「なぜ、イスラム教徒は、イスラム過激派のテロを非難しないのか」という問いは、なぜ「差別」なのか。(2014年12月)

「陰謀論」と、「陰謀」について。そして人が死傷させられていることへのシニシズムについて。(2014年11月)

◆知らない人に気軽に話しかけることのできる場で、知らない人から話しかけられたときに応答することをやめました。また、知らない人から話しかけられているかもしれない場所をチェックすることもやめました。あなたの主張は、私を巻き込まずに、あなたがやってください。

【お知らせ】本ブログは、はてなブックマークの「ブ コメ一覧」とやらについては、こういう経緯で非表示にしています。(こういうエントリをアップしてあってもなお「ブ コメ非表示」についてうるさいので、ちょい目立つようにしておきますが、当方のことは「揉め事」に巻き込まないでください。また、言うまでもないことですが、当方がブ コメ一覧を非表示に設定することは、あなたの言論の自由をおかすものではありません。)

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2013年05月25日

EDL (イングランド防衛協会) について (1)

ウーリッチの英兵惨殺事件のあとで、また、ニュースに "EDL" の名前が登場している。日本語圏の報道でも言及されているようだ。私のような個人のツイッターや「NAVERまとめ」にも、EDLに関する日本語での反応があるので、不十分ながら、「とりあえず」的なものを書いておこうと思う。ただ、日々のニュースだけでまとまった文献を見ていない(そんなものはないかもしれない)状態なので、かなり断片的で不確かであることは前もってお断りしておきたい。

EDL = The English Defence League. 2009年に組織化され活動開始した、非常に新しい「極右」集団である。(「極右」は別途定義しなければならないが、ここではとりあえず、Wikipediaでの位置づけをそのまま流用しておく。)

その名称は、ほぼ間違いなく、White Defence Leagueにちなんでいると思われる。戦術もオズワルド・モーズリーによる「大衆動員」のそれだ。

ただし思想的な中身はWDL(のちのBNP)のようなガチの「ネオナチ、反ユダヤ主義、白人優越主義」とは少し異なる(要資料確認)。EDLの活動のコアは、少なくとも名目上は、「反ムスリム、反イスラミズム、反シャーリア法」である(典拠は例えばウィキペディア英語版)。BNPなどを含め、旧来の「極右」の重要な要素のひとつであった「反ユダヤ主義」の色彩はない。むしろ、「反イスラム」=「シオニズム支持」ということになっている。

日本語圏では「英国防衛協会」と翻訳されている事例もあるが、これはChurch of Englandを「英国教会」とするのと同じような間違いで(Church of Scotlandは別の宗派である)、EDLは「イングランド防衛協会」である。

EDL_DudleyII-8とはいえ、EDLは「連合王国」の「連合」性を拒否・否定するナショナリズムの勢力(スコットランドのSNP, ウェールズのPC, 北アイルランドのSDLP, SF)ではないので、「英国防衛同盟」とするのはさほどひどい間違いではないのかもしれない。左の写真 (by Rude Cech, CC BY-NC-ND 2.0) は2010年にダドリーで撮影されたものだが、イングランドの聖ジョージ十字の旗と、連合王国のユニオン・フラッグ(英国旗)が確認できる。ただし、スコットランドには、EDLにならったSDL (the Scottish Defence League) という団体が存在するという事実には留意が必要だ(リンク先の写真参照。聖アンドルー十字の旗と連合王国の旗がある)。

EDLのリーダーは、「トミー・ロビンソン」という。いや、地元で伝説的なフットボール・フーリガンの名前を取って「トミー・ロビンソン」と名乗っているのであり、実名は「スティーヴン・ヤクスレイ=レノン」という(ほかに「ポール・ハリス」の名義もある)。エスニシティはアイリッシュで、ナショナリティはイングリッシュを自認しているという「移民(の子供)」の1人だ。

「ロビンソン(レノン)」は1982年11月に、アイルランドからの移民が多いルートン(空港で有名。ロンドンの北にある)に生まれた。現在30歳(ということはイラク戦争開戦時は20歳で、湾岸戦争時は10歳にもなっていなかったという世代である)。今もルートンの近くに住んでいる彼の仕事は日焼けサロンの経営(ということは「たまり場」を持っているということだ)だそうだが、店は最近人手に渡ったとかいう話もある。代弁者を通してではなく自身で発言することが多く、Twitterなどもやっているが(ここではリンクはしない。探せば誰にでも見つけられる)、とにかく「学がない」ので(それがまた「普通の人」として独特のカリスマ性を帯びてしまうようだが)英語がひどいとか書いてることが子供じみているとかいう状態になっている。

