「なぜ、イスラム教徒は、イスラム過激派のテロを非難しないのか」という問いは、なぜ「差別」なのか。(2014年12月)

「陰謀論」と、「陰謀」について。そして人が死傷させられていることへのシニシズムについて。(2014年11月)

◆知らない人に気軽に話しかけることのできる場で、知らない人から話しかけられたときに応答することをやめました。また、知らない人から話しかけられているかもしれない場所をチェックすることもやめました。あなたの主張は、私を巻き込まずに、あなたがやってください。

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2013年02月25日

スコットランドの枢機卿の「不適切な行為」がヴァチカンに告発された。

24日、ガーディアンのサイト(日曜日だから中身はオブザーバーだが)を見て、驚いた。「驚いた」というか、アゴが外れそうになった ("My jaw literally dropped!")



UK's top cardinal accused of 'inappropriate acts' by priests
Catherine Deveney
The Observer, Saturday 23 February 2013 21.31 GMT
http://www.guardian.co.uk/world/2013/feb/23/cardinal-keith-o-brien-accused-inappropriate

英国で最も高位にある枢機卿が、神父(司祭)たちから「不適切な行為」をしていたと告発されている、という見出し。

記事の中では、神父3人と元神父(神学生かも)1人が、枢機卿が何をしたか(最も早い時期だと1980年)をヴァチカンに訴え出た、とある。訴え出たタイミングは……ええっと、やってくれますね。

The four submitted statements containing their claims to the nuncio's office the week before Pope Benedict's resignation on 11 February. They fear that, if O'Brien travels to the forthcoming papal conclave to elect a new pope, the church will not fully address their complaints.

つまり4人がヴァチカンに訴え出たのは、ベネディクト16世が退位の意向を明らかにした11日の前の週。4人はいわば「被害届」を出したような状態だが、このことは表沙汰にされなかった。なお、問題の枢機卿は、ベネディクト16世の退位について、普通に、かなり早いタイミングで、コメントしていた (BBCのまとめ)

このBBC記事はアップデートされたもので、アイルランドのショーン・ブレイディ枢機卿の発言も記事に入っているが、教会運営施設での児童虐待の隠蔽(ライアン報告書)という「問題」を抱えたままで、教皇退位表明のときはまた別の児童虐待の事例についての報告書を目の前に置いていた状態のブレイディ枢機卿は、発言を行なうまでにしばらく時間がかかった。

一方、今回4人から告発された枢機卿は、何も異状なしというふうに、すぐに発言を行なっていたのだ。

得られる情報からの推測だが、おそらく今回、4人の告発がオブザーヴァー紙で明らかにされたのは、このまま教皇庁にことを預けているだけでは、彼らの訴えは単に隠蔽されて終わるだけだという判断があったのだろう。

北米では、(自身の行為ではなく)配下の司祭らの性行為強要を隠蔽する側だったと批判されていたロサンゼルスの枢機卿が、「懲戒処分」じゃないんだけど、一般の会社とかだったらそういう処分相当のこととして、お役御免になっているという。
http://www.bbc.co.uk/news/world-us-canada-21563919

LAの枢機卿の件については、私も今日知った。これが成立するなら、ショーン・ブレイディ枢機卿は……と思わざるを得ないのだが、まあそれは別の話である。

さて、オブザーヴァーの記事見出しで "UK's top cardinal" とあらわされているのは、Cardinal Keith O'Brien (キース・オブライエン枢機卿)である。スコットランドにおけるローマ・カトリック教会のトップで、英国では最も位の高いカトリックの宗教指導者だ。

ご本人はこの嫌疑に反論しているそうだが:





教皇ベネディクト16世にとって最後の日曜日となる今日、その8年間の功績を讃え、日曜のミサを執り行う立場にあったというのに、姿を現さなかったそうだ。



オブライエン枢機卿の経歴は本エントリ下部のBBC Newsからの抜粋を参照していただくとして、カトリックを信仰していない立場でこの方のお名前をニュースなどで見るときは、ブレア政権下での労働党のカトリックの政治家たちによる/に関する発言だったり、「ものすごい保守派」としての発言だったりする。

「ものすごい保守派」というのは、妊娠中絶反対、幹細胞研究反対、同性間の結婚・性的な関係への反対(スコットランド自治議会の与党SNPは、同性のパートナーシップを結婚に「格上げ」しようとしている)……など。

特に同性愛嫌悪(ホモフォビア)に関しては、数か月前にえらい騒ぎになった。

Storm over Stonewall's Cardinal Keith O'Brien 'bigot' award
2 November 2012 Last updated at 13:54 GMT
http://www.bbc.co.uk/news/uk-scotland-scotland-politics-20175530

