The future King of England is here! Click through for more info about Prince William and Kate Middleton's newborn son http://t.co/PLXg1Fyh41
— Us Weekly (@usweekly) July 22, 2013
Take that, ROYAL BABY OF ENGLAND http://t.co/kSXxgfcG56
— Lindy West (@thelindywest) July 11, 2013
いずれも、それを言うならEnglandではなくthe United Kingdom (UK) 、もしくはBritainである。
http://en.wikipedia.org/wiki/Elizabeth_II
http://en.wikipedia.org/wiki/British_monarchy
私が中学に入ったとき、教科書の口絵の段階で導入されていた「基本語」のひとつにEnglishというのがあって(驚かれるかもしれないが、現行の、というか「ゆとり教育」以後の教科書ではそうなっていないものがある)、それには「英語」のほか、「イギリスの」という語義が与えられていた。「イギリス人」を意味するEnglishmanという "単語" も教科書で習った。(1980年代のことである。)
それからかなり時間が経って、「グレート・ブリテンおよび北アイルランド連合王国」について詳しく知るに及び、Englandが「イギリス(英国)」を意味しないということを把握した後に、かつては英国においても、England = Britain(もしくはUK)の意味であったことを知った。その実例はいくつもあるが、例えばキプリングのThe English Flag (1891):
http://en.wikisource.org/wiki/The_English_Flag
THE ENGLISH FLAG
Above the portico a flag-staff, bearing the Union Jack, remained fluttering in the flames for some time, but ultimately when it fell the crowds rent the air with shouts, and seemed to see significance in the incident. −Daily Papers.
Winds of the World, give answer? They are whimpering to and fro−
And what should they know of England who only England know?−
...
この、Englandという語の意味内容の変遷について、具体例を満載して追ってみたらそれなりにおもしろいのではないかとも思うが、そこまでの時間はあいにくない。いずれにせよ、現在(「現代」?)、英国においては、EnglandとBritainは明確に使い分けられている(BritainとUKは相変わらず曖昧なままだが)。
すなわち、England (English) といえばブリテン島(グレイト・プリテン)からウェールズとスコットランドを除いた「イングランド」のことで、「英国」全体を言いたい場合はBritain (British) もしくはUKを用いる。
例えば、テオ・ウォルコットはEnglishだし、アーロン・ラムジーはWelshで、2人ともBritishであるが、所属はEnglandのプレミア・リーグのアーセナルというクラブである。五輪で英国全体の統一チームを作ればTeam UKと呼ばれる。(2012年の大会では、結局スコットランドと北アイルランドが統一チームを拒否したので、「イングランド代表」に何人かのウェールズのプレイヤー加わって「UK代表」の看板をつけているような状態だったが。)
で、サッカーやラグビーやクリケットの「イングランド代表」が「英国代表」ではないのとおなじように、英国/イングランドの国家元首を首長(信仰の擁護者)とするChurch of Englandは、日本語では「英国教会」とも呼ばれるが、イングランドとスコットランドが明確に別の存在として認識されるようになった今日ではとりわけ「イングランド国教会」と呼ぶことが重要だ(ウェールズ Church of Wales, アイルランド Church of Ireland はイングランド国教会と同じ宗派だが、スコットランド国教会 Church of Scotlandは宗派が違い、英国の国家元首はスコットランドでの宗教儀式には立ち合いはするが「擁護者」として振る舞いはしない)。また、"of England" の別の例として、Bank of Englandが「英国銀行」などと訳出されていたら翻訳チェッカーは頭を机にのめりこませることになろう。こうしてうちら的には「イングランドは "英国" ではない」というのは根っこの部分で刷り込まれた「常識」となっている。
ところが、アメリカでは今なお「イングランド」が「英国全体」を意味するのだ。(※「アメリカでは」をケント・デリカット風に言うと無駄にイラっと来ることができて一石二鳥。)
BBC News - Royal baby: The American mistake http://t.co/cxVRmms5fS こんなのでいちいち記事立てんな、という内容だけど翻訳方面重要。アメリカ人が「イングランド」というとき、意味内容は「イングランド」ではなく「英国」。
— nofrills (@nofrills) July 24, 2013
本エントリ冒頭で参照した2件のツイート (@usweekly, @thelindywest)は、英王室について "of England" と表現しているが、いずれもツイート主はアメリカ拠点である。
これもそうだろうし……
The Queen of England owns a McDonald's near Buckingham Palace as part of her vast real estate portfolio, but she has never eaten there.
