The paradox at the heart of Paisley
By Kevin Connolly
BBC Ireland correspondent
Last Updated: Saturday, 10 March 2007, 11:00 GMT
http://news.bbc.co.uk/2/hi/uk_news/northern_ireland/6437165.stm
この記事を見ながら、イアン・ペイズリーという人について、既に知っている範囲と簡単に調べられる範囲からまとめておこうと思う。
1926年といえば、南北にボーダーができて5年後、アイルランド自由国成立の4年後だ。Wikipedia記事から1926年のページを見てみたら(こういうことがクリック1つでできるからウィキペディアは好き)、アントニ・ガウディやガードルード・ベルやクロード・モネやリルケが亡くなった年であり、ジョージ・マーティン(ビートルズのプロデューサー)や森英恵やマイルス・デイヴィスやアレン・ギンズバーグやフィデル・カストロやミシェル・フーコーやチャック・ベリーやサイババやエリザベス2世が生まれた年である。あ、マリリン・モンローもこの年生まれだ。で、歴史的出来事の欄を見ていたら、「1月16日にBBCラジオが『労働者による革命』のドラマを放送してロンドンがパニックに」とか(うはー)、「4月25日、イランのパーレヴィ国王戴冠」とか、「5月9日、英国でゼネストで戒厳令」とか、「9月11日、スペインが国際連盟を脱退」とか、「イーモン・デヴァレラがFianna Failを立ち上げ」とかいった出来事が並んでいる。日本では大正天皇が亡くなって昭和天皇が即位している。あと、アイルランド自由国にCommittee on Evil Literatureなんていうものがあった、なんてことは、ウィキペディアの「1926年」のページを見るまで、私は知らなかった。何てあからさまな名称だろう。
1926年生まれの人が20歳になったのは1946年、第二次大戦終結の翌年である。BBC記事はこう書き始められている。
Harry Truman was still in the White House when Ian Paisley began his extraordinary public life - the first of 11 US leaders whose presidential terms his career would span.
つまり、ペイズリーが現在につながる活動を始めたころ、アメリカの大統領はハリー・トルーマンであった。ペイズリーが現役として活動している間の米国の大統領の人数は、なんと11人。
BBCの記者さんは「原爆投下を命令した米大統領と同じ時代を生きていた人で、今なお現役の政治家である人物は大変に少ない。しかもイアン・ペイズリーは今に至るまでずっと意気軒昂である」というように続けている(ほかに少なくともフィデル・カストロという大物がいるが、健康状態では明らかにペイズリーが上だ)。
イアン・ペイズリーは1946年に宗教指導者としてスタートした。少年時代、福音主義の宗教学校で学び、この年にベルファストのthe independent Ravenhill Evangelical Mission Churchというところで、聖職者として正式に認められた。その後、彼は宗教活動を行なっていくわけだが、1950年代には教会(プレスビテリアン)の建物の使用許可を取り消され、自身の教会、「フリー・プレスビテリアン・チャーチ」を立ち上げた。この教会はどこをどう切り取ってもファンダメさんで、宗教的にも政治的にも、ごりごりの「反カトリック」であり、カトリック教会に足を踏み入れることは不可とかいった教義を有する。(なお、後にペイズリーは当時のローマ法王ヨハネ・パウロ2世を「アンチクライスト」呼ばわりしている。)また、ペイズリーはアメリカのボブ・ジョーンズ大学という、ファンダメさんしか縁のないような「大学」で名誉学位を取得している。(ボブ・ジョーンズさんと個人的に仲がよかったそうだ。)
※ファンダメさんについては過去記事も参照。(日本語では一般的には「キリスト教原理主義」、正式には「根本主義」と表されますが、入力が煩雑で思考のスピードが遅くなるため、私は勝手に「ファンダメさん」と書いています。)
