The Military Reaction Force was given licence to operate a shoot-to-kill policy against IRA suspects, former members tell the BBC's Panoroma tonight.
昨日のことをまだ書き終わっていないのだが、次のがきた。昨日のは、現地の人でなければ、マニアか研究者しか反応しないような話題だったが(それゆえに深いし重要)、今日のはキャッチーでわかりやすい。
北アイルランドに展開されていた「死の部隊」の話題である。11月21日(木)、BBCのドキュメンタリー番組、Panoramaが "MRF" を特集する。MRF, すなわちThe Mobile Reconnaissance Force (もしくは Military Reaction Force, Military Reconnaissance Force)。
これまでほとんど表に出てくることのなかったこの「死の部隊」(であることを当人たちは否定している)の元メンバー7人が、身元などを明らかにしないことを条件に、「当時、北アイルランドで何が行われていたか」を語った。
Undercover soldiers 'killed unarmed civilians in Belfast'
21 November 2013 Last updated at 00:03 GMT
http://www.bbc.co.uk/news/uk-24987465
BBC Newsでは、「UK」のみならず……

BBC News - UK via kwout
全体のトップページにも出ている。

BBC News - Home via kwout
これまで北アイルランドの「死の部隊 death squad」に関しては、英治安当局と結びついて情報を流してもらうなどしていたロイヤリストの武装組織のことは、少しは語られていた。「ロイヤリスト武装組織 featuring 英治安部隊メンバー」といった様相のグレンナン・ギャングについては、2006年に「カッセル報告書」が出るなどしている。
……と《説明》を書いていると、何をしたかったのかがわからなくなるくらい情報量オーバーロードなので先に行く。《説明》が必要な方は、各自で調べてください(公開されている情報なら、基本的な《説明》のようなことは、ウィキペディアとCAINとパット・フィヌケン・センターでほとんどのことは調べられるし、一次資料もそれらのサイトにあります)。
昨日、北アイルランドの司法長官(AG: Attorney General)が「紛争期の違法行為に関しては、今後は事件化を断念すべき」との考えをメディアのインタビューで示して大騒ぎになったところだが(あとでエントリをアップします)、その範囲にはリパブリカン武装組織の行為や、ロイヤリスト武装組織の行為だけでなく、北アイルランド警察(RUC)や英国の治安当局・軍の行為も含まれている。英国政府(国防省)は常に、「英軍すべての兵員は法の埒内で行動した (all British soldiers acted within the law)」と主張しているが、それが真実ではないなどということは誰もが知っている。(ジェリー・アダムズがIRA最高幹部のひとりだったという事実を、本人の否定にも関わらず、誰もが知っているようなものだ。)
この「部隊」は軍服を着用していなかった。(つまり「戦時国際法」なのだが、北アイルランド紛争は英国にとって「国際」の紛争ではない。ここに常に法的な抜け道があった。)
Seven former members of the plain-clothes detachment -- which carried out surveillance and, allegedly, unprovoked attacks -- have spoken to the programme.
http://www.theguardian.com/uk-news/2013/nov/21/army-unit-killings-northern-ireland
「非武装の一般市民に対する武力行使」という「事件」は北アイルランドではごろごろ転がっている。1972年1月30日のデリーの「血の日曜日事件(ブラディ・サンデー)は、他の何よりも80年代にU2が書いた曲(今なお、コンサートでは必ずやる曲)で世界中に広く知られるようになったが、同様の多数の「事件」はそのように広く知られることもないままであり、基本的に未解決(「犯人」が特定され、逮捕・起訴されてもいない状態)だし、真相究明もできていない。(ブラディ・サンデーは2000年代に進められた「サヴィル・インクワイアリ」の結果たるサヴィル報告書で「真相究明」はなされた。)
デリーの「血の日曜日」の前年、1971年8月の「ナショナリスト強制収容(インターンメント)」開始時にベルファストで行われた「デメトリウス作戦」のときに一般市民11人が射殺されたバリーマーフィー事件はその一例である。というかバリーマーフィー事件については過去どっかで書いてるのでもう繰り返さない(わしのブログとか読んでて、これを「知らない」ってのはあり得ないことという扱いをさせていただきます)。
昨日のAGの発言は、DUPからもSDLPからもアライアンスからも紛争被害者団体からも、etc etc, つまり主要政党・組織ではシン・フェイン以外からは総すかんを食らった形だが(シン・フェインは中途半端な「見守りましょう」というスタンスを示した)、そういった武力行使の法的責任を水に流してしまうという方向を向いたものであった。なお、これは「大英帝国」の植民地支配下での数々の暴力事件の責任を問うという世界各地での地道な取り組み(最近、ケニアのマウマウ団弾圧に関して、それがひとつ結実した)をつぶしてしまいかねないものであり、その点からも警戒されるのが当然である。
そういう「ムード」も冷めやらぬ中、今日のこれなのだ。
「極秘の軍ユニットが、無辜の一般市民を撃ち殺していたとの主張」。記事はこちら。
