『麦の穂をゆらす風』の時代から80年余りが経過して、アイルランド語はEUの公用語となった。2002年の国勢調査では、人口400万人のうち157万人がアイルランド語を話すことができ、アイルランドの学校(義務教育)ではアイルランド語は必修であるという。
では、アイルランド語は実際に街で通じるのだろうか?
・・・ということを実証してみたアイルランド人がいる。彼の実証の場はアイルランド共和国だけではない。北、それもアイルランド語が敵視されてて当然のエリアでもやってみたそうだ。
No English? No Irish more like
Last Updated: Friday, 12 January 2007, 09:52 GMT
http://news.bbc.co.uk/2/hi/uk_news/northern_ireland/6254947.stm
記事によると:
アイルランドのアイルランド語専門チャンネルTG4のNo Bearla(No Englishという意味)という番組の企画で、プレゼンターのManchan Maganさんが、アイルランド共和国と北アイルランドを、英語を一切使わずアイルランド語だけで旅行した。
統計では約160万人がアイルランド語を話すことができ、うち165,000人は北部(北アイルランド)に住んでいる。ならば、アイルランド語だけでアイルランド島を旅して回れるのではないか、とMaganさんは考えたようだ。
しかし実際には、バーからは放り出され、料理のオーダーは間違えられ、間違った方角を教えられ、欲しいのとは違う服を渡され、変な髪型にされてしまった。
つまり、南北合わせて約600万人(南だけで約413万人)のうちの160万人が話せるはずの「アイルランド語」は、ほとんど通じなかった、というのが彼の体験である。
ただ、通じないアイルランド語というものを使うことで強い感情を引き起こしたのだそうだ。
ダブリンでは、店の人が耳を押さえて「英語を話さないんなら出て行ってくれ」と言った。Manchanさんはこれを、アイルランド語が学校で必修となって10年たつが、一向に喋れるようにならないので逆に忌避する人が多いのではないか、と分析する。「アイルランド語を喋っていると、どうも、どうだ俺はアイルランド語ができるんだ、すごいだろうとひけらかしているように受け取る人もいますね」とも述べている。
確かに、「この言語が私たちの民族の独自の言語です」と言われて習うはいいが、習う場所の外で使われていなければ身にはつきづらい。
また、Maganさんは、アイルランド語は「戦争の兵器」だと受け取られることもある、という。実際、独立運動、独立戦争においてそういう役割を果たした歴史もあるのだが、特に北アイルランドについてはそれよりもIRAの囚人たちが使っても看守には内容がわからなかった言語ということかな。
ベルファストのナショナリスト地域、Falls Roadでは、アイルランド語しか使わないMaganさんは人々の好意に迎えられた。
一方でユニオニストの地域であるShankill Roadでは、「最初はおもしろがられました――何人かが、英語で、無理に話せと言われたらやだけど、そうじゃなければ素敵な言語だ、と言っていました。しかし、シャンキルでアイルランド語を使い続けたら、近いうちに病院に担ぎ込まれることになるぞと警告を受けまして」。
うはははは。やっぱり。(^^;)
「というわけで早いとこおさらばして、Letterkennyに移動しました。非常によい反応を得ました。」
たぶんここは笑うとこだ・・・Letterkennyはドニゴール州で最大の街。というか、1980年にhigh-level IRA finance meetingが行なわれていた場所だったり。
http://en.wikipedia.org/wiki/Letterkenny
というわけで、場所によっていろいろあったようだけど、それだけでなく、世代によってアイルランド語についての態度に違いがある、とMaganさんは述べている。「若い人のほうが積極的で、こっちが何を言っているのかを理解しようとしていました。ダブリンの場合は、あそこはせわしない大都会なので、別の言語で喋っている人に注意を払う余裕がない、ということかもしれませんが。」
取材活動中、最も熱心に何を言っているのか聞き取ろうとしてくれたのは、エスニック・マイノリティの人たちだったそうだ。「特に中国からの人やポーランドからの人たち、彼らがこちらが言っていることを理解しようと努力してくれました。」
Maganさん自身はアイルランド語のネイティヴ・スピーカーだそうだ。英語はあとから習って身に着けた。
だが、BBCの記事に、Maganさんの夢には英語が出てくることが多いとある。「16歳くらいまではアイルランド語で夢を見ていたと思う。でも周りが英語だから」と彼は語る。
彼の結論としては、アイルランド語は危機にあるということだ。アイルランド語が死んでゆくのを見るのは悲しい、と彼は言う。だが、とBBC記事は続ける。「それは彼だけではない。彼の話では、シャンキルで出会った3人もアイルランド語が消えていくのは見たくない、ただ『自分が無理やり喋らされるのは反吐が出る(didn't want it shoved down their throats)』だけだ、と言っていた。」
まあ、最後のはBBC流のちょっと小粋なエスプリ(なのか?)ということで、実際に番組を見てみたいので探してみた。
そしたら、ご本人がクリップをYouTubeにアップしている。
番組の放送はSundays, from January 7th, 9.30pm TG4, repeated Wednesdays 7.30pm. とのこと。まだ始まったばかりのシリーズなのね。(TG4はアイルランドのアイルランド語チャンネル。http://www1.tg4.ie/Bearla/ 参照。←英語版サイト。)1回30分の番組で、ベルファストに行くのは14日放送分(サイトの番組表より)。
Part 1がno longer availableになっているのだけど、別にアップロードされてるのを発見。
http://www.youtube.com/watch?v=YTbl-_xq6n8