1960年代終わりから1970年代初めにかけて、いろいろあってIRAの活動が活発化し、北アイルランドでは宗派に基づいた分断が現実のものとなった。それまでプロテスタントとカトリックが隣り合って暮らすのも別に普通であったのに、「プロテスタントだから」とか「カトリックだから」という理由での一般家屋への投石や火炎瓶攻撃が行なわれ、「プロテスタントのエリア」と「カトリックのエリア」ははっきりと分かれていった。
とはいえ、1950年代にも既に「紛争」のようなものはあった。ベルファストは造船とかで潤ってきた工業都市であるが、英国が第二次大戦後に「軍事大国」であることに耐えられなくなると不況やら失業やらの問題がものすごく大きくなった。というわけでその当時は労働運動なども盛んであった。(IRAがああいう規模になる前に「対立関係」が皆無だったわけではないが、少なくとも、ああなる前は1つの住宅街に両派が混住していた。)
が、ちょいそっち系な言い方をすると、本来「打倒」すべきは富を独占していたミドルクラスであったところに、IRAの武装闘争という要素があまりに大きく関わってきた結果、プロテスタントの労働者階級の人々の間には一気に「連中こそが敵」というムードが広がった。
この「連中」というのが「IRA」であり「リパブリカン」であり「ナショナリスト」であり「カトリック」であった。つまり「政治的スタンス」と「宗教」がごっちゃになって、人の心に境界線が作られた。プロテスタントのエリアでは「連中」から身を守らねばならないということで、武装した青年自警団のようなものができたり、複数のそういった組織が横の連携を取るようになったり、といったふうになった。
IRAの主張もゆがんだもので(「プロテスタントはカトリックを踏みつけていい思いをしている」言うとき、本当は彼らは「プロテスタントの地主階級は貧乏人を踏みつけて」と言うべきだったのだ)、つまりどちらも「敵」の認定においてバイアスがあった。それは歴史上の事実(「未開のカトリックを啓蒙するためのプロテスタントの近代的入植地建設」といったものを含む)にも裏打ちされて、いろいろと、増幅されていった。
何の話だかわからなくなってきたが、ともあれ、もともとベルファストの造船所などの雇用はセクタリアンで、工場の労働者のほとんど全員がプロテスタント、という状況だったらしい。だから労働運動にしても、最初から、「プロテスタントのわれわれ」という枠組みはあった。難しいやね。そういったプロテスタントの労働運動から発展したのがPUPという政党である(PUP関連の武装組織がUVF)。
話を元に戻さなければ。
という状況のなか、1960年代、強烈な「反カトリック」主義者であるファンダメさんのイアン・ペイズリーは「反アイルランド共和国」の政治活動を展開する。英国政府とアイルランド共和国政府(当時の共和国政府には1916年の反英蜂起=イースター蜂起の関係者もいた)の対話を妨害したり、ベルファストのナショナリスト地区のトリコロールの旗を外させようとアジったり。彼の決め台詞のような "no surrender" という言葉は、このころ頻繁に演説などで用いられていたものである。(で、これがグラスゴーにも届いてレンジャーズのサポさんたちのスローガンとなり、イングランドでは北アイルランドの反カトリック勢力を支持する極右などのスローガンとなった。)
"No surrender" というフレーズは、「強大な相手に屈することなく」という含みがあるように思う。人口統計上「マイノリティ」でしかなく、選挙においてもゲリマンダーのために実際以下の声しか持っていなかった「カトリック」を「強大な敵」と見ていたとなると「柳の木が幽霊に見えますか?」という感じだが、アイルランド島全域で見ればマイノリティなのはプロテスタントであり、英国政府が共和国政府とにこにこ握手しているような状況を見れば、プロテスタントであっても地主階級でもなんでもない人たちはまさに「俺らの立場って危険じゃね?」というメンタリティにあったのだろうと思う。イアン・ペイズリーはこういう心のスキマを埋めるための勇ましい言葉を出し続け、人々に「希望」を与えた人物だ。
実際、文字資料を見ると言葉はすっごく強烈だし、資料映像を見ると(NIのアクセントだからほとんど聞き取れないのだけれども)まさに「アジテーション」だったりする。(まあ私の場合、最初に北アイルランドについて興味を持ったときに読んだものがナショナリストの書いたものだったりしたんで、ペイズリーについては最初からかなりバイアスがある。なお、BBCの読者ご意見ページでも「くはー」とか「うはー」といったトーンの投稿が多いんで、私のイメージが「偏向している」のは、私が外人だからじゃないと思う。)