彼が生まれ育ったルートンという街について、ここで少し見ておこう。ロンドンから50キロほどという場所に位置するこの街は、20世紀を通じて常に「移民がやってくる街」であり続けた。最初はスコットランドやアイルランドから。続いて、旧英領の独立の時期にアフリカやアジアから。近年では、EU域内の人の移動の自由化に伴い、東欧から来た人々がここに暮らすようになっているとも。2011年のセンサスでは、「白人」は54.6%、「アジア人、もしくはアジア系」(UK英語のAsianは主にインド、パキスタン、バングラデシュを指す)が30.0%、「黒人」は9.8%、「その他」が1.5%だ。宗教を見ると、「キリスト教」が47.4%で、「イスラム教」が24.6%、「ヒンズー教」が3.3%で「シーク教」が1.1%である(なお、「無宗教」との回答は16.5%)。
http://en.wikipedia.org/wiki/Luton#Ethnicity

これほど「多様性」があるということは、柔軟性に富んでいるということを意味するし、実際、いろんな意味でinclusiveな街ではあるようだ。

そこからEDLのような活動が始まった背景にあるのが、いわゆる「イスラム過激派」の活動である。

The vast majority of the town's 20,000 Asians are Pakistanis with family ties in Kashmir, the strife-torn Himalayan region that has long been a magnet for those attracted to jihad.

Many commentators were quick to describe the Bedfordshire town as a hotbed of Islamic radicalism. And, given Luton's recent past, it is easy to see why such a label has been applied. The 7/7 London bombers travelled from Luton to the capital, while one of the key members of another bomb plot – an attempt to blow up the Bluewater shopping centre in Kent and the Ministry of Sound nightclub – came from the town.
http://www.independent.co.uk/news/uk/home-news/luton-the-enemy-within-1643089.html


EDLを創設する前、「ロビンソン(レノン)」が「街頭に出る」という形で政治活動を開始したのは2009年3月。ルートンを含むベッドフォードシャーなどを兵員の拠点とする英軍部隊がイラクから戻ってきたときに行われたパレードで、イラク戦争に抗議するという名目で行われた「イスラム過激派」の活動に対するものだった。つまり、「英軍おつかれさま」という歓迎へのカウンターとしての「英軍は人殺し」というデモに対するカウンターを、後にEDLとなる彼らが行なった。

その、“「英軍おつかれさま」という歓迎へのカウンターとしての「英軍は人殺し」というデモ”について、少し見ておこう。(その前に、「人口の3割がムスリム」と言える場所で、既に「対ムスリム戦争」として非難されていたイラク戦争の軍の帰還パレードを行なうという判断がなされたということの愚かさも、少し考えてみてもよいのかもしれない。2009年3月というと、ゴードン・ブラウンの労働党政権が躍起になって「ブリティッシュネス」を強調し、「誇れる英国」を国内向けに宣伝していた時期だ。)

Protest in Luton
Friday, 13 March 2009
http://news.bbc.co.uk/2/hi/programmes/politics_show/7942744.stm
Soldiers were subjected to abuse after returning from duty in Iraq when confronted by an anti-war protest in Luton.

Tuesday 10 March 2009 should have been a day of celebration to mark the homecoming of the Royal Anglian Regiment but it was disrupted by a small group of radical protestors.


BBCはこのように、遠慮がちに(そしてそれゆえ不正確にも)「反戦抗議行動 anti-war protest」としているが、彼らが抗議したのは「戦争一般」ではなく「イスラムとムスリムに対する戦争」だった。もっとはっきり言えば、このときに行われたのは「(少人数の)イスラム過激派のデモ」だった。(当時、彼らは正体を必ずしも明らかにすることなく「反戦」、「同胞を守れ」的な名目で活動をしていた。)

Calls for crackdown on parade Muslim extremists
By Thomas Harding, Defence Correspondent and Richard Edwards, Crime Correspondent
4:10PM GMT 11 Mar 2009
http://www.telegraph.co.uk/news/uknews/4974031/Calls-for-crackdown-on-parade-Muslim-extremists.html
The small group of demonstrators in Luton are thought to have links with al-Muhajiroun an organisation that has been outlawed by the Government.

Patrick Mercer, MP, the former Tory Homeland Security spokesman, said the law must be "upheld" to ensure banned groups are targeted.

