「なぜ、イスラム教徒は、イスラム過激派のテロを非難しないのか」という問いは、なぜ「差別」なのか。(2014年12月)

「陰謀論」と、「陰謀」について。そして人が死傷させられていることへのシニシズムについて。(2014年11月)

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2007年01月20日

短編映画:「アイルランドではアイルランド語」という情報に翻弄される若者

ひとつ前のエントリで紹介した短編映画、"Fluent Dysphasia"(「流暢な失語症、流暢性失語」)がおもしろかったので、同じ監督の別の作品をatom filmsで見てみた。

これがまた、おもしろい。私には "Fluent Dysphasia" よりさらにど真ん中だ。

My Name Is Yu Ming (Yu Ming is Ainm Dom)
http://www.atomfilms.com/film/name_yu_ming.jsp
※13分19秒。


※YouTubeでは:
http://www.youtube.com/watch?v=qA0a62wmd1A

主人公のユー・ミンは中国人の青年。ぱっとしない雑貨&食料品店の店員として、つまらない日常を送っている。人生はもっとおもしろいはずだ・・・。

※以下、ネタバレしながらストーリー説明。(英語を日本語にするという感じで。。。英語が大丈夫な人は以下は見ないでフィルムをご覧ください。)

ある日、彼は図書館に本を返却に行く。司書さんは席を外している。ユー・ミンは何気なくカウンターに置かれている地球儀を回し、目をつぶって指を置いて止めてみる。彼の指が指していたのは「アイルランド」だった。

ユー・ミンは図書館の本でアイルランドについて調べる。そこには「公用語(Official Language):アイルランド語(Gaelic)」と書かれている。彼はアイルランド語の教本を借りて帰る。(図書館の司書さんの顔!)図書館に来たときとは打って変わった、軽やかな足取りで、彼は図書館をあとにする。

その日から、ユー・ミンのアイルランド語学習の日々が始まった。音声教材で基本フレーズを勉強する。「あなたの名前は何ですか?」「わたしの名前はユー・ミンです」

洗面所でひげをそるユー・ミン。(ここは爆笑シーン。元ネタは某大都会の某労働者。)

こうして、彼は流暢なアイルランド語と夢をたずさえ、二本線のジャージに身を包みバックパックを背負ってダブリン空港に到着する。

空港の案内表示やらバスの行き先表示やらが、英語とアイルランド語のバイリンガル表示になっているあたりで気づけよ(笑)と思うのだが(そもそも洗面所でひげをそっているときのあれは英語が元ネタなんだし)、彼は何ら疑問を抱かず、軽い足取りで市街へと向かうバスに乗り込む。

このあたり、音楽もカメラもそれっぽく、コミカルだ。

バスから降り、川(たぶんリフィ川)を渡り、彼は宿に向かう。

ホテルの受付「Alright, mate! How was your flight?(こんにちは。フライトはどうでした?)」

ユー・ミンはホテルの人が何を言っているのかまったくわからない。

ホテルの受付「How, was, your, flight, mate?」

ゆっくり言い直したそれもユー・ミンにはわからない。

ユー・ミン「宿泊したいんですが」(アイルランド語で)

ユー・ミンの言っていることがホテルの人にはわからない。そこで彼は、ロビーのゲームで遊んでいた東洋人を呼ぶ。

東洋人「またゲーム機に金を飲み込まれたんだけど」
ホテルの受付「ああ、それは心配すんな。ところでこの人が何を言ってるか、通訳してくれないかなあ。俺、中国語できねーし」
東洋人「・・・俺、モンゴル人なんだけど」

特に東洋人としては、ここは大爆笑シーンである。(ちなみにモンゴル語はこういう言語で、中国語とはまったく別の言語である。たぶん、英語とゲール語と同様に離れた言語だ。)私も中国語で話しかけられたりしたことがあるのだが、中国語圏の人にもいきなり「コンニチハ」とか「安いヨ」と話しかけられたりした人はいっぱいいるだろう。

モンゴル人「たぶん、宿泊したいんじゃないかな」
ホテルの受付「ああ、そうか、宿泊ね! 大丈夫ですよー、ようこそ、ダブリンへ!」

ホテルの受付が、そんなことも察することができんのかというツッコミを入れつつ(笑)、この受付のおにいちゃんは英語しか話せないモノリンガルの典型として描かれているのだと納得する。Wikipediaによると彼はオーストラリア人だそうだ(言葉遣いとアクセントは、いかにもそれらしいが、イングランド人でもこういう人はいる)。

それから、ユー・ミンは食堂に出かける。このシーンはたぶん「中国で彼の得た情報が不十分だったこと」をあらわしているのだろうが、一言でいえば「そんなばかな(笑)」である。

失意のユー・ミンはダブリンの街をさまよう(ジョイスの「ユリシーズ」かよ)。鏡の前でひげをそりながら言ったあの台詞がここでも繰り返される(詩人のパトリック・キャヴァナの彫像かな。この彫像の来歴が茶目っ気にあふれているのだが)。「こんなはずではなかった」というユー・ミンの失意が、過剰なまでに伝わってくる。

彼は通りかかったパブに入る。そしてバーテンダーにアイルランド語で「仕事を探しているのですが」と言うが通じない。

ユー・ミン「アイルランド語がへたくそですみません」

つまり、彼はダブリンで聞かされるあの言語が「アイルランド語」であると信じきっており、「自分のアイルランド語がへたくそだから聞き取れないし、こっちの言うことも通じないのだ」と思い込んでいる!