※8分30秒くらい
英語字幕がないから内容がわからないのだけど、ダブリンの観光案内所かな、そこで窓口の人がEnglish onlyって。(笑) 別の窓口で通じたとしても、「ゲール語を使う男」に対する「空気」や「視線」の冷たいこと。観光案内所でみやげ物の「アイルランド」満開の売り場に残してくるPOG MO THOINはこういう意味で、pogue mahoneと読む(これは有名だよね)。ゲール語を自在に操る観光バスの運転手さんとか、刑務所博物館(Kilmainham Gaol Museum)の人たちとかは、ある意味で別世界に属している人たちだね。刑務所博物館は特に、この建物でイースター蜂起の指導者たちが処刑されているなどの歴史を考えればここでの「ゲール語」の意味はわかる。(刑務所のことを知っていれば、映像の内容も最低限でも2割くらいはわかる。)
No Béarla 2 - Singing Filthy Songs in Irish
http://www.youtube.com/watch?v=TK-4DoUZdnk
※2分ちょっと
前半は「街角アイルランド語テスト」。パブの前の3人組、視線泳ぎまくりなのだが。(笑) 後半が「街角で変な歌を大声で歌ってみる」。このお歌、ここに英訳されているようなひどい歌詞なのだが、行き交う人はほとんど無反応というか、何となく変な間(空間)があいているような。ゲール語云々というより「変な人には近寄りたくない」という感じにも見えるが。
No Béarla 3 - Chatting up girls in Irish
http://www.youtube.com/watch?v=6Rw87jR7zk4
※3分半くらい
いい感じで会話が弾んでいるなと思ったらドニゴールで撮影したパートだそうです。
YouTubeで映像を探したときのメモ。
http://www.youtube.com/watch?v=YTbl-_xq6n8 のタイトルが、No Béarla, Clár a hAon, Cuid a hAon。No Bearlaが "No English" なのはBBC記事で確認できるのでOK。残りが私にはわからない。
これをYouTubeにアップしたのと同じ人が、これのほかに、
No Béarla, Clár a hAon, Cuid a Dó
http://www.youtube.com/watch?v=0HIj3rylH1o
No Béarla, Clár a hAon, Cuid a Trí
http://www.youtube.com/watch?v=ib_cWlElMFc
というのをあげている。
それぞれの末尾の、hAon, Do, Triというのが数字の「1、2、3」だろうという見当はつく。(Do, Triはラテン語系の数字の数え方から何となく援用。)
それが正しいのかどうか確認するために、Googleに"gaelic number"(「ゲール語 数字」の意味)と打ち込んで検索。で、下記ページを得て確認。OK。「第1章第1節」、「第1章第2節」、「第1章第3節」ということだろう。
Irish Gaelic: Numbers and Counting
http://www.phouka.com/irish/ir_numbers.html
No Béarla, Clár a hAon, Cuid a Dó(第2節)
http://www.youtube.com/watch?v=0HIj3rylH1o
前半はグラフトン・ストリートとかでアイルランド語であれこれやってみようとするシーンのコラージュ。後半でラジオのスタジオで電話を受け付けるが、ここでやっと英語が登場する。(アイルランド語では判断基準がなくてよくわからなかったが、やっぱりMaganさんは相当早口だ。)「アイルランド語が使われていない」ことについてのMaganさんのフラストレーション。もうひとりのパーソナリティが「学校で教える科目にしてしまったことで、自分たちの言語を自分たちで破壊してしまったと思いますか?」と言う。そういうのについての電話での意見など。
No Béarla, Clár a hAon, Cuid a Trí
http://www.youtube.com/watch?v=ib_cWlElMFc
ゲールな書店に中央郵便局(イースター蜂起と共和国宣言のあのGPO)、HMVとめぐり、こじゃれたカフェでダブリン編のまとめをして、車に乗って北へ。この先が見てみたいのだが。(書店は完璧な応対に見えるし、HMVもちゃんと応対している。郵便局がちょっと大変そうだが。)
何となく「アイルランド語」関連でYouTubeを見てみることにして、次のビデオに飛びついた。だって英語字幕つきなんだもん。
As Gaeilge (In Irish) with English subtitles
http://www.youtube.com/watch?v=LVYrOn7j7eo
これがまた考えさせられる。彼はアイルランド人で、学校でアイルランド語を習った。でも「学校の外に出たらアイルランド語は使わない」し、最近は使わないので忘れかけている。で、彼は「久しぶりに喋るから、文法めちゃくちゃだと思うけどゴメンね」と言いつつ、「アイルランド語で喋るビデオをもっと投稿してほしい」と呼びかける(そしてレスがたくさんついている)。
考えさせられるのはそのことじゃない。ここでアイルランド語で喋っている人は、見た目はまったく「アイルランド人」的ではない。アジア系だ。でも彼はアイルランド人なのだ。学校に通っていたとき、バスの中で、近くにいた人たちがアイルランド語で喋っていた。でもそれは、アイルランド語なら彼にはわからないと思ってのことだろう、と。
となれば、話の内容はたぶん悪口だ。
コメント欄に、アメリカ人で親がアイリッシュとプエルトリカンで、外見はラテン系だという子が、「アイルランド語を習いたいとは思うが、私のような外見の人間が、白人のアイルランド語を使うのって変かなと思ったりして」と投稿している。でもその子は、Por lo menos hablo español y ahora estoy en Japón aprendiendo japonés(機械翻訳の結果= At least I speak Spanish and now I am in Japan learning Japanese)とも書いている。(日本語の勉強、がんばってほしい。)