ベルファスト・テレグラフが使っている写真の左側の人がロバート・フォード少将(当時。後に大将)。1970年代前半の北アイルランド英軍地上部隊の責任者で、1972年1月30日のデリーでも現場にいた。ただしこの写真は、1972年1月30日のもの(→テレビ取材の映像のキャプチャがこちらにある)ではない。
ちなみに、ベルテレさんが使っている写真の撮影年やクレジットを確認しようと画像検索をしたら、2002年、サヴィル・インクワイアリでのフォード大将の「証言」についての記事が出てきて、これがまたアレな内容なので、頭からお布団かぶってしくしくと泣いていたい気分だが、そんなことをしていたらまた書き終わらないので先に行くことにする。
フォード大将は1923年12月生まれで、現在なんと90歳、そう遠からぬうちにこの人の証言は誰も聞けなくなるだろう。
http://en.wikipedia.org/wiki/Robert_Ford_%28British_Army_officer%29
(北アイルランド紛争時、1980年代に警察RUCのトップをつとめたジャック・ハーモンは、2008年に80歳少し手前で亡くなったが、晩年はアルツハイマー病で何も語らずじまいだった。イアン・ペイズリー率いるロイヤリスト過激派がどれほどの「脅威」であったかを直接知っている人だったが)
書きかけだけど、ここでアップ。このあと、ガーディアン記事を読みます。
ガーディアンは、北アイルランド情勢の記者ではなく、英国の法律的なトピックについて書いている記者が担当。とても明解で、さくっと読める分量なのでぜひ。
Undercover Northern Ireland soldiers accused of killing unarmed civilians
Owen Bowcott, legal affairs correspondent
theguardian.com, Thursday 21 November 2013 06.12 GMT
http://www.theguardian.com/uk-news/2013/nov/21/army-unit-killings-northern-ireland
いわく、BBC Panorama, "Britain's Secret Terror Force" では、元MRFの構成員7人(身元を明かしていない)が証言。
MRFの存在は広く知られていたが、その行動が明らかにされたことはなく、MRFについて「中の人」によって公に語られたケースはこれまでほとんどない。Wikipediaを見ると、2012年から13年にかけて、「サイモン・カージー」という偽名を使って本を出すなどしている人がいるそうだが、例としてはそのくらいだ(とはいえ、軍の「特殊部隊」系では、情報が表に出ることは元々ほとんどない)。
7人の証言によると、MRFは軍服を着用せず、車両も軍用車両ではないものを使っていた(民生用の車両を改造していた)。武器も通常の英軍支給品とは異なっていた(……というか、トンプソン・サブマシンガンですから、IRAがよく使ってた武器ですね。つまり発砲があったときにフォレンジックで疑われるのはIRAであって、英軍ではないようにしていたわけです)。主要任務はリパブリカンの監視だったが、それにとどまらなかった。
The soldiers in the Panorama report are not identified. One said that surveillance had been the MRF's main purpose, but that it also had a "hard-hitting anti-terrorist" role.
さらにまた、「我々の行動は、軍のユニットのそれではなく、テロ集団のそれのようだった。独自のルールを持っていた」と番組に出た元メンバーの一人は語っている。しかしこの人は「無辜の一般人を銃撃したという記憶はない」とも述べている。
うん。デリーのブラディ・サンデーで撃たれた人たちも「武装していた」んですよね。「あれはunlawful killingであった」と結論したサヴィル・インクワイアリで否定されましたけど。
英軍が当時、ナショナリスト/リパブリカンについて、どういう人なら「無辜の一般人」と見なしていたのか、私は知らない。インターンメントの時代だ。失業していてヒマを持て余して、英軍を見れば石を投げていた程度で、それ以上は何もしていないそこらへんの兄ちゃんが、しょっ引かれてロングケッシュにぶち込まれ、「5つのテクニック」にさらされ(=拷問され)ていた時代だ。
ガーディアンの記事に戻る。
1972年は北アイルランド紛争の30年の歴史の中でも最も流血がひどかった年である。これは先日、BBC historyにアップされた「マンガで見る、北アイルランドの和平プロセスの歩み」のところでも強調されていたが、1月30日のデリーのブラディ・サンデー以降、IRAの活動は激化し、1年間で500人近くの人が殺された。うち、134人が英軍兵士だった。
英軍は、自衛・周囲の防衛のためにしか発砲できないことになっていた。しかし、そんなものは建前に過ぎなかった。1月30日のデリーでも、撃たれた人たちは誰も発砲などしていなかったのに、英軍は「撃たれたので反撃した」と説明していたのだ。「危険人物」がいたら「除去」しておく。デリーで撃たれた被害者の多くは英軍によって事前に「デリー・ヤング・フーリガン」として特定されていた暴れ者(投石などの常習者)だった。
1972年、MRFはそれをさらに深いところで行なっていた。ベルファストのリパブリカンの「根城」のようなところに民生用の車で侵入し、「IRAの札付きのガンマン」を見つけては殺していた。
One soldier explained: "If you had a player who was a well-known shooter who carried out quite a lot of assassinations …it would have been very simple -- he had to be taken out." All the soldiers, however, denied that they were part of a "death" or "assassination squad".