バーテンダーは「何・を・飲む・か?」と語単位で区切って英語で尋ねるが、ユー・ミンにはわからない。

バーテンダー「ギネスでいい? アイリッシュだぜ!」

ユー・ミンの失意は深く、バーテンダーは空を仰ぐ。

そこに助け舟。カウンターに座っていたひとりの老人が、アイルランド語でユー・ミンに声をかける。

老人「こっちに来て座りなさい。一杯おごろう」

「名前は何というのかね?」と尋ねる老人に、まるで別人のように明るい表情をしたユー・ミンが答える。「ユー・ミンです。僕の名前はユー・ミンです」

ユー・ミン「昨日、中国から来ました」
老人「昨日? それでもうアイルランド語ができるのか!」
ユー・ミン「アイルランドに住みたいと思ったので、アイルランド語を勉強したんです。でも僕のアイルランド語はへたくそで、誰にも通じないんです・・・」

老人はおたおたしながら、英語でバーテンダーに「ギネスを2パイント」と注文する。バーテンのショーンは、会話する2人を面食らった様子で眺めていた。

ユー・ミン「6ヶ月間がんばって勉強したのに、間違っていたんです。アイルランドに住もうだなんて」
老人「いや、きみのアイルランド語は、アイルランドの人たちより上手だよ」
ユー・ミン「え? どういうことですか」
老人「ここで話されているのは英語だ」
ユー・ミン「英語?」
老人「そう、英語だ。イングランドの言語だ」
ユー・ミン「アイルランド語は話されていないんですか?」
老人「ああ、そうだ」
ユー・ミン「でも看板はどれも・・・」
老人「確かにアイルランド語はあることはある。だが、話されてはいないんだ。アイルランド語を話す地域もあることはあるがね」

バーテンのショーンが2パイントのギネスを出す。すぐに手を伸ばすユー・ミンを老人は制止する。泡が落ち着くまでもう少し待て、ということ。

一方カウンターの向こうでは、ショーンが目を白黒させている。そしてもうひとりのスタッフに「パディが中国語に堪能だなんて驚いた」と言う。もうひとりのスタッフは「アホかこいつは」とでもいうように肩をすくめる。

あとはオチなのでここでストップ。

このシーンで出てくるAn Ghaeltachtとは「ゲール語地域」のこと。具体的にはこの場所ですね。

もちろんこの映画はフィクションだし、「物語」というよりは「寓話」に近い性質のものなのかもしれない。でも「言葉」をめぐる物語として、「情報」をめぐる物語として、とてもスマートな作品だと思います。

なお、「Tigh Mhichil」さんというアイルランド語(ゲール語)に関するブログ(日本語)によると、ダニエル・オハラ監督のこの映画(ユー・ミン)ともう1本の映画(流暢性失語)の2本とも、「TG4のドラマ、ベスト10」に入っているとのこと。
http://nf.skr.jp/mt/archives/tg10_is_fearr_dramai.html

※この記事は

2007年01月20日

にアップロードしました。
1年も経ったころには、書いた本人の記憶から消えているかもしれません。


posted by nofrills at 08:06 | Comment(4) | TrackBack(0) | 言語 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
nofrillsさん、こんばんは

いや〜、ユーミンいい!!
Fluent Dysphasiaに比べるとこちらはれっきとしたショートフィルム仕立てになってますね。でもこちらの方が先に作られたのかな?
パブの店員として、「Fluent…」で残念な友人を好演していた彼がいたのには笑った!チョイ役なのに絶妙な「残念っぷり」を醸し出せる彼、←おそらく地でしょう。かなり好きになってしまいました。ユーミンにギネスを勧める時のジェスチャーがもろに「Dancing Leprechaun」なのも笑える。やっぱり「アイリッシュ」を体で表現しようとするとあれになるんですね(笑)よく観てみるとYHの受付の彼も「Fluent…」で駅員さんやってた人ですね。そっちでは流暢なゲール語を話していましたが。

これ、(英語しか話せない)アイルランド人が観たらどう思うのでしょうかね。やっぱり「痛いとこついてくるなぁ」という感じでしょうか。作品としてはツッコミどころ満載なのですが、nofrillsさん同様、私にとってもど真ん中でした。素敵な短編映画をありがとうございました。
Posted by TR at 2007年01月20日 20:06
TRさん、こんばんは。

> チョイ役なのに絶妙な「残念っぷり」を醸し出せる彼、

あはは、Fluent...よりもYu Mingのほうが出演時間は短いのに、さらに残念。Mr Pathetiqueとして欠かせない俳優さんかもしれませんね。「アイルランドッ!」にはすっかりやられました。(笑) atomfilms.comのプレイヤーに巻き戻しボタンがないのが残念!