— Injustice Facts (@InjusticeFacts) July 24, 2013
この人は、プロフィールを見ると、拠点はフィリピンだそうだ(フィリピンも「英語」ではなく「米語」の言語圏であるが、それより「英国ではない」ことのほうが重要かも。サウジアラビアやUAEなどでも同じ語法が見られるし)。
Welcome to the world little Prince of England :) Congrats to Prince William and Kate Middleton http://t.co/OKxJq5Cvu2 pic.twitter.com/gztpgbJpNJ
— Kulitz :) (@samarlynmilby) July 24, 2013
イングランド、およびブリテンにおいて、このような "Queen of England" という言い方が「強い」反応を引き起こすのは、イングランド以外の連合王国の構成要素、すなわちウェールズ、スコットランド、北アイルランドについての連合主義(ユニオニズム)と分離主義という問題があるからである。
とりわけ、スコットランドについては "independence" をめぐるレファレンダムが2014年に控えているし、過去に次のようなことも起きている。
1952年にエリザベス王女が連合王国の国王に即位した際、その呼称が「エリザベス2世女王(Queen Elizabeth II)」となることをめぐって問題が生じた。というのも、イングランドには過去に同名の国王(エリザベス1世)がいたが、スコットランドには過去に同名の国王がいなかったので、イングランドを基準にすれば新国王の呼称は「エリザベス2世女王」であるが、スコットランドを基準にすれば新しい国王の呼称は「エリザベス(1世)女王(Queen Elizabeth)」となるからである。
……
イギリスの郵便ポストには王の名が頭文字で刻印されているが、エリザベス2世即位後にスコットランドに設置された郵便ポストは王冠が描かれているのみで王の名は書かれていない。これは、彼女の呼称に不満を抱いた一部の過激な民族主義者がエリザベス2世の名が刻印された郵便ポストを破壊したり、「2世」の部分を削り取ったりしたためである。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B9%E3%82%B3%E3%83%83%E3%83%88%E3%83%A9%E3%83%B3%E3%83%89
この件の顛末は、全文をリンク先でお読みいただきたいが、結局「王がどう名乗るかは国王大権(royal prerogative)に属すること」との判断で、今の女王はスコットランドでも「エリザベス2世」を名乗っている。将来的には「イングランドとスコットランドで『○世』の数値が異なる場合は、大きな方を基準とする」ということになっているらしいが、現実的にはそういうややこしい問題を避けるため、問題にならないような名前をつけるという方向に行くんじゃないかという気がする。(現に、「失地王」の異名をとるジョンの名前は避けられているのだし。)
このアカウントはイングランド拠点のようだが(イングランドでテレビ見てないと書けないような話がたくさん)、"of England" と述べている。これに対し「間違ってますよ」と指摘しているイーヴリンさんはスコットランドの人(スコットランドの王室支持者は、"of England" と言われることで疎外されてる感じがするのかもしれない)。
The future King of England! #RoyalBaby pic.twitter.com/UUlY1uK90Z
— MrCelebUK(@MrCelebUK) July 23, 2013
@MrCelebUK I ll just correct u there. ....United Kingdom! !
— evelynn lowey (@evelynnl) July 23, 2013
一方、北アイルランドではうっかり「クイーン・オヴ・イングランド」と言ってしまうとけっこうな騒ぎになってしまう。それが北アイルランドならではの「政治的主義主張」を背負った表現だからだ。
例えば、女性アイドルグループのナディーン・コイルが、「女王様に会っちゃった!」と浮かれてツイートしたときに「問題」とされたのは、彼女が軽々しく「セレブおっかけ」云々と述べたからではなく、エリザベス2世についてQueen of Englandと書いたからだった。(ナディーンはデリーのカトリック・コミュニティの出身である。)
Thrilled Girls Aloud singer Nadine Coyle in Twitter slip after meeting Queen
http://www.belfasttelegraph.co.uk/entertainment/music/news/thrilled-girls-aloud-singer-nadine-coyle-in-twitter-slip-after-meeting-queen-28924281.html
ナディーンの実際のツイート:
I met the Queen of England tonight & the Duke. The royal Albert hall was jumping with faces. A celeb spotters dream! Xxx hahaah great day!
— Nadine Coyle (@NadineCoyleNow) November 20, 2012
※かの地でのQueen of Englandという表現の政治性については下記参照(正確には、「下記発言の話者」というべきか。"The north of Ireland" や "six counties" の政治性と同じである):
Read Gerry Adams article from today's Irish Examiner on the visit of the Queen of England. http://www.sinnfein.ie/contents/20659
— Sinn Féin (@sinnfeinireland) May 14, 2011
アイルランド(共和国)ではこのような例があるが(ただし、面倒なんだけど、この場合はQueen of Englandが「正しい」んだよな……イングランド&ウェールズの法律なので):
Amazing news... the Queen of England has just signed the #EqualMarriage bill! pic.twitter.com/hxaeaPi5aI
— GLEN (@GLEN_News) July 17, 2013
今回の過熱報道に際して、アイルランド国営RTEは異様な浮かれっぷりで、"of どこそこ" をつけずに単にroyalを使うというありさま。
World awaits first glimpse of new royal prince http://t.co/QdF5J8H1N5 pic.twitter.com/rwpjBufluw
— RTÉ News (@rtenews) July 23, 2013
別に「アイルランドたるもの、英国とは敵対するのがデフォ」にする必要はカケラもないのだけれど、せめて明確に「外国」として扱うのが筋だと思う。というか、1921年を経て1922年があり、その時点でこうなって、そのあとにそれがひっくり返されて現在のリパブリックがあるという過程は何だったんすかっていうね。
なお、歴史的な人物についての Queen/King/Crown prince of England は、何らつっこみどころのない正しい呼び方である場合が多い。下記のような事例(ロンドンのナショナル・ポートレイト・ギャラリーのツイート)である。
It's 460 years since Lady Jane Grey became the 'nine-day Queen' of England. #OnThisDay http://t.co/UwYoxWkqm2
— Portrait Gallery (@NPGLondon) July 10, 2013
もう少し実例を挙げておこう。
アメリカの報道機関(The Daily Beast = Newsweek):
RT @thedailybeast: Queen of England wades into policy issue over radical Muslim cleric Abu Hamza http://t.co/iu0j0ALL #UK #islamist
— ESISC (@EsiscTeam) September 26, 2012
アメリカ人のインテリ:
Something kind of awesome about the Queen of England being given a gift of 60 placemats by her government. http://t.co/wgMbLGvT
— Tom Gara (@tomgara) December 18, 2012
イスラエル(米国からの移住者が多いので米語圏)の不法入植地住民(の発言を紹介しているのは英国人ジャーナリスト):
Israeli settler says Palestinian leadership are "terrorists in suits" who want Queen of England to wear burqa. 2 state solution impossible!