ストーンウォール(ゲイ・ライツ運動団体)は、毎年、「同性愛嫌悪(ホモフォビア)の発言などで顕著な業績(?)を残した人」を、"Bigot of the year" として表彰(?)している。
http://en.wikipedia.org/wiki/Stonewall_Awards

これまでの受賞者には、聖書を引用して「同性愛という穢れ」をカジュアルに語るなどした(くせに、聖書の「姦淫するなかれ」を破っていて、結果、公的生活から追放された)アイリス・ロビンソンや、「このままではわが国の秩序だった社会が危ない」ということをあれこれ書いている新聞のコラムニストであるメラニー・フィリップスなど。今、リストを見てみたら2009年に「なんとか神父」という名前もあるので、宗教家だからといって対象から外されるということもないのだろう。

しかし、「ブリテンで一番偉い宗教家」がこれに選ばれたとなると、そりゃもう、ストーンウォールのスポンサーが資金を引き揚げるだの、「ナチス的レッテル貼りだ」との非難が起きるだの、とえらい騒ぎ。

そもそもオブライエン枢機卿がそれに選ばれたのは、2012年前半に熱い議論を巻き起こしていた「同性間の(シヴィル・パートナーシップではなく)結婚を、認めるかどうか」というトピックで、「そんなものを認めたら、英国社会が破壊される」的なことをラジオでまくしたてたことによる。

(ここで「シヴィル・パートナーシップ」と「結婚」の違いについて、はっきり認識してください。後者は人と人との社会的な関係である以上に、宗教的な概念です。)

で、そういう「秩序を乱す→社会が破壊される」という言説は、宗教家からそこらへんの陰謀論者(「すべてはフランクフルト学派のせい」みたいな)まで幅広く見られるものであり、具体的な文言は別として言説それ自体は特に珍しいものではない。これがニュースになったのは「これだけ広範な議論が行われているときに、この立場の人がこの発言をした」ということが前提で、ストーンウォールのBigot of the Yearに選ばれたときに「SWのスポンサーが資金を引き揚げると言い出した」という動きにニュースバリューがあったためだろう。

そんなわけで、ていうかカトリック教会ってアイルランドの例で明示されたように教会内部にいろいろうわなにをするやめろじゃないですかー、などと平板な抑揚の日本語で頭の中でぶつぶつ言いつつ(実際、それが原因の「反カトリック言説」が2012年はひどくて……オンラインでね。1912年のアルスター誓約から100年で、地味にいろいろあったので)、まあ、ストーンウォールのような活動家団体は次から次へとお騒がせしないとニュースにならないし、などと思って、それっきり忘れていた。(教会が態度を和らげるはずはなく、相手にすればするだけ相手を宣伝して差し上げているだけだから、相手にしなければいいのに、と私は基本的に思っている。政治家や文筆家の発言なら注目する意味は十二分にあるけど、教会って、ねえ。)

ただ、「ブリテンのカトリック教会のトップは、ものすごいホモフォビアをまくしたてる人である」という《事実》認識だけを残して。

それが、今日のこのニュースである。






で、この時点↑では、報じていたのは「スクープ」をものにしたオブザーヴァー(ガーディアン)と、それをリレーしているBBC Newsだけで、TwitterでKeith O'Brienで検索すると、先日から古いツイートも表示されるようになっているので、昨年3月の、こんなのも表示されていたりした。



“男性と男性、女性と女性の「家庭」では、子供はまともに育たない”という、典型的なホモフォビア言説である。

ちょっと話ずれるが、今年の「世界報道写真」の「現代の問題」部門の「組写真」で1位に選ばれたベトナムの同性カップルの生活の写真の中にも、子供のいるカップル(一方の前の結婚での子供)がいる。しばらく前に米国のメディアで見た写真特集では、「子供」についても大らかな解釈が適用された「同性カップルの家族」の写真を何点も見た(人間の子供がいる家庭もあれば、猫さんが子供になっている家庭もある)。

(そういう「時代」になったからといって、「そんな家庭では、子供はまともに育たない」という言説が消えるわけではない。)

このように、オブライエン枢機卿の発言は、いかにも「保守派」、としか言いようのないものだ。発言の中身が記憶に残らなくても(そもそも、そんな発言読みたくも聞きたくもないから見出しだけで十分、という人もいるだろう)、「あの人はこういう発言をするような人だ」ということは記憶に残る。

だからこそ、今日のニュースには「おいおいおいおい」とならざるを得なかった。



ですよねー。

今のGoogle News:





キース・オブライエン枢機卿の経歴。出身は北アイルランド:
http://www.bbc.co.uk/news/uk-21565750
Born on 17 March 1938 in Ballycastle, County Antrim, Northern Ireland

Ordained a priest on 3 April 1965

Obtained a bachelor of science degree in chemistry and mathematics from the University of Edinburgh and a diploma in education

Employed by Fife County Council as a teacher of mathematics and science from 1966 to 1971

Also served as assistant parish priest and as chaplain of St Columba Secondary School in Cowdenbeath

Spiritual director of St Andrew's College in Drygrange from 1978 to 1980

Rector of St Mary' College, Blairs, Aberdeen from 1980 to 1985

Ordained Archbishop of Saint Andrews and Edinburgh in 1985

President of the Bishops' Conference of Scotland March 2002 until 2012

Proclaimed Cardinal by John Paul II on 21 October 2003

Due to retire after he turns 75 on 17 March


BBC News NI:


ちなみに、「不適切な行為」でニュースになる数日前、22日にはこんな発言でニュースに。




プロフィール記事はこれがいいかも。昨年8月。


→読了。いやあ、読み応えあった! ヨハネパウロ2世の秘蔵っ子。昔は教会内改革派としてかなりのお騒がせで、枢機卿などという立場に立つずっと前に「聖職者の結婚が禁じられているのはおかしい」との見解を示して物議をかもした。枢機卿として今また、引退直前(75になったら引退することを明言している)というこのタイミングで、その「持論」を展開しているわけですね。



カトリック教会内部からの反応。元ウエストミンスター大主教のコーマック・マーフィー・オコーナー枢機卿。
Speaking on the BBC's Andrew Marr Show, Cardinal Murphy-O'Connor said: "I was obviously very sad to hear that. The cardinal has denied the allegations, so I think we will just have to see how that pans out. There have been other cases which have been a great scandal to the church over these past years. I think the church has to face up - has faced up - to some of them very well indeed."

Cardinal Murphy-O'Connor said it was up to Cardinal O'Brien - who is reported to have sought legal advice - "how he faces the allegations".

http://www.belfasttelegraph.co.uk/news/local-national/uk/cardinal-has-right-to-choose-pope-29090856.html

ははははは。言いまつがいまで書き起こすベルテレさん、パネェ。

(キース・オブライエン枢機卿は、コンクラーベで投票する権利を有しています。)



UPDATE:

Pope considering response to alleged 'inappropriate acts' by UK cardinal
Severin Carrell, Catherine Deveney, John Hooper and Sam Jones
guardian.co.uk, Sunday 24 February 2013 15.24 GMT
http://www.guardian.co.uk/world/2013/feb/24/pope-considering-response-inappropriate-acts-cardinal

教会は、4人の被害者の告発を2週間シカトした挙句、新聞に書かれて(対外的に)動く、と、そういうことですかね。

私はアイルランドのショーン・ブレイディ枢機卿の、ご自身はかかわっておられなかったかもしれないが教会の責任者としてのライアン報告書(クリスチャン・ブラザーズの施設での児童虐待の実相)への対応は本当にひどい(組織の「問題」は「隠蔽」するのが当然、という考えでしかない)と思ってきたのだけれど、このヴァチカンの対応もなあ……。(世俗じゃないからこういうのも許されるとか、言わないでね。)



UPDATE:
教皇ベネディクト16世の退位表明から2月末まで(含:スコットランド大司教の辞職)
http://matome.naver.jp/odai/2136190246622622401



※この記事は

2013年02月25日

にアップロードしました。
1年も経ったころには、書いた本人の記憶から消えているかもしれません。


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【2003年に翻訳した文章】The Nuclear Love Affair 核との火遊び
2003年8月14日、John Pilger|ジョン・ピルジャー

私が初めて広島を訪れたのは,原爆投下の22年後のことだった。街はすっかり再建され,ガラス張りの建築物や環状道路が作られていたが,爪痕を見つけることは難しくはなかった。爆弾が炸裂した地点から1マイルも離れていない河原では,泥の中に掘っ立て小屋が建てられ,生気のない人の影がごみの山をあさっていた。現在,こんな日本の姿を想像できる人はほとんどいないだろう。

彼らは生き残った人々だった。ほとんどが病気で貧しく職もなく,社会から追放されていた。「原子病」の恐怖はとても大きかったので,人々は名前を変え,多くは住居を変えた。病人たちは混雑した国立病院で治療を受けた。米国人が作って経営する近代的な原爆病院が松の木に囲まれ市街地を見下ろす場所にあったが,そこではわずかな患者を「研究」目的で受け入れるだけだった。

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