名前で検索してみたら、何と、myspaceにページ持っておられます。
http://www.myspace.com/paddycourtney

あと、IMDBの彼のページから
http://www.imdb.com/name/nm1687315/
"The Clinic"という作品をクリックしてみたら
http://www.imdb.com/title/tt0383087/
『プルート』でキティに冥王星について教えるバイカー、『麦の穂』でソーシャリストのダンを演じていたリーアム・カニンガムが出てきて
http://www.imdb.com/name/nm0192377/
そこから"Showbands II"というのを見てみたら
http://www.imdb.com/title/tt0499175/
また「彼」に帰ってきました。

ひところ流行った「ケヴィン・ベーコン」ゲームみたい。

IMDBによると、"Mebollix" という作品もあり、検索してみたら小さなスチールに彼が。
http://www.kerryfilmfestival.com/kerry_omniplex.html

> よく観てみるとYHの受付の彼も「Fluent…」で駅員さんやってた人ですね。

あ、ほんとですね。あの見事なオージーっぷりで(オージーというよりエリック・アイドルみたいと思いましたけど)気づきませんでした。彼も名優。(笑)

> これ、(英語しか話せない)アイルランド人が観たらどう思うのでしょうかね。

atomfilmsのコメント欄で、"In very funny way it simply tells of a big problem in Ireland today, that we've lost our language." というのがありますね。多言語話者かもしれないけど・・・。

スコットランドの人も"There's a similar situation in Scotland with the Government trying to save our version of the language but as far as I can tell we have fewer speakers than Ireland although it is growing in the schools." と言っています。(スコットランドのゲール語事情はアイルランドよりもっと複雑だろうなぁ。。。)
Posted by nofrills at 2007年01月21日 00:11
nofrillsさん こんばんわ

ホントだー、myspace!ヤバイ、彼と友達になりたい(笑)。いろいろ笑わせてもらったのですが、何がウケたって、「Interests」のmusicで真っ先に貼ってあるyoutube。
酷い…原形とどめてないもん(笑)。しかも、歌ってる(?)人どっかで見たことあるなぁと思ったらカーク船長!何故?!キーボード弾いてるのはBen Foldsだし、そして突然サビでJoe Jacksonって。wtf←youtubeっぽく。さすがPaddyがベタぼめしてるだけあります。

ケビン・ベーコンゲーム笑った!もォなんなんだろうこの人。おもしろすぎ。

"Mebollix" も、解説と写真見ただけで残念感が伝わってくるし。しかもKerry Film Festivalってまたすごいドメスな感じでいいですね。観てみたい!

いろいろ教えていただいてありがとうございました。これからもPaddyのことを温かく見守っていきたいと思います。
Posted by TR at 2007年01月21日 21:40
>TRさん
myspace、「私はにFluent...とYu Mingに感動した!」を訴えたら、友達にしてくれそうな気がします。

あと、「ケリー映画祭」のページ、一番上のフォトアルバムのところでスチールの大きいサイズのが見られることに今気づきました。40枚目です。
http://www.kerryfilmfestival.com/kerry_omniplex.html
これも見たいですねぇ。短編集としてあちらでDVDにでもならないかなあ。

YouTubeのPulpのカバー、見てみましたけど、えーっ、カーク船長、今こうなんですか! 全体的に「なんじゃこりゃ」。

あと、Yu Mingの主演のチャイニーズの彼の名前(Daniel Wu)で検索してみたら、香港の、甘いマスクのアクション・スターばかりが検索結果に出てきて、これもまた残念。
Posted by nofrills at 2007年01月21日 23:37

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【2003年に翻訳した文章】The Nuclear Love Affair 核との火遊び
2003年8月14日、John Pilger|ジョン・ピルジャー

私が初めて広島を訪れたのは,原爆投下の22年後のことだった。街はすっかり再建され,ガラス張りの建築物や環状道路が作られていたが,爪痕を見つけることは難しくはなかった。爆弾が炸裂した地点から1マイルも離れていない河原では,泥の中に掘っ立て小屋が建てられ,生気のない人の影がごみの山をあさっていた。現在,こんな日本の姿を想像できる人はほとんどいないだろう。

彼らは生き残った人々だった。ほとんどが病気で貧しく職もなく,社会から追放されていた。「原子病」の恐怖はとても大きかったので,人々は名前を変え,多くは住居を変えた。病人たちは混雑した国立病院で治療を受けた。米国人が作って経営する近代的な原爆病院が松の木に囲まれ市街地を見下ろす場所にあったが,そこではわずかな患者を「研究」目的で受け入れるだけだった。

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