大きな出来事があった場合、ネットで何か印象的な写真を見たら、それが情報の確度という点で信頼できるところから出ているものでない限りは、信用しない方がいい――先日、ハリケーンの「サンディ」のときに、Storyful.comの「ニセ写真に注意」という記事を紹介したが、その時の前提がまさにそういうことだった。
「ニセ写真」を、慎重に賢く見抜くには〜ハリケーン「サンディ」の事例から
http://matome.naver.jp/odai/2135165075038988901
何か事が起こると、ネット上には合成写真、CG、古い写真の日付やキャプションの改竄といった形でフェイクの写真情報(fake photo)が出回る。日本で最も目立った事例としては、変わった形の葉をつける植物に「放射能での奇形」というキャプションがつけられたケースがある(元からそういう形の葉をつける品種だったが、その品種があまねく知られていたわけではなく、「奇形が生じている」と聞きたがっていた人々やその可能性があるのではないか/可能性は否定できないと疑っていた人々の間で広がった)。
紙に印刷された媒体だと、それが「ニセ写真」かどうかを確認するのも骨が折れるが、ネットなら特にリソースのない個人にもある程度は確認することはできる。その最もベーシックな方法について述べたStoryfulの記事を紹介したのが、上記の「NAVERまとめ」のページである。
しかし、肝心の「情報の確度という点で信頼できるところ」が「ニセ写真」を掲載していた場合はどうなるか。
その不安は、常にある。例えば、「BBCが釣られた」からって「またか」と言いつつ、実際には怖いことだと感じている。実際に自分が釣られたこともあって、その「情報」の広まり方のハンパなさを目撃しているので、「不安」は実は非常に強い。
さて、この画像。

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これはガーディアンの2012年11月15日付の「写真で見る: ガザ地区空爆」のページのキャプチャーだ。
画面右の「この話題の別の記事」のリンク欄に、オレンジ色の写真が表示されている。リンク先は同じ2012年11月15日付のlive updates (live blog) のページ。
http://www.guardian.co.uk/world/2012/nov/15/israel-gaza-militants-deadly-exchanges-live
だが、現在そのページを参照しても、この写真は確認できない。(それがあったスペースには今はビデオがある。)
15日の晩(日本時間)、Twitterを見ながら、いつものようにガーディアンのライヴ・ブログのページも開いてみたときに私はこの写真を見た……のだったと思う。ただ、そのときにはほかの(不確定な)情報がライヴ・ブログに出ていないことを確認して、その画面から離れた。ページを見ていた時間は15秒程度だっただろう。写真のキャプションは確認しなかった。
今回のオペレーション・ピラー・オヴ・クラウドでは、現地が夜の間に作戦開始直後の激しい空爆が行われており、その時間帯の「明るい」写真は当然存在しない。だが、日が昇った後に、誰かが携帯電話のカメラで「うちの屋上から撮影した」的な写真が出てくるだろうと思っていたので、ガーディアンのページで写真を一瞬見たときは、そういう写真が出てきたのだと受け取った。ただそのときは別のことに気を取られていたので、写真には注意を払わなかった。

RTする前に、彼女のツイートに含まれている名前をTwitterの画面でクリックし、プロフィールを確認した。"In Gaza, now" とツイートした@marcambinderさんは米誌The Weekで書いてる人で、GQやThe Atlanticのcontributing editorという記載もある。こういう人から@ghazalairshadさんへの流れであることを把握し、何より「さっきガーディアンで見た写真だ」ということでRTのボタンを押した。きっと同じ写真があちこちのアカウントでツイートされているだろうとも思った(が、何しろ情報量多すぎで追いつきゃしない←フラグ)。元の@Raeesamayetさんについては(プロフィールの記載の通り)ヨハネスブルク在住ということしか確認しなかった。
なお、@ghazalairshadさんが "It's not sunrise" と書いているのは、元の写真をツイートした@Raeesamayetさんの言葉の引用だ(「他者の言葉」を伝えるという作業をする人にとって、ごく当たり前のやり方である)。ちょっと変わった写真だが、完全に爆発だけで全体がこのように明るく見えることもないだろうから、日が出るか出ないかくらいのタイミングで爆発があって、瞬間的な映像としてこういう印象的な光景になったのだろうと思った。
と、ここまででひとまず終わり、次の展開はいろんなところでこの写真を見かけて、「あー、その写真見たわー、2時間くらい前に見たわー」となる……のが通例なのだが、どうもおかしい。その後、その写真を見かけないのだ。
同じようなスカイラインの写真は見たのだが(リンク先は今探したのだけど)、「この写真」はあれっきり見かけない。それどころか、ガーディアンのライヴ・ブログのページからも消えている(これは、元々写真があったスペースが、記者が現地入りして撮影して送ってきたビデオに差し替えられているから、というのが第一だが)。
何だかなあ、と思いつつ、元のツイートをした@Raeesamayetさんのページを確認してみると、彼女は2度にわたってこの写真をツイートしていた。その前は、「元気の出る言葉」のようなものをツイートしていたり、誰かとやり取りしていたりするが、特に「活動家」ではないようだ。
一度目のツイートは、日本時間で15日の18:24である。