これが「死の部隊」ではなくて何なのだと。
1972年5月12日、MRFはパトリック・マクヴェイという男性を射殺した。マクヴェイは6人の子の父親で、カトリックの元軍人クラブの会員(つまり、元英軍兵士である)。この「元軍人クラブ」がベルファストのバリケード(英軍やロイヤリストが入ってこないようにするもの)を見張っていた。
パトリック・マクヴェイ射殺事件に関与したMRFの兵士たちは、軍警察に対し、「攻撃されたので反撃した」と説明していた。しかし、今回のBBCの番組では、殺されたマクヴェイであれその周囲にいた人々であれ、IRAのメンバーであるという証拠は何もない、ということがはっきり語られている。
パトリック・マクヴェイについては、Peter Taylor, Brits: The War Against the IRA (2002) にもかなり詳細に書かれている(128ページ)。(が、撃った側の当事者の「声」が公の場に出たのは、初めてだ。)

同じく1972年の9月、別のMRFのパトロール隊(原文ママ)がベルファスト西部で18歳のダニエル・ルーニーを撃ち殺した。翌年、この件に関し殺人未遂の罪で起訴されていたMRFの軍曹が無罪となった。(ルーニー殺害についても、同じくTaylorの本に出ている。)
MRFは18か月間稼働した後、1972年終わりに解散。軍が指令と管理の構造に懸念を抱いたことによる。
ガーディアンの取材に対し、国防省スポークスマンは「この問題は、オペレーション・バナー(英軍の北アイルランド作戦全体の総称)中に生じた死亡事例をすべて調査している北アイルランド警察のHET (Historical Enquiries Team) の管轄であり、MoDはそれに全面協力している」と回答。「英国は、国内法、国際人道法にのっとって厳密な交戦規定を敷いており、これは北アイルランドでの作戦にも該当していた。武力の使用に関しては、兵士らは常に一般刑法の適用を受け、それは訓練時にも作戦前にもはっきりと伝えられる」
それでも、いろいろありましたよねえ。1970年代では古すぎるというなら、2000年代のイラクとかアフガニスタンで。
一方、北アイルランド警察は2000年代にRUCからPSNIに再編されたが、PSNIのスポークスマンは「番組をまだ見ていないのでコメントできない」と取材に答えている。
……ガーディアンの記事はこんな感じ。
こういう話(北アイルランドで英軍や英国の各機関が何をしていたか)は、もう10年以上前の本だが、BBCで北アイルランドに関する調査報道をやってきたジャーナリスト、ピーター・テイラーがまとめた下記の本に詳しい。
![]() | Brits: The War Against the IRA Peter Taylor Bloomsbury Publishing PLC 2002-02-18 by G-Tools |
BBCで番組が放映されて、BBCの記事が増強されてます。クリップなどもあります。
http://www.bbc.co.uk/news/uk-24987465
番組告知のツイート:
We reveal evidence soldiers from a secret unit used by the British Army during the Troubles shot unarmed civilians: pic.twitter.com/kf86PdE65W
— BBCPanorama (@BBCPanorama) November 21, 2013
これについているリプライがひどい。
「北アイルランド紛争」の「真相解明」を妨げているのは、これなんですよ。ブリテン島の元兵士や元治安機関職員の「自分たちは不法なことはしていない」という主張、「不法なことをしているのはIRA」という喚き声、そして調査報道に対する「偏向報道」というレッテル貼り。
「アダムズが何をやったか」なんて、つい最近、めっちゃ話題になってたじゃないですかー。RTEとBBCがほぼ同時に放映したThe Disappearedで。
http://chirpstory.com/li/167546
http://chirpstory.com/li/171273
ピーター・テイラーの本からもう少し。

nofrills / nofrills
北アイルランドで活動していた「英軍の死の部隊」に関する木曜のBBC Panorama, YouTubeで "BBC Panorama" で検索して、「アップロードされた日」でソートすると、今なら一番上にあります。(アップ主がうぐぐなのでリンクはしません。) at 11/22 12:01
nofrills / nofrills
導入部だけで涙目 (;_;) 今回のPanoramaの担当者、John Wareは1986年以降、継続的にPanorama で北アイルランドについて(他のトピックもあるけど)調査報道を行なってきた。 http://t.co/8viiZSDDNY (2007年までの一覧) at 11/22 12:07
nofrills / nofrills
この種の「ダーティ・ウォー」(というと「きれいな戦争なんかありませんよ」とドヤ顔をする人がいるが、これ、専門用語…covert warのこと)についてのJohn Wareの仕事では http://t.co/zD8aacqwrv A licence to murder (2002) at 11/22 12:10
A Licence to Murderのページ。トランスクリプトがDLできます。この番組では1985年から90年にフォーカスを当ててます。
http://news.bbc.co.uk/2/hi/programmes/panorama/2019301.stm
Government death squads are normally associated with South American dictatorships and unthinkable in a modern democracy like Britain.
With disturbing new documentary evidence and exclusive interviews, the distinguished investigative reporter John Ware exposes the secrets of Britain's dirty war.
※この記事は
2013年11月21日
にアップロードしました。
1年も経ったころには、書いた本人の記憶から消えているかもしれません。
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