しかし、今回インタビューしたBBCの記者によると、素顔はそう強烈なわけでもないらしい。記者さんは次のようなことを書いている。
公衆の面前で話をする技術をいかに身につけたか、信仰を形作るにおいて母親がいかに大きな役割を果たしたかを語り、そして、表ではめちゃくちゃにこきおろしている政敵のためにも実は祈りをささげていると述べる彼は、朗らかで思慮深い人物だった。
とりわけ、政治と宗教の世界ではあなたは相当の革命児ですよねということを言ったときには、おもしろがっていた。ラジオでお聞きいただきたい。政治家イアン・ペイズリーの歯切れの良すぎる言葉になじんでいる人は、彼が信仰を語るときの謙虚さと率直さに驚くであろう。
うーん。「信仰」となると、うーん。第一、ラジオ放送を聞いても(BBC4なので多分日本からでもネットで聞けると思うのだけど)半分も聞き取れないべ。(T T)
まあ、この番組はChoice of the Dayのところに上がっているので、放送後1週間はオンラインで聞けるから、トライはしてみましょう。。。
http://www.bbc.co.uk/radio4/
というわけで、記者さんは、「ペイズリーといえば吠えているだけというイメージがあるが、彼がこれまで56年も現役を続けられてきた背景はそんなに単純なものではない」と稿を進めていく。
イアン・ペイズリーは常に、個々のカトリック教徒を嫌うことなくカトリック(という宗教)を嫌うことは可能だと言い続けてきた。また彼は、彼が登場するまでの時代に北アイルランドの政治を支配してきたユニオニストの指導者たち、つまり地主階級(Big House Unionists)とはまるで異なっている。イアン・ペイズリーは小さな家に住むワーキングクラスのプロテスタントの代弁者となってきたのである。そして彼は彼なりに急進的で反体制的な人物であった。カトリックにはとてもそうは見えなかったかもしれないが。
ある意味では、1966年終わりのあの瞬間が、ペイズリー流の「残酷さと博識」という通常ありえない組み合わせを象徴していると言えよう。その時から彼は、2つの大きなゴール――つまり、プロテスタンティズムの大義を守ることと、「今後もアルスターを英国の一部のままにしておくこと」――に向けて「残酷さと博識」でのぞんできた。
イートン校卒の(地主階級の)ユニオニストだったオニール首相(注:北アイルランド自治政府首相)が善かれと思ってカトリックに手を差し伸べようとしたのをペイズリーは阻止し、このために投獄された。獄中で彼は聖パウロの手紙に基づいた文を書いた。この500年の間に、こういう文章で語れる政治家が何人いただろうか。おそらくペイズリーをおいてほかにはいなかろう。
むー。なんかここらへんまで読んできて「むー」としか言えなくなってきた。実は聖パウロを引用できようができまいが、「反カトリック」のアジ演説がひどいことには変わりがないじゃんかー。「反体制(反地主階級)」はそれなりに理由があるとしても、「連中はカトリックという変な宗教を信じているので」という判断基準そのものがむにゃむにゃじゃないかー。
お茶でも飲もう。ヘッドフォンからはトレント様レズナー様がGOD IS DEAD AND NO ONE CARESと絶叫しておられることだし。
お茶終了。
うーん。このあとは、ペイズリーは声高にいろいろ叫んできたけれども、実際に効力を持ちえたものはなかった、という話。1985年のアングロ・アイリッシュ・アグリーメントでは "Never, never, never, never ..." と強硬な反対論を唱えたが(これ、どっかのQuote集にも載ってたんだよね、爆笑。これがDr Noというあだ名の由来)、政府間の合意の行方には影響を与えることはできなかった。それでも「ユニオニストの痛み」を雄弁にはっきりと語った彼は、そのことによってアルスターのプロテスタンティズムの比肩する者なきリーダーとなった。んで、
That means of course that he now has to make the kind of decisions over which he once castigated more moderate unionist leaders like O'Neill, Faulkner and Trimble - when and in what circumstances to share power with parties representing Catholics.
