190027686.html
3日夜,たまたまチャンネルを合わせたニュース番組でかなりの時間を割いて「チェチェン」を取り上げていた。コメンテーターが2人いた。(途中から見たのでコメンテーターがどういう人なのかなどわからなかった。)
スタジオのコメントは多分とても興味深いことを言っていたんじゃないかと思う。でもそれを覚えていない。
番組は,学校占拠事件のセンセーショナルな映像(なぜか下着姿の女子,上半身裸の男子,あざ,擦り傷,憔悴しきった表情,発砲,煙……)を流しながら,スタジオでのコメントを流していた。これで私は消化不良になったらしい。数分で情報を受け付けなくなっていた。
映像かコメントかのどっちかに絞ってくれればいいのに。
2014年の現場を訪れて写真をツイートしているマーク・マッキノンさんは、カナダの「グローブ&メイル」紙の記者である。元々はロシア特派員だったそうだが、続いて中東、中国に異動になり、数か月前からはロンドンが拠点。Twitterは中国にいるときから使っていて、私もそのころからフォローしている。
https://twitter.com/markmackinnon
The gymnasium of Middle School No. 1 in Beslan, where 334 students and teachers died in 2004 hostage-taking pic.twitter.com/QIrZgIVhNf
— Mark MacKinnon (@markmackinnon) January 25, 2014
ベスランの学校、「立てこもり」の現場となった体育館は取り壊されることなく、中央に正教の十字架が建てられ、壁には事件で殺された334人の写真が掲げられている、と記者は報告している。
Frozen in time. Classrooms in Beslan school still bear the scars of bullets and bombs of a decade ago: pic.twitter.com/R7G7m3IN6m
— Mark MacKinnon (@markmackinnon) January 26, 2014
もう使われることもない教室は、時間が止まったまま。まだ10年前の事件当時の銃弾や爆発物の痕が残っている。
……と、このように事件現場を訪れたときの往路か復路かはわからないが、マッキノン記者はウラジカフカス空港で見たものについても写真付きでツイートしている。
Wanted list: Photos in Vladikavkaz airport of what police told me are suspected "terrorists." #PutinsGames pic.twitter.com/7eNEggh130
— Mark MacKinnon (@markmackinnon) January 26, 2014
「手配者の一覧。ウラジカフカス空港での写真。警察の説明では、『テロリスト』であるとの疑いがかけられた者たちである」
壁に貼られたポスター(というか、パソコンから書類をプリントアウトしたものを、セロハンテープで貼ったもの)。男もいれば女もいて、なぜか子供の写真もある。
ツイートでマッキノン記者が示している情報は極めて少ないが、それでも、この140字の中で彼がゆるがせにしていないのは、「引用符」である。
'what police told me are suspected "terrorists"', つまり「警察はこの人たちを『テロリスト』であると疑っている」という情報を、正確に伝達するための引用符。
日本語圏では、こと「テロ(テロリズム、テロリスト)」に関しては、こういう「引用符」を使うという意識が見られない。これは10年前からずっと、いやその前からずっと。
だから、引用符のある言語圏のことば(多数)と、それがない日本語のことば(少数)がいっしょくたになって流れてくる私のTwitterのTLでは、日本語圏の何ら留保のない無遠慮な、あたかも「事実」であるかのような「テロ」という言葉が、やけに目立つ。
マクギネス&アダムズのintvですね。RT @KeigoTakeda:「北アイルランド過激派のテロが激しかったころBBCがその指導者のドキュメンタリーを作った。…」Web草思:NHKのウワサ(2006) http://t.co/O4hsN2tdjH @nobuko_kosuge
— nofrills (@nofrills) January 26, 2014
(ここで「過激派のテロ」という日本語圏の表現をスルーできるようになるまでの修行が大変なんですよ。日本語圏だと、IRAの「義勇兵」が自身のことを「テロリスト」と認識してることになってますからね。高村薫のあの小説とか)
— nofrills (@nofrills) January 26, 2014
BBCは表記基準で、IRAの構成員について、memberと表すことを指定している。これは中立的な表現で、政治的な色はない。英国の法律でもこの用語が使われている。一方、IRAは構成員をvolunteer(義勇兵)と位置づけ、ロイヤリストは”IRA terrorist"と呼んでいる。
— nofrills (@nofrills) January 26, 2014
