2006年9月に、精巣癌でやはり53歳という年齢で亡くなったシン・フェインのMichael Ferguson議員(経歴)の葬儀でも、「シン・フェイン以外にも各政党の議員が参列」と報道された。
今月8日に、心臓発作と卒中で急死したPUPのデイヴィッド・アーヴァイン党首の葬儀にも、「divideを超え、ユニオニスト、ナショナリスト各政党から多くの人々が参列」した。ただアーヴィンの葬儀は儀礼的な葬儀参列(「同じ議員として」「ご家族にお悔やみを」など)であるというよりも大きな意味がありそうだし、北アイルランドの全ての「勢力」からの参列があったこと自体が非常にシンボリックな意味を持つ。
BBCは、デイヴィッド・アーヴァインの妻のジャネットさんとハグするシン・フェインのジェリー・アダムズ党首の写真を記事に掲載している。
Hundreds attend Ervine's funeral
Last Updated: Friday, 12 January 2007, 14:25 GMT
http://news.bbc.co.uk/2/hi/uk_news/northern_ireland/6252921.stm

BBCの映像レポート(上記記事右上から)では、まず、It was a funeral unlike any other. Not because it brought thousands, because it brought traditional enemies together. (ほかにはない葬儀だった。何千人もが参列したからではなく、これまで敵同士であった人々を一同に集めたからだ)とし、「ロイヤリストもリパブリカンも、ユニオニストもナショナリストも、東ベルファストの教会に集まった」との言葉をそえて、教会に入っていく政治家たちの姿を映し出す(映像が荒いので誰が誰だかイマイチはっきりわからない)。
さらに、この「元囚人」の葬儀に警視総監が参列したこと、この「プロテスタント」の葬儀にカトリックの有名な司祭(Father Aidan Troyか)が参列したこと、この「ロイヤリスト」の葬儀に、1994年の停戦時にアイルランド共和国の首相だったアルバート・レノルズや、現在のアイルランドの外相であるダーモット・アハーンが参列したことを伝えている。
そして、北アイルランド担当大臣ピーター・ヘインの弔辞の音声が、教会前の路上に参集した一般の人々の姿の映像に重ねられる。
Who else could have attracted such a breadth of attendance that David has today. He earned huge respect because he knew that he couldn't rewrite the history, and he didn't. He knew that you couldn't change the past, but you could save the future. And in that, he absolutely played the central role.
このようにさまざまな立場の人々が葬儀に参列することは、デイヴィッド以外ではありえないことでしょう。彼は、歴史を書き換えることはできないと知っていたから、そして実際にそのようなことはしなかったから、多くの尊敬を集めました。彼は、過去は変えることはできないが、道を開くことはできるということを知っていました。そしてその点で、彼はまさに中心的役割を果たした人でした。
※聞き取り間違ってるところもあるかも。冠詞とか。
映像レポートは、「これは葬儀というよりも、彼の人生を称える集まり」といった故人の兄からの弔辞の音声に続いて、教会から参列者が出てくるところで締めくくられる。ジェリー・アダムズが――「リパブリカンのテロリストの親玉」が――大勢の人とともに出てきて、教会の入り口に立つジャネットさんを抱きしめて(というより、ジャネットさんのほうからハグしているように見える)言葉を交わすところが最後。
なお、BBC記事の見出しでは「数百人が(Hundreds)」参列したとあるが、映像を見ると「百」の単位ではなく「千」の単位だろう(ただしthousandsと書いてしまうと「数万人規模」の意味になりかねないので、この人数ならhundredsかな)。ベル・テレさん@12日では「最大で1万人が参列する見込み」と報じている。
http://www.belfasttelegraph.co.uk/news/local-national/article2145936.ece
この12日の記事では、参列予定者としてジェリー・アダムズの名前がない(当たり前だが、狂信的な誰かに待ち伏せされないため)。この記事によれば、葬儀が行なわれた通り&地域は、「ロイヤリストの中心地で、リパブリカンにとってはno-go area(Newtownards Road - a loyalist heartland that is widely regarded as a no-go area for republicans)」。【Flickrにmissfitzのこの地域の写真あり。この写真はUDA/UFFのミュラル。missfitzはSlugger O'Tooleのコントリビューターでもある。】
「リパブリカンの親玉」がそういう場所に足を運んで、「ロイヤリストの爆弾犯」だった人物の死を悼む人々に加わっただけでなく、突然夫を亡くしてしまった妻をなぐさめるという形で、人々の前で、ロイヤリストとの和解と友情を示した。(さすがだな。やることがかっこよすぎ。)
あ、今ベル・テレさんがアップデートされて13日の記事がでた。さすがにあの「衝撃シーン」の写真は記事の真横には使ってない。
Together, they came to pay their respects
Saturday, January 13, 2007
http://www.belfasttelegraph.co.uk/news/article2150334.ece
リード文は:
Political and religious differences are set aside as thousands turn out to say goodbye to David Ervine
記事の内容は:
昨日のデイヴィッド・アーヴァインの葬儀には数千人が参列した。弔問客の中には、政治的・宗教的に分かれた各派からの人々の姿があった。ロイヤリストのエリアであるNewtownards RoadのEast Belfast Mission教会(メソジストのようです)には、いつになく多彩なバックグラウンドの人々が集まった。ロイヤリスト、リパブリカン、ユニオニスト、ナショナリスト、国家、警察、教会すべての代表の姿が見られた。