え〜〜〜、インターンメントなんていうバカなことやったフォークナーがmore moderateですかー、というところで思考停止。フォークナーがmoderateに見えるのはあくまで「結果的に」じゃないのか? そのあとにペイズリーというもんのすごい強烈なのがのしてきたからであって。
まあ、この記事は「ラジオ番組の予告編」なので、人々に「まさか」とか「んなわけないだろ」とちょっと思わせつつ、「一応聞いてみよう」と決断させることが目的の記事なので、この記事自体に何ら求めるべきものはないのかもしれない。DUPが第一党となった現在、「うげー」とか言っててもしょうがないわけだし、ってんで「どっかいいところを見つけたい」というニーズがあるのかもしれない。深層心理あたりに。
しかし、1978年とか1979年とかには次のように歌われていた「IRA」が、その「敵」の急先鋒と政権を分担し、その「敵」ってのが意外と好々爺だってぇ番組が製作されるんだから、ニュース読みながらときどきめまいに襲われますな。
They ain't blonde-haired or blue-eyed
But they think that they're the master race
They're nothing but blind fascists
Brought up to hate and given lives to waste
-- "Wasted Life", Stiff Little Fingers
http://www.youtube.com/watch?v=n3mqtXQAunw
※この記事は
2007年03月11日
にアップロードしました。
1年も経ったころには、書いた本人の記憶から消えているかもしれません。
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えっと、今日のガーディアンにペイズリーの伝記映画の企画が進行中ってな記事が出てました。息子がエグゼクティブプロデューサーだとか、リアム・ニーソンがペイズリー役やってもいいよと言っているとかなんとか。リアム・ニーソンと言えばマイケル・コリンズやってるし、今度はペイズリーだあ?という気もしますが。そう言えば、ブレックファスト・オン・プルートでは聖職者やったよねえ。ではでは。
リーアム・ニーソンはバックグラウンドはアルスターのプロテスタントだそうなので(ケネス・ブラナーもそう)、名前が挙がってるんでは。ビッグスターだし。BBC Radio 4の番組は聞きましたが、これは俳優としては「やりたい役」かもしれん、と思います。Never, never, never演説が山場。
しかしこれでペイズリーまでやったらあの人、完全に「歴史上の著名な人物」を演じる俳優という感じになってしまう。ヘレン・ミレンが「女王」を演じる人というイメージになってしまうのと同様に。(^^;)
気になったのは、脚本を書く人がこれまでずっとユニオニスト側から戯曲などを書いてきた人だということと、製作のために政府の和平予算からいくばくかでも割かれるんだろうかということ。
それにしても『プルート』のときのリーアム・ニーソンはおもしろかったー。あれはカトリックの神父ですけどね。(んで、ペイズリー的にそれで問題ないんだろうかという気もするんですけど。)
Margaret Thatcher movie planned
ast Updated: Tuesday, 20 March 2007, 10:30 GMT
http://news.bbc.co.uk/2/hi/entertainment/6469783.stm
A movie about former UK Prime Minister Margaret Thatcher in the run-up to the 1982 Falklands War is being planned.
Pathe and BBC Films are developing a script for a drama-documentary about the tense political period before the conflict between the UK and Argentina.
主演がヘレン・ミレンだったらどうしよう。(^^;
サッチャーにはオジー・オズボーンの奥さん(名前ど忘れ)でどーだ、とかどっかで読んだが、単なるジョークだと思う、たぶん。
ヘレン・ミレンはカミラを演るんでしょ? 見たくないけど。ではおやすみなさい。
うははは。シャロン・オズボーンはどっちかっていうとシェリー・ブレアを思いっきりずうずうしく描く作品があれば、それに出てほしいです。
ヘレン・ミレンがカミラを演じたら、私はこわいもの見たさで見てみたいです。変な色気がぴったりくるような気がしてならないー。ではごゆっくりお休みを。
ダニー・ボイルの新作(キリアン・マーフィーとか真田広之が出てるもの)がもうすぐ公開だそうですね。
http://film.guardian.co.uk/interview/interviewpages/0,,2040180,00.html