ネイティヴ英語スピーカーで、外見はヨーロピアン(つまり白人)で、日本語ぺらぺらという友人がいる。その人は、東京で日本語を使うと、珍しい動物のように見られることにフラストレーションを感じると言う。
東アジア出身で、日本語は簡単なやりとりならできるという人が、東京で日本語を使わないとワンランク下に見られ、その日本語に「変なアクセント」があるとさらに下に見られるように感じると言っていたこともある。
いろいろと考えてしまうな。
あと、アメリカでのアイルランド語事情を説明しているビデオ。いろんなところで学べるようです。
http://www.youtube.com/watch?v=dc1xlK9H0WU
アイリッシュ・ナショナリズムって、多くの部分がmade in the USAなんだよね。セント・パトリックス・デイのパレードとかも。あと、アイルランドにいたアングロ・アイリッシュが中心になってきたという経緯もあるけど。
YouTubeでのアイルランド語関連のビデオは下記からどうぞ。音の数が多く、口の中のあちこちにぶつかって出される音が多く、抑揚がリズミカルで、古い響きのする歌のような言語かもしれない。
http://www.youtube.com/results?search_query=GAEILGE
なお、アイルランド語は正書法ひとつとっても大変な言語だ。(いや、Brit英語だって「gaolと書いてjailと読む」みたいなのがありますけど。なのでアメリカ人は時々読めなくなるらしい。)
"http://www.eigo21.com/etc/kimagure/070.htm から引用:
「だから」は amhlaidh と書いて[aulig' アウリギュ]と読ませ「鍛冶屋」は gabha と書いて [gou ゴウ] と読ませる。 「語り部」は seanchaí と書いて[shanaxi: シャナヒー]と読み「動物」は ainmhí で[anivi: アニヴィー] 。 これらはまだいい方で, 1948年の綴り字の改定前は「危険」は baoghal (今は baol )と書いて[be:l ベール], 「住む」の動名詞は comhnaidhe (今は cónaí)と書いて[ko:ni: コーニー]と読ませていたらしい。
Maganさんのページで紹介されていた記事:
http://irishmedia.blogspot.com/2006/11/sound-within-by-kate-fennell.html
The language police would circulate in the clós during break-times noting down the names of people who were singing the skipping rhyme "Vote, vote, vote for De Valera" in English. I couldn't win. I was proud now to be beginning to converse in this new language but already it was a crime. While, at the same time, my Irish was the cause of much mirth since I pronounced guttural 'ch' with much more of an 'ach' sound than they. While their 'chs' were rendered as 'ks', mine were softer and more like the 'ch' in the Scottish 'Loch Ness'.
http://en.wikipedia.org/wiki/Irish_language
■追記:
MaganさんのNo Bearlaの第2章、「北へ」編についても書きました。
http://nofrills.seesaa.net/article/31738583.html
あと、関連する短編映画2本についても。コメント欄参照。
※この記事は
2007年01月15日
にアップロードしました。
1年も経ったころには、書いた本人の記憶から消えているかもしれません。
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去年のクリスマスイヴにTG4で放送されていた「Fluent Dysphasia」というドラマが
こんな感じでしたよ!
Neil Jordan監督の映画でお馴染みStephen Rea扮する主人公が、ある朝目覚めるとゲール語しか理解できなくなっていた…というものです。彼の友人(ゲール語が話せない)の反応が全てを物語ってます(笑)
オチがあまりにもヘコーな感じなのですが、20分と短いしwebTVで観られるので
是非。
Fluent Dysphasia(流暢な失語症)・・・
http://www.atomfilms.com/film/fluent_dysphasia.jsp
ですね。見ました見ました。友人の反応。(笑)
あとで別にエントリ立てたいと思います。おもしろいフィルムを教えていただいてありがとうございます!
http://nofrills.seesaa.net/article/31730824.html
同じ監督の別の短編、My Name Is Yu Ming (Yu Ming is Ainm Dom)というのもatomfilms.comにあったので、それについても。
http://nofrills.seesaa.net/article/31735632.html
あと、Manchan Maganさんの珍道中の第2章についても。
http://nofrills.seesaa.net/article/31738583.html