@nofrills 日本で「IRAのテロ」は報じられるのに英国による抑圧やユニオニストの「テロ」はちっともニュースにならない、という不自然さが気持ち悪くて、北アイルランドについて知りたいと思ったんですよね私…。
— ふ。@遠くへ行きたい (@fu_sakura) January 26, 2014
.@fu_sakura 一般的に「ユニオニスト、何それ?」ですよね(私も最初、日本の報道しか知らなかったときはそうでした)。訳語の混乱(DUPを「民主統一党」とするなど)にも明らかですが、「ユニオニズム」という主義主張がまったく理解されていないし前提されてなかったと思います。
— nofrills (@nofrills) January 26, 2014
さっき、ベスランについて2004年9月の自分のブログを見直していて、こんなこと書いてたんだ、と驚いた文がある。2004年9月4日のエントリ。
http://nofrills-o.seesaa.net/article/190027598.html
「片方の暴力だけ」。これはまさに,しばらく前までの私の,北アイルランドのカトリック系過激派についての認識を決めていたものだ。
それしか知らなければ,それがすべてになる。それが「片方」(あるいは「一部」)であるということにすら気付かない。過去においてイングランドで起きたIRAによる「テロ」のいくつかは,日本でも報道されていた。
私は当時それについてほとんど関心がなかったから,(チェチェンニュースの)大富さんのように熱心に記事を集めてたわけではないし,私の読んでいた新聞記事がどのソースからもたらされた情報を元にしているのかなんて考えてみたこともなかったが,私にとってIRAは「地の果て」から来る“過激な人々”だったかもしれない。メルマガを見てそんなことを考えた。
けれども,その「地の果て」,すなわち北アイルランドにおいて,「テロ」という「野蛮」をしているのはIRAだけではないということは,うっすらと知ってはいたはずなのだ。そうだとしても,「いずれにしても,“どっちもどっち”で暴力ばかりを繰り返してるしょーもない人々」だとどこかで思ってただろう。
いや,実際,考えたこともなかったんだから,その当時どう思ってたかを今思い出すことは不可能だ。ここで何を書いても不正確になる。
でも何かニュースがあれば「またか」と思い,英国への興味という点でつながってる友人たちとは「IRAは困ったもんだよね〜」と話をして終わってたことは事実だ。(友人たちの中にスコットランドとかアイルランドに特別の関心のある人がいれば,話は違っていたかもしれない。)
現在,私はこのときの自分の視野狭窄を反省している。
かつて,IRA,いやむしろ北アイルランドについて私が知っていたことは,↓の記事に書かれていることの,ほんの一部だ。
The IRA campaigns in England
http://news.bbc.co.uk/1/hi/uk/1201738.stm
IRAのbombing campaignについてまとめられたこの記事のさらに一部が,かつて私が北アイルランドについて知っていたことのほとんどであった(観光情報などは別として)。極端な話,当時の私にとっては,「北アイルランド,即ち,IRAの爆弾テロ」だった。
私がイングランドにいたとき,IRAはよく何かをしていた。私の受け止め方としては,「IRAが〜した」,あるいは「IRAが〜したので交通機関がストップしている。困った/腹立つ」などで終わっていた。
「なぜIRAは〜するのか」をちゃんと考えたことは,多分ない。教科書的に,「カトリックとプロテスタントが対立し云々」は知っていたけれど,それがどういうことなのかを考えたことは,なかった。考えもしなかったから,知ろうともしてなかった。
まさに「地の果て」だった。
私がイングランドにいたとき,「IRAとは何か」について,誰とも話した記憶はない。周囲が特に政治的な人々ではなかったからかもしれない(それでもニュース映像のメイジャーにブーイングをしては「保守党がいかに腐っているか」を語る程度には政治的だった)。誰も語らないほどにセンシティヴな話題だったのかもしれない。(知り合いの中にはアイリッシュの血を引く人もいた。彼はそのことについて話さなかった。同様にジューイッシュの人もジューイッシュであることについては話さなかった。)
あるいはイングランドにおいては,IRAは説明などされる必要のない何かだったのかもしれない。でも外人である私は「IRAとは何か」を知らない。知らずに,イングランドのメディアでの説明(つまり“敵対者”による説明)ばかり見聞きして,それを元にイメージを固めていたのだ。
そこが自分にとって「地の果て」なのはなぜか。人々が自分の知らない言語を使っているからか。学校の世界史にも出てこなかったからか。その場所のことを自分が何も知らないからか。
その場所が,常に「テロ」と関連してメディアに出てくるからか。
なお、件の「Web草思」2006年の記事(BBCはこんなにすごい!みたいな内容)は、昨日(1月25日)にかなりの勢いで日本語圏をバイラルしていたようだが、私のところに流れてきたのは、私が気づいた範囲では26日になってからだった(もっと早い時間に来ていたのを見落としていた可能性は高いが)。
