まあ、とりあえずBBC。(「とりあえずビール」的に。)

BBC News - Home via kwout
この「記事」の下に並んでいる「ビデオ」の一覧を見ると、「儀式」としては、リアルタイムで見ていたらおもしろかったかもしれない(このご夫妻の結婚式や、ご夫妻のおばあさんの即位60年記念式典、また80年代の首相の「準国葬」級の葬儀のように、英国の国家およびロイヤル筋の「儀式」は見応えがある)。
ともあれ、ご無事でのご出産はおめでたいことである。
さて、日本時間で22日の午前中、私の視界に入る英語圏は「ダッチェス・オヴ・ケンブリッジが出産のため病院へ」の話題で持ちきりとなった。例のかつて「共和主義(王制廃止論) Republicanism」で鳴らしていた新聞も例外ではない。
この、2010年のウィキリークスとのコラボ以降、がんがんと世界的知名度・認知度を上げっぱなしのこの新聞は、産業革命の黎明期であった1821年に新興の都市、マンチェスターで創刊されたときから、いわば「反中央」である。具体的には、宗教的にはノン・コンフォーミスト(すなわちイングランド国教会以外の宗派……カトリックはもちろん、プロテスタントでもプレスビテリアン、メソジストなどの各宗派を含め)、政治的にはリベラリスト。マンチェスターでは1819年に選挙制度改革要求の大衆運動(数万人規模)が警察の弾圧を受け、15人が殺されるという(まるで「植民地のような」)事件が起きており、そのデモを支援した『マンチェスター・オブザーヴァー』という新聞が当局によって閉鎖されていた。その閉鎖のあとに、当時の実業界の人々(新興資本家)が創刊したのが、『マンチェスター・ガーディアン』である。そんなこんなで、かなりガチで「反骨」なバックグラウンドを持つ新聞である(よく「わかりやすさ」のためになされる不正確極まりないいいかげんな説明で「日本では朝日新聞に相当する」と言われるが、全然違う)。
http://en.wikipedia.org/wiki/The_Guardian
そのガーディアンの「王制廃止、ひゃっはー」的スタンスが真顔で撤回されたのは、2011年のことだった。最初、それはエイプリル・フールのジョークだった。「あのガーディアンが、ロイヤル・ウェディングを特集」というだけで、当時はお茶をふけたのである(遠い目)。
結婚式当日(2011年4月29日)は、王室ニュースがないと生きていけないタブロイドが早々と(本当に文字通りに)そのニュース一色に染まる中、ガーディアンはしばらくはしれっと通常運転しておいて、(現地で)朝になったらいきなり「そのニュース一色」になっていた。
きっと誰もが「マジかよ」と思ったに違いない。が、その「マジかよ」が「マジだったwww」になるには、画面の右上を見さえすればよかった。

用語などの説明は当時書いたのでそちらをご覧いただきたい。
で、2011年のこの結婚式の次に、2012年の女王即位60年(ダイヤモンド・ジュビリー)とロンドン五輪開催にでブリテンの(「イングランド」ではなく)カジュアルなナショナリズムが炸裂して、あのガーディアンの紙面でユニオン・フラッグがぱたぱたするのが常態化するという反動帝国主義的な転回(笑)を経た2013年、重いだしたように、この「王制廃止論者ですか?」ボタンが、今回、また出ているのだ。
私はボタン適用がデフォなのでこんな画面だが(小さくて見づらいが、本文スペース右上の "Royalists?" ボタンに注目):
(偶然なんだろうけど、モリッシー……anti-royal界の鉄板……)
単にガーディアンのサイトにアクセスするとこうなっているはずだ。
これが、「いよいよ産気づいて病院へ」の報があったときから続いている。キャプチャ画像の右肩に注目。
Brilliant: The Guardian has two online front pages today one for Royalists, one for Repulicans. http://t.co/f6Y33iLV1Y
— Elise Craft (@elise_e) July 22, 2013
.... and the @guardian for royalists pic.twitter.com/isktrteeYd
— Richard Fletcher (@fletcherr) July 22, 2013
この「切り替えはご自由に」が、特にアメリカで大受けしていたようだが(「ガーディアンっていう新聞、最近になって初めて見てみたんですぅ」っていう人も多いだろう)、WaPoの人は冷静に「結婚式のときもやってた」と指摘している。
Hey guys, @Guardian's "Royalists" and "Republicans" button on the homepage is not new. It happened during the royal wedding, too.
— Anup Kaphle (@AnupKaphle) July 22, 2013
このイタリアのジャーナリストさんは「時代が変わりつつあるということだ」と述べているが、どっちに変わったと思っているのだろう。あの(王室ニュースなど無視で当然というスタンスだったはずの)ガーディアンが「ロイヤル・ベイビー」で浮かれている、と言いたいのか、王室ニュース一色の英メディアにようやく風穴、と言いたいのか……後者なら、事実誤認である。
#royalbaby the @guardian has two different home pages: one for Royalists and the other one for Republicans. It means times are changing
— Pierfrancesco Loreto (@pierloreto) July 22, 2013
この人のvineの使い方、とてもよい(シンプルで)。
The Guardian helps Royalists and Republicans see the content they care about #RoyalBaby https://t.co/fxxhlvPXhC
— Chris Heydt (@heydtc) July 22, 2013
いや、ほんと、病院に入られてからの数時間は、今か今かと固唾をのんで見守っているような人であれば別かもしれないが、「新しいニュースは何もありません」と言うためだけの時間帯であったわけで。
がーでぃあんのあの「共和主義者ですか?」ボタンは、ウィル&ケイトの結婚式のときからの新たな「伝統」だが、今回威力を発揮している。あのボタンを押せば、「出産までのカウントダウン」の、壁に塗ったペンキが渇くのを眺めているようなものをすべて隠せる。
— nofrills (@nofrills) July 22, 2013
ははは。今BBCNews24の記者が病院前から視聴者から寄せられたテキストをいくつか読み上げたんだけど、「ダッチェスが陣痛中にこの放送を見てるいることを願う。陣痛の痛みもこの過剰放送の痛みで軽減されることだろう」とか「他にも赤ちゃんは産まれてる。他のニュースよろしく」だってww
— Kaoru (@blossom_kaoru) July 22, 2013
Nobody knows exactly why they are doing it でしょうな……。
Brilliant - BBC reporter on royal baby 'plenty more to come from here, none of it news - but that won't stop us' http://t.co/BW5nmbIJKp
— Neal Mann (@fieldproducer) July 22, 2013
「日本のメディアはゴミだが、海外メディアはすばらしい」論の人たち、今日のBBCが何してるか、よ〜〜く見ておくといいよ。
— nofrills (@nofrills) July 22, 2013
「Twitterは3つの派閥に分かれている。いよいよご出産ですね!と大喜びする派、そんなことをいちいち報じるなとぶーぶー言う派、そしてその両者についてフフンって顔をしながら論評する派」。
Twitter divided into three camps: those excited about baby; those angry about it being reported; and those snarkily commenting on other two
— Stig Abell (@StigAbell) July 22, 2013
さらに……
Brilliant front page from The Sun - or rather, The Son. Always on the money. #RoyalBaby pic.twitter.com/W3ieo15i0P
— Andrew Dagnell (@andrewdagnell) July 22, 2013
マードック組の人たちは身内で自画自賛(かなり気持ち悪い光景)
Yep. Very good. @Edgecliffe: Hats off to The Son, er The Sun, for this front page, via @SkyNews pic.twitter.com/lcrIPfPRbZ
— Toby Harnden (@tobyharnden) July 22, 2013
これが、ガーディアンの記者に言わせると……ははははは、vomitって言いなよ、素直に。(日本で皇室に赤ちゃんが生まれたときに朝日新聞の記者がこんなこと言わないでしょ? そういうことっすよ)
The Sun front page actually, genuinely, made me throw up in my mouth a little. pic.twitter.com/15lyqX3Rg1 (HT @hendopolis)
— James Ball (@jamesrbuk) July 22, 2013
ところで、今年のガーディアンのエイプリル・フールのネタ、ご記憶だろうか。「ガーディアンがあなたのために情報をチョイスします」というあんまりシャレになっていないネタを、Google Glassという最新のトピックに乗せてシャレにしてしまうという強引なものだったのだが。
http://matome.naver.jp/odai/2136478973142915201?page=2
おまけ:
もしもアメリカのメディアに「リパブリカン」ボタンがあったら……
In homage to The Guardian, The New York Times has added a "Republican" button to its website. Press it to mute all science news.
— Ted Underwood (@Ted_Underwood) July 22, 2013
アップデート:
そしてまだ、「王制廃止論者ですか」ボタンは消えていない。見るなら今のうち! pic.twitter.com/ueqXzv6Hoq
— nofrills (@nofrills) July 24, 2013
呆れた、BBCはまだ「女の人が赤ちゃん産んだ」話がトップニュースなのか。2件目も、言っちゃ悪いけど「ニュース」じゃない。BBC News - Home via kwout http://t.co/JGRz3LwZJo
— nofrills (@nofrills) July 24, 2013
※この記事は
2013年07月23日
にアップロードしました。
1年も経ったころには、書いた本人の記憶から消えているかもしれません。
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