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ここで別の人から「写真の出所は」と質問されているが、それへの返信はない。
二度目は30分ほどあとの18:57だ。

※画像クリックで原寸表示。
ここでも「写真の出所は」と質問されているが、それへの返信はなく、それっきりツイートが止まっている。
▲ここまで、16日昼(日本時間)の確認。▲
ひょっとして釣られたかな(ガーディアンが釣られることは、あの新聞のアホなタイポほど頻繁ではないが、さほど珍しくはない)と思って、画像検索をしてみた。
元画像のURLはこれ。
http://yfrog.com/scaled/landing/532/7lgws.jpg
それでGoogle画像検索をしてみると、英語圏にはあまり入っておらず、ギリシャ語、トルコ語、アラビア語、ドイツ語、イタリア語、スペイン語……などなどが並んでいる。
検索結果から、その多言語っぷりがよく示されている部分のキャプチャー。

Google Search via kwout
その中で見つけた英語の検索結果が、マレーシアのThe Straits Timesの「写真特集」。
http://www.straitstimes.com/news-in-pictures/20121115

※画像クリックで原寸表示。
キャプションには次のようにある。
Explosion and smoke rise following an Israeli air strike in the northern Gaza Strip, seen from the Israel Gaza Border, southern Israel, on Thursday, Nov 15, 2012. -- PHOTO: AP
イスラエル軍の空爆による爆発と煙をボーダーのイスラエル側から撮影した写真で、APのクレジット。ということは、これは「ニセ写真」ではなく真正な報道写真だ。
Googleの画像検索結果から、読めなくても文字の認識くらいはできるだろうということで見てみたノルウェーのメディアの記事には、"Foto: Ariel Schalit / AP Photo" というクレジットがある。これで撮影者の名前まで行き着いた。
それで検索すると、The Atlantic Wireの記事が見つかる。
http://www.theatlanticwire.com/global/2012/11/israels-offensive-gaza-has-opened-gates-hell/59029/
2012年11月15日付でDashiell Bennettさんが書いたこの記事は、次のように書きだされている。
This is not a photo of a sunrise. It's the Gaza Strip being hit by an Israeli missile as their campaign to wipe out militants in Gaza has continued into a second day. Reports say ...
「これは日の出の写真ではない。これは、イスラエルのミサイルに攻撃されているガザ地区である。イスラエルがガザ地区の武装勢力を一掃するための作戦を開始して2日目。報道によると……」
これにて、一件落着。
教訓:写真のキャプションはちゃんと見ておこう。ただし今は、例えばAPとクレジットがあってもAPの写真家が撮影したものとは限らない(ネット上にあるものを、APが撮影者に許可とって配信しているような場合もある)。
今回の「ニセ写真」、1件だけ確認できたものがある。さほど広まっていたわけではない。
facebook.com/photo.php?fbid… このURLが「オペレーション・パレスチナ」のアカウントでツイートされていたが、2012年11月14日付の写真が古い(以前に見た記憶がある)。調べてみたら案の定。 google.co.jp/search?tbs=sbi…
— nofrills (@nofrills) November 15, 2012
「ニセ写真」については、@asterisさん(Global Voicesなどでも活動するギリシャのジャーナリスト。@acarvinをもしのぐ「キュレーター」)が注意喚起している。
RT @asteris: Be careful of casually RTing unsourced sensational/graphic photos purportedly from #Gaza, follow @DavidClinchNews & @acarvin for debunking
posted at 21:36:13
RT @asteris: In recent yrs, seen "worst of" graphic photos erroneously attributed making the rounds from Lebanon war, Cast Lead, Syria & now Gaza again
posted at 21:36:20
RT @asteris: .@Pekulii a) be wary of sensationalist (too perfect) images widely RT'd w.o attribution, b) follow debunkers, c) try to source back yourself
posted at 21:36:28
RT @asteris: .@Pekulii following news curators & journalists you can trust to verify provenance of the images they tweet helps, but we all make mistakes
posted at 21:36:34
別件でチェックしたデイリー・メイルの記事で、この爆発がDalou家への攻撃のものだったと知る。
The attack resulted in the death of eleven Palestinians including children

※画像クリックで原寸表示。
Dalou家への攻撃については下記など参照。
As IDF strike kills entire family in Gaza, Israel is starting to get in trouble
While Hamas leaders hide in underground tunnels, the civilian population is exposed to strikes; the horrifying pictures from al Dalou family is liable to be Palestinian version of Lebanon village of Kafr Qana.
By Avi Issacharoff | Nov.18, 2012 | 10:39 PM
http://www.haaretz.com/news/diplomacy-defense/as-idf-strike-kills-entire-family-in-gaza-israel-is-starting-to-get-in-trouble-1.478879
タグ:2012年11月ガザ攻撃
※この記事は
2012年11月16日
にアップロードしました。
1年も経ったころには、書いた本人の記憶から消えているかもしれません。
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