ざっと読んで、書かれていること(「BBC」とまとめているのが一番の問題点。ウエストミンスター詰めの「政治部」と、北アイルランドの報道部とは別、などいろいろありまして……)とは別に、「今(NHK新会長の、『政府が右ということを、左というわけにはいかない』とかいう妙な発言のあったあとのタイミングで)読んだ人にどう受け取られるか」という点に関して、「崇敬」を超えた妙な「崇拝」じみたことになりはしないかという気がしてならなかったのだが、それは日本語で書かれている「英国トピック」の文章の多くに感じられる「空気」と同じだろう。(うっとうしい風邪を引いているので、あまり深く「読め」ないし、「考える」こともできないので、この読みが正確かどうかはわからないが。)
BBC話ができる体調でないのでスルーするが、リビア介入前のBBC Newsの「国策」放送化、そろそろ誰か分析してないか(英政府はシリアについても同様の手法を繰り返そうとして失敗)。また、同じ報道系でも番組によってごにょごにょで、特にイスラエル関係のことはEIで調査報道されとったね
— nofrills (@nofrills) January 26, 2014
BBC Newsの国内報道は、毎日のテレビニュースは見られる環境にないのでウェブ版の傾向からしかわからないけれど、「政治」ニュースは2010年総選挙で労働党から保守党(と添え物LD)に政権交代してからは保守党のちょうちん持ち化していると思う。経済政策も移民制限論も対EU強硬論でも
— nofrills (@nofrills) January 26, 2014
続)スコットランド独立論、NSA/GCHQ関連では完全にウエストミンスターのマウスピース。ただしこれらはただの観察(それも厳密さを欠いた観察)なので、各自ご確認いただきたい。また、イラク戦争の「45分」文書追及のアンドリュー(アンドルー)・ギリガンは直後にBBCを離れている。
— nofrills (@nofrills) January 26, 2014
「BBCがimpartial(不偏不党)である」との論に関しては、私のTL上で時おり議論になっている(もちろん、英語話者の間で)。中東や北アイルランドのような「微妙」な場所についてのみならず、東京を拠点とする英国人や米国人の間でもそれは話題になる。先日はある在日英国人が、何か(何だったかは忘れてしまったが経済ネタだったか)の英国内のトピックに関して「BBCが不偏不党だなんていう建前を信じている人がいるとは」と驚いていた。
GCHQの「盗聴」に関しても、ガリガリと削りに行くオトコマエなガーディアンさんとは対照的に、「(ぶっちゃけ)ガーディアンのジャーナリズムはテロリズムである」という内務省筋の主張を(「伝聞する」ふりをして)そのまま受け売りしていたメディアには、デイリー・メイルやデイリー・テレグラフのような「右派」メディアだけでなく、BBCも含まれていた。
2010年の総選挙後、まだ政権が労働党に行くのか保守党に行くのかが決まっていなかった段階で、既に「保守党に決まり」というトーンで国会議事堂の前の広場に備えた特設テントから中継していたのはほかならぬBBCだし、その中継で嬉しさのあまり目を潤ませていたニック・ロビンソンという政治部記者は、その報道内容から判断して、はっきりいえば「保守党の腰巾着」だ。
ここ日本語圏では、BBCのそういう面を(「イギリスの国内ニュースの細かいこと」と位置付けて)見ることがないわけだが、「リパブリカンのインタビュー」のような突出した事例だけは「伝説」として語り継がれちゃうわけだ。
ちなみに「パワハラ」、「セクハラ」はBBCでももちろんある。BBCを持ち上げていればOKという風潮の日本語圏ではそういうことは「本質的ではない」「関係のない話題」としてほとんど語られないだろうし、語られたとしても「へぇ、紳士の国の/女王陛下のBBCでもそんなことがあるんですね」と、極めて不真面目にあしらわれるだけかもしれない。
Bullying at the BBC: Allegations made against World Have Your Say editor Mark Sandell http://t.co/uNGtvmGvWk
— Press Gazette (@pressgazette) January 26, 2014
どこにも、「理想的なもの」など実在しない。日本語圏では、書き手・話し手も、読み手・聞き手も同じように、それを前提として認識したうえで「BBCはすごい」という話をしないと、なんかとても危なっかしいんじゃないかと思う。
あまりに「理想化されたBBC」像が蔓延すると、またぞろ「虚偽の仮面を暴く」みたいな派手な宣伝文句を背負って、その実、当たり前のことを言うだけの人物が、「緻密な分析力を持ち、言いにくいことをはっきり言う豪傑」みたいに扱われることになるだろうし。
んでも、パワハラがあろうと、言われているほど不偏不党ではなかろうと、「テロリスト(と警察は言った)」の「テロリスト」に引用符をつけるくらいの約束ごとを守ることは、BBCはちゃんとしてる。その事実に変わりはない。
※この記事は
2014年01月26日
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