"If an organisation is proscribed then the government must stop it from operating publicly particularly in such an inflammatory and dangerous way," he said.

His words came after the outspoken preacher Anjem Choudary, a former member of al-Muhajiroun, posted a message on an extremist Islamic website in which he called the marchpast a "vile parade" of "brutal murderers".

The homecoming was to "demonstrate their skill at murdering and torturing thousands of innocent Muslim men, women and children", he wrote.

Mr Choudary now leads a group that wants Britain to become an Islamic state and ruled by Sharia law.


Luton: the enemy within?
By Jerome Taylor and Mark Hughes
Thursday 12 March 2009
http://www.independent.co.uk/news/uk/home-news/luton-the-enemy-within-1643089.html
Instead the march was marred by ugly scenes as pro-war locals, enraged by the protesters' banners proclaiming "Anglian Soldiers: Butchers of Basra" and their chants of "Burn in Hell", turned on them and began shouting their own abuse. Police were forced to make two arrests and had to protect the anti-war protesters from the angry crowd.

The protest was organised by former members of Al Muhajiroun, the banned group founded by the radical preacher Omar Bakri Mohammed. Abu Omar and Abu Shadeed were two of the protesters. Yesterday, as the fallout from their hate-filled demonstration reverberated, both of them were unrepentant.

"We supposedly have a country that prides itself on freedom of expression," said Abu Omar. "Yet as soon as Muslims like us say something which conflicts with people's views, freedom of expression goes out of the window. We are told to shut up and keep quiet."

Abu Shadeed added: "I felt I had no choice but to protest. When I heard that British troops were coming to celebrate killing innocent Iraqis in my town, I knew I had to say something."


タイミングとしてはこのとき、北アイルランドで警官が射殺され、英軍基地が襲撃されるという事件が立て続けに起きており、個人的にはルートンのことは完全に、何も記録していない。後日、ベルファストで帰還した英軍のパレードが行われたときに、シン・フェイン主催で「沈黙の抗議」(プラカードも何も持たず、ただ黙って立つ)が行われたときに多少は参照しているかもしれないが、リアルタイムでは何も書いていない。
http://b.hatena.ne.jp/nofrills/20090311?with_favorites=1
http://b.hatena.ne.jp/nofrills/20090312?with_favorites=1
http://b.hatena.ne.jp/nofrills/20090313?with_favorites=1

はっきりした記憶があるわけでもなく、今頭の中にあるのは「修正された記憶」かもしれないが、それでも、当時の「反戦」界隈では、BBCのように、ルートンで行われたのは「反戦抗議行動 anti-war protest」であるという見方がなされていたと思う(Stop the War Coalitionなど)。

テレグラフの記事に出てくるアンジェム・チョーダリー (Anjem Choudary) という人名は、英国におけるイスラム過激派の活動を追う上では、極めて重要である。1967年にイングランドで露天商の息子として生まれた彼は、最初は大学(サウザンプトン大学)で薬学を学ぼうとしたが落第して法律に切り替え、語学学校で英語を教えながら法律家の資格を取得。「ムスリム法律家協会 the Society of Muslim Lawyers」のチェアマンとなったが、2002年に除籍された。1999年には既にサンデー・テレグラフによって、彼が外国で戦うムスリムの義勇兵を英国内でスカウトしているということを書かれていた。

チョーダリーについての詳細は、ここでは本題から外れてしまうのでまたの機会とするが、彼は英国での「イスラム過激派」の中心的な存在の1人であり、2005年に英国から出国したら出禁になったオマー・バクリ・モハメド(シリア人)とものすごく深くつながっていて、Al-Muhajiroun(移民たち)(これはオマー・バクリ・モハメドによるHuTの分派である)やIslam4UKといったさまざまな組織を率いて「過激」な活動をしている。そして、この人物の拠点がルートンである、ということは、EDLという文脈では特に強調しておきたい。

2009年3月の英軍帰還パレードの際に行われた「反戦デモ」とチョーダリーの関係については、テレグラフの記事にも出ているが、インディペンデントの記事が詳しい。上に少し引用したように、インディのこの記事では、Abu OmarとAbu Shadeedという2人の活動家(「デモ参加者」)に取材している。同じ記事では、この「デモ」を組織したのはAl-Muhajirounのメンバーだった人々だということも書かれている。

According to Bedfordshire Police, the group that applied for permission to stage the protest was Ahlus Sunnah wal Jamaah, believed to be an offshoot of Al Muhajiroun. Roughly translated, the name means "the majority of Muslims" – but is thought to be little more than 40 to 50 activists.