参列者に挨拶をしたブライアン・アーヴァイン(故人の兄)は、「うちの弟(wee brother)」 は「これまで敵同士だった人々(traditional enemies)」が自分の葬儀に一堂に集まったことで喜んでいるだろう、と述べ、「弟は塹壕から這い出して、ノー・マンズ・ランドで敵と会い、敵とともにことにあたる(play ball)た」人物だった、と語った。
という感じで、以下の人々の名前がある。
・シン・フェインからジェリー・アダムズ党首、Alex Maskey議員(MLA)
・英国政府の北アイルランド大臣、ピーター・ヘイン
・アイルランド共和国元首相、アルバート・レノルズ
・アイルランド共和国外相、ダーモット・アハーン
・PSNI警視総監、サー・ヒュー・オード
・UVFの古参(元リーダー)、ガスティー・スペンス
・UDAのコマンダー、ジャッキー・マクドナルド
・カトリックのHoly Cross教会のファーザー・エイダン・トロイ
・そのほか北アイルランドの政党の代表者(記事に付属のギャラリーでは、4枚目がUUPのデイヴィッド・トリンブルとシルヴィア・ハーモン、7枚目がUUPのレジー・エンピー)
出てこないのは労組くらいか・・・労組からのトリビュートも確か見かけたような気がするけれども。
DUPやUUPやSDLPが「そのほかの政党」でまとめられているが、その分はBBC記事で補える。(というか、BBC記事にはガスティー・スペンスとかジャッキー・マクドナルドの名前がない。)
ガスティー・スペンス(Gusty Spence)という人は「北アイルランド紛争」の流れを見るときに無視できないロイヤリストだ。この人については、長くなるので別項にまとめよう【→書きました@14日】。1行で書けば、刑務所内のUVFのリーダーだったが、突然考えを変えて「和平推進論者」となった大物。
亡くなったアーヴァインは、スペンスより20歳若いのだが、獄中でスペンスと知り合い、彼の影響を大きく受けた。よってアーヴァインは、ムショに入ったときは「テロリスト」だったが、出てきたときは「和平活動家」になっていた。
スペンスがアーヴァインを語っている記事が、ベル・テレさんに2本出ている。
Decades after they met in jail, Gusty Spence remembers his protegé
Friday, January 12, 2007
By Brian Rowan
http://www.belfasttelegraph.co.uk/news/local-national/article2145942.ece
A deal is what David would have wanted
Friday, January 12, 2007
By Brian Rowan
http://www.belfasttelegraph.co.uk/news/local-national/article2145940.ece
どちらも大して長くはない。読む価値は大有りだ。
あと、One Small Step Campaignという和平活動団体の人が、「政治家はアーヴァインを見習うべき」と述べていたり。
Peace activist Ringland urges politicians to emulate Ervine
Friday, January 12, 2007
By Claire Regan
http://www.belfasttelegraph.co.uk/news/local-national/article2145937.ece
なお、一般の人たちのお悔やみの言葉は、ベル・テレさんのこのページや、ガーディアンCiFのMick Fealty記事(MickはSlugger O'Tooleの中の人)で。政治家の言葉を見るより、一般の人の言葉を見たほうが、その亡くなった政治家がどのような人だったのかがよくわかる。そうそう、何となくYouTube見てて見つけたのだけど、David Ervine - A Tribute 1953-2007というスライドショー(2分19秒)、アイルランドのナショナリストの人が作ったそうですが、これのコメント欄は各コメントが短いのですぐに読めるし、いいかも(現時点ではまったく荒れてないし)。「スコットランドのナショナリストでソーシャリスト」という人のコメントもある。
追記:
In pictures: David Ervine funeral
http://news.bbc.co.uk/2/hi/in_pictures/6257329.stm
Ervine's life 'a powerful testament'
http://news.bbc.co.uk/2/hi/uk_news/northern_ireland/6256969.stm
葬儀参列者についての解説記事。最後に重要なことが書かれている。
He believed not just that peace was best, but that it was achievable too.
We must be careful not to over-romanticise the reaction to his death - Northern Ireland is still Northern Ireland.
Nationalist fans who follow Cliftonville Football Club jeered during an attempt to hold two minutes of silence before their game this week with the team David Ervine supported, Glentoran.
And we must not over-romanticise him either. He would not have been the peacemaker he was if he did not have a dark past to leave behind him.
But for all that, David Ervine's life stands as a powerful testament to the human ability to change and rise above difficult circumstances.
In this deeply divided place, there is no finer tribute than to say of someone that their death has produced a shared sense of loss. David Ervine deserves that tribute.
※この記事は
2007年01月13日
にアップロードしました。
1年も経ったころには、書いた本人の記憶から消えているかもしれません。
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