— Jonathan Rugman (@jrug) September 21, 2011
なお、英国人でも、エリザベス2世について(北アイルランド云々などの事情抜きで)素で Queen of England という言い方をする人もいないわけではない。ある程度は定型表現なのかもしれない。下記の例は当時は米拠点の英国の芸能人、ラッセル・ブランド(昼間のテレビだからお行儀よくしててねとエレンに言われて、「大丈夫、女王様と食事したこともあるんだから」と請け合っている):
@TheEllenShow Ma'am, I've dined with The Queen of England and controlled my manners, today I shall be exemplary with The Queen of Daytime.
— Russell Brand (@rustyrockets) October 14, 2010
「実例」だけではちょっと……という権威主義(笑)な向きにはこちら。アメヘリ。
ここまでで参照したもの以外にも、米語でEnglandがUKの意味で使われているのに気づいてツイートした記憶があるのだが、Twilogをどう検索しても出てこないので、きっとツイートしたつもりでしていないか、ツイートするのをやめてしまったのだろう。
2014年8月4日追記:
If Twitter had been around, the question would have been: "What else ya got?" RT @nycsouthpaw: Quite the headline pic.twitter.com/gdAXcFUeGu
— Don Van Natta Jr. (@DVNJr) August 4, 2014
pic.twitter.com/N4S1uz57UA 100年前、第一次世界大戦開戦時を振り返る企画が英語圏のあちこちで行われているがこのNYTの一面はすごい。 via https://t.co/DRhWqFV1mz (ついでながら「英国」がEnglandと呼ばれてることも確認できます)
— nofrills (@nofrills) August 4, 2014
これを見て、@keikokitさんがこのエントリのことをぼんやり思い出して探してくださった(ぼんやりとでも覚えていていただけていることは光栄であるが、何より、書いた本人もぼやっとしか覚えていなかったという……^^;)。
.@keikokit 書いた本人です(笑)。発掘してくださってありがとうございます。このトピックで書いたことは覚えていたけど、3年くらい前かなと思ってました。1年前じゃん! 先ほどのNYTの件も、このブログに追記しておきます。
— nofrills (@nofrills) August 4, 2014
@nofrills nofrillsさんが書かれたかもしれないなぁと、ぼんやり(失笑)覚えていたので(失笑)...「アメリカでは 英国 England 呼び方」で検索したら出てきました。
— keikokit (@keikokit) August 4, 2014
なお、第一次大戦開戦時の新聞一面で、シカゴの「シカゴ・デイリー・トリビューン」。
@DVNJr @nycsouthpaw Chicago Trib on 8/3/1914 put out an extra that was like a long scream. pic.twitter.com/QlR16S4IXk
— STEVE HUFF (@SteveHuff) August 4, 2014
第一パラグラフで、形容詞形で(Englishではなく)Britishが使われている。なお、ここで述べられているのは「英海軍」の船のことだが、「英海軍」についてはBritishではなくRoyalを使い、the Royal Navyと言う。「英海兵隊」もthe Royal Marinesだし、「英空軍」も同じくthe Royal Air Force (RAF)。だが「英陸軍」は the British Armyという。理由は知らん。
http://en.wikipedia.org/wiki/British_Armed_Forces
それから、米国でのEnglishという語のBritishと置換可能な用法についてもう1件。
ミッチェルさんの長崎についての文でも、http://t.co/YVvvfgRmwe "Thomas Glover, one of the first English traders here" とある。ミッチェルさんクラスでも、Englandの使い方がおかしいのがアメリカ。
— nofrills (@nofrills) August 9, 2013
(長崎のグラバー邸のグラバーさんはスコットランド人だから、BritishではあってもEnglishではない。)
— nofrills (@nofrills) August 9, 2013
※この記事は
2013年07月24日
にアップロードしました。
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