Much of the literature Abu Shadeed and Abu Omar were handing out yesterday was of the provocative type favoured by groups such as Hizb-ut-Tahrir and Ahlus Sunnah wal Junnah. One leaflet spoke in favour of imposing sharia law in Britain and installing the caliphate.
http://www.independent.co.uk/news/uk/home-news/luton-the-enemy-within-1643089.html


つまり、「イラク戦争反対!」を叫びつつ、「英国にもシャーリア法を」とか、「カリフ制樹立」といったことを呼びかけるビラをまいていたのだ。組織名も隠して……というか、組織は活動禁止(テロ法での「特定組織」のリストに入れられていた)で、別の名義でメンバーが活動していたのだが。

こうした活動について、本来、真っ先に怒るなり抗議するなりすべきは、「反戦」運動の組織だったはずだ。しかし実際にはそうはならなかったようである。基本的にイラク戦争には反対しているが「英国にもシャーリア法を」などと言っている連中に対し「同じイスラム教徒として」距離を置くようなイスラム教徒の組織の発言があったが、反戦団体が便乗者を批判している発言は見たことがない(「なぜ彼ら反戦団体は、便乗するイスラム過激派を批判しないのか」という文章はよく見たが)。

そういう中で、「あのような過激なイスラム主義にNO」というわかりやすいメッセージを最もわかりやすい形で出したのが、すぐ後にEDLとなる "United Peoples of Luton" だった。

EDLについて書くのは非常に疲れる。いったん、ここで休憩する。



追記。EDLについて、まとまった書籍としては次があるようだ(私は未読)。タイトルは「BNP」だが、本の内容についての説明を見ると、ティンドール期のBNPよりむしろグリフィン期のBNPがメインで、EDLについてもかなり書かれているようだ。

B0053D73WCNew British Fascism: Rise of the British National Party (Extremism and Democracy)
Matthew J. Goodwin
Routledge 2011-05-05

by G-Tools


著者のマシュー・J・グッドウィンさんは大学の研究者。この方のTwitterはこっち方面ではフォロー必須。
https://twitter.com/GoodwinMJ

それから、英国ではこんな本が出ていることもわかった(現在、大手通販サイトでは入手不可)。2011年までEDLにいて、その後脱退した人が書いた手記のようだ。amazon.co.jpでは何ら情報が表示されないようなので、amazon.co.ukでリンク。出版社のページはこちら(そっち系の小さな出版社のようです)。直接注文できます(が、そっち系出版社だと思いますので、できれば書店通した方がいいっすよ)。

0956130224EDL: Coming Down the Road
Billy Blake
VHC Publishing 2011-09-19

by G-Tools




※この記事は

2013年05月25日

にアップロードしました。
1年も経ったころには、書いた本人の記憶から消えているかもしれません。


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EDL (イングランド防衛協会) について (2)
Excerpt: 1つ前の記事の続き。必ずそちらを読んでから、この先をお読みいただきたい(前の記事を読まずにあなたが勝手に誤読したことなどについては、私は責任を負わないことをここに宣言しておく)。 2009年3月、ル..
Weblog: tnfuk [today's news from uk+]
Tracked: 2013-05-26 06:30

EDL (イングランド防衛協会) について (3)
Excerpt: EDL (English Defence League: 写真は2010年にダドリーで撮影 by Rude Cech, CC BY-NC-ND 2.0) に関し、その基本的な性質と成立の経緯(および、..
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Tracked: 2013-05-26 23:39

【2003年に翻訳した文章】The Nuclear Love Affair 核との火遊び
2003年8月14日、John Pilger|ジョン・ピルジャー

私が初めて広島を訪れたのは,原爆投下の22年後のことだった。街はすっかり再建され,ガラス張りの建築物や環状道路が作られていたが,爪痕を見つけることは難しくはなかった。爆弾が炸裂した地点から1マイルも離れていない河原では,泥の中に掘っ立て小屋が建てられ,生気のない人の影がごみの山をあさっていた。現在,こんな日本の姿を想像できる人はほとんどいないだろう。

彼らは生き残った人々だった。ほとんどが病気で貧しく職もなく,社会から追放されていた。「原子病」の恐怖はとても大きかったので,人々は名前を変え,多くは住居を変えた。病人たちは混雑した国立病院で治療を受けた。米国人が作って経営する近代的な原爆病院が松の木に囲まれ市街地を見下ろす場所にあったが,そこではわずかな患者を「研究」目的で受け入